猫を起こさないように
<span class="vcard">小鳥猊下</span>
小鳥猊下

ドラ江さん回想録

 「(半眼で瞑想するかのように)我々が創造性というとき、それは何か特殊な、人間の本来に付加された才能のことを言うようやけれども、ワシは違うと思う。それは人間が本当に愛情を与えられて育ったような場合手に入れることのできる完全な生――これは心理学者の抱く実現のあり得ない空想やない。現にワシはそれを知っている――に足りない部分を補うために生み出されたぎくしゃくする、いつ停止するかわからない怖れにおびえなければならない、欠損した人格を世界に仮に生かすための、言うなれば人工臓器に過ぎないということや。この不出来な人工臓器は現実の様々の事象――主に愛情やな――を虚構によって作り出す働きをしている。これは特別何かの文学作品などということを意味しているのではないで。現実生活においてもそれは起こり得るし、こうしている今にも起こっているんや。しかしこれは所詮まがいものに過ぎん。どんなに上手に擬態して現実を模倣してみせたところで、ホンモノにはかなわんのや。人生の初源において豊かな打算のない愛情において育った人間は、豊穣な人生という樹木を自由に上り下りし、そこから両手いっぱいにまるまる太った生命と意味性の果実をもぎとることができるやろう。一方でかりそめの人工臓器に動かされる欠損した人格にはそこに近づくことも難しいし、近づいたところで自分でつくりあげた不出来な梯子でその樹木の一番日の当たらない傷ついた固い実をひとつかふたつもぎとるのがせいぜいや。欠損を抱えた人間が完全な生に到達するための絶望的な死力を尽くした努力も、完全な生を持つ人間には決して届くことが無いんや。なぜって、欠損を抱えた人間にとっての一生をかけてたどりつけるかどうかのゴール地点が、完全な生をあらかじめ持っている人間のスタート地点やからや。…エヴァンゲリオンがすばらしかったのはこの行程を作品上に暗喩してみせたところやし、あわや完全な生を持った人間たちの背中をもとらえるかという走りざまを我々に見せてくれたからや。結局それは果たされんかったけどな。最初から完全な生を持つ人間にはこの作品が語る世界への憎悪は全く理解できないし、むしろ悪魔的であるとして忌避すらするやろう。ワシは今日京都でガキどもをじゃれつかせながら漠然とそんなことを考えていた。だからな、のび太。おまえは神風怪盗ジャンヌの創造性の無さを批判したらアカンのや。確かにこの手の作品を有名なものにする一番の要因であるところの決めセリフが圧倒的に他と較べて弱いということは認める。だがな、それをしてこの作品を無慈悲に断罪したらアカンのや」
 「…わかったよ、ドラ江さん。ぼくが間違っていたよ」
 「ええのや。わかってくれたらええのや」

魁!男闘呼塾

 「こ、これは~っ!!」
 「なんじゃ~っ!?」
 「男闘呼塾至宝大塾旗”男根旗”。男闘呼塾の魂です。別名あがらずの男根旗とも言います。これをあげるにはただ体力だけでなく、勃起力が大きくものをいいます」
 「う、噂に聞いたことがあります。これに挑戦し失敗して海綿体を裂傷、一生L字型のブツをぶらさげて歩かなければならない身体になってしまった奴もいるそうです」
 「さあ誰ですか。旗手長となってこの旗を大空に隆々と勃起させ、現在富士山頂でうれしはずかし悶え戦う桃尻娘たちの目を見事セクシャルハラスメントしてみせるのは」
 「俺があげてみせる、その男根旗」
 「ひ、秀マラ~っ!!」
 「おまえには無理です、日本人男性の標準をはるかに下回る9cmのチンポしか持たないおまえには」
 「そうですそうです。その数値が勃起時のものであるという事実にも驚かされます。おまけに太さの点においてもはるかに日本人男性の平均をはるかに下回っています。それは形容するなら糸楊枝です」
 「そうですそうです。加えてそのブツで食後に塾生全員の歯の隙間をせせってやるような、心根の優しいおまえには到底無理です。せせっている最中に何を勘違いしたのか廊下を通りかかる桃尻娘たちの嬌声を聞いて田沢塾生の口腔内に発射してしまったようなそそっかしいおまえには到底無理です」
 「お願いだ、みんな、俺にやらせてくれ。先端に三角錐のひっかかりのついた巨大な欲棒を思わせるこの塾旗は、俺の立派なチンポに対するコンプレックスを象徴するような有様なんだ。ここでこの男根旗に背を向けたら、俺は一生自分のチンポに対して劣等感を抱き続けなければならないだろう。わがままなのはわかっている、俺に俺の過去のチンポを精算させてくれ! 俺を男にしてくれ!」
 「秀マラ…」
 「わかりました、秀マラ。たとえおまえが途中で旗を取り落としたとしても、俺たちは責めはしません。思う存分にこの張り形を思わせる疑似チンポで現在富士山頂にてうれしはずかし悶え戦っているはずの桃尻娘たちを陵辱してやりなさい。いや、応援してやりなさい」
 「みんな…すまねえ。ありがとう」
 「ぬああ~っ!! ぬぐおお~っ!! おおお~っ!!」
 「ああ、ダメです、かけ声ばかりでピクリとも勃起しません。いや、持ち上がりません」
 「いくらなんでも無理です。あの秀マラのへっさいチンポであがらずの男根旗をあげようなんて」
 「チンポの大きさは問題ではありません。この男根旗をあげることができるのは唯一乙女を懸想する男の純情・・・勃起力です」
 「ダメだ…やっぱり俺のチンポは標準以下なんだ…くそ、目がかすむ…幻聴が聞こえてきやがった…」
 (ひでまらくんって、ちんぽがないのね。だったらわたしとおなじね)
 (先生、秀マラは女子のチームに入れてください。だって秀マラってチンポ無いから(クラス内男子爆笑))
 (あら、男子。失礼なこと言わないでよ。女子にも男子におけるチンポに相当する器官はあります。秀マラくんはそれよりも更に、ってことよね(クラス内女子爆笑))
 (秀マラのチンポは本当に歯の間の恥垢を、いや、歯垢をせせるのにぴったりじゃのう)
 (どうしたの、秀マラ。早く、早くぅ…え、もう入ってるの? 嘘ぉん)
 「うおあぁぁぁぁ~っ!!」
 「ああっ。秀マラの何か耐え難い過去の現実に対する絶叫と血涙と同時に、あがらずの男根旗が少しずつ勃起しはじめました。 いや、持ち上がりはじめました」
 「秀マラ~っ!!」
 「雲をつらぬき(貫かれる雲がいったい婦女子の身体のどの部位を暗喩しているのかは賢明な読者諸兄にはもうすでにおわかりですよね?)秀マラの男性自身にささえられ高々と掲げられた男根旗はまるで秀マラの自前のチンポでもあるかのような錯覚を 我々に抱かせます。その偉容に、桃尻娘たちのふんどし一丁の破廉恥相撲の嬌声がここまで届くようです」
 「秀マラの男根コンプレックスはここに解消を見ました。くろぐろとそびえる男根旗はまず視覚的に秀マラの求め続けて決して 満たされなかった男根的優越感を満たすでしょう」  「やった、俺は勝ったぞ。俺自身の惨めな、ポンチ絵のような(賢明な読者諸兄はこれがチンポと韻を踏んでいることにすでにお気づきでしょう)過去と訣別したぞ。見ているか、桃尻娘たちよ、世界人口の半分を占めるヴァギナモンスターたちよ、俺が、俺が、俺が秀マラじゃ~っ!!」
 「ぼきり」
 「ああっ。重みに耐えきれなくなった秀マラのチンポが半ばから…!!」
 「秀マラ、秀マラ~っ!!」

今は亡き王国の

  「たとえばおまえが大学生になって合コンのようなコンパの席に呼ばれたとするだろ(この時点ですでに少し間違っている)。そっちに男が四人ならんで、こっちに女が四人ならぶわけよ。最初は女のほうは淫乱だと思われたくないからそっぽむいて煙草ふかしながらつまらなそうにしているわけだ。ここがまずポイントなわけよ。煙草を吸うような性行のある女ってのは幼い頃に、たとえば親がぞんざいな温めかたをした熱いミルクで口腔を火傷したりして、つまり口愛期に問題があって、そこで受けたトラウマを大人になった今煙草なんかの明らかに害になる刺激物を粘膜から摂取することによって無意識のうちに繰り返し表現してみせているわけよ。わかるだろ? あそこも要するに言ってしまえば粘膜だよな? わかんねえ? ああ、もうヴァギナだよヴァギナ。まァ、ここまでうがった読み方をしなくてもだな、細長い棒を積極的に唇にくわえこんでいるというのは、要するにフロイト的に見るにチンポじゃん。チンポの暗喩に決まってんじゃん。つまり吸ってる煙草の形状と自分の形状を照らし合わせてみて――実際にその場で見るんじゃねえぞ――最も近似値をとる女をねらえばいいわけよ。どうだ。最初に向かい合った瞬間にプロはここまでデータをそろえることができるわけよ。『敵を知り己を知れば百戦危うからず』、これを知ってさえいれば最悪負けはあり得ねえよ。次にだな、インパクトが大切よ。最初に見たものを親と思いこむヒヨコのようにだな、最初のつかみさえドカンと炸裂させておけばあとは少々つまらなくても惰性でしゃべっても最初のイメージがあるから面白く錯覚しちまうもんなのよ。それがむずかしいんだって? 安心しろ、俺がここに定型とも言うべき長年の経験にしっかりと裏付けられたマニュアルを持っている。『ヴァギナとは貴女にとっていったい何なのですか?』これだ。どうだい、マグナム級のインパクトだろう。だが待て、これだけではダメだ。これだけではインパクトが強すぎて逆に相手をおびえさせてしまうおそれがある。『男である僕にはよくわからないんですが(病弱そうに胸の悪い咳をしながら弱々しく)』これを緩衝材として枕詞に置け。『男である僕にはよくわからないんですが、ヴァギナとは貴女にとっていったい何なのですか?』完璧だろう。これでもう相手の四人はおまえの方に釘付けだ。あとは五人同時プレイに思いを馳せろ。あ、お兄さん、注文追加! コカ・コーラをネギ入りで! どうだい、今の間合いで笑いをとるんだぜ? あ、お姉さん、注文追加! コカ・コーラをコカ入りで! ププ~ッ、コカ・コーラって言うくらいだからあらかじめ入ってるに決まってるじゃん! コカ・インじゃん! どうだい、今の間合いで笑いをとるんだぜ? 笑いで一番肝心なのは間合いだからな、間合い」

小鳥猊下の日常

 「ぴたクールのCMでロリータがあげる『気持ちいい…』というあられもない嬌声を録音編集して実戦投入するそこのおまえ、一歩前へ出ろ。殴ってあげるから」
 「あっ。小鳥猊下が成人男性なら誰もが抱く当たり前の義憤にかられた様子で薄い両肩を無理に怒らせながらケンシロウのように両の拳をぼきぼき鳴らしつつ御出座なされたぞ」
 「なんてあからさまな童女趣味なのかしら。でも愛してる!」
 「スーパードールリカちゃんを何のオリジナリティもない企画アニメと鼻で笑うそこのおまえ、一歩前へ出ろ。殴ってあげるから」
 「で、小鳥猊下なんですけれども、今日は普通にありふれたかれの日常を彫刻してみたいと思います。なぜって、あのようにスリリングでアクロバテックでバイオレンスでエロスな日記ばかりを読まれると、たいそう神々しくもめでたい御姿をネットワーク上に卓越した文章にてメタファライズなされる小鳥猊下の実存とは、病室毎に鉄柵のついた入るは簡単出るは棺桶看護体制は最悪だけれども看護人の給料はべらぼうにいい類の特殊な病院に収容されている人間なのではないかと洞察力に欠ける知的にチャレンジされた一部の臣民たちに邪推されてしまうからで、それは私にとってとても心外だしとてもやりきれないからです。そんなことは全然ないです。当サイトが、両親ないし養育者との関係から発生した初源の不全による不安の神経発作を何か特殊な個性ででもあるかのように毎日の日記に記述し、あまつさえ同情を求める皮膚病の赤犬の図々しさで自らの病気に周囲を巻きこもうとし、日本人口の総体に対してほんのわずかの人間を巻きこむことに成功するという次元の低い金にならない達成で自分を得て、一時的な安心感に口の端からだらしなくよだれを垂らすようなよくあるパラノ・サイトとは全く次元を異にした成熟した大人のおっぴろげサイトであることはここにいらっしゃるみなさまが一番よくわかっておられるはずです。それでは当国の執性官をつとめる私めが、慎んで今日の猊下の御様子を公開させていただきます。
 「太陽も空の半ばを過ぎようというころ、小鳥猊下はようやく身体が二十センチも沈み込むような天蓋つきのベッドから気怠く御身体をお起こしになります。猊下の御尊顔は真に高貴な者がしばしばそうであるように紫色の靄に畏れおおく覆われており、下々の者にはその表情をうかがい知ることはできません。ビロオドのカーテン越しに射す柔らかな午後の日射しに目を細めながら、意識の覚醒するまでのあいだしばし猊下は御自らのかたちの良いなまめかしいピンク色の乳首をもてあそばれます。小鳥猊下は空調などという野暮で不健康なものは使いません。猊下に仕える黒人女が、今日は少々汗ばむ気温ですので、身の丈ほどもある大きな葉でもってゆっくりと緑の爽やかな匂いのする涼風を送ります。その一方で別の黒人女がオリイブ油を手づから小鳥猊下の抜けるような白い肌に塗りつけます。それは芸術に理解のある者が見たならば『アイボリーとエボニー』と名付けたくなるような見事な一枚の絵画を思わせる有様です。小鳥猊下のきめ細かい肌の官能的な手触りはすべての婦女子をたちまち降参させてしまうほどです。今日も何を血迷ったのか、油を塗る役目の黒人女が頬を紅潮させながら舌を前につきだしつつ猊下のブリーフを脱がしにかかりました。その際にちょっと見えた先端もやはり真に高貴な者がしばしばそうであるように紫色の靄に畏れおおく覆われており、下々の者にはその朝立ちっぷりをうかがい知ることはできません。機嫌のよい朝はさせておく場合もあるのですが、今日の猊下はどうやら虫のいどころが悪かったようです。そのローマ闘士もかくやと思わせるような見事に筋肉の発達した右足を振り上げると、破廉恥女のみぞおちから横隔膜、背骨へと文字通り突き抜けるような足先蹴りをお見舞いしました。口から動脈が破れたことを証明するような真っ赤な鮮血を吹き出しながら破廉恥女は床を転げ回りましたが、その頃には小鳥猊下の高貴な頭脳には彼女のことは微塵も残されていませんでした。小鳥猊下の憂いにけぶる瞳は――当然猊下の御尊顔は真に高貴な者がしばしばそうであるように紫色の靄に畏れおおく覆われており、下々の者にはその表情をうかがい知ることはできませんのでこの表現は修辞的想像に過ぎませんが、それはきっとこの世界に存在する最高の芸術家の夢想する究極の美をもしのぐ麗しさでございましょう――すでに今夜の乙女にする性の妙技の夢想へと向けられていたのです。我が宗教国家において初夜権は猊下の上にあり、そしてそれが猊下の行う唯一の国務なのです。

媾合陛下

  こう-ごう【媾合】性交。交接。交合。(広辞苑第四版)
 私の名前は媾合陛下。ホワイトハウスでの惨劇から一ヶ月、A国の威信をかけた大追跡をすんでのところでかわす死と隣り合わせの毎日。今日も今日とて名前も知らない土地で放置された丸太小屋の干し草に身を横たえるの。何か危険なものを一枚下に孕んだおそろしく静かな大気が、今夜が無事には過ぎ去らないだろうことを私に告げているわ。
 「媾合陛下、たいへんです。小屋の周囲を完全に取り囲まれています」
 「窓よりの眺望を媾合陛下に慎んで奏上し申し上げる。完全装備のヤンキーどもが数百人、ここからうかがえるだけで戦車が四台、上空には両脇にミサイルを二本づつ抱え込んだヘリが旋回しているで御座るよ」
 「大げさすぎますな」
 「やつらはいずれ私個人の暴力が一国家の軍事力に匹敵するまでに成長するだろうことを見越しているのよ」
 「がしゃん」
 「四方からのライトがこの小屋を攻撃目標として照らし出したで御座る。夜闇に浮かび上がるこの小屋の様子はまるで嵐の海に乗り出すボートのように頼りなくあの鬼畜米英どもの目にうつり、やつらの男根的な優越感を大いに満たしているのだろうと想像するだにはらわたが煮えくり返るで御座るよ」
 「”Surrender within thirty-second. Or we’ll begin to attack you.”」
 「媾合陛下にきゃつら鬼畜米英の意味するところをかしこみかしこみ奏上申し上げる。『三十秒以内に投降せよ、さもなくば我々は攻撃を開始する』」
 「媾合陛下、どうしようどうしよう」
 「あわてるんじゃないよ。どのみちやつらにゃハナから私たちを生かして帰す腹づもりなんざないのよ。何事も高度な次元にまでつきつめると単純なところに結論が戻ってくるものよ。動物のナワバリ争いと同じで、二度と歯向かう気を起こさないように叩きのめしてやればいいだけのこと。私のやり方を見てなさい・・・しゃっ」
 「ああっ。たいへんだ。媾合陛下が丸太小屋の壁面を暗喩的に破砕しながら象徴的なきりもみでA国軍の手ぐすねひいて待ちかまえるまっただなかへ飛び出していかれたぞ」
 「彼我兵力差は1対数千。分が悪いぞこりゃ」
 「媾合陛下、媾合陛下ァ!」
 「きゃおらッ」
 「ああっ。媾合陛下の下半身を露出した御足の一閃と同時に数十人のヤンキーどもの首と胴体が永遠に泣き別れたぞ」
 「媾合陛下にかしこみかしこみ奏上し申し上げる。七時の方向よりヘリから放たれたミサイルが地上数センチの位置を砂埃を巻き上げながら急速接近中で御座る。注意されたし。注意されたし」
 「ぐぼ」
 「嗚呼なんたるちやサンタルチヤ南無八幡大菩薩、媾合陛下の下唇が(この表現で賢明な読者諸賢には何のことだかもうわかりますよね?)ぱっくりと開くと飛来するミサイルを根本まで呑み込んだで御座るよ。棒状の物体の挿入を我々健康な成人男性に否が応にも連想させる傍目からもそれとわかるほどに膨れ上がった媾合陛下の下腹部の年齢制限漫画的蠢きは、我々に日本という国に生まれて本当に良かったとあらためてしみじみと実感させる高度に文化的風情で御座るよ」
 「君は日本人じゃないけどね。ああっ。その無上にエロティカな様相にA国軍兵のほとんどが股間に両手を突っ込んだ内股状態で戦闘不能に陥ったぞ。媾合陛下、戦後日本の歩んできた道は間違っていなかったのですね。加えて媾合陛下が局部の筋肉の律動だけで放送禁止的液体でぬめるミサイルを打ち返したぞ」
 「直撃を喰らったヘリが黒煙をあげながら深夜の森に墜落していくで御座る」
 「”My God! She is one of the worst VAGINA-MONSTERs in the history of human!!”」
 「媾合陛下にきゃつら鬼畜米英の意味するところをかしこみかしこみ奏上し申し上げる。『ああっ!女神さまっ。彼女は人類史上最悪のヴァギナモンスターの一人だ。俺はエイリアン2で彼女がシガニー・ウィーバーと戦っているのを見たことがあるよ』」
 「きゅらきゅらきゅらきゅら」
 「ついに戦車部隊が動き出したで御座るよ」
 「地上戦最強兵器の登場に我々の媾合陛下になす術はいったいあるのか」
 「しゃっ」
 「嗚呼なんたるちやサンタルチヤ南無八幡大菩薩、媾合陛下が乙女の恥じらいを具象する部分で(この表現で賢明な読者諸賢には何のことだかもうわかりますよね?)戦車の砲塔を根本までずっぽりと呑み込んだで御座るよ。そして媾合陛下自身からしたたる液体があたかもそれが濃硫酸であるかの如く、いかなる苛烈な銃撃をもはねかえすブ厚装甲をみるみる溶解させていくで御座るよ」
 「”Fire, Fire!!”」
 「媾合陛下にきゃつら鬼畜米英の意味するところをかしこみかしこみ奏上し申し上げる。『クビだ、クビだ』」
 「ああっ。媾合陛下の皮膚一枚と女性の有する特殊臓器一つ隔てた下で現在発生しているだろう無数の爆発を知らない部外者の目から見たならばそれは年齢制限ゲームにおける地球外生物の触手に今まさになぶられているようでもあり、これまた戦後の日本文化を世界に向けて高く止揚する光景であります。媾合陛下、A国軍は壊走を始めましたぞ」
 「あの光は何で御座るか」
 「N州上空にキノコ雲の発生を確認」
 「これで君の国もようやくやっかいばらいができたというわけだ」
 「そしてあなたは次期大統領の座を手に入れる。すべてシナリオ通りというわけですな」
 「ふふふ。それでは我々の新しい関係に乾杯しよう」
 「両国の輝かしい未来に」
 「乾杯」

委員長金子由香

 「どうしたんだい、委員長。急に屋上なんかに呼び出して」
 「ねえ、坂上君…青空は好き?」
 「うん、好きだな。ほら、僕って重度の二次コンだろ。何の自己再生産性もない、人類という種の本義に反した悪魔的な罪の上にいる僕だけど、このぬけるような青空を見上げていると、僕の持っているような何も生み出さない種類の糞ほどにも役に立たないちょっとした繊細さを傷つけないで尊重してくれる、薄布をわずかにまとっただけの男にとってたいへん都合のよい様子の婦女子の連隊がある日突然空から舞い降りて来て、戸籍だとか国民年金だとかそういった現実の方法を無視したやり方で僕の家に押し掛け女房的に住み着き――当然それを成立させない実際的な理由のうちの最も蓋然性の高い両親という問題はすでに死に別れているとか、海外への長期出張だとかで向こうから解決してくれているのさ。彼女らを養っていくための金は当然両親ないし両親の知り合いの富豪が毎月口座に何不自由ないほど振り込んでくれるんだ。これは彼女たちとより多くの時間を共有せねばならないという劇的必然性からもこうでなくちゃならないんだ。両親の不在については何か象徴的なものを感じないではないがね――こちらはむしろちょっと迷惑そうな様子で、現実の資本主義的社会では悪徳とされるような優柔不断さで彼女らをいつまでもずるずると追い出せずいるうち、彼女らの全員が全員それぞれのキャラクターに適したやり方で――熟女なら熟女の、不良なら不良の、天然なら天然の、ヒロイン系ならヒロイン系の、さ。まァ、最終的に選ぶのはロリータキャラなんだがね――今まで僕が知らなかったような種類の愛を注いでくれて――ここにも両親の不在が大きなファクターとなっているんだな。『※※君は、本当の家族っていうのがどういうものなのか、知らなかったんだね』が殺し文句になるわけだよ、最終的なね――こちらからはHPを作る程度の何も失わない消極的なアクションしか無いのにもうモテてモテて困っちゃう愛欲の宴に陥れてくれないだろうかと夢想するんだ。もしこの夢を贖うために僕が毎夜消費し続けてきたスペルマがあったのだとしたら、そのスペルマを放出する作業に使うカロリーを得るための貴重な動植物の無駄な死が――これ以上に犬死という言葉がぴったりくる死にっぷりは人類史上ちょっと他に考えられないね――あったのだとしたら、僕は少し救われた気持ちになるだろうと思うんだ」
 「坂上君…」
 「ははっ、こんなことを話したのは委員長が初めてだな。でも学校という閉鎖された現実ともっとも遊離した虚構空間において、それは充分にありそうなことだと僕は思うんだ。あっ。うわっ。委員長、何をするんだ。やめろ、早まるな。やめろ、やめろぉぉぉぉぉ…ぐちゃ」
 「ざわざわ」
 「なんだなんだ」
 「上から人が落ちてきたのよ」
 「投身自殺かしら」
 「あっ。あれは商業的に成功しそうにない種類の詩の冊子を同人誌即売会で売る、特にこれといった外見的・性格的特徴を持たないんだが、なぜかクラス内で敬遠され孤立する人間の2年B組坂上裕次君ではないか」
 「そうよそうよ。同級生の坂上裕次君だわ。私がある日昼休みになにげなく発した『かれってでも夜中にひとり猫とか殺してそうよねえ』という一言がクラス全体に水を打ったような静寂を引き起こしてしまい、たいそう気まずい思いをした坂上裕次君よ」
 「ざわざわ」
 「坂上君、あなたが悪いのよ。あなたが悪いの…」

怒羅美さん

 「怒羅美さ~ん、助けてよ~」
 「なんじゃい、クソガキ。ワシは今から集会で忙しいんじゃ」
 「助けてよ、怒羅美さん。ぼくはこの世でとても重要な役割を担っている唯一無二の取り替えのきかない存在なのに、ぼくを軽んじるやつらがいるんだ。やっつけてよ、怒羅美さん。圧倒的な暴力でやつらの浅薄極まる論調を叩きつぶしてよ!」
 「あン、またかいな。ええわ。集会のまえの肩慣らしや。得物は何がいい、チェーンがええか、鉄パイプがええか、鎖がまがええか、それとも…ヴァギナか?」
 「鎖がまでずたずたにしてやってよ、怒羅美さん!」
 「ああ? 自分いまなんて言うた?」
 「あ、嘘。チェーンのほうがいいよね」
 「ああ? 自分いまなんて言うた?」
 「ご、ごめん。あの。…鉄パイプ?」
 「ええ加減にせんとおまえから先に喰うてまうぞコラ」
 「ヴァ、ヴァギナで」
 「よっしゃ、ワシが一番得意なエモノや。ひゃっほう!」
 「怒羅美さんが永井豪の偏差値の低い側の一連の作品群を連想させる破廉恥な大開脚でネジで閉める式の薄い窓を突き破って飛び出していったぞ! 破られる窓の象徴する現象については小学生のぼくの実存の持つ知識の範疇外にあるよ!」
 「あれを見て下さい、ジャイやんさん」
 「どうしたんですか、すね夫さん…ああっ、逆立ちの状態で性器をあらわにした痴女が軽快なステップで近づいてきます」
 「おまえらやな。個人的な恨みは無いが、渡世の仁義というやつや。その命もらいうけるで」
 「ち、ちくしょう!」
 「あまりの非日常的な恐怖に追いつめられて逆上した基本的に人間としての器の小さいすね夫さんが木刀で殴りかかりました」
 「甘いわ」
 「ばきゃ」
 「ああっ、様々の樹脂を染み込ませて鋼鉄をひしゃげさせるまでに鍛え上げた、フロイト的に解釈するならば立派なチンポに対するぼくのコンプレックスの表出であるところの木刀が、根本からヘシ折られました。というよりむしろこれは噛みちぎられたのですか、ヴァギナに」
 「グループ同士の抗争にまきこまれて死んだワシの旦那のチンポはもっと堅かったで」
 「それは同時に去勢を象徴してもいます、すね夫さん」
 「おまえが頭目やな」
 「呆然とするぼくこと骨河すね夫という小学生の実存を尻目に、両腕をねじりあげるようにして驚くほど高く跳躍した性器を露出した痴女が、ジャイやんを近代格闘における不落のマウントポジションに組み敷きました」
 「おお、なんということですか。彼女のそれはまるでくみ取り式便所にくみ取りにくる車に付属しているひだのたくさんついたホースのように蠕動して私の男性という性をみるみる吸い上げてゆきます。それは例えるなら全盛期のカール・ルイスと同程度の速度です」
 「差別用語を使うことに微妙に敏感な言いぶりのジャイやんがみるみる精気を吸い取られしぼしぼになっていきます」
 「どうや、天国と地獄が紙一重の位置にあるのが見えるか」
 「(腕時計を見て)私こと剛田たけしは本日12時23分34秒ただいまをもちまして、腎虚で逝去いたします。みなさま、ご静聴ありがとうございました」

ドラ江さん

最終話 『家 族』

 「見るな! 路地裏でポリバケツの残飯に鼻をつっこむ、腐汁にまみれたみじめなワシを見るな!」
 「探したよ、本当に…ドラ江さん。もういいんだ。帰ろう」
 「のび太、ワシはクズや。お前にいろいろなことを無責任に決めうっておきながら、その実自分の話している言葉に対する実感は何も無かったんや。もしあの頃のワシがお前の目に超然とした存在として映っていたとするなら、それは単にワシがいかなる種類の現実とも連絡を持っていなかった、ただそれだけのことなんや」
 「全部わかってるよ。なぜか今のぼくにはすべてわかるんだ。もうぼくにはそんなふうにおびえて話す必要は無いんだよ。だからね、帰ろう。ぼくたちの家に」
 「…誰かが言うていた。『誰とも触れず、いかなる現実をも知らず、ひとり清く孤高であることは簡単です』。ワシは実際のところ何も知っていなかった。こんなみじめさも、生きるということのみっともなさも。他の誰でもないように思考できる自分を誇らしいとさえ思っていた。おまえたちの生活にハエのようにたかっていたくせに、その実ワシはお前たちを見下していたんや」
 「…ドラ江さん」
 「ああ、そうや、しづかは、しづかはどないしとる? ワシはあの娘にも謝らんといかん。会うことがあったら伝えて欲しい。ワシの今の言葉を伝えて欲しい」
 「彼女は、死んだよ」
 「死んだ…?」
 「君がいなくなってすぐのことさ。買い物の出先でダンプにはねられたんだ」
 「死んだ…」
 「霊安室にひっそりと横たわる彼女のなきがらは、彼女らしいつましさで、まるでただ眠っているかのように安らかだったよ」
 「それは、ワシの、せいや」
 「君は悪くないよ、ドラ江さん。ぼくは彼女が君を失って苦しんでいるのを見ずに、ただ自分の殻にひきこもっていたんだ。彼女のことをねたましいとさえ思っていた。ぼくにはすぐそばにいた彼女に手をさしのべることもできたのに。これはぼくの孤立と、つまらないプライドに与えられた相応の罰なんだよ」
 「のび太、笑ってくれ。人を傷つけ、人を死なせまでするみじめな存在やけど、こんな人生の底の底を這っている存在やけど、それでもやっぱりワシは生きたいんや」
 「誰も君を笑わない。誰も君を責めないよ、ドラ江さん。君はただ君の生に忠実だっただけなんだ。ぼくはいま君を助ける力を持っていることを誇りに思う。つまらない自己擁護のそれではなく、他人へと広がっていく豊かな愛を高く持てることを嬉しく思う。そのためにぼくの十年があったんだ。君を迎える強さを得るために。行こう、ドラ江さん。誰も君を拒絶したりしないよ。ぼくはやっとあのとき、僕のもとから離れていくとき君が言ったことがわかる。たとえ君が何も決めうってくれなくても、たとえ君が何もぼくを笑わせるようなことを言ってくれなくても、ぼくは君のことを愛している。君がどんな最悪の、無意味な音を発するだけの肉の塊に過ぎないとしても、ぼくは君のことを愛するだろう」
 「のび太…」
 「依存でも庇護でもなく、ぼくは君と同じように歩きたい。ぼくには君が必要なんだ、ドラ江さん」
 「さぁ、見えたよ」
 「のび太」
 「なんだい、ドラ江さん」
 「家の灯りというのは、こんなにまぶしいものやったろうか」
 「ああ、ドラ江さんは」
 「(眠るような安らかな表情で)暖かいなぁ、ここは」
 「ほんとうに何も知らなかったんだね…」

~ Sleep in heavenly peace ~

少女地獄

 「こんにちは」
 「ああっ。そ、そんな。ぼくの、ぼくの幻想の、ロリィタァァァァ!」
 「あなたは小鳥くんがバイオを購入するとき同種類のデブと一緒に『いまさらバイオって感じじゃないしねえ!』とことさらな大声で叫んであてつけてみせたわよね。あのときの小鳥くんの愁いをふくんだ悲しげな表情は、今でも思いだすたびにあたしの胸を痛ませるの。大好きな小鳥くんの悲しみをすすぐことができるのなら、この世にただ種を維持するためだけに無意味に存在する、キルケゴールの言うところの『自然の大量生産物』たち何人の生とひきかえにしてもいいと、あたしは心から思うわ」
 「そうか、そうか、人間の肌というのは本来こんないい匂いのするものなんだ。それなのにあのくそ女どもときたら、いやな香水の臭いをぷんぷんさせて、俺たちをどうしようもなく不能にさせて…くそっ、くそっ!」
 「というわけで、お楽しみ中のところ失礼ですけど、これからあなたを殺しちゃいます。えへ。ごめんね」
 「ぶすり」
 「ぎゃあっ」
 「きゃはっ。目の細かい砂を少し余裕ができるくらいにゆるく詰めた水袋を差し貫くときのような感触。長年刃物と親しんできたあたしだからわかるの。肝臓ゲットぉ。死んじゃえ、死んじゃえ~。誰にも見返られることなく、一人ブタのように死んじゃえ~」
 「ごぼ。くそ、ちくしょう、俺だって、こんなふうには、ありたくなかったんだ。できることなら、もっと、高い何かに、ごぼ。なんで、俺は、いつも、いつも」
 「ぶすり」
 「ぎゃあっ」
 「きゃはっ。『キィン』という音とともに手首に鈍くひびく硬質の手触り。長年刃物と親しんできたあたしだからわかるの。金玉ゲットぉ。死んじゃえ、死んじゃえ~。誰にも愛されることのなかった何の生産性もないこれまでの人生を、死ぬ瞬間に初めて客観的に後悔しながら一人ブタのように死んじゃえ~」
 「待って、おいていかないで、ぼ、ぼくの、ロ、ロリィタ…」
 「おもしろぉい。立ち上がろうとして何度も血糊に足をすべらせてひっくり返ってるわ。片玉を失ってバランスがとれないのね。まるで出来損ないのおきあがりこぼしみたい。見て見てぇ。ブタ踊りブタ踊りぃ。ぶっざまぁ」
 「ごぼ…やだ…こんな…おか…あ…さん…」
 「こら。探したんだぞ。今までどこ行ってたんだ」
 「あっ、パパ。あのね、小鳥くんをいじめる悪いおとなのひとを殺していたの。今日は六人も刺殺しちゃった」
 「そうか。さぞ猊下もお喜びになるだろう。いいことをしたな、真奈美」
 「えへへ」
 「今日の夕食はハンバーグだってママが言ってたぞ」
 「やったぁ。あたし、ハンバーグだぁい好き!」

風の歌を聴け

 「やぁ。」
 「ひさしぶり。半年ぶりくらいかな。」
 「ちょっと最近仕事が忙しくてね。」
 「今日はもうおしまいなのかい。」
 「いや、ちょっと流行りの風邪にやられてね。会社は休みにして今まで家で寝てたんだ。」
 「それはそれは。まだ寝ていたほうがいいんじゃないの。」
 「いや、もう大丈夫。」
 「そう。何か飲むかい。」
 「今日はアルコールはやめておくよ。気分じゃないんだ。」
 「そうかい。」
 「…。」
 「…。」
 「今日一日家で寝ていてさ、あの頃のことを久しぶりに思い出したんだ。」
 「うん。」
 「あの頃はいつも焦燥感とそれに倍するくらいの無力感があってさ、これは社会が悪いとか叫んでプラカードふりまわしてさ、いろんな思想書からパクったような内容のきったねえ手書きのビラ配ってさ、そんな行為に何か意味があると信じててさ、でも違ったんだな。」
 「うん。」
 「俺がそのころ世界の殻だと、これを破れば俺は解放されると思い続けていたものは、結局自分自身の殻に過ぎなかったんだ。…それを自覚したとき、俺はただアニメを見るしかできない男になっていたよ。」
 「うん。」
 「天井のしみを数えながら、今日一日そんなことを思い出していたんだ。」
 「…。」
 「…。」
 「最近は、玄関におくような全身が写る姿見があるだろ、あれを目の前において、インターネットで落としてきたきっついきっついアニメ絵を見ながらオナニーするのが日課なんだ。」
 「うん。」
 「もちろん、画像もちゃんと姿見に映るような角度に配置しなきゃダメだぜ。これが唯一のコツなんだ…最初はちょっと照れたような感じなんだけど、しまいには泣き笑いのような表情を浮かべた自分の口から、いったい誰に向けられたものか、『ちくしょう、ちくしょう』って呻きが漏れてるのに気がつくんだ。その誰からも非難される、どんな高い哲学性もないドブの底のような惨めさが、何の生産性もなく日々しょうことなしに消費される現実の対象を持たないスペルマが、この時代の、”今”の本質であるような気がするんだよ。そうは思わないかい、ジェイ。」
 「さぁ、あたしにはむずかしいことはわからないけどね。やっぱりビール、飲むかい。」
 「おたくなんて・みんな・糞くらえさ。」
 「そうかもしれないね。」
 「ダニさ。奴らになんて何もできやしない。おたく面をしている奴を見るとね、虫酸が走る。…ジェイ、クレヨン王国はもう消せよ。終わったんだ。」
 「すまない。」