猫を起こさないように
<span class="vcard">小鳥猊下</span>
小鳥猊下

世界の中心で愛を叫んだけもの

  「え、何。募金。ああ、募金ね。(歩道の柵に腰掛けると煙草を取り出し悠然と火をつける)ええと、何だっけか。ああ、そう、募金。名目は何なの。いろいろあるでしょう。え、地球環境の保全。へぇぇ、そんなのまであるんだ、最近は。俺ァ年くってるから募金っていうと赤十字しか思い浮かばなくてよ…(いきなり募金集めの婦女子の頭をひっつかむと近くの電信柱に激しく叩きつける)白痴が! そんなことで本当に地球が救えると思ってやってんのか、アァ? ほら、立てよ。立て。その自己満足で歪んだ顔に血の化粧をしてやるぜ。そうでもしねえとよっぽど見られたもんじゃねえからなァ? おまえらがやってんのは地球のためとか世界のためとかじゃなく、自分の薄汚いプライドのためなんだよ! こんなところでせこせこはした金集めてるより、例えばどこかの省庁に入るとか、年に何百億とか稼ぐ富豪になって匿名で億単位の寄付するとか、そっちのほうがよっぽど効率いいし正解でしょう? 君のやってるボランティアなんていうのは、そういう実利的な成功のできない、社会的弱者の存在理由を求めてのいいわけに過ぎないんですよォ? それにね、本当に地球のことを考えるなら死んだほうがいいじゃないですか。死んで、これから君の何十年あるかわからない人生において無駄に使うだろう資源や、動植物の命を救済したほうがいいじゃないですか。そのほうがよっぽど実際的に効果がありますよ。それをしないのは、おまえはおまえのほうが地球よりも大事だって思ってるからだよ! その認識無しによく今までのうのうと人生やってこられたな、アァ? (急に優しく)これからはこんな街頭に立つ時間を惜しんで勉強なさい、いいね? (いきなり振り向くと取り囲む野次馬連中の中から作業服に安全ヘルメットにマスクにサングラスに鉄パイプにプラカードの男を引きずり出し、ガンガン地面に叩きつける)ヘラヘラ笑ってんじゃねえよ! おまえもこいつの同類だろうが! 大学当局が悪いとか、社会が悪いとか、そんなの外側からいくらやっても同じことだろうが! 例えば教授になって学内での政治力をつけて経営にまで口を出せるようになるとか、東大出て日本の裏社会をのぼりつめて総理を自分の傀儡にするとか、そっちのほうがよっぽど効率いいし正解でしょう? 君のやってる学生運動なんていうのは、そういう実利的な成功のできそうにない、憎しみと怒りの対象を両親から体制にすりかえる操作の上手なモラトリアム青年の存在理由を求めてのいいわけに過ぎないんですよォ? (いきなり振り向くと取り囲む野次馬連中の中から眉をしかめながらも目はワイドショー的な興味にぎらぎらと輝いている老婆を引きずり出す)自分だけは関係ないツラで社会派気取りか、アァ? …落ちてんだよ。俺の給料から勝手に年金ぶんの金が落ちてんだよ! おまえらみたいな何の社会的・文化的生産力も無いしぼりカスみてえな連中のためになんで俺みたいな前途有望な人間が足ひっぱられなくちゃならねえんだよ! うぅっぷ、皺と皺の間にまで化粧塗り込みやがって、テメエは臭すぎる。長く生きすぎて魂まで腐敗が及んじまってるんだ。手遅れだな! (暴れる老婆を軽々と頭上にかつぎあげると、かなりの速度で行き来する車の流れめがけて放り投げる)けけけけ。見ろよ、スッ飛んでったぜ、ホームラン級の当たりじゃねえか! (ゲラゲラ笑いながら取り囲む野次馬連中に近づき、たるんだ靴下を装着した女学生の髪をひっつかみ路上に引きずり出す)何いまさら悲鳴あげてみせてんだよ! おまえは、いや、おまえらは本当はこういうのが見たくて見たくて仕方無かったんだろうが! これから何十年生きても何も生み出さないだろう君にはちょうどいいクライマックスのイベントじゃないか、えぇ? (女学生、男の腕に噛みつく)いてぇ! (激しく頬に平手を喰らわす)おまえらがそんなふうに扇情的でも劣情をそそるふうでもなく、繊細な男たちの自我を浸食するほど高圧的で無神経だから、出生率が低下するんだろうが! どんなまっとうな精神を持った人間がおまえらみたいのとまぐわりたいと思うよ、アァ? (女学生の髪をひっつかんだまま取り囲む野次馬連中に近づき、髪型は203高地、三角メガネの主婦を引きずり出す。激しくその頭を揺さぶりながら)自分だけは関係ありませんかァ、奥さァァァァァん? おまえが息子に自己不全を起こさせるような、自分自身の存在をこの世界でもっともつまらぬものとして憎んでしまうような、そんな脅迫的なやり方で塾やら私学やらにたたきこむから、彼らは母親からこんなに憎まれる、勉強という付加的価値がなければ誰からも愛情を持たれない醜い自分を再生産したくないと思いつめるんでしょォ? それで出産率が低下するんでしょォ? あんたが元凶なんだよォ? 自覚あんのォ? おまえたち二人とも情状酌量の余地無しだァ! (暴れる二人の髪をつかむとぐるぐると空中で鎖がまのようにブン回し、近くを走る線路に向かって放り投げる。ちょうど特急電車がものすごいスピードで通り過ぎる)きゃきゃっきゃっきゃっ。見ろ、見ろよ、雨だ、赤い雨だ! 胸がすくぜぇ! さてと…(取り囲む野次馬連中に向きなおるも、蜘蛛の子を散らすように逃げていく)おい、待てよ。なんで逃げんだよ。逃げることないじゃねえか! ひで、ひでえよ(泣きそうな顔になる)。待ってくれよ! 俺はこんなにもおまえたちのことを愛しているのに…俺はこんなにもおまえたちのことを愛しているのに! いひ、いひィィィィ!(駆け出す。遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる)」

なぜなにnWo電話相談室(1)

 身長ほどもあるようなカラーをつけた学ランを着た、身長ほどもあるようなリーゼントの学生が後ろに手を組んで扇形に並んでいる。中央には右目を前髪で隠し生革ムチを片手に足首まで隠れるスカートをはいた婦女子と、顔面が全く左右対称でないせむしの男が立っている。
 「(ムチを打ち鳴らし)さァ、今週もこの時間がやってきたよ。『なぜなにnWo電話相談室』、司会はあたい、血を巻く越前台風・ハリケーン逆巻と」
 「(割れた下唇から終始よだれを垂らしながら)ガルルル。俺様、但馬の狂犬・ガウル伊藤だ。ガルルル」
 「りりんりりん」
 「早速イッパツ目の電話のようだよ。おや、イッパツだなんてあたいとしたことがはしたないね。育ちが悪いんでそこんところは勘弁しておくれよ」
 「ガルルル。勘弁しねえヤツは承知しねえぞ。ガルルル」
 「(ムチでせむし男の背中を打ちつけながら)すごむんじゃないよ! …おや、つながったようだね」
 「(小声で)あ、あの。nWo電話相談室さんでしょうか」
 「ああ、そうだよ。ちょいとオしてるんでね。手短に頼むよ」
 「ガルルル。手短にしねえと取って喰っちまうぞ。ガルルル」
 「(ムチでせむし男の背中を打ちつけながら)すごむんじゃないよ! …さて、話を聞こうじゃないか」
 「あ、あの。ぼく小鳥って言います、あ、小さな鳥って書いて小鳥。子供の鳥じゃないんです。あ、え、なんだっけな。あ、そうです。ぼく最近ホームページっていうの始めたんですけど、なんていうのかな、変なメールをたくさんもらうようになったんです。あ、メールっていうのは電子的な、あの。手紙みたいなものなんですけど、文面が、その」
 「あんたを脅迫してるってわけだ」
 「あ、はい。ぼくこんなのはじめてで、こんなふうにあからさまな悪意っていうのが信じられなくて。会ったこともない人間をここまで憎めるものかなって。すごく、あの、なんていうか、怖くなって、悲しくて」
 「ネットの匿名性を利用したケチな犯罪だね」
 「ガルルル。そんなド畜生は喰い殺しちまうに限るぜ。肉にくいこむ歯の感触、ほとばしる脂と血。ガルルル」
 「(ムチでせむし男の背中を打ちつけながら)こんなところでおっぱじめるんじゃないよ! カタギのみなさんが怯えるだろうが!」
 「ヒィィィッ! もうしません、もうしませんからッ! 姉御に見捨てられたら、俺ァ、俺ァ」
 「(スタジオの床に唾を吐いて)わかりゃいいんだよ、わかりゃ。…さて、小鳥くんだったか、その脅迫メールがどんな内容だったか私たちに教えてくれるかい」
 「あ、はい。今手元にありますから、あの、読み上げます。(涙声で)あ、お『おまえのサイトなんか全然おもしろくねーんだよ!! 調子のってんじゃねえよ!!! この選民思想者め!!! おまえみたいなのがいるから日本がだめになるんだよ!! 死ねチンカス野郎!!!!』…うっ、ふっ、なんで、ぼく、みんなに、楽しんで欲し、それだけ、う、うわ、うわぁぁぁぁぁぁ(泣き崩れる)」
 「さて、小鳥くんよ。君はどうしたい。ずたずたに引き裂いて殺してやりたいか?」
 「ガルルル。殺す殺す、ひひひ。ガルルル」
 「(血の涙を流しながら)殺すなんて生ぬるいです。両目をほじり、耳を引き裂き、喉を潰し、両手両足を切り落とし、チンポも切り落として、江戸川乱歩の芋虫みたいにして、永遠に生き地獄をさまよわせてやりたい。永遠にぼくという唯一無二の存在の心に与えた傷を後悔させ続けてやりたい…!!」
 「…わかった。nWoが総力を挙げて捜索した結果、君にそのメールを送った犯人を探り出すことができた。それは…こいつだ!(合図とともに学ランの集団が左右に分かれ、奥の暗闇にスポットライトが当たる)」
 「(口に噛まされた猿ぐつわを解かれながら)…ッざけんな、ふざけんなよ、こんなことしてただで済むと思ってんのかよ!」
 「(棘を生やしたムチで男の顔面を打ちつける)おだまり!」
 「びしり」
 「(顔面の肉が裂け左目がグシャグシャに潰れる)ぎゃああああっ」
 「ガルルル。血だ、血だよ、いひひひ。ガルルル」
 「さぁ、小鳥くん、始めるよ。テレビの用意はいいかい」
 「(嬉々として)あ、待って。ビデオ撮らなくちゃ、ビデオ。ハイグレード標準で。何度も見返せるように。いひひひ」
 「さァ、思う存分やりな、伊藤! ただし殺すんじゃないよ!」
 「ガルルル。血、肉、血、肉、血ィィィ!」
 「ぞぶり」
 「(噛みちぎられた右腕のつけ根をおさえながら泣きそうな顔面で)マジ、マジかよ、嘘だろ、法治国家だろ、いいのかよ、こんな、嘘だろ」
 「(恐ろしく長い舌で返り血をなめとりながら)ガルルル。たまらねえよ、この感触、たまらねえ…!!」
 「(スタッフから受け取った紙片に目を通し)おや。名前は知らないし、知りたくもないが、あんたのおかげで視聴率が急激に延びているそうだよ。今60パーセントを越えたらしい…(酷薄な笑みを浮かべながら)あんたのようなのでも誰かの役に立てることはあったんだねぇ」
 「ぞぶり」
 「ガルルル。右足、右足ィィィィ!」
 「あの、ガウル伊藤さん、もっと痛めつけてやって下さい。その顔はまだ反省していない顔ですから。(口の端から涎を垂らしガンガン両手で机を殴りつけながら)足りねえよォ! もっと、もっとだよォ! もっと苦しめてやってくれよォォォォォ!!」
 「マジ、マジかよ、嘘だろ、洒落に、洒落になってねえよ、法治国家だろ、マジかよ、マジ……(血がほとばしり肉の裂ける阿鼻叫喚の様相に音声がかき消える)」

D.J. FOOD(4)

 「 Jam, Jam! MX7! 今週もまたD.J. FOODの”KAWL 4 U”の時間がやってきたぜ! それではいつものように始めよう、Uhhhhhhhhhhhh, Check it out!
 ハ、オリジナリティだって? そりゃテメエが出典を思い出せていないだけのことさ! うぅっぷ、それ以上芸術臭い息を俺に吐きかけるんじゃねえよ! ロックンロール! まァ、今ではハイジャッカーなどに遭遇した際にも騒然となる機内にひとり立ち上がり大きく両手を広げながら狂的とも言える信念に貫かれた瞳をそらさずに”We are the world”を歌いつつ接近することで犯人を投降させてしまい美女のボインちゃんを左手で楽しみながら右手で葉巻をふかす英雄扱いの地方局の一D.J.という枯れた俺の実存なんだが、あの頃は血気盛んなものだったからひとり荒野に立ち山に向かってギターをかきならして一週間ぶっ通しに歌い続けたり、赤く着色した戦闘機にスピーカーを積み込んでしばしば銀河を飛びまわり宇宙人を歌の力だけで撃退したりしたもんさ! …あン、空気がなけりゃ音は伝わらないじゃないですか、だと? バカヤロウ! (殴りつけられたADの一人が無数の折れた歯をまき散らしながら窓ガラスを突き破り13階下の地面へと落下していく。破られた窓はふつうのガラス窓で、何を象徴するものでもないことをあらかじめ付記しておく)細かいことぬかしてんじゃねえよ! ソウルだ、ソウル、熱いかどうかなんだよ! そして宇宙人の婦女子とのロマンスもありだったさ! 穴が開いてなかったんでびっくりして荒ゴミの日に捨てたけどな! ひとつ言っておくがな、宇宙人の婦女子が地球人の婦女子と同じ生殖機構を持ってるなんて幻想でSFやるんじゃねえよ! ロックンロール! さぁて、いつもの犬のようなおしゃべりはこのくらいにして、まず最初のお便りは群馬県にお住まいの斉藤陽介君からだ! 『こんばんは、毎週楽しく聞いています。ぼくは三歳のとき事故に遭ってから目が見えないので、一日じゅうずっとラジオばかり聞いているんですが、その中でもFOODさんはとびきり面白いと思う。FOODさんの番組には本当に勇気づけられます。…来週手術を受けることになったんです。目が見えるようになる手術です。でもぼくには”見える”世界というのがいったいどういうものなのかわからない。怖いんです。『まぶたの夕陽は美しかった』という言葉を知っていますか。半世紀以上を目が見えないまま生きてきた男が、村人たちのおせっかいで手術を受けるんですけど、見えるようになった世界に絶望してもらした言葉なんだそうです。ぼくはずっと見えないままでもかまわないんです。だって、ぼくは十年の間ずっとここしか知らな』 …おい、待て中川、俺のサロンパスを冷蔵庫で冷やすんじゃねえよ! まったく油断も隙もあったもんじゃねえ! ええと、なんだっけか。まぁいいや。忘れるくらいだ、どうせ大したことじゃねえな。ロックンロール! さて、次のお便りは栃木にお住まいの藤野あさみちゃんからだ! 『こんばんは、FOODさん。今日はひな祭りですね。慣れないせいか喉につっかえる白く濁った温かい液体を(甘酒ですよ、やだなぁ、もう。なんでも裏を読もうとするんだから)飲み下すと私も少し』 …おい、待て西島、俺のアロンアルファを冷蔵庫で冷やすんじゃねえよ! 何度言ったらわかんだこの白痴めが! (蹴りつけられたADの一人が無数の折れた歯をまき散らしながら窓ガラスを突き破り13階下の地面へと落下していく。破られた窓はふつうのガラス窓で、何を象徴するものでもないことをあらかじめ付記しておく)まったく油断も隙もあったもんじゃねえ! ええと、なんだっけか。そうそう、あさみちゃん。栃木にお住まいの藤野あさみちゃんからのお便りの途中だったな。ロックンロール! 『大人になれたような気がします。お酒に熱くほてった身体を着物の上からなでてみたり。こんな12歳の私という実存はいけない子でしょうか』YoYoYoYoYoYoYoYo,Yo Men! 中川、栃木行きの高速バスの時間を調べろ、大至急だ! 栃木に住んでる叔父が危篤だという気がなぜかするんだ! 最後の一枚は大阪府在住の小鳥くんからだ! 『こんばんは、D.J. FOODさん。何度も迷ったんですけど、重大な告白をするためにペンを取りました。ぼくはじつは』YoYoYoYoYoYoYoYo,Yo Men! 自慰行為は示威行為と同義だ! ロックンロール!
 おっと、もうこんな時間だ! みんなからのお便り待ってるぜ! それじゃ、来週のこの時間まで、C U Next Week!」 

もう頬づえはつかない

 「れ。ちょっと狭くてカメラ入らないッスからベランダに。あ。もう流れてるんスか。(裏返った声で)にょ、にょにょにょ~んス。これ流行らせようと思ってるんスよ。かなりユニークじゃないスか。うん。あ、名前は勘弁して欲しいッス。ハンドル名ってことでいいスか。ケチ野ケチ兵衛。うん。…え、由来ッスか。よく言われるんスよ、おまえはケチだなぁって。だから。節約家だっていつも言い返すんスけど。うん。例えばッスか。出かけるときとか電気器具類のコンセント抜いて行くッス。あんま出かけないッスけど。いや、変わるッスよ。ほら、これ明細。一ヶ月で120円ほども違うッス。一年で、ええと、千円くらいッスか。千円くらい得するんス。大きいッスよ。うん。大きいッス。あ、それとぼく劇団やってるんスよ。うん。と言っても二人だけなんスけど。座長のぼくと、高校のときの同級生の西野くん。うん。代表作ッスか。まだ一度も公演したこと無いんスよ。ネタはあるんスけど。うん。見てくれますか。この男性器を模した巨大なハリカタ。魚河岸から拾ってきた発砲スチロールを削りだして作ったんスよ。ちょっと生臭いッスけど。ちょっと臭うほうがリアリティがあるッスよね。あ。臭覚にまでうったえる演劇って今まで無かったんじゃないッスか。無いッスよね。うん。そしてこれをね、劇の主役の亀清水くんが、こう、股間に装着するんス。あ、この名前はぼくの好きな漫画へのおおおまおまおまん。オマージュ。オマージュなんスよ。うん。見て下さいよ。真ん中にプラスチックの管が通してあるんス。劇のクライマックスでここから小麦粉をゆるく溶いた白い液体をまき散らしながら客席に飛び込んで劇場から逃走するんス。これはまさにああおまおまおまん。アンチ・テアトル。アンチ・テアトルでしょう。うん。あ、ここでしゃべっちゃマズいッスね。パクられちゃうから。今の部分放送のときカットしてもらえますか。あ、生放送。今このまま流れてるんスか。あ、でもこの放送がそのままぼくのオリジナルの証明になるッスよね。うん。お金さえあればすぐにもやりたいんスけど。西野くん、最近仕事が忙しいみたいで連絡つかないんスよ。二年くらい。うん。あ、これ見てたら連絡下さい。古い電話番号しか知らないんス。うん。…え、パソコン。拾ったんスよ。粗大ゴミで。動くッスよ。ぼくホームページ持ってるんス。うん。言い忘れるとこッス。すごいッスよ。一年で50人も来てくれたんス。50人っていったら高校のときのクラスの人数より多いじゃないスか。うん。ぼくの言葉をこんな大勢の人間が聞いてくれるなんて、緊張するッスよ。…え、コンテンツ。コンテンツ。あ、内容スか。メインは時事問題をからめた日記ッス。オナニーじゃ意味無いッスから。社会性が重要ッスから。…え、最近ではッスか。あ。え。ふ。フランスの核実験とか。うん。あと小説なんかも。近未来を舞台にした。豆清水くんっていう主人公が大活躍するんス。あ、この名前はぼくの好きな漫画へのおおおまおまおまん。オマージュ。オマージュなんスよ。うん。あと絵とか。目次のこの絵、ぼくが描いたんス。可愛いって女の子に評判なんスよ。鮫清水くんっていう。あ、この名前はぼくの好きな漫画へのおおおまおまおまん。オマージュ。オマージュなんスよ。…え、仕事ッスか。今はアルバイトしてるッスよ。ボールペン組み立てたりとか。うん。繊細ぶるつもりは無いんスけど、人と話したりするの苦手なんス。生々しくて。うん。…え、大学ッスか。大学。大学。(宙を目で追いながら何かを思い出すように棒読みで)あんな閉鎖された場所で現実と関わりのない学問をいくら勉強したところで夢には近づけないと思うんですよ。行こうと思えば行けたんスけど。やっぱ夢だし。うん。…え、ぼくの夢ッスか。あ。ふ。え。演劇。ああ、そう演劇ッス。さっき話したッスよね。ああいう創造的な。うん。創造的なことならなんでもいいんスけど。小説とか。絵とか。音楽とか。うん。お金あれば一番いいんスけど。お金」
 「(テレビの前でぼんやりと頬づえをついて)戦前に存在したような、それに従わないことが即座に社会的な死を意味するシステムは、戦後日本において自由や権利の名の下に消滅してしまったと誰もが教えられ、そう思ってきているけれど、本当は違うの。それまでに在ったシステムの上に行われたのは、それ自体の解体ではなく、不可視化と曖昧化であったと言えるわ。現在我々は我々を拘束するシステムの存在を意識することは非常にまれだけれど、それは目に見えなくなり、それに逆らうことがかつてのように直截に実際的な生き死にに直結しないから気がつかないだけで、システムは厳然として存在するの。ケチ兵衛、貴方はこのシステムが貴方を常に取り巻いていることに気がつかないほど何も見えていなかったというその事実だけで、致命的な反逆者としてすでに殺されてしまっているのよ。資本主義社会というシステムの与えてくれる恩恵に授かれないまま、夢だなんていまどきの小学生の作文にも出てこないような繰り言にすがって、貴方は自分がすでにこの世とは何のつながりも無くなってしまった亡霊だということに気づいていないのかしら。そう、そうよね、社会的敗北者、社会的弱者の発言の場であるところの――実際自分の声が何か現実を動かし得るという実感を持つ人間はこんなところで自分と同じ亡霊に向かって何かをしゃべったりはしないわ――ネットワークが、あなたの何の役にも立たないむしろ悪徳とも言うべき繊細さを脅かす苛烈さを持たないこの現実の脆弱な写しが、貴方はまだ社会的に殺されていないと、貴方はまだ生きているのだと錯覚させてしまっているのね――まるで急な交通事故で死んだ者の霊が、自分が死んだという事実に気がつけないまま永遠にその場に地縛してしまうように。貴方はもうこの資本主義社会において完全に抹殺されてしまっているのよ、ケチ兵衛。偏差値60前後の私大に入学するといったような、自身の性格の根幹を揺るがさずにすむ程度の努力を怠ったという怠惰の罪に、現代社会という目に見えないシステムは聞こえない裁きの槌を鳴らしたのよ――汝、ケチ兵衛よ、お前の無知と背きの罪は重い、よって死刑である。だが簡単には殺さぬ。我々は馬鹿者にする慈悲を持ち合わせてはいない。我々は豊かだが、お前には少しの分け前もやらぬ。砂漠で乾いた者が見るオアシスの幻影のように、お前を取り巻く実際に触れることのできぬ富に永遠と囲まれながら、生物学的な死がお前の上に落ちるその瞬間まで、後悔と絶望と悲嘆のうちに悶え、発狂し、ゆっくりと衰弱していくがいい――。脇の下が黒く変色したTシャツ、何ヶ月も切っていないぼさぼさの髪、こけた頬、栄養不足に浮かぶ黄疸、泣き出す寸前の子供のように大きく見開かれた濡れた瞳。…自分の言葉すべてに自分で”うん”と肯定的にうなずきかけてやらねばならないほど貴方の無意識はすりへり、自信を喪失し、疲れ果ててしまっているわ。なのに貴方の意識はそれに気がつかないふりで――気がつくことは自分の死と敗北を認めることと同義ですものね――今日もホームページを更新するのね。西日の射す四畳一間のアパートで、システムに迎合したものたちが気にもとめないような千円というはしたの富を息を切らせて追いかけながら、才能という宝くじほどにも当てにならない幸運を口を開けてただぼんやりと待ちながら、誰も見ないホームページを。
 (瑠璃色の涙を左目から一滴こぼして)愚かなケチ兵衛。かわいそうな、ケチ兵衛……」

テレコンワールド

 「ぴゅぴゅぴゅ~ん」
 「どうだい、ゼル! ドローシステムの威力は? 本を読んでいて両手がふさがっているようなときにも、すぐさまチャックを開かずにチンポをひっぱりだせるんだぜ!」
 「ああ、すげえや! 俺はもう無防備に男の劣情を計算に入れないやり方で窓辺に陳列されている婦女子のメンスの汚れが付着した下着を100枚もドローしちまったよ! これはもうまさに…」
 「ドローしたモン勝ちだね!」「ドローしたモン勝ちだな!」
 「(互いに顔を見合わせて爆笑しながら)だがな、ゼル、ドローシステムを応用すればもっとデカいことができるんだぜ…ちょうどおあつらえむきの婦女子が通りかかったな。見てろよ…」
 「ぴゅぴゅぴゅ~ん」
 「ああっ。日々の肉体労働で得た血の出るようなゼニを貢いだりカラスの愛好する類のぴかぴかする金属を与えたりプライドを捨てて土下座したり布の表面積に反比例して高価な衣類をひっちゃぶかずに脱がせることに腐心したりする非文化的・非生産的な形骸化した男女間の儀式を一気にはぶいて、婦女子のボインちゃんをいきなりダイレクトにドローしたぞ! すげえ、すげえよ猊下!」
 「いつでも、どこでも! これが創設以来変わらぬドローシステムのモットーなのさ!」
 「しかし、おふ。たくさんドローできるのは嬉しいんだけど、俺ァもうこれ以上ストックできないよ」
 「安心しな、ゼル。そういうときは慌てず騒がず、”はなつ”してやればいいのさ!」
 「(後ろめたそうな表情で)でもいいのかい、公衆の面前でそんなことして」
 「当たり前じゃないか! やつら婦女子がいま男の劣情を考慮に入れない薄布一枚でお天道さまの下に平気で闊歩できるのも、俺たち男が表面上壮麗とすましてとりおこなわれる歴史の舞台裏で夜な夜なこっそり惨めに”はなつ”してきたおかげだろ、ゼル? 今こそドローシステムがその恐ろしい数千年の欺瞞を白日の下に暴いてくれるのさ! さぁ、おあつらえむきの婦女子が歩いて来たぞ。ほら、勇気を出すんだ」
 「う、うん」
 「まずしっかりと狙いを定めるんだ…よし、いいぞ。そしてターゲットを指定してやり……今だ、”はなつ”だ!」
 「ぴゅぴゅぴゅ~ん」
 「ビンゴォ! やればできるじゃないか、ゼル!」
 「(指さしてゲラゲラ笑いながら)見てくれ、見てくれよ、猊下! 突然飛来した粘着質の毒液に目潰しを喰わされた暴行罪に情状酌量を与えるような布ッきれ一枚をわずかに装着した偏差値の低そうなツラの婦女子が状況を把握できず、折れたハイヒールで何度もスッ転びながら1メートル毎に電柱に顔面から激突しながらその精神性の低さに真にふさわしい獣のような悲鳴をあげて逃げていくよ! なんで俺はこれまでこんな痛快さを知らずに人生を楽しい場所だなんて言ってこれたんだろう! これはもうまさに…」
 「ドローシステム万歳だね!」「ドローシステム万歳だな!」
 「(互いに顔を見合わせて爆笑しながら)どうだい、ゼル、”はなつ”とすっきりするだろう?」
 「ああ! もし、たったいま婦女の百個連隊が津波のように光にむらがる蛾のように俺のチンポに押し寄せてきたとしても、彼女らすべてのボインちゃんを残らずドローしてやれるくらいさ! すげえ、すげえよ猊下!」
 「そうともさ、ゼル! 婦女子の上半身だけをとってもこの威力なんだ、いわんや下半身をやだ! ドローシステムさえあれば俺たちは無敵なんだ! はは、はは、ははははは」
 「ぴゅぴゅぴゅ~ん」

ドラ江さん回想録

 「(半眼で瞑想するかのように)初源にあった親ないし養育者との関係が、成長しそこから遠く離れてもう何の関係も無くなってしまったはずの個体になお与え続ける影響についてワシは今までに幾度かおまえに語ったと思うが、その影響の中で最もやっかいなもののひとつにそこで生まれた憎悪の転移がある。…人間の本質は善であるか悪であるか、多くの宗教が語る絶対悪はいったい存在するのかどうか…人間というフィルターを抜くならば答えはいずれの上にも落ちないやろうとワシは思う。存在は存在することそのもので究極に完結しており、我々の知恵がする付加的な概念は本来的に超越していると言える。突然の大津波に村ひとつが消滅する様を目の当たりにした老人が”水の悪神”という言葉を持ち出したとして、それはかれの眼前で発生した自然現象の本質とは圧倒的にズレてしまっている。神話や宗教はすべてこういった人間の対処しえない理解することのほとんど不可能な無意味性に対する、現実を虚構化する装置であったと考えられるが…それはまた別の話やな。話を元に戻そう。人間にとっての悪の概念とは養育者との関係において発生した初源の憎悪に端を発する。かれら無しにはありえない、自分を生かしてくれているはずの存在を憎悪すること、これは個体内の自己保存の系を脅かす認識や。それを意識したとき、たとえそれが全く正しい感情であったとしても、小さなかれにはどうしてもそれを否定しなければならないという状況が生まれる。抱いた憎悪の肯定は庇護を必要とする寄る辺無い自己の断絶を即座に意味するのやからな。つまり、自分を生かしてくれている両親に対して憎しみを覚えるだなんて、自分はなんて悪い子供なんだろう、というわけや。神話・宗教・物語、すべての知恵がする虚構における悪の概念はこの初源の自己否定に根があるのや。しかし、やな。結果として親ないし養育者はかれの中にある、かれらによって発生してしまった憎悪から守られるが、それは生まれた感情自体の消滅をまで意味するわけではないんや。行き場を失った憎悪の感情はどうなるかと言えば、本来の対象ではない対象へと無意識のうちに軌道を修正されてしまう。それがもし自分へと向けばかれは永遠に自分で自分を殺し続ける――比喩的にも、実際的にも――ことになるやろうし、もし外へと向けば自分でない誰かを殺し続けることになるやろう。このとき、憎悪の感情は転移していると言える。…知恵の上にもうけられた自滅へのプログラムとも言うべきこのプロセスから逃れ得た人間というのは歴史を振り返ってもほとんど存在しないのやないやろうか。それを考えるとワシは背筋の寒くなる思いがする。だからな、のび太。おまえは誰かがファイナルファンタジー8を最低のゲームであるといってスクウェアという会社の在り方にまで言及して感情的に批判するとき、もしかしたらそこに憎悪の転移が存在するのかも知れないと疑ってかからないかん。間違ってもその尻馬にのって自分自身の中にある憎悪をこれは格好の餌食と転移させたらアカンのや。初源に不全を抱えた人間たちのこのやり方を知り、おまえが自分に対して真に客観的になろうとしてはじめて、おまえはこの円環から逃れることができるかもしれないのやからな」
 「…わかったよ、ドラ江さん。ぼくが間違っていたよ」
 「ええのや。わかってくれたらええのや」

野望の王国

 「いやはや大したもんだよ。我が東大せんずりチームが本場アメリカのチームを破るとはね」
 「アメリカ大学せんずりチーム唯一の敗けですからね。立花と片丘二人でアメリカの瞬発力だけが頼みの持久力に欠ける大チンポをねじ伏せたってわけですよ」
 「我が東大閨房術学部のトップの座を争う二人がね」
 「ところで諸君は進路を決めたかね。誰が私の教室に残ってくれるのかね」
 「(片丘・立花両名の隆々と勃起し、もうもうたる湯気で置かれた湯飲み茶碗の前に陽炎を引き起こす物体を装着した丸出しの下半身を自分のそれと見比べながら)まあ、立花と片丘のどちらかでしょう」
 「ぼくたちはどうせ残ったって片丘と立花がいたんじゃ教授になって女学生にせんずり以上のことを教授することはできやしないから、あきらめて就職するよ」
 「全くだ。ぼくも実はぼくの卒業した高校はじまって以来のオナニストだなんて言われて自信マンマンだったけれど、立花と片丘に会って天狗の鼻もぺしゃんこさ。そしてぺしゃんこになった鼻が暗示するのは欠陥のあるぼくのチンポで、同時に去勢をも象徴しているのさ。なぜって、男性の自信は一般的に男性自身から来るものだからね。そしてマンマンとわざわざ片仮名表記したことの意味がわからぬ君でもあるまい」
 「ああ、おれも度肝をぬかれたね。さすが東大、すげえオナニストがいるもんだと思った。この場合”ぬかれる”という動詞は、受け身であるし、『自分以外の力でせんずりを行う』という国語的解釈が適当だろう。つまり自慰に関して自信が持てなくなっている状態を暗示しているんだね。だからより誤解のない正しさを期すならば、目的語を”度肝”から”チンポ”におきかえるべきだろうね」
 「ぼくらはもうギブアップですよ。このテクストには『これ以上せんずり行為を続けることに』が挿入されねば発話者の意図が正確に完成しないと思うな」
 「うむ、私も同感だ。この二人ほどのオナニストは私も見たことがない。この二人のどちらかが残ってくれれば私は最高の後継者を持つことができる」
 「申しわけありませんがぼくは教室に残る気はありません」
 「ぼくも同じです」
 「(慌てて)じゃ、大蔵省かどこかに就職するのかい?」
 「ど、どうしてかね!?」
 「いや、どこに就職する気もない!」
 「官庁にも、企業にも!」
 「学校にも残らない、就職もしない……いったいそれではどうする気なんだ?」
 「ぼくたちが閨房術学部せんずり学科でせんずり学を学んだのは自慰が性交を超克する仕組み、快楽をつかむための方法を学ぶためだったと言っていいでしょう!」
 「人間の快楽構造のカラクリを研究し尽くし、ぼくたちが新しい自分たちの王国を築くための準備を進めてきたのだとも」
 「な、なんだって!?」
 「き、君たち、気でも狂ったのか……」
 「せんずりしすぎて頭がおかしくなったんだ……」
 「ぼくと片丘はせんずりチームに入って初めて知り合ったが、そのとき二人とも同じ野望を持っていることを知った」
 「つきあってみて――この場合”突き合って”と漢字表記するのが適当でしょうが、それだとあまりに婦女子に対して露骨すぎると言わねばなりますまい――我々は互いの男性能力を極めて高く評価するようになった。で、我々は互いに野望を達成するために協力することを誓ったのです」
 「我々は野望達成にすべてをかけると決めたのです。だから学校に残ってせんずり生活に没頭したり、就職してオナニー生活に身を削ったりするわけにはいかないのです」
 「き、君たちはまるで誇大妄想狂のようなことを」
 「我が東大閨房術学部始まって以来のせんずり行者の二人がどうしてこんな下らぬ妄想を」
 「(上半身には詰め襟の学生服、下半身には密集したすね毛とチンポ丸出しで立ち上がりながら)誇大妄想と思うなら思って下さい! 我々は自分たちの痴力と体力を信じているんです!」
 「(上半身には詰め襟の学生服、下半身には密集したすね毛とチンポ丸出しで立ち上がりながら)この世は荒淫だ! 唯一野望を実行に移す者のみがこの荒淫を制することができるのだ!!」

野望の王国

 「さあ、いよいよ残り時間も2分を切りました。オールアメリカ大学選抜対東大のせんずり試合も14対14の同点! 東大の攻撃は直腸前立腺まで残り10cmといったところ。三年前までひ弱なボウヤだった東大せんずりチームが突然強くなり、関東大学せんずりリーグで優勝し、今またこうしてオールアメリカ大学選抜チームと互角にせんずれるのも……」
 「クォーターバットの片丘君と、アヌスマンの立花君の、二人の力によるものです!!」
 「さぁ、左手にボールを握り込んだ片丘の直腸に、立花がじりっじりっとものさしの挿入を続けます。ここは慎重にいかなければいけませんね、佐上原さん」
 「ええ、男性本能の一時的達成が近いからといってここであわててはいけませんよ」
 「オールアメリカ、胸の筋肉を小刻みに動かし、そり残しの脇毛をちらつかせ、必死のディフェンスを試みます」
 「ここらへんのやり方はさすがですね。凡百のチームだったらこのまま男性本能の一時的達成へかけあがらせてしまうところです。私たちの頃のアメリカチームと言えば、すさまじい肉食のパワーだけで押し切ってしまう、裏返せば守りの弱いチームだったんですが…」
 「片丘、その攻撃を目線だけで巧みにかわします。直腸前立腺まで残り7cm」
 「こういったテクニカルな部分ではやはり日本に一日の長があります。相手の執拗なディフェンスをかわすために並の選手はつい顔ごとそむけてしまいがちなんですが、それだとディフェンス側に次の防御のためのいらぬ情報を与えてしまう」
 「なるほど。片丘の角度が次第に上昇してきました。業を煮やしたオールアメリカはついに威信をかけて下半身の露出を開始しました。しかしこれは下手すると反則をとられて、東大チームの勝利を一気に確定させてしまう恐れがありますが、佐上原さん?」
 「残り時間が一分を切っていますからね。彼らも必死です。私があそこで、いや、あそこに立っていてもそうするでしょう。しかし、(ハンカチで額の汗をぬぐいながら)なんて緊迫感だ。私はここ十年でオールアメリカにブリーフまで脱がせたチームというのは知りませんよ」
 「残り時間は30秒を切りました。立花、ものさしを握る手を入れ替えてにじむ汗をぬぐいます。ああっ。オールアメリカ、バットを上下に揺さぶり下腹部に打ち当てることでパチパチと音を鳴らし始めました。こ、これはどういう…」
 「(蒼白な顔面で)恐ろしい…なんていうディフェンスだ。視覚的ディフェンスならば顔の角度や目線でまだ逃げようがある…だが、今オールアメリカがやっているような聴覚的ディフェンスは右手にバットを、左手にボールを握り両手のふさがっているオフェンス側には回避する手段がまったく存在しない。思い出しました。これは二十年前オッペンハイマー博士が提唱した戦法だ。その当時世界でだれも実践に移せる者はいなかったという話です。こんな教科書にしか見れないような高度なテクニックを身につけているだなんて、今年のオールアメリカは米せんずり史上最強だと言っても過言ではありませんよ」
 「ええ、ええ。しかし、そのオールアメリカと互角に渡りあっている東大チームも間違いなく日本せんずり史上最強を冠するに値すると言えるでしょう」
 「その通りです」
 「片丘、苦しそうだ。片丘の恋女房立花が片丘のひきしまった尻えくぼを撫でまわして勇気づけます。直腸前立腺まで残り3cm」
 「立花も辛いでしょう。せんずりは本当に孤独な作業ですから。誰かが手を貸してやることはできない、誰も助けてやれないんです。そしてその孤独を超克した人間こそが真のせんずり行者と言えるのです」
 「(涙ぐんだ声で)なんという感動的な光景でありましょう。忌まれ、さげすまするせんずりがなんという高い精神性をもってここ国立競技場のグラウンドに展開されていることか。この光景は現在地球をとりまく衛生網でもって世界中へリアルタイムに発信されています。観客は二重の意味で総立ちです」
 「わああっ、わああっ」「がんばれ、東大」「せんずり帝國日本の御名を今こそ取り戻すんだ」
 「お聞き下さい、この歓声。この試合はもはや一せんずりゲームという枠を越えて、戦後日本の歩んできた道の可否を象徴する高みにまで登りつめているのです!!」
 「ぎらり」「ぎらり」
 「歓声にオールアメリカのするディフェンス音が一瞬かき消された隙をぬって、立花一気に突き上げた~っ!!」
 「ああっ。あれは実戦せんずりの創始者・御古神慰兵衛が極めたと言われる直腸蠕動感知挿入式…!! まさか、一大学生に過ぎない立花君があの技を……!!」
 「片丘の鍛え上げられた腹の筋肉が収縮する!! ほとばしる欲望!! 達成です、男性本能の一時的達成の達成です!!」
 「ピピィ~ッ」
 「試合終了! 丁度このとき試合終了です! 14対15、東大みごとに全米大学せんずりチームに勝ちました! 日本せんずり界初の壮挙をなしとげました!」
 「(泣きながら)すばらしい、すばらしい。私はこの試合に解説者として立ち会えたことを神に感謝したい」
 「立花と片丘、この二人のすごい男は万年ドン尻の東大せんずりチームをついに世界のトップレベルに押し上げたのです!! そしてこれは同時にせんずり帝國日本の歴史的な勝利でもあります!!」
 「わああっ、わああっ」

魁!男闘呼塾

 「目標前方500メートル!! 総員チンポかまえーっ!!」
 「せんずれい貴様ら!! せんずって貴様らのいただいた御種を祖国にお返しするのじゃー!!」
 「せんずりーっ!!」
 「ほぉ。なつかしい」
 「せんずり訓練ですか」
 「ふふふ、私も戦時中はずいぶんやらされたもんですよ」
 「今はもう呼び方もずいぶんハイカラになっていますな。確か、オ、オ」
 「オナニー」
 「そうそう。時代も変われば変わるもんですよ。あの頃は思想の自由も個人の人格も認められず、ただ配給される粗末なおかずで国家のためにせんずることをだけを教育された多くの若者の精子がむなしく空へと散っていった……」
 「今はもう呼び方もずいぶんハイカラになっていますな。確か、ス、ス」
 「スペルマ」
 「そうそう。あの頃はただ気持ちよくせんずりすることがどれほど難しかったか」
 「配給されるおかずが本当に貧弱でしたからな」
 「明らかに50は越えているだろうモンペ姿の農家の婦女が畑で家畜牛と交接するブルーフィルムとかねえ」
 「今のように天然色ではなかったですし、音声もついていなかった」
 「大衆劇場に行くと男の弁士が映像に声を当ててくれるんですが、野郎の悶える声を聞いても萎えるばかりでねえ。いっこうに勃起しない」
 「えっ、そうですか。私はすごく興奮したけどなぁ」
 「なつかしいですなぁ。しかし教育次官、なぜこのような昔の映像を我々に…それも緊急会議までして」
 「(体をふるわせながら)む、昔ではない。こ、これは現実なのだ」
 「ひとつ 塾生は自慰をつくすべし!! ひとつ 塾生は睾丸を尚ぶべし!! ひとつ 塾生は幼女の胸でするべし!!」
 「(裸の黒人男性が鶏の直腸を突き刺したチンポの接合部を誇示しながらカメラ目線の白い歯のこぼれる笑顔で写っているパッケージのビデオを取り出しつつ)だれんだ、これは!? 昨日貴様らの寮の巡検で見つけたもんだ」
 「あっ。あれは僕の秘蔵の…」
 「当塾では16歳未満の少女以外でのせんずりを厳禁しておる。覚えのあるヤツぁ前に出ろ。こんな男色なモンおかずに使って男闘呼塾男子がつとまると思っておるのか!!」
 「おれだよ」
 「も、桃尻娘。あ、あれは……俺の……」
 「フフフ、気にすんな…そいつは俺んだぜ」
 「男闘呼塾一号生筆頭桃尻娘か。いい度胸だ。…てめえら一号チンポは入塾一ヶ月になろうってのにまだこの塾がどういうところだかわかってねえらしい…てめえの場合は特にな、桃尻娘」
 「ああ」
 「よって今日は男闘呼塾名物せんずり行軍を行う」
 「ざわざわ」「せんずり行軍…!?」「なんか悪い予感がするのう」
 「フフフ、単純単純。ただせんずりすればええんじゃ(あおむけに寝転がりチンポを真上にひっぱりあげて、手を離す。右利きのものがしばしばそうであるようにわずかに左に湾曲したチンポは――いかなる物理法則に従ってチンポが左に湾曲してしまうかについてわからない婦女子にはお兄さんが直接指導してあげます――北北東を指し示す)よし、進路は北北東じゃーっ!! 官憲につかまっても男闘呼塾の名前だけは絶対にゲロすんじゃねえぞ!!」
 「しゅっしゅっしゅっしゅっ」
 「しゅっしゅっしゅっしゅっ」
 「(先の割れた竹刀で塾生の背中を打ちつけながら)もっと手首のスナップをきかせんかーっ!!」
 「押忍ッ、教官殿。自分の目前にたるんだ靴下を装着した(この靴下のたるみが彼女らの身体のどの部位のたるみを暗喩するのかは時事問題に詳しい読者諸賢にはすでに言わずもがなの既知事項ですよね?)チンポみたいに浅黒い推定16歳以上の婦女子がおりますが、これではせんずりできませんがいかがしたらよろしいんでありますか!!」
 「ワッハハ。てめえの耳はどこについておる。せんずり、せんずりあるのみじゃーっ!!」
 「なるほどね……おれが行くぜ」
 「ああっ。見るも見事な50センチ大砲を装備した桃尻娘が、隆々と雲突くほどに勃起したそれを右手で無造作にひっつかんでせんずり行軍を再開したぞ」
 「あんな最悪のおかずを目の前にしていっこうに衰える気配が無いとは…フッ、どうやら俺たちはとんでもない男を大将に持ってしまったようだぜ」
 「しゅっしゅっしゅっしゅっ」
 「あっ。今度は退社後は光に集まる性質の蛾やそういった虫類のように外人のチンポに積極的に群がる、自己存在に対して種保存のためにより強いオスへといった程度の論理的客観性をしか持てない、人間である必要性の薄い一部ビジネスギャルのみなさまだ」
 「しゅっしゅっしゅっしゅっ」
 「あっ。今度は冬の大気に全身から白い湯気をあげる、一般的に言って大学卒学歴保持者に比べて実際的賃金や生活保障や社会的地位という資本主義社会内だけで有効ないつ崩れるかわからない曖昧で不確かな概念上においてだけ低い扱いを受ける傾向の強い肉体労働従事者のクマのような筋肉と手入れの行き届いていない密集した脇毛だ」
 「ちゅっちゅっちゅっちゅっ」
 「あっ。桃尻娘のする反復運動に湿った音が混じりはじめました。これは男性本能の一時的達成が近いことを我々に告げています」
 「ちゅっちゅっちゅっちゅっ」
 「あっ。今度はモグラが食物を食べ続けないと死んでしまうように、光線を顔面に当て続けないと死んでしまうという奇病の持ち主であるところの鈴木その子さんだ。追悼申し上げます」
 「しぼ~ん」
 「ああっ。桃尻娘の男性本能の一時的達成を間近にひかえていたはずの50センチ大砲がみるみるしぼんでいく…!!」
 「桃尻娘、桃尻娘~っ!」

猊下といっしょ

 「あれっ。もしかして自分、セルフィとちゃいまんねん?」
 「いやぁ、嘘みたいでんがな。こんなとこでふつう会いまんねんやろか」
 「ほんま奇遇やがな。最近もうかりまっか。立ち話もなんでっからとりあえず近くで茶でも飲みまんねん」
 「すんまへんやけど、いまツレといっしょでんがな」
 「さよか。そりゃ残念でおまんがな。どの人だす」
 「あそこに二人立ってるやんね。あれがウチのツレやんね。右のチンポみたいな真っ黒まんねん金髪まんねんがスコール言いまんがな。左の裸女まんねん痴女まんねん太股まんねんスリットまんねんがリノア言うでんがな」
 「いやでおますなぁ。ほんま、あいかわらずセルフィはおもしろおまんがな。いつまでも変わらへんのは自分ぐらいのもんやで、きみ。ほんまウチは嬉しだすわ」
 「また自分そんな上手ゆうて。ほな、ウチもう行くやんね。また会いまんねん」
 「もちろんやがな、きみ。また電話するやんな。トラビア魂は永久に不滅でんがなまんがな」
 「あっ。小鳥猊下が女学生の無意識に発する『おまん』という単語につぼいのりオがそれを発語するときと同程度の隠喩を感じて顔を赤らめながら、いつでも自前の恋の矢をするどく突き出せるように若干腰を引き気味に、袖口に名前は知らない、ソーメン状の飾りをつけ、乳首と局部を丸くくりぬいた全身にぴったりするラバースーツで御出座なされたぞ」
 「猊下くん、猊下くぅん。愛してるぅ。こっち向いてぇ」
 「こら、沙夜香。そんなふうにしたら、猊下がお困りになるだろう」
 「だってぇ」
 「心配しなくても神話的な存在である我らが猊下は、あそこにああして見えるのは私たちに次元をあわせてくれているだけで、実際のところこの大宇宙にあまねく普遍在し、沙夜香や他の婦女子たちの日々する衣類の着脱や排泄や入浴や動物的欲求の発散をいつも舐めまわすように隅々まで閲覧しておられるのだ。だから、我慢しなさい」
 「うん…わかったわ…寂しいけど」
 「いい子だね、沙夜香。猊下の御身体は誰か一人の婦女子のものではないのだから。その御姿を拝謁できるだけで畏れおおいことなんだよ」
 「嘘の関西弁を…」
 「しゃべるなぁッ!」
 「ドキュッ」
 「出たぁッ 小鳥猊下のワイルドパンチッ そのうっすい両肩から繰り出される小鳥猊下のワイルドパンチッッ」
 「きゃああ。セルフィが突然現れた変態性の闖入者に、全体重をのせた拳の内側で思い切り横っツラをはりとばされたやんね。そのインパクトの瞬間に砕けた頬骨が皮膚を突き破って飛び出し、鮮血を周囲にまき散らしたまんねん、不浄な自身の血をいつも見慣れているウチには実のところ何の動揺も無いやんね。ああっ。パンチのあまりの勢いにセルフィの身体が風車みたく宙空で未だ回転を続けているやんね」
 「ビュビュビュビュビュ」
 「あっ。小鳥猊下が回転の巻き起こす風切り音に耳を傾けながら、ちらちらと健康な内股の間からのぞくパンチラに気を取られながら、そのエロ擬音から連想される現実の事象に思いを馳せつつ、初孫の顔を見る老人のように目を細めて野性の充足した男のする有憂の微笑みを顔面に浮かべておられるぞ。もともとが精神体であり、我々が当たり前にやるような、ちんちんを触るていどのことではオスの欲求を処理してしまえない猊下ならではの深遠な、神々しいとも言えるやり方だ。沙夜香、しっかり見ておくんだぞ」
 「うん、パパ」
 「グシャッッ」
 「きゃああ。重量を問わない空中で十二分に加速を得て、地面という凶器に向かって超高速で叩きつけられたセルフィという実存の顔面から地上数メートルにまで到達するほどの血が噴出したでんがな。噴出した血液の量と小鳥猊下の欲望の量は正比例するまんねん、不浄な自身の血をいつも見慣れているウチには実のところ何の動揺も無いやんね」
 「嘘の関西弁を…しゃべるなぁッ!」
 「ドキュッ」
 「出たぁッ 小鳥猊下のワイルドパンチッ そのうっすい両肩から繰り出される小鳥猊下のワイルドパンチッッ」
 「きゃああ。猊下のワイルドパンチを顔面に頂戴した瞬間にウチという実存の意識から天地の区別は吹き飛び、砕けた鼻柱からの多量の出血がウチという実存の視界を真っ赤に染めたまんねん、不浄な自身の血をいつも見慣れているウチには実のところ何の動揺も無いやんね」
 「(両手をもみしぼり瞳をうるませながら)猊下くん、やっぱり愛してる。愛してる…」