猫を起こさないように
雑文「ヴァナ・ディールの癒し」
雑文「ヴァナ・ディールの癒し」

雑文「ヴァナ・ディールの癒し」

 約束通り、連休中にFF11をぼちぼち再開した話するね。シンエヴァへのディスりも途中で入れるから、それが目的の人もガマンして読んでね。FF11熱が高まっているときは、それこそ早朝に畑をいじってドメイン参加してから出勤、帰宅後はオーメン詰みやウナギ漁を就寝前に粛々とこなしたり、それこそ毎日必ずログインする勢いなのね。そこから徐々に気持ちが冷めてくると、3日にいっぺんオーメンを1回消化するだけみたいになっていって、最後には心の中の熱いものがすっかり消えて、パタッとログインしなくなっちゃうわけ。このサイクルを数ヶ月から2年弱くらいの周期間隔で繰り返してたんだけど、最近では気持ちが冷めてても週に1度は必ずログインして、昏い森でする1時間ほどの複アカ範囲狩りでシステムから200〜300万ギルくらいのカネを引き出すことは続けてたの。それもこれも、2022年までのサービス継続こそ明言されたものの、FF11はそろそろ看取りの段階に入ってて、いつ病院から呼び出されてもおかしくない終末期の患者の家族みたいな気持ちになってるからなのよ。おちおち長めの旅行も行けないっていうか、他のゲーム(イコール・愛人)に浮気してるうちにサービス終了(イコール・正妻の死)されたら、後悔してもしきれないじゃない? 前回のGWから1年くらいそんな週イチのお見舞いを続けてたら、気がつけば首からかけたガマグチにけっこうな額のギルがたまってるわけ。

 本格的に復帰しようと思った直接のきっかけは何かと問われれば、ずっと私の居場所だったあの真冬の赤い砂浜が、シンエヴァでパリピが乳の大きい女とアオカンする常夏のウェイ系海の家に変えられてしまったことでした。虚構なるこの魂(小鳥猊下)の居場所を永久に失って途方にくれてしまい、同じくらい長いあいだ私を受け入れ続けてくれた北ロンフォールの森に体育座り(/sit)して、包みこむようなストリングスの音を聞きながらメソメソ泣いて(/cry)いたんです。そしたら、エルフのモヤッたナイトが目の前をチョコボで駆けていって、その後ろ姿を見た瞬間、「そうだ、ガマグチの小金でイージスを作ろう」と思い立ったわけなのです。アルマス、イドリス、カラドボルグと作ってきて、レリックに手を出さなかったのは、レベル75時代の記憶から、あれらの武具は真に選ばれた廃人だけが持つことを許されたスペシャルな神器であり、私のような仕事や家庭とオススメを両立できるぐらいのライトプレイヤーが手を出すなんて畏れ多いし、おこがましいと頑なに考えていたからです。前世はヒゲのナイトで、最初のアーティファクト防具をそろえたぐらいでFF11とはいったん縁遠くなってしまいましたが、ネコに転生(同世界転生!)してから青魔導師や暗黒騎士と一夜かぎりの火遊びをいくら繰り広げようと、我が心のジョブはいつまでもナイトであり続けているのです。シンエヴァでズタズタに引き裂かれた心を癒すには、同じくらい長く人生を伴走してくれているヴァナ・ディールでイージスを作る他に方法がないーー部外者の貴方から見て、たぶん少しも理路を感じないでしょうが、この考えは私の胸にストンと落ちました。

 倉庫の底に眠っていた、いつ入手したのかも思い出せないレリックシールドをひっぱりだすと、小金でパンパンになったガマグチを握りしめて、競売へと向かいます。お金が足りるかしらなんて、ひさしぶりにドキドキしながら必要な素材の値段を調べて、ビックリというか拍子抜けしました。かつて数億ギルは下らなかったイージス作成の要であるランペール金貨が、いまや1500万ギルくらいで買えてしまうのです。いや、重要なのは値段の下落ではありません。当時の希少性を伝えるために、長めの補足をしておきましょう。ランペール金貨というのは、オルデール銅貨10000枚との交換で手に入るアイテムです。この銅貨は、裏世界デュナミス(カッコイイ!)でしかドロップしません。かつての裏世界は入場パーティ数に制限があり、マフィアのボスみたいな廃人たちがシンジケートを組み、週末毎にどのパーティがどの順番で入場するかの談合を行なっていました。このシンジケートに入っていないパーティがウッカリ順番抜かしなどしようものなら、2ちゃんねると連動した陰湿な「晒し上げ」で村八分にされて、そのサーバーにはいられなくなってしまうほどでした。デュナミスに入場するためのアイテムは100万ギルぐらいして、基本的にそれを最大18人の参加者で頭割りするため、1回あたり5万ギル強を用意する必要がありました。便利なUIなんて二十年来ずっと未実装ですから、1対1のトレードでチマチマ参加費の集金が行われます。パンピーの集合時間は厳守でしたが、マフィアのボスの知り合いなら1時間以上遅れてもおとがめなしだったり、法ではなく人が治める混沌に満ちた鉄火場でした。入場までに集金と戦術確認とボスの友人の到着待ちを含めて軽く2時間、入場後は3時間30分をトイレにも立てず拘束される、文字通りの廃人コンテンツだったのです。制作側は、まともな社会人が6時間も中座不可のゲームをプレイできると思ってたんでしょうか(いや、レベル75時代は思ってたフシがありますねー、ナイスネイチャでーす)! シンジケートによる報酬分配の仕組みーーホームページ(!)を使うーーなども紹介したいのですが、もうすでに話が長くなってるので割愛しましょう。

 無事にデュナミスへ入ったら入ったで、PS2の処理能力では集団戦をまともに描画なんてできず、ラグラグのスローモーションの中、司令官の言うなりに3時間30分、尿意と便意に耐えつつ必死にいち兵卒を演じ続けます。そして終了後に、ドロップのしぶいオルデール銅貨をアライアンス(3パーティ18人)で山分けすることになるのですが、1回の攻略で銅貨2枚が手に入ると仮定しましょうか。毎日開催があり、それに毎回参加できたと仮定して、1年皆勤でも730枚にしかなりません。ランペール金貨が欲しければ、単純計算で15年はデュナミスに通わないといけない計算になります。現実的に考えれば、社会人は週末のみの参加となりましょうから、1ヶ月4週で8枚、1年48週で96枚、まあ盆暮れ正月は休みたいでしょうから、余裕をもって120年ほど見積もっておいていただければ、無事イージスが完成します。1枚で銅貨100枚相当の銀貨などもたまに(たまーに)ドロップするので、ロット運が極上に良ければ、じっさいはもう少し(20年くらい?)繰り上がるとは思います。

 いかがでしたか? かつてのFF11が持っていた途方も無さの片鱗はご理解いただけたでしょうか。「クラナんとか(クラーケンクラブ?)は人生」みたいな言葉がエロゲー界隈にありますが、それは100時間ほどのプレイで人生のイベントを走馬灯のように圧縮して体験できるくらいの意味でしょう。しかし、「FF11は人生」と言うとき、それは現実とまったく同じ縮尺の時間を、現実の生活をまるまる代償にして費やさないと強くなれないという意味なのです。FF14のための実験としてFF11にアイテムレベルを導入し、既存の武器防具すべてをゴミにした狼藉がどれだけひどく廃人プレイヤーを痛めつけるものだったか、ほんのわずかでもご想像いただけるでしょうか。その恨みの深さ、人為的なハイパーインフレによって人生の大半を捧げて集めてきたものがゴミになる瞬間を想像しただけで、マタンキがキュッと収縮する思いです。

 こういった感慨にふけりながらランペール金貨を落札し、他に必要なアイテムを順に集めていくと、まだ強化の余地は残しながらも、わずか半日ほどでイージスが手に入ってしまいました。18人が15年毎日、裏テルでいがみあいながらも、表面上はたがいに呼吸を合わせてプレイを続けないと手に入らなかった文字通りの神器が、いまや私のバッグにソッと収まっているのです。客観的にはどう見えているのかわかりませんが、もしシンエヴァ以外のことを語る気持ちが私によみがえったのだとしたら、それは他でもない、イージスを所有した事実により与えられた癒しのおかげです。

 少し脱線しますけど、レリック武具ってどれも人格を備えていて、前の持ち主がいるんですよね。のちに実装されたミシックやエンピには無い設定で、レリックの特別さをいっそう際立たせています。武具に人格がある作品といえばランス・シリーズを思い出すんですけど、どちらもアイデアの源流はマイケル・ムアコックのエルリック・サーガに違いありません。ファンタジーにおける最強の武器はどれか論争というのは、中二病罹患者にとって大好物かと思いますが、なに、やっぱりそれはエクスカリバーでしょうって? ラグナロクと2刀流で運用したい? シーッ! 興奮すんなよ、オタク! ご忠告さしあげますが、FF4に影響を受けたそんな恥ずかしい感性は、決して公言せずに大学ノートへしたためて、エロゲーを隠れミノに使った伝奇作品の元ネタにしたほうが賢明ですわよ? 思わぬ横ヤリに話がそれたが、最強の武器はストームブリンガー、これ一択、これしかない。エルリック・サーガ6巻の第4章6節はそれこそ全文暗記するほどーー「さらば、友よ! われは汝の千倍も邪悪であった!」ーー何度も読んで文体に影響を受けまくってるし、同巻表紙の天野喜孝氏によるエルリックの憂いに満ちた表情は、まるで彼の遺影のようにも見え、いまでも脳裏に焼きついています。はい、ファンタジーにおける最強武器はストームブリンガーということで、キュー・イー・ディー! 異論はありませんね? あたし、安心したわよおお!

 FF11に話を戻しますが、アルマス、イドリス、カラドボルグ、イージスと作ってきて、そのどれをもほとんどパーティで使用していない事実に気づいたときは、愕然とさせられました。この行動の特性ーー道場で武術を極めながら、いっさい試合には出ないーーは、私のテキストサイト運営にも色濃くあらわれており、最近ではもはや病名を伴う精神疾患なのではないかと疑いはじめています。

 しかしながら、FF11をプレイしていない人が勘違いをするといけないので念のため断っておくと、S級武具を複数所持しているのは、ぜんぜんすごいことなんかではないんです。私の強さはおそらく十年以上プレイしている人の2アカか3アカ目に登録された3番目か4番目の倉庫用キャラぐらいに過ぎません。霊界では測定できない強さの妖怪を便宜上、すべてS級とくくっているだけで、S級の強さはピンキリなのです(わかりにくい例えで、すいません)。FF11のプレイも二十年選手なので、シンエヴァと同じく無限に書ける感じは持ってますが、本当はパンピーだった自分ではなくて、シンジケートのボス側、つまり廃人サイドの人物によるこういう回想録が読みたいんですよ。でも、見回してもだれも書いてないなー。戦争体験みたいなもので、もうみんな死んじゃった(社会的に)か、トラウマで封印された忌まわしい記憶になっちゃってるのかなー。

 イージス強化かんりょーう(アフターグロウから目をそらしながら)。余ったカネでスヴレン装備一式、買ったった。しかも、「妬まれた」ほう。いまの自キャラを例えるなら、50万円の生地で仕立てたスーツを着せられたニートって感じ。しかも、就活はしない。それにしても、呪物はデフレで安くなったね。ぜんぶそろえて3000万ギルしないんだもんなー。え、なんでソロでしか活動しないのに、そんなバカな買い物をしたのかって? いいんだよ! オレにとってのイージスとスヴレンは、交通事故で両親を亡くした女子高生にとってのスーパーカブみたいなもんなんだよ! 守りの指輪をレンチで薬指へ締めつけてから、少し遠いカメラで自キャラを眺めて、自然と口元がニヤけるみたいな楽しみ方をしてんだよ! はー、スヴレン頭はネコミミみたいな形状で、ミスラとすっごくあうなー(ゆるんだタレ目で)。

ゲーム「FF11の思い出」その1
ゲーム「FF11の思い出」その2
ゲーム「FF11の思い出」その3
ゲーム「FF11の思い出」その4
ゲーム「FF11の思い出」その5
ゲーム「FF11の思い出」その6
ゲーム「FF11の思い出」その7
ゲーム「FF11の思い出」雑文集
雑文「私とカラドボルグ(FF11とはずがたり)」