「さあ、いよいよ残り時間も2分を切りました。オールアメリカ大学選抜対東大のせんずり試合も14対14の同点! 東大の攻撃は直腸前立腺まで残り10cmといったところ。三年前までひ弱なボウヤだった東大せんずりチームが突然強くなり、関東大学せんずりリーグで優勝し、今またこうしてオールアメリカ大学選抜チームと互角にせんずれるのも……」
「クォーターバットの片丘君と、アヌスマンの立花君の、二人の力によるものです!!」
「さぁ、左手にボールを握り込んだ片丘の直腸に、立花がじりっじりっとものさしの挿入を続けます。ここは慎重にいかなければいけませんね、佐上原さん」
「ええ、男性本能の一時的達成が近いからといってここであわててはいけませんよ」
「オールアメリカ、胸の筋肉を小刻みに動かし、そり残しの脇毛をちらつかせ、必死のディフェンスを試みます」
「ここらへんのやり方はさすがですね。凡百のチームだったらこのまま男性本能の一時的達成へかけあがらせてしまうところです。私たちの頃のアメリカチームと言えば、すさまじい肉食のパワーだけで押し切ってしまう、裏返せば守りの弱いチームだったんですが…」
「片丘、その攻撃を目線だけで巧みにかわします。直腸前立腺まで残り7cm」
「こういったテクニカルな部分ではやはり日本に一日の長があります。相手の執拗なディフェンスをかわすために並の選手はつい顔ごとそむけてしまいがちなんですが、それだとディフェンス側に次の防御のためのいらぬ情報を与えてしまう」
「なるほど。片丘の角度が次第に上昇してきました。業を煮やしたオールアメリカはついに威信をかけて下半身の露出を開始しました。しかしこれは下手すると反則をとられて、東大チームの勝利を一気に確定させてしまう恐れがありますが、佐上原さん?」
「残り時間が一分を切っていますからね。彼らも必死です。私があそこで、いや、あそこに立っていてもそうするでしょう。しかし、(ハンカチで額の汗をぬぐいながら)なんて緊迫感だ。私はここ十年でオールアメリカにブリーフまで脱がせたチームというのは知りませんよ」
「残り時間は30秒を切りました。立花、ものさしを握る手を入れ替えてにじむ汗をぬぐいます。ああっ。オールアメリカ、バットを上下に揺さぶり下腹部に打ち当てることでパチパチと音を鳴らし始めました。こ、これはどういう…」
「(蒼白な顔面で)恐ろしい…なんていうディフェンスだ。視覚的ディフェンスならば顔の角度や目線でまだ逃げようがある…だが、今オールアメリカがやっているような聴覚的ディフェンスは右手にバットを、左手にボールを握り両手のふさがっているオフェンス側には回避する手段がまったく存在しない。思い出しました。これは二十年前オッペンハイマー博士が提唱した戦法だ。その当時世界でだれも実践に移せる者はいなかったという話です。こんな教科書にしか見れないような高度なテクニックを身につけているだなんて、今年のオールアメリカは米せんずり史上最強だと言っても過言ではありませんよ」
「ええ、ええ。しかし、そのオールアメリカと互角に渡りあっている東大チームも間違いなく日本せんずり史上最強を冠するに値すると言えるでしょう」
「その通りです」
「片丘、苦しそうだ。片丘の恋女房立花が片丘のひきしまった尻えくぼを撫でまわして勇気づけます。直腸前立腺まで残り3cm」
「立花も辛いでしょう。せんずりは本当に孤独な作業ですから。誰かが手を貸してやることはできない、誰も助けてやれないんです。そしてその孤独を超克した人間こそが真のせんずり行者と言えるのです」
「(涙ぐんだ声で)なんという感動的な光景でありましょう。忌まれ、さげすまするせんずりがなんという高い精神性をもってここ国立競技場のグラウンドに展開されていることか。この光景は現在地球をとりまく衛生網でもって世界中へリアルタイムに発信されています。観客は二重の意味で総立ちです」
「わああっ、わああっ」「がんばれ、東大」「せんずり帝國日本の御名を今こそ取り戻すんだ」
「お聞き下さい、この歓声。この試合はもはや一せんずりゲームという枠を越えて、戦後日本の歩んできた道の可否を象徴する高みにまで登りつめているのです!!」
「ぎらり」「ぎらり」
「歓声にオールアメリカのするディフェンス音が一瞬かき消された隙をぬって、立花一気に突き上げた~っ!!」
「ああっ。あれは実戦せんずりの創始者・御古神慰兵衛が極めたと言われる直腸蠕動感知挿入式…!! まさか、一大学生に過ぎない立花君があの技を……!!」
「片丘の鍛え上げられた腹の筋肉が収縮する!! ほとばしる欲望!! 達成です、男性本能の一時的達成の達成です!!」
「ピピィ~ッ」
「試合終了! 丁度このとき試合終了です! 14対15、東大みごとに全米大学せんずりチームに勝ちました! 日本せんずり界初の壮挙をなしとげました!」
「(泣きながら)すばらしい、すばらしい。私はこの試合に解説者として立ち会えたことを神に感謝したい」
「立花と片丘、この二人のすごい男は万年ドン尻の東大せんずりチームをついに世界のトップレベルに押し上げたのです!! そしてこれは同時にせんずり帝國日本の歴史的な勝利でもあります!!」
「わああっ、わああっ」
年: 1999年
魁!男闘呼塾
「目標前方500メートル!! 総員チンポかまえーっ!!」
「せんずれい貴様ら!! せんずって貴様らのいただいた御種を祖国にお返しするのじゃー!!」
「せんずりーっ!!」
「ほぉ。なつかしい」
「せんずり訓練ですか」
「ふふふ、私も戦時中はずいぶんやらされたもんですよ」
「今はもう呼び方もずいぶんハイカラになっていますな。確か、オ、オ」
「オナニー」
「そうそう。時代も変われば変わるもんですよ。あの頃は思想の自由も個人の人格も認められず、ただ配給される粗末なおかずで国家のためにせんずることをだけを教育された多くの若者の精子がむなしく空へと散っていった……」
「今はもう呼び方もずいぶんハイカラになっていますな。確か、ス、ス」
「スペルマ」
「そうそう。あの頃はただ気持ちよくせんずりすることがどれほど難しかったか」
「配給されるおかずが本当に貧弱でしたからな」
「明らかに50は越えているだろうモンペ姿の農家の婦女が畑で家畜牛と交接するブルーフィルムとかねえ」
「今のように天然色ではなかったですし、音声もついていなかった」
「大衆劇場に行くと男の弁士が映像に声を当ててくれるんですが、野郎の悶える声を聞いても萎えるばかりでねえ。いっこうに勃起しない」
「えっ、そうですか。私はすごく興奮したけどなぁ」
「なつかしいですなぁ。しかし教育次官、なぜこのような昔の映像を我々に…それも緊急会議までして」
「(体をふるわせながら)む、昔ではない。こ、これは現実なのだ」
「ひとつ 塾生は自慰をつくすべし!! ひとつ 塾生は睾丸を尚ぶべし!! ひとつ 塾生は幼女の胸でするべし!!」
「(裸の黒人男性が鶏の直腸を突き刺したチンポの接合部を誇示しながらカメラ目線の白い歯のこぼれる笑顔で写っているパッケージのビデオを取り出しつつ)だれんだ、これは!? 昨日貴様らの寮の巡検で見つけたもんだ」
「あっ。あれは僕の秘蔵の…」
「当塾では16歳未満の少女以外でのせんずりを厳禁しておる。覚えのあるヤツぁ前に出ろ。こんな男色なモンおかずに使って男闘呼塾男子がつとまると思っておるのか!!」
「おれだよ」
「も、桃尻娘。あ、あれは……俺の……」
「フフフ、気にすんな…そいつは俺んだぜ」
「男闘呼塾一号生筆頭桃尻娘か。いい度胸だ。…てめえら一号チンポは入塾一ヶ月になろうってのにまだこの塾がどういうところだかわかってねえらしい…てめえの場合は特にな、桃尻娘」
「ああ」
「よって今日は男闘呼塾名物せんずり行軍を行う」
「ざわざわ」「せんずり行軍…!?」「なんか悪い予感がするのう」
「フフフ、単純単純。ただせんずりすればええんじゃ(あおむけに寝転がりチンポを真上にひっぱりあげて、手を離す。右利きのものがしばしばそうであるようにわずかに左に湾曲したチンポは――いかなる物理法則に従ってチンポが左に湾曲してしまうかについてわからない婦女子にはお兄さんが直接指導してあげます――北北東を指し示す)よし、進路は北北東じゃーっ!! 官憲につかまっても男闘呼塾の名前だけは絶対にゲロすんじゃねえぞ!!」
「しゅっしゅっしゅっしゅっ」
「しゅっしゅっしゅっしゅっ」
「(先の割れた竹刀で塾生の背中を打ちつけながら)もっと手首のスナップをきかせんかーっ!!」
「押忍ッ、教官殿。自分の目前にたるんだ靴下を装着した(この靴下のたるみが彼女らの身体のどの部位のたるみを暗喩するのかは時事問題に詳しい読者諸賢にはすでに言わずもがなの既知事項ですよね?)チンポみたいに浅黒い推定16歳以上の婦女子がおりますが、これではせんずりできませんがいかがしたらよろしいんでありますか!!」
「ワッハハ。てめえの耳はどこについておる。せんずり、せんずりあるのみじゃーっ!!」
「なるほどね……おれが行くぜ」
「ああっ。見るも見事な50センチ大砲を装備した桃尻娘が、隆々と雲突くほどに勃起したそれを右手で無造作にひっつかんでせんずり行軍を再開したぞ」
「あんな最悪のおかずを目の前にしていっこうに衰える気配が無いとは…フッ、どうやら俺たちはとんでもない男を大将に持ってしまったようだぜ」
「しゅっしゅっしゅっしゅっ」
「あっ。今度は退社後は光に集まる性質の蛾やそういった虫類のように外人のチンポに積極的に群がる、自己存在に対して種保存のためにより強いオスへといった程度の論理的客観性をしか持てない、人間である必要性の薄い一部ビジネスギャルのみなさまだ」
「しゅっしゅっしゅっしゅっ」
「あっ。今度は冬の大気に全身から白い湯気をあげる、一般的に言って大学卒学歴保持者に比べて実際的賃金や生活保障や社会的地位という資本主義社会内だけで有効ないつ崩れるかわからない曖昧で不確かな概念上においてだけ低い扱いを受ける傾向の強い肉体労働従事者のクマのような筋肉と手入れの行き届いていない密集した脇毛だ」
「ちゅっちゅっちゅっちゅっ」
「あっ。桃尻娘のする反復運動に湿った音が混じりはじめました。これは男性本能の一時的達成が近いことを我々に告げています」
「ちゅっちゅっちゅっちゅっ」
「あっ。今度はモグラが食物を食べ続けないと死んでしまうように、光線を顔面に当て続けないと死んでしまうという奇病の持ち主であるところの鈴木その子さんだ。追悼申し上げます」
「しぼ~ん」
「ああっ。桃尻娘の男性本能の一時的達成を間近にひかえていたはずの50センチ大砲がみるみるしぼんでいく…!!」
「桃尻娘、桃尻娘~っ!」
猊下といっしょ
「あれっ。もしかして自分、セルフィとちゃいまんねん?」
「いやぁ、嘘みたいでんがな。こんなとこでふつう会いまんねんやろか」
「ほんま奇遇やがな。最近もうかりまっか。立ち話もなんでっからとりあえず近くで茶でも飲みまんねん」
「すんまへんやけど、いまツレといっしょでんがな」
「さよか。そりゃ残念でおまんがな。どの人だす」
「あそこに二人立ってるやんね。あれがウチのツレやんね。右のチンポみたいな真っ黒まんねん金髪まんねんがスコール言いまんがな。左の裸女まんねん痴女まんねん太股まんねんスリットまんねんがリノア言うでんがな」
「いやでおますなぁ。ほんま、あいかわらずセルフィはおもしろおまんがな。いつまでも変わらへんのは自分ぐらいのもんやで、きみ。ほんまウチは嬉しだすわ」
「また自分そんな上手ゆうて。ほな、ウチもう行くやんね。また会いまんねん」
「もちろんやがな、きみ。また電話するやんな。トラビア魂は永久に不滅でんがなまんがな」
「あっ。小鳥猊下が女学生の無意識に発する『おまん』という単語につぼいのりオがそれを発語するときと同程度の隠喩を感じて顔を赤らめながら、いつでも自前の恋の矢をするどく突き出せるように若干腰を引き気味に、袖口に名前は知らない、ソーメン状の飾りをつけ、乳首と局部を丸くくりぬいた全身にぴったりするラバースーツで御出座なされたぞ」
「猊下くん、猊下くぅん。愛してるぅ。こっち向いてぇ」
「こら、沙夜香。そんなふうにしたら、猊下がお困りになるだろう」
「だってぇ」
「心配しなくても神話的な存在である我らが猊下は、あそこにああして見えるのは私たちに次元をあわせてくれているだけで、実際のところこの大宇宙にあまねく普遍在し、沙夜香や他の婦女子たちの日々する衣類の着脱や排泄や入浴や動物的欲求の発散をいつも舐めまわすように隅々まで閲覧しておられるのだ。だから、我慢しなさい」
「うん…わかったわ…寂しいけど」
「いい子だね、沙夜香。猊下の御身体は誰か一人の婦女子のものではないのだから。その御姿を拝謁できるだけで畏れおおいことなんだよ」
「嘘の関西弁を…」
「しゃべるなぁッ!」
「ドキュッ」
「出たぁッ 小鳥猊下のワイルドパンチッ そのうっすい両肩から繰り出される小鳥猊下のワイルドパンチッッ」
「きゃああ。セルフィが突然現れた変態性の闖入者に、全体重をのせた拳の内側で思い切り横っツラをはりとばされたやんね。そのインパクトの瞬間に砕けた頬骨が皮膚を突き破って飛び出し、鮮血を周囲にまき散らしたまんねん、不浄な自身の血をいつも見慣れているウチには実のところ何の動揺も無いやんね。ああっ。パンチのあまりの勢いにセルフィの身体が風車みたく宙空で未だ回転を続けているやんね」
「ビュビュビュビュビュ」
「あっ。小鳥猊下が回転の巻き起こす風切り音に耳を傾けながら、ちらちらと健康な内股の間からのぞくパンチラに気を取られながら、そのエロ擬音から連想される現実の事象に思いを馳せつつ、初孫の顔を見る老人のように目を細めて野性の充足した男のする有憂の微笑みを顔面に浮かべておられるぞ。もともとが精神体であり、我々が当たり前にやるような、ちんちんを触るていどのことではオスの欲求を処理してしまえない猊下ならではの深遠な、神々しいとも言えるやり方だ。沙夜香、しっかり見ておくんだぞ」
「うん、パパ」
「グシャッッ」
「きゃああ。重量を問わない空中で十二分に加速を得て、地面という凶器に向かって超高速で叩きつけられたセルフィという実存の顔面から地上数メートルにまで到達するほどの血が噴出したでんがな。噴出した血液の量と小鳥猊下の欲望の量は正比例するまんねん、不浄な自身の血をいつも見慣れているウチには実のところ何の動揺も無いやんね」
「嘘の関西弁を…しゃべるなぁッ!」
「ドキュッ」
「出たぁッ 小鳥猊下のワイルドパンチッ そのうっすい両肩から繰り出される小鳥猊下のワイルドパンチッッ」
「きゃああ。猊下のワイルドパンチを顔面に頂戴した瞬間にウチという実存の意識から天地の区別は吹き飛び、砕けた鼻柱からの多量の出血がウチという実存の視界を真っ赤に染めたまんねん、不浄な自身の血をいつも見慣れているウチには実のところ何の動揺も無いやんね」
「(両手をもみしぼり瞳をうるませながら)猊下くん、やっぱり愛してる。愛してる…」
風の歌を聴け
「おや。(弾丸の装填されていない銃をぶらさげた男の満ち足りた穏やかな表情で煙草をもみ消しながら)もうこんな時間だ。みんな一週間元気だったかな。こちらはラジオ宮城、D.J.FOODがお送りする”KAWL 4 U”。これからの二時間、素敵な音楽と僕の洒落たトークをたっぷりと楽しんでくれると嬉しい。全国には春の気配を感じはじめた人もいるだろうけど、東北はまだ少女の純潔を暗喩する深い雪の中さ。
今日はレコードをかける前に君たちからもらった一通の手紙を紹介する。読んでみる。こんな内容だ。
『お元気ですか?
毎週楽しみにこの番組を聞いています。私の入院生活も早いもので三年目になります。毎年この時期は、窓に写る風景も新しい生命の息吹を感じさせて、沈みがちな私の気持ちもうきうきと浮き立ちます。もっとも空調のきいた病室から何の現実的な連絡も持たない世界を傍観者として眺める私には、まったく意味の無いことかも知れませんけれど。
お医者様(青髭の素敵なホモセクシャルです)が言うには、私の身体は進行性の二次元コンプレックスに侵されているのだそうです。ひどく厄介な病気なのですが、もちろん回復の可能性はあります。といっても、0,000000002%ばかりだけど……。お医者様の言葉をかりるならば、それはエヴァ初号機を起動させるよりは簡単だけれど、ネットから足を洗うよりは少し難しい程度のものなのだそうです。
毎日毎日気の滅入るような、実際的な効果があるのかどうかわからないリハビリを続けています。昨日は大柄な白人の女性と黒い山羊が野原で交接しているビデオを八時間ぶっ通しで見せられました。その日のリハビリが終わる頃には、私自身の吐瀉物で床はいっぱいになっていました。お医者様は日々の積み重ねが大事なんだよとおっしゃいますが、このまま完治する見込みのない病気をひきずって何十年も、リカちゃんの髪型が変わったことにも気がつけないまま、一人病室で誰にも愛されず年老いていくのかと思うと、叫びだしたくなるほど怖い。
夜中の3時頃に目が覚めると、ときどき自分の金玉からOA機器の発する電磁波の影響で精子が消滅していく音が聞こえるような気がします。そして実際そのとおりなのかもしれません。しかし一方でこれこそが、生身の人間を愛せないという最悪の罪に与えられる相応の罰であるという、奇妙に納得する気持ちもあります。私たちの上に訪れる滅びは、突然の空からの隕石などによる大騒ぎではなくて、このようなじわじわと迫り来る、気がついたときにはもう誰にもどうしようもなくなっているような、静かなものなのかもしれません。
病院の窓からは私立の女子中学校が見えます。こんな場所から男に見られているという意識もなく、グラウンドで繰り広げられる痴態を眺めながら、この牢獄のような病室から這い出していって、彼女らのブルマァの芳醇な香りを胸いっぱいに吸い込むことができたら……と想像します。もし、たった一度でもそうすることができたとしたら、何故世の中がこんなふうに成り立っているのかわかるかもしれない。そしてほんの少しでもそれが理解できたとしたら、リカちゃんの髪型が変わったことに気がつかないまま、ベッドの上で一生を終えたとしても耐えることができるかもしれない。
さよなら。お元気で。……えっ。病名追加ですか。ははぁ、進行性のロリータコンプレックス。ちくしょう。』
名前は書いてない。
僕がこの手紙を受け取ったのは今日の午後3時頃だった。短くなった煙草を親指と人差し指でつまんで吸い終えると、雪の上にできた赤いシミにおおいかぶさるようにむせび泣く少女に万札を三枚放り投げてから、さくさくと民家の二階にまで及ぶほどに積もった雪の上をかんじきで歩いた。しばらく歩くと、小学校にあがるかそこらくらいだろうか、数人の幼女たちが嬌声をあげながら、寒さで頬を真っ赤にして雪合戦にうち興じているのに出会った。僕は二本目の煙草に火をつけると、路傍の石に腰掛けてその様子を見るともなしにぼんやりと眺めていたんだ。そうしているとね、急に涙が出てきた。泣いたのは本当に久しぶりだった。でもね、いいかい、君に同情して泣いたわけじゃないんだ。僕の言いたいのはこういうことなんだ。一度しか言わないからよく聞いておくれよ。
僕は・あなたたちおたくが・大嫌いだ。
あと10年も経って、このホームページや僕の言及したアニメ作品や、そして僕のことをまだ覚えていてくれたら、僕の今言ったことも思い出してくれ。
彼のリクエストをかける。Rookyの『ねっ』。この曲が終わったらあと1時間50分。またいつもみたいな犬の漫才師にもどる。
ご静聴ありがとう。」
委員長金子由香
「どうしたんだい、委員長。急にトイレなんかに呼び出して」
「ねえ、田口君…水は好き?」
「はは、唐突だな。うん、好きだよ。ほら、ぼくって重度の童女趣味だろ。初潮前の少女をこよなく愛する、聖書に記された大罪の八つ目(the sin of lolita complex)の悪魔的な背徳の上にいる何の自己再生産性も無い、一個の動物としてその存在が地球にとって無益であるどころかむしろ有害なこのぼくだけど、水の流れる無垢を象徴する命を刻む音に耳を澄ましていると――その水の量は少女の小水と淫水の量に正比例するのだろうって? 何を破廉恥な!――生活時間を削ってまで誰も見ないHPを毎日更新するぼくという実存の内包する自己矛盾を鼻で笑いとばさずに尊重してくれる、暗喩的なピンク色のフリルの大量についた見かけは大仰だが実はたいそう脱がすことの容易な不可思議を具現したような衣服を身にまとった幼女が、眼前の水面に起こったわずかの波紋からぼくを絶望させる冷徹な物理法則をくつがえして出現してくれないだろうか、そして暗示的に濡れた前髪をぬぐおうともせずに挑戦的な小悪魔的な方法で見上げてぼくを誘惑してくれないだろうか、そして最初はそのような強気な様子だったのが少し冷たくあしらうとたちまち不安な雨の日に捨てられた子犬のようなふうになってしまいぼくの学生服の袖をちっちゃな親指と人差し指でつまみながらぼくにぼくの優越を確信させるやり方で顔面の三分の二もあるような巨大な眼球を明示的に濡らしながら哀願してくれないだろうかと夢想するんだ。何か圧倒的な暴力や社会権力という手段でぼくのアルバイト程度の資本主義社会における立場やこの動乱の世紀末に向けて露助ほども役に立たない繊細な自我を動揺させる恐れのないそんな永遠の弱者である者たちの上にする限りなく自己愛的な童女愛は、執行猶予期間内待機者であるところのぼくの身体と魂をこの上なく慰めてくれると思うんだよ。二重の意味でね」
「田口君…」
「ははっ、こんなことを話したのは委員長が初めてだな。それにしても、ああ、臭い(眉をしかめてハンカチを口に当てる)。ここには不潔な血を流す大人の女の臭いが充満しているよ。ぼくはこの辺で失礼していいかな。うわっ。委員長、何をするんだ。やめろ、早まるな。やめろ、やめろぉぉぉぉぉ…ずぼ」
「ざわざわ」
「なんだなんだ」
「二階女子トイレの和式便座の中から毛むくじゃらの足が二本突き出しているのよ」
「きゃっきゃっ。犬神家の一族みたぁい。もっともっとぉ」
「あっ。あのO脚っぷりは顔面もまぁまぁ踏めるし、運動・勉強ともに中の上ではあるのになぜか婦女子を本能的に遠ざけてしまう雰囲気を終始かもしだしている二年F組の田口淳二君ではないか」
「そうよそうよ。あのO脚っぷりは間違いなく同級生の田口淳二君よ。私が休み時間の雑談で女子生徒がよくやるような男子生徒評の最中になにげなく発した『かれってでも小学生とか好きそうよねえ』という一言が女子グループ内に妙に腑に落ちたといったふうな沈黙を引き起こしてしまい、たいそう気まずい思いをした田口淳二君よ」
「ざわざわ」
「田口君、あなたが悪いのよ。あなたが悪いの…」
このHPというかたち ~一万ヒット御礼小鳥猊下講演禄~
「よく官能小説なんかで男性自身って言葉がありますよね。これは要するにチンポを婉曲的に表現する記号なんですが、じゃあ、雑誌に女性自身ってありますよね。あれはつまり…そうなの?」
「あっ。小鳥猊下が国民の中に潜在的に存在する、女性化粧品の容器はすべて男性器のかたちを模して作られていますといった俗説と同程度の信憑性を持ち景気を悪くさせている疑問をおずおずと発話しながら軽快なフットワークを使いながら御出座なされたぞ」
「ああ、なんてエロティックなダンディズムなのかしら。私の女性自身も大洪水よ!」
「ねえ、そうなの?」
「……なわけで破裂しちゃったんですね。おや。今の爆笑どころなのになぁ。え、何? マイク入ってなかったの? ふぅん。あれっ。今日の責任者は女の子なの。へえ。若いねえ。年いくつ? 18。そうでもないか。男性経験はあるのかな。無い? いまどき珍しい娘さんだね。バイトいけないんじゃないの。ほぉ。母親に死なれて病気の父親がひとり。泣かせるねえ。浪花節だねえ。うんうん、あとはこの猊下君がいいようにしてあげるからさ。それじゃ早速だけど捧げさせちゃって。そう、捧げさせるの。二度言わせないでよ。いくら温厚な僕でもいい加減怒るよ。今の世の中貞操なんて邪魔なだけじゃん。いっそ無くしちゃえばこんな時給800円ほどの割にあわないバイトしなくても、もっと効率よく稼げる手段も生まれてくるじゃん。慈悲だねえ! これはまったく今の世の中に無いくらいの御慈悲ですよ。けけけっ。
「……ええっと、何話してたんだっけか。こういうのって計算のない無意識からの抽出が大事なんだよね。あ~ぁ、さっきまでいい調子だったのにムカつくなぁ。ねえ、きょう上山君来てる? あ、来てる。上山君に栄誉ある貫通式のおつとめを果たさせてあげてよ。そう、アニメプリントシャツの口臭とワキガと吃音のひどい、水平方向と垂直方向に同時にチャレンジされている、僕が自分の優越感を満たすために面接で猫背ぎみにこの世の原罪すべてをしょって立つ様子で入ってきたのを見た瞬間に一発採用したあの上山君にだよ。二度言わせないでよ。いくら温厚なぼくでもいい加減怒るよ、ほんとに。今日初めて出会った彼氏彼女の事情ならぬ情事がいったいどのようなものになるのか興味はつきませんよ。いやぁ、つまらないつまらないと不平を言う行き着いた日本人の毎日、あればあるもんですねえ、こんなイベントは。これだから人生あきらめきれませんよ。あ、ちゃんとビデオまわしといてね。講演終わったあとで見るからさ。あの上山君のことだから目が合った瞬間に射精しちゃうんじゃないの。あんな可愛い子だし、他の童貞バイト少年たちがやっかんで路地裏で死ぬまでボコっちゃうかもね。あ、そこまで追いかけてビデオまわしとくんだよ。エンディングは血塗れの上山君にスタッフロールがかぶさってさぁ。作品だねえ! これはまったく今の世の中に無いくらいの作品ですよ。けけけっ。
「……さてこのHPなんですが、みなさんからよく聞く批判にベタ書きでたいへん読みにくいというのがあります。せっかくそれができる方法が存在するのだから、文字の大きさを変えるだとか、文字の色を変えるだとかして、もっと視覚的に受け取りやすくしてみてはどうかというのが彼らの弁なのですね。しかしそれは違うと思う。それは、例えばここ数年のお笑い番組でよくやるような、笑うポイントをわざわざ視聴者に指示して下さる我々の知性と感性に極めて懐疑的な効果音やらテロップやらとまったく同じことをやっている。元の素材が多少おもしろくなくても、そういった付加的な要素で無理矢理に笑わせてやろうと言うわけですね。それらのやり口に似たテキスト加工行為は、書き手の知性に対しても読み手の知性に対してもこの上ない最大級の侮辱であるとぼくは思うわけです。あなたたちはもっとその侮辱に怒らねばなりません。
「顔面を愛人のホステスとの情事の最中にずたずたに切り裂かれたみじめな男性の死体の映像であっても、股間に”禁”のマークを入れ、二回ほども『ぱお~ん』と象の鳴き声をかぶせれば、それはお笑いになるんです。こんな表層的な幻惑にまどわされてはいけません。あなたたちは発信する側が隠そうとしている本質をこそ見抜かねばいけません。例えば、元のテキストが本当のところ少しも面白くない、といったようなね。まァ、私の場合は常に何の秘し隠しもなくチンポ丸出しアヌスおっぴろげですからみなさんは何の心配もありませんけれどね。あっ。婦女子のみなさんは目のやりどころにお困りになるかな。(会場爆笑)
「あ~ぁ、疲れたよ、ほんと。ねえ、どうだった? ちゃんと貫通した? どう、やっぱりあんな黙示録的な顔面の男に貫かれるのは辛そうだった? あっ、だめ。言わないで。こういうのって日活ロマンポルノとおんなじでちゃんとストーリーを追わないと面白くないからさぁ。ちゃんとビデオ撮れてるだろうね。いいとこで切れてたりしたら温厚なぼくでも怒るよ、ほんとに。ああ~ぁ、アワビ喰いてえなぁ、アワビ。店予約してきてよ。ちゃんとビデオも見れるようにセッティングしといてよね。シャワー浴びたらすぐ行くから。
「……うう、寒い。えっ。なんでぼくがやらなかったのかって? 基本的にぼくってインポだしさぁ、それに18なんてトウが立ちすぎてるじゃない。触るのも汚くていやだなぁ。けがれですよ。ああ、それとさっきのやつ見て良かったら売り出すから。小鳥レーベル第一弾として。会社作っといてよ。これであの娘の家庭も救われるってものさ。現物を見たら病気で弱った親父さん、逝っちまうだろうけどね。二重の意味でね。けけけっ。いやぁ、いいことをしてすがすがしい気分だね。それにしても寒いよなぁ。ハイヤーまだ来ないの。渋滞であと二十分かかる? ふぅん。あれっ。今日はおかしな日だなぁ、また女の子じゃない。若いねえ。年いくつ? 15。ふぅん。捧げて。そう、ぼくに捧げるの。こら、待て。待ちなさい。スリット、スリットォォォォォォ!
家族ゲーム
「あれは私が14歳になった誕生日のことだったわ、スコール」
「リノア…」
「お誕生日おめでとう、リノア。とってもきれいですよ」
「あっ。熱いコテでもって両端を天に向けて反らしたカイゼル髭の(反らされた髭が暗示するのは男性生殖器だろうって? 馬鹿な!)見るもいやらしい精神の淫猥さを表出する風情が、娘の私にさえ一匹のメスとして本能的な危機感を抱かせるのに充分な、お父さん」
「今何か隠しましたね? お父さんに見せなさい」
「何も隠してなんかないわよ、何も隠してなんか…あっ」
「ばりり」
「なんですか、これは。乳首を起点として中央からせり出しはじめた、我々健康な成人男性にのちの豊満なバストへの連続性をいやがうえにも実感させる卑猥な、男を誘う青いつぼみ。こんな凶器を薄布一枚の下に隠しもっているなんておまえはまだレジスタンス活動をあきらめていないのですね。こんな危険物はお父さんが没収します」
「きゃうっ」
「精神的には表層の拒絶を表すが、それは見せかけにすぎず、肉体的にはこの上なく欲情していることを暗示する年齢制限ゲーム特有の記号を乳首をひっぱられたのに呼応して無意識に発話するような、そんなモラトリアム青年たちにとってたいへん都合のよいはしたない娘に育てた覚えはお父さんありませんよ」
「お父さん、やめて、やめて…ひぐぅ」
「おお、おお、なんとふしだらな。男にとって自分の襲撃を正当化するに都合のよい記号。裸体であるよりも男の劣情をよりそそる薄い布ッきれ一枚で申し訳程度にその最悪の凶器とも言うべきペドチックな身体を隠し、スカートには健康な張りつめたふとももをもっとも効果的にパンチラ的にちらちらと我々を誘うように定期的に見せる劣情発生装置として恐ろしいような深いスリットが入っています。そのスリットの深さは貴女の自前のスリットの深さを明示しているのに違いありません。お、お父さんに比喩的にではなく直接的に見せてみなさい」
「やだ、やだよぅ」
「この期におよんで蹂躙されることをあらかじめ神によって約束されたようなその語尾。この男にとってたいへん都合のよい抵抗の無さをして、なな何がレジスタンスか。早く見せなさい。おまえはお父さんがつくったのだからお父さんにはそれを図書館司書のように検死官のように冷徹な学者の目でもってなめまわすように閲覧する神にあらかじめ与えられた生得的権利があります。スリット、スリットォォォォォォ!」
「ぬるり」
「あっ」「あっ」
「お父さん、リノア、早く降りてこないと誕生日の鶏の丸焼きが冷めちゃうわよ…あっ。(口を押さえて後ずさりながら)ジャ、ジャンクション」
「おかぁさん、おかぁさん」
「こ、これは違うんです母さん。使わないような場合でもちゃんとジャンクションしておかないと相性とレベルがあがらないんです。そう、それだけのことなんです。あなたが今勝手な想像を膨らましているようなことはちっともないんです」
「嘘、嘘! あなたはそんなことを言う裏で毎戦闘で使っているのに違いないわ。その証拠に今のあなたの能力値は私とジャンクションしたときの数値の150パーセントは優に出ているじゃないの。あなたたち二人はそうやって私をたばかって陰で笑っていたんだわ。もう終わり、終わりね、楽しかった家族ごっこももうおしまいね」
「ぱたぱたぱたぱた」
「あっ。ち、ちくしょう。それもこれもジャンクションシステムがややこしいのが悪いんです」
「おかぁさん、おかぁさん」
「こんな最悪のトラウマを持つ私だもの、誰からも愛されなくて当然よね…(鉄柵に顔を押しつけて泣く)」
「リノア…」
ハンサムな彼女
「 ゆりあ に ちんぽ が 」
泣いている。どんな物事にも動じない、あの気丈な彼女が泣いている。
彼女の目に溜まった涙がぎりぎりまで張りつめ、クリスタルを思わせる透明な青の球となってその頬を転がり落ちる。
ぼくは彼女をなぐさめる言葉をかけることも忘れて、その様子をまるでスクリーンの向こうにあるすばらしい映像ででもあるかのように眺めながら、ただ馬鹿のように呆然と立ちつくしていた。
ぼくはそのときになって初めて、彼女がどんなにそれというそぶりは見せずに、ぼくというどうしようもない男を守ってくれていたかに気がついたのだった。
ぼくと彼女が初めて会ったのは、その年はじめての雪のちらつく、ある寒い日のことだった。
街灯に灯がともり、周囲のサラリーマンたちは冷気に肩をすぼめながら暖かい家と家族のことを思いつつ足早に通り過ぎていく。それぞれが帰る場所を持ち、その頃のぼくは一人で、そうして彼女と出会った。
人波に逆らうように立ちつくし、舞い降りる雪の来し方を追うように空を見上げる彼女は、女性には珍しいほどのたくましい骨格や太い眉などにもかかわらず、そこにいる誰よりも小さく、誰よりも孤独に見えた。
互いにふと目を合わせたぼくと彼女は、しめしあわせたように同じ方向へ歩きだし、その日のうちにセックスをした。震えながら唇を重ねるぼくに、彼女は少し頬を赤らめながら言った。
「 おまえ の くち は くさすぎる じごく いきだな 」
ぼくは恋に落ちた。まるでその言葉がぼくに魔法をかけたように。
ぼくは彼女に夢中になってしまっていた。口数が少なくて、ほとんど思うところを言わない彼女だけど、ほんのときどきハスキーな声で語られるウィットにぼくはしんそこ魅了された。
ある日ぼくたちは昼食をとるために二人で中華屋に入った。掃除のまったくゆきとどいていない店内を見た瞬間からいやな予感はしていたのだけれど、最悪だった。愛想悪く注文を取りにきた身の丈4メートルはゆうにあろうかという老婆が置いた水のコップには、小さなゴキブリの死骸が沈んでおり、店内に流れるBGMは初代ゲゲゲの鬼太郎のオープニングだった。
席を蹴って立ち去るべきかどうか、うろうろと迷うぼくを目で制してから、彼女はそのコップを取り上げると老婆に向かって突き出しながらこう切り出した。
「 ばばあ のんでみろ 」
ぼくは彼女の生き方の誰にも真似できない軽やかな鮮やかさにぞっこん参ってしまっていた。
でも今になって気づく。ぼくは、彼女を至高の偶像のように崇拝はしたけれど、本当の意味で愛してはいなかったことに。彼女はそのことでどんなにか傷ついていただろう。
いつのまにか泣きやんだ彼女は立ち上がると、ぼくの脇を音もなく通り過ぎていった。背後で玄関の開く音と、閉まる音がした。
不思議と涙は出なかった。ただ、極上の映画を見終わった後のような、物語のほうが自分を取り残して去っていったというような、透明な喪失感が胸にことりと落ちた。
彼女が最後にぼくの耳に残した囁きは、もしかすると彼女のぼくに対する愛情だったのかもしれない。すべては、もうせんのない想像に過ぎないけれども。
耳朶に残る彼女の熱い息の感触。こだまする優しい言葉。
「 すまぬ ゆりあ の ちんぽ を 」
島本和彦的クライマックス予告・媾合陛下 THE MOVIE
小鳥プロダクション制作
路上に寝転がる黒人の酔っぱらいがまぶしさに目を開く。
「”Wazzat?”(字幕:なんだ?)」
空から無数の光がニューヨーク市街に舞い降りてくる。
媾合陛下 THE MOVIE 予告編【映倫】
”西暦1999年 突如天空より飛来する無数の天使たち”
エンパイヤステートビルの後ろから背中に羽根を生やした光に包まれた巨人が姿をあらわす。
「”Is he an ANGEL?”(字幕:天使さま?)」
両手を組んで見上げる少女。次の瞬間、巨人の羽ばたきが巻き起こす旋風が林立する無数のビルディングを紙細工のようになぎたおす。少女のマフラーが空を舞う。
”媾合陛下衝撃の最終回から八年 小鳥プロダクションが満を持してお送りする今世紀最後の一大官能ロマン”
不気味に夜空を照らすサーチライト群。首相官邸を取り囲む数台の戦車と無数の武装した兵士たち。
監督・脚本 小鳥満太郎
テロップ「首相官邸内」
「君に私のこの十年の恐怖がわかるか? 歴史からすればそれはほんの取るに足らないわずかな時間に過ぎないのかも知れないが…私は怖かった。私はただ、怖かったんだ」
音楽 猪上源五郎
「あなたは政治家として少々ロマンチストに過ぎるようだ。おい」
「はっ」
「な、何をする。君、わかっているのか、これは日本国に対する明らかな反逆だぞ」
「もちろんですよ、総理。ですが反逆する対象である国家そのものが消滅してしまうとしたら、どうします?」
「き、君たちは、まさか。この、この非国民らめ!」
「これはまた時代がかった恫喝ですな」
特技監督 円谷英二郎
「我々は国家に殉ずるのではないッ! 我々は我々の思想に殉ずるのみであるッ!」
「狂っている…あれは人間の言うことをききとげるような、生やさしい存在じゃないんだ」
「知っています。我々が正しいかどうかはすべて後世の人間たちが決めることですよ。おしゃべりな総理大臣殿にはそろそろ歴史の舞台から退場していただくとしましょうか」
鳴り響く銃声。どさりという鈍い音とともに床に広がる赤いシミ。
”彼らがもたらすのは人類への福音か、それとも”
テロップ「米国ホワイトハウス前」
演壇を、しわぶきの音ひとつたてず取り巻く数万の人々。演壇にあがり愛しげに人々を見渡す大統領。
「国民のみなさん、すべては崩壊しました。我々の信じてきた国家という概念も、建国以来我々の誇り高き精神を支えてきた信念も、最後のよりどころである宗教でさえも、あり得る最悪の形で我々を裏切りました。すべては壊れてしまった。もう何の意味も無いかも知れないが、私に言わせて下さい。これは国民のみなさんに選ばれた国をあずかる大統領としてではなく、一人の個人として言わせて下さい。我々はずっと泣き続けてきました。我々の祖先がこの大地を初めて訪れた昔から、我々の幼い乳飲み子に惨めでない居場所を与えてやるためにインディアンたちの頭蓋をふりあげた岩でもって砕き、恐怖をはりつかせた瞳で生暖かにぬめる彼らの脳漿を浴びたその時から、我々はずっと泣き続けてきました。その涙の意味をここに集まったみなさんには知っておいて欲しい。我々は愚かだったが、罪のない人間たちを殺すほど愚かだったが、それでも我々は生きたかった」
みじろぎひとつしない人々。
”滅びゆく営々と築きあげられてきた人類の歴史たち”
「本日ただいまをもって、アメリカ合衆国の解体を宣言します」
まろびでた老婆が演壇にすがるように泣き出す。
”我らの媾合陛下は襲いくる最強の敵に果たして勝利できるのか”
左腕を光線に吹き飛ばされながら、自由の女神を破砕しつつヴァギナで大天使ののどぶえを噛みちぎる媾合陛下。
「おまえの寄越した使徒たちはすべて殺した! さぁ、姿を見せろ、突然降臨し戯れに人類の歴史を幾度も無に帰してきた機械の神デウス・マキーナ、嘲笑する道化の神よ!」
”人類の原罪とは、我々の生命の真の意味とは”
全身から鮮血をしたたらせ、天空に向かって咆哮するその悪魔的な姿。
「私は人間だ! 私は生命だ! 私は…媾合陛下だ!」
”構想五年 総制作費200億 空前のスケールで展開する媾合陛下最後の戦い”
「クオ・ワディス、ドミネ?(主よ、どこへ行かれるのですか?)」
”あなたは最後に何を見るのか”
媾合陛下 THE MOVIE
COMING SOON…
「(激しいノイズの向こうから聞こえるかすかな囁き)…ラ…ラ…ラヴ…」
ロシアの妖精マリヤ・ポコチンスキー
「飛行機の関係で到着の遅れていたマリヤ・ポコチンスキー嬢がただいま到着なさいました。どうぞ、マリヤさん」
「記者のみなさん、お待たせしちゃってごめんなさい。ただいまご紹介に預かりましたマリヤ・ポコチンスキーです。よろしくお願いします」
「すでにご存じでしょうが、ポコチンスキー嬢は弱冠13歳でシェフチェンコ劇場にてオネーギンのヒロイン役タチヤーナに抜擢された天才バレリーナです。加えて、この春モスクワ大学の博士課程を修了なされた英才でもあります。日本文学を専門に研究しておられ、今回の訪日に際しまして通訳は一切つけておりません。記者のみなさまもご質問は日本語でどうぞとのことです」
「なんや、沢木、ぼ~っとして。ははぁん、さてはおまえあのロシア娘に惚れたな。やめとけやめとけ。三流私大出て、こんなやくたいもない地方新聞の記者やっとるおまえとは人生の格が違いすぎるわ」
「ち、違いますよ、柳谷さん。取材対象としてちょっと興味をそそられただけです」
「若い若い。ええわ、そういうことにしといたろ」
「それでは、みなさまからご質問をお受けしたいと思います。こちらが指名しますので、挙手を願います」
「はいッ!」
「さ、沢木。今日は俺のおともで現場の雰囲気を味わいに来ただけやろうが。はよ手ぇ下げんかい」
「それでは、ええと、浜北新聞社さん?」
「まかせておいて下さいよ、先輩。…ロシアの距離の単位を日本では露里(ろり)と翻訳することもしばしばですが、研究者としてのポコチンスキー嬢はこの事実についてどのようにお考えですか?」
「グロロロロロロロ。くちばしの黄色いのが勢いこんで何を尋ねるかと思えばそんなことか」
「なんだと、無礼な! ううッ、なんだ、この恐ろしいまでのプレッシャーは。ほとんど突風のような妖気が押し寄せて来る・・・うわっ」
「ふふん、若造めが」
「大丈夫か、沢木」
「あいたた…ええ、なんとか」
「命を取られんかっただけでめっけもんや。あれは逢坂新聞の今村征五郎や」
「えっ。あれが今村征五郎ですか」
「この世界で喰うていこ思たらあいつとだけは張り合ったらあかん。22歳で東大法学部を主席卒業した後、各官庁からの誘いをすべて断って逢坂新聞の事件記者になったという経歴だけでもふるってるが、それからのヤツの活躍ぶりはそれに数倍する勢いや。当時ほとんど潰れかけとった逢坂新聞社の売り上げが、ヤツが入社してから一年で数百倍以上に跳ね上がり、いちやく一流新聞社の仲間入りをしたのはあまりにも有名な、ほとんど伝説と化している話やで」
「くそっ。きっとあの3メートルもあるような巨体でライバルを汚いやり方で始末してきたのに決まってるんだ」
「それは違うで、沢木。ヤツの外見にだまされたらあかん。ヤツの一番の武器はその舌鋒の鋭さや。ヤツを前にしたら、どんなに韜晦の強い政治家もタレントも、文字通り丸裸にされてまう。ヤツが記者会見の席で潰してきた哀れな人間たちの数は十や二十じゃとうていきかへんで」
「そ、そんなにすごいやつなんですか」
「ああ。おまえも事件記者を続けたかったあいつには極力関わらんほうがええ…見ろ、今村が質問するで」
「それでは、逢坂新聞さん」
「今村や」「逢坂新聞の今村が質問するで」「鬼の今村が口をあくんや」「みんな、静かにせえ、今村がしゃべりよる」
「しぃん」
「…ときにポコチンスキー嬢は」
「ごくり」
「殿方のポコチンはお好きですかな」
「ざわざわざわざわ」
「(額ににじむ汗をぬぐいながら)どうや、沢木」
「(蒼白な顔面で)おそろしい…悪魔のように完璧な質問です。あの悪魔的な知性に比べたら、かれの外見などとるにたらない小動物みたいな飾りだ。ぼくの質問は、あの寒い国から来たロリータの口からロリという単語を引き出せればと、ただ安直に自分のつまらない知識をひけらかしただけに過ぎない。そうか、そうに決まってる…大衆はあの美しいロシアの妖精が男性のポコチンを好きかどうかをこそ切実に知りたがっているに決まっている。ぼくは今かれが質問して、初めてその隠された、しかし何よりも明らかな事実に気がつくことができました。おそろしい、おそろしい男…今村征五郎」
「あの。あたし」
「ポコチンスキー嬢が今村の質問に答えるぞ」
「ポコチン、嫌いじゃありません」
「おお」
「ポコチン、わりと好きです」
「ああっ。寒い国からやってきた15歳の少女がむくつけき大男から発された質問に先端に球形のひっかかりのついたフロイト的に判断するならばカリ高ポコチンの直喩であるところのふっといマイクをちっちゃなおててでつかんで初冬の雪をおもわせるぬけるような白い肌を薔薇のピンクに紅潮させながらチロチロと愛らしい真っ赤な舌を見せつつたどたどしく回答する様子に記者団は全員前傾姿勢でうずくまってしまいました。怪物今村も例外ではありません」
「カメラ、何してるカメラだ!」
「駄目です、今村さん。みんなテントを張ってしまってそれどころじゃありません」
「くそ、あの様子を写すことができれば部数倍増は間違いないのに!」
「パシャパシャ」
「誰や、あそこでフラッシュをたいとるのは。ここにいる全員が動けへんはずやぞ」
「ああっ。局部をスーツのジッパーからぼろりと露出した沢木記者が望遠レンズを装着したカメラでポコチンスキー嬢を激写しています。それぞれがいったい男性のどの部位とどの行為を暗喩しているのかについてはあえて言及しませんよ」
「チンポがテントを張って動けないなら、チンポを解放してやればいい。単純で明快な理屈さ」
「でかした、沢木。大手柄やで」
「(携帯電話で)あ、俺です。沢木です。今すぐ輪転機を止めて下さい。ええ。今日の夕刊の一面を差し替えるんです。(今村に視線を送りながら)見出しはこうです、『妄想のロリータ、ロシアの妖精はポコチンがお好き』」
「いいんですか、今村さん」
「ふふ、あの若いのなかなかにやりよるで。気に入ったわ。今日のところはゆずるとしようや」
「見てみぃ、沢木、逢坂新聞の連中、ガウォーク状態でご退場やで! ざまぁみさらせ! ひゃっほう!」
「よくやった、マリヤ。あれからCMとグラビアの依頼が殺到しているぞ。これで明日からの公演は大性交、いや、大成功をあらかじめ約束されたようなものだ」
「うん、お父さん。ところでポコチンって何なのかしらね」
「さぁ、クロサワとか、そんな日本の有名人の名前か何かじゃないのか」
「ポコチンっていったい何なのかしらね…」