猫を起こさないように
<span class="vcard">小鳥猊下</span>
小鳥猊下

痴人への愛(1)

「またひとつ消えたわ」
 コーデリアは菜につかう包丁の手をとめると、聞こえぬよう小さなため息をついた。今夜は荒れそうだ。
 エプロンで手をぬぐい、右ひざを抱えたまま無表情で涙を流す女性の脇へ、そっと近づく。
 視線の先には、Not foundと書かれたノートパソコンの画面がある。
「ずいぶんと前から更新なんてなかったじゃないの」
 非難にひびかぬよう注意してささやきながら、コーデリアはその肩を抱き寄せた。子どものように胸元へと倒れこんでくる。
「消えたのよ」
 いつものことだ。どんな言葉をかけようと、彼女が救われることはない。
 コーデリアは黙って、白いものが混じりはじめた長い髪を手櫛にさすってやる。うながされるように、小鳥尻は短い嗚咽をもらした。
 芸名・小鳥尻ゲイカ、本名・小島桂子。数年前に一世を風靡した芸人である。
 しかし、巻きスカートをマントの如くはぎとりながら、肌色タイツの股間に接着した亀の子タワシを見せる芸を覚えている者は多くあるまい。タワシを右手ですりながら言う、「ワタシのタワシ気持ちいーで」は流行語大賞にもノミネートされた。だが、この健忘症的な世の中で一年に満たぬ期間のテレビ出演は、人々の記憶力に対して充分に長いとは言えない。
 当時、コーデリアは小鳥尻の芸を客席から眺める一視聴者に過ぎなかった。熱狂はあったのだ、と思う。彼女が出演する番組のスタジオ観覧を申し込み、外れたときはテレビ局の外で待ちかまえた。他にも無数に芸人はいたのだし、そのうちの誰に同じ熱狂をささげても不思議ではなかったはずなのに。
 司会者が、時事問題などのコメントを小鳥尻に求める。彼女は腕を組んで考えるふりをしたあと、奇声をあげてスカートをはぎとる。「ワタシのタワシ気持ちいーで」を連呼しながら司会者に体当たりをし、観覧席にダイブする。どの辺りに飛び込むかは事前にスタッフから指示があって、観覧者たちは悲鳴をあげながら避けることになっている。床に叩きつけられた小鳥尻が大げさに痛がり転がりまわるのをもって、一連の芸は幕となる。
 あのときのことは、いっしょに観覧席へ座っていた友人が後々まで繰り返し話したものだ。もっとも、携帯電話を捨ててからこちら、すでに何年も音信はない。
「あんた、よけようとしないんだもん。それどころか、両手を広げて受けとめようとしたでしょ」
 痩せぎすの小娘にすぎなかったコーデリアは、ダイブを受け止めきれず、そのまま小鳥尻の下敷きになって左手を骨折し、腰骨にはヒビが入った。
 サングラスにトレンチコートの小鳥尻が、その長身を丸めるようにして病室の入り口に立っていたのを今でも鮮やかに思い出すことができる。小さな花束をぶっきらぼうに片手で突き出すのには、思わず笑ってしまった。
 それが、世間でいうところのなれそめというやつである。
 コーデリアはレズビアンではない。男とか女とかではなく、小鳥尻だからなのだ。しかし、両親も友人も、理解はしなかった。
 この、台所つきの六畳間に越してきて、どのくらい経つのだろう。幸福は夢のように過ぎる。あっというまに過ぎる。苦しみの長さはすでにコーデリアの時間感覚を麻痺させていた。
「みんな私を置いて、行ってしまうのよ」
 この台詞も毎度のお決まりのこと。コーデリアの中ではほとんど様式化してしまっている。しかし、それへ返答をするときは常に新しい創造を求められるのである。
 声をかけようとして、小鳥尻の目じりに刻まれた皺が、前よりも深くよじれるのを見て、コーデリアは全身に鳥肌を生じた。その沈黙は、しかし小鳥尻の精神にとって有効に働いたようである。
「コーデリア、あなただけ。私には、あなただけ」
 小鳥尻の手がエプロンの上からコーデリアの薄い胸をまさぐる。性的な昂揚を求めているわけではない。ただ、肉を感じることで寂しさを消したいのだろう。
 ノートパソコンに映るのは、芸人たちのホームページのひとつである。最近はブログというのだろうか。所属する芸能プロが作成し、人気のあるうちはそれなりにファンとの交流の場に成りえる。しかし、落ち目になるほど更新の頻度は間遠となり、やがて自然消滅的な閉鎖へと至るのだ。
 ひと握りを除けば、長く続けられる業界ではない。才能と時の合致を得た彼らは、やがて自分の番組を持ち、そのメジャー級の選抜の中でさらなる競争に身をやつしていく。膨大な分母から、総当りのリーグ戦を経て、真の勝者となるのはほんのわずかである。
 そして、勝つ見込みの薄いこの業界へ早々に見切りをつけ、全く別の分野に才覚を見出す者も少なくない。だから、芸人のホームページが消えるのは、彼らが現実の中へ居場所を見出したということの裏返しにすぎない。確実なのは、いつまでも残される連中はひとからげに例外なく、何らかの点で欠けている、劣っているということである。
 小鳥尻の芸を他の者たちと分かつ要素があるとすれば、それは思考の奇形性であり行動の奇形性である。深まらず、拘泥しないことが流動性を担保する。人生という変化に対処するとき、それは偉大な戦略である。だが、奇形性ゆえに小鳥尻は小鳥尻であり、奇形性ゆえにその芸が真の意味で大衆に受け入れられることはない。簡単に言えば、下ネタでは天下をとれないのである。
 しかし、それでも――コーデリアは思う。
 王様に対する道化師のように、既存の枠組みをゆさぶることで可視化するという特権を与えられた社会装置が、本来の芸人ではなかったのか。この国の芸人たちはほとんど例外なく、すべて体制の側にいる。彼らの目指す最終的な到達は政治家であるのだから、無理からぬことかもしれない。
 この一点においてだけ、小鳥尻は間違いなく芸人である。コーデリアが彼女に引かれた理由もそこにある。
 一汁一菜の質素な昼食を終えると、小鳥尻はもそもそと寝巻きを脱ぎはじめる。一張羅のスーツに着替えるのを手伝いながら、コーデリアは彼女の豊満な胸にいまなお残る、横に並んだ細いソーセージのような青黒い色素の沈着を痛ましい思いで眺めた。“風船爆弾”の痕跡である。
 “タワシ”が飽きられはじめ、テレビへの出演依頼も減りはじめた頃、小鳥尻が必死に考え出した新しい芸だ。それは、「風船爆弾、風船爆弾」と連呼する相方が、彼女の豊満な胸をパンチングボールよろしく、拳で殴打するというもの。関西の男性芸人からヒントを得たという。最初は上着を脱ぐだけだったのが次第に過激化し、ついにはブラジャーまで外して行うようになった。その相方というのが、何を隠そう退院後のコーデリアである。
 詳しい経緯を語っても仕様があるまい。あらゆるメディアからフェードアウトしてゆくという窮地にいた小鳥尻は、国営放送でこの“風船爆弾”をやらかした。生放送中に、生乳でやらかしたのである。謝罪の記者会見で、平身低頭する事務所の社長を尻目に一言の謝罪も発さないばかりか、コーデリアを含む関係者全員が頭を下げる中、小鳥尻はひとり傲然と胸をそびやかした。社会正義に悪酔いした記者があげる社会性を逸脱した怒号に、事務所のスタッフが無理矢理に小鳥尻の頭を長机へ押さえつけ、ようやく謝罪の形を作った。だが、隣にいたコーデリアには、頭を押さえつけられ鼻血を流しながら、にらみつけるように真上へ視線を向ける小鳥尻が見えた。この瞬間、小娘らしい恋の憧れが、大人の愛情へと変わったのだ。
 玄関先でブーツに足を突っ込みながら、今日はお客さんに呼ばれてるから遅くなる、と小鳥尻が無表情でぼそぼそ言う。舞台の上のハイテンションどころではない、普段の小鳥尻はほとんどしゃべらないし、感情を露にすることさえまれである。コーデリアはできるだけ明るく返事をするよう努めると、アパートの出口までついてゆき、長身の背中が曲がり角の向こうへ見えなくなるまで立ちつくしていた。
 部屋に戻り、玄関の扉が閉まる音を背後に聞く。小鳥尻はいない。当たり前だ。この部屋は、もはやコーデリアにとって何の意味も持たない場所になっていた。小鳥尻がいるからこそ、この空虚な住処がかろうじての避難所として成立する。六畳間をうろうろと周回すると、コーデリアは小鳥尻のいた場所へ呆然と座り込んだ。
 私たちふたりが破滅しない方法はなにか。最近、コーデリアが考えるのはそのことばかりである。
 週に一度もないような、場末のスナックへの営業ぐらいでは、とうてい食いつないでいけるはずがなかった。コーデリアは相当にいかがわしいアルバイトへ手を染めたこともあるが、小鳥尻が部屋にいる間は磁力のように離れられなかったので、食うに充分な稼ぎを安定して得ることはできなかった。
 昨日はついに、母が積み立ててくれていた学資貯金を切り崩した。小鳥尻はそのことを知らない。生活保護のことを相談したときの狂乱を思い出して、恐ろしかったからである。
 小鳥尻はただ自分であることをやめられず、他人の夢の残骸に埋もれたコーデリアは身動きさえ取れずに貴重な若い時間を空費してゆく。地獄。そう呼べる場所があるなら、まさにコーデリアの住所はそこであった。だが、角を生やし赤い肌をした官吏たちは空想にすぎない。人はただ、己の意志において地獄に己を閉じ込めるのである。

センサス at nWo概評


 スーツに身を包んだ女性がヒールをカツカツいわせながら、舞台端の緞帳から現れる。同時に、舞台中央からマイクがせりあがる。
「アクセス数200/1日程度の弱小サイトで、アンケート回答数50を超えなければ閉鎖を行うと宣言した小鳥猊下。その無謀な挑戦も、同一人による複数回答というコロンブスの卵を得、ついに達成の朝を迎えた。胸をなでおろすnWoスタッフ一同、握りつぶされるIPアドレス一覧。気を良くした小鳥猊下はnWo社の次世代マーケティング部門にアンケート結果の分析を依頼する。500ページに及ぶ分厚の分析資料すべてを(顔を赤らめて)か、開陳することはおよそ150人の文盲を含んだ来訪者に対し、あまりに過大な要求にすぎはしまいか。苦悩する小鳥猊下は一晩のうちに分析結果を愉快な漫談形式に書き下ろし、臣下へ下賜することを決められた。おお、いと高き小鳥猊下、我々の膣に生まれた隙間がその御言葉で充填されんことを!」
 一礼すると、ヒールをカツカツいわせながら舞台端の緞帳へ消える。
 舞台の右端と左端からそれぞれ、ワンレンボディコンとしか表現できない時代錯誤の異装をした女性と、重たそうな布地の襞に埋もれた洋装の少女が、前傾姿勢で拍手をしながらマイクへとかけよってくる。
「どもー、小鳥尻ゲイカでーす」
「どもー、名も無き少女でーす」
「オイオイ、きみ。名も無き少女って、それごっつ言いづらいわ。インターネットの匿名掲示板とちゃうねんで、ここ。クオリティ・ホームページやねんで。本名はなんていうねん」
「あの、あたしのこと、コーデリアって呼んでくださらない?」
「ああ、あの表面にうねがある木綿地のことかいな」
「そら、コーデュロイやがな」
「ごめん、ごめん、ボケとったわ。オレゴン州ワシントン群の……」
「コーネリアスや」
「えっ、これもちがうんかいな。わかった、昔のファンタジーRPGにでてきた王様の名前やろ」
「ええ加減にしなさい」
 洋装の少女、背中から金属バットを取り出し、小鳥尻ゲイカの後頭部を強打する。鈍い破砕音とともに白い液体と赤い液体と灰色の固体と眼球が四方へ噴射する。小鳥尻ゲイカ、顔面から舞台へ倒れこみ、尻を高くつきだした姿勢で痙攣をはじめる。洋装の少女の華麗なフォロースルー。2秒で直立の位置にハネ起きる小鳥尻ゲイカ。
「ちょ、じぶん、ツッコミが激しすぎるで。あやうく死ぬところや」
「なにゆうてんの。nWo構成体のウチらはしょせんテキストやから、死ぬのはお客さんの関心が尽きたときだけやがな」
「すっかり忘れとったわ。あんまり見事な筆致で描かれてるさかいなあ。それに、きょうの目的はアンケートの開示や。しょうもないつかみで死んだら、しゃれにもならへんで」
「せや。送られたコメントにふたりで返事してくんや。回答者は10代から30代。40代以上はひとりもおらへん。おたくの世代間断絶が浮き彫りになったかっこうやな。社会的立場は、文系仕事と理系仕事と学生がだいたい等分に入っとる。一方、20代と30代で読者の8割やから、こら計算があわんね。終わらない夏休みがまじっとるな。あと、読者の9割は男性が占めてるのが特徴や」
「あほぬかせ。内気で清楚な女性ほど、尻軽には投票でけへんのじゃ。潜在的にはもっとおるはずやで」
「ゆうとけ。送信日時の古い順に、まきでいくで。まずはこれや。『So it goes.』。うわぁ、異人さんや、ガイジンや。うち、食べられてまう、ご時勢的に」
「よっしゃ、あんたは下がっとき、年齢的に。不登校のなれの果てに海外留学へ逃避し、現地では学位も取らず主にアパートの内側で放蕩を繰り返した、英語に堪能なうちの出番やで。ユー・ファック・アナル・アフター・エレクト、オーケー? あとは塩まいたらしまいや」
「ああ、安心したわ。あんたがおってくれてほんまよかったわ」
「よしてや、そんな、親にもゆわれたことのない……」
「泣かんとって、うちが悪かったわ、泣かんとって」
「ごめんな、ほんまごめん。最近涙もろうなって、年のせいやねん」
「次いくで、しっかりしてや。『誰かが言っていましたが、詩人は救われてはいけないそうです。 たぶんぼくもあなたも、孤独と絶望とだけを道連れに生きていくしかないんでしょう。』。詩人やて。悪い気はせんなあ。自意識をくすぐるのがうまいで」
「この人、少女保護特区リライト版の方が好みって回答してはるねん」
「そんな追跡機能がアンケートに組み込まれてたんかいな。ちょっと見直したわ」
「ちゃうちゃう。アンケート結果のページで更新ボタンを押し続けて、コメントと回答者のつながりを目視確認していっただけや」
「うわー、じぶんそれちょっとひくわ。まるっきりストーカーか、そやなかったら引きこもりやん」
「もうひとり、職業欄にコピーライターて書いた人もリライト版が好きって回答してはるわ」
「なんや見透かされるみたいで、ちょっとドキッとするわ。通常版は“つこたらアカン言葉を選ぶ”更新のやり方で、リライト版は“つかう言葉を選ぶ”更新のやり方をしとるからね。スルドイわ」
「次いくな。『今後どうなってしまうか分かりませんが結末を迎えるまでnWoを見守らせて頂きたく思っております。 猊下、愛しております』」
「ゆうてるけど、みんなの関心が尽きたときが終わりどきやから、今後どうなるかはあんた次第やで」
「次。『ザ・ボイシズ・オブ・ア・ディレッタント・オタクが死ぬほど好きです。 いつか言いたいと思ってました。』」
「ギャグ漫画家は短命って話があるけど、ああゆうブラック系の更新は時間が経つとこっちへはねかえってくるねん。社会と思想と他人を無いようにコケしたら、残った我がを無いようにしない理由が見当たらなくなってまうからな」
「次。『確かにサイトの質と世間の評価(?)は不釣合いと思いますが、 何か変えたりする必要は無いんじゃないでしょうか? 私にはとてもとても面白いです。』」
「鬱のときは我がだけ見て更新できんねんけど、躁のときは気持ちが外むくから、誰かの承認なしにはいられんような感じになるねん」
「次。『萌え画像がんばります』」
「アンケートやっていちばんはげみになったんは、萌え画像を送る予定のある来訪者が5人もおったことやね。これから5枚も萌え画像が届くかと思うと、ワクワクで更新もでけへんわ」
「あんたそれ、矛盾しとんとちゃうか」
「次いけ、次」
「『すばらしい体験をいつもありがとうございます。』」
「どういたしまして。あなたこそ、いつもすばらしい孤独をありがとうございます」
「皮肉がきいとるな。『窮状なのか休場なのか分かりませんが、 私は大好きです。これからも楽しみにしてます。』」
「だれがうまいこと言えゆうた。“更新する、反応がない、落ち込む、更新しない、忘れる、更新する”がnWoの持ってる基本サイクルやからな。うちはわるないで」
「『持たざる者である私には祈ることしかできません。』。職業は、なしで回答してはったと思う」
「きみはとりあえず祈るだけでええわ。なんか積極的に動かれると、当局に押収されたパソコンからきみの愛好していたサイトとしてうちが発見されたりしそうや」
「くわばら、くわばら。『私はテキストサイトが好きなんです。 それをいちいち思い出すから、ここが好き。』」
「好きなのはあくまで“テキストサイト”としか読めないのが傷つくし、ムカつくわー」
「絶滅危惧種への哀れみやろね。『ふと思い出しては、読み返します。 過去に何度か掲示板へ書き込むべきかと思ったことはありましたが、 小鳥猊下の文章に受けた衝撃は簡単に言語化できるようなものではなく、 いい加減で空疎な賞賛の言葉など送りたくありませんでした。 ただ一言、私はnwo程文学的に見事な筆致でもって 「現代」「おたく」を真摯に捉えた文言を、ほかに知りません。』」
「まじめやな。うちもそう思う。そして、なのになぜ……という言葉が続くんや。ほんま、なんでやろ」
「『閉鎖?そんなバナナ・・・・いやいや洒落にならんやろ。』」
「あたりまえが、じつはあたりまえやないことに気づいてや。立っとるだけで人はカロリーを消費すんねんで」
「『小鳥猊下、愛しています。』」
「うちもやで。あんたが女性ならセックスしよう」
「しよう、しよう。『いつもありがとうございます。 『あの頃~の生き方をー、あなたはー忘れないで~』という ユーミンじみた勝手な思いを抱いています。 私にとってはたまに訪れて姿勢を正す場所といいますか。 “窮状”などと思わせてしまい申し訳ありません。 複数回答ができなかったので補足させてください。 パアマンの他には、 怪漢ブレイズ・小鳥の唄・ 生きながら萌えゲーに葬られ・高天原勃津矢 などが大好きです。 「こんな文章が書けたら!」と憧れてプリントアウトして 持ち歩いた時期もありますが、もう諦めました。』」
「怪漢ブレイズに一票も入ってへんかったから、ほっとしたわ。nWoみたいな文章かいても誰にも認められへんし、社会的な場ではいっこ役に立てへんから、あきらめて正解や」
「次。『長い間作品を書いていると好調不調の波が出てくる.それは仕方が無い. 「少女保護特区」は不調の作品であると思う. デキの悪い作品の評判が悪いからといって気落ちする必要はないのではと思う. 私はゲイカの作品を愛していますよ』」
「“輝く”って単語、英語で書いてみて。動詞ね」
「ふんふん」
「書けた?」
「書けたで」
「それをローマ字読みして」
「し……おっと、次いくわ。『がんばってください』」
「何を?」
「次。『ブログ形式に移行する前までの作品は全部2回以上は読んでいます。紙媒体に印刷したことはありませんが、ローカルには定期的に保存しています。今のnWoについて愚見を言わせていただけるのなら、タイトルの横に通し番号を付けるのはやめた方がいいのではないでしょうか。一見さんが(1)から読むのは敷居が高いと思います。あと、リライト版は勘弁して下さい。』」
「長いのが増えたから、通し番はしゃあないがな。いまさら新規読者が劇的に増えるとも思われへんし。劇的に増える方法があるなら、一考しまっせ」
「リライト版の方が時間かかってるんやけど……。『次の更新を楽しみに待ってます』」
「どうもどうも。萌え画像、楽しみに待ってます」
「次。『nWoが好きです。閉鎖して欲しくありません。 私を含めて、心を動かされたとしても、数行の感想も書くことのない人間が多いのではないでしょうか。甘い見返りが期待できないならばなおさらに。読み手として弱いのだと思います。』」
「こうゆう単純なうったえにぐっとくるねん。若い女性が書いてると想像して読むわ」
「nWo読者の9割は男性って統計があるで」
「あほか。内気で清楚な女性ほど、尻軽に投票できへんのじゃ。潜在的にはもっとおるはずや」
「矛盾しとるなあ。次。『届かない声を、いつでも上げています。』」
「届いてへん、届いてへん。罰としておまえは小鳥尻ゲイカ歓迎オフ会を主催せえ」
「首都圏で。次。『小鳥さんのテキストはおよそ目にする活字の中で一番好きです 読み手のレスポンスの無さに関しては、文章の完成度と崇高さが遠ざけているきらいがあるだけだと思っているので閉鎖しないでください 学生の頃から拝読していますが、ドープさを増して行く小鳥さんのテキストがどこへ収斂していくのか楽しみにしています』。職業、ベンチャーキャピタリストやて」
「カネやな。カネをもっとんのや。どこに収斂していくかなんて、そんな高尚なもんはおまへんのや。うちら、ネットの芸者商売やさかい、お客さんが呼んでくれればどこででも踊るし、こう踊れェゆうたら、そのまんま踊りますよってに。小鳥尻奴の欲しいのは、カネ、萌え画像、他者承認どすえ」
「めっちゃやらしいな、じぶん。ドープってなんやろね。次。『無理スンナよ』」
「してねえよ」
「身の丈にあったものを更新せえの意かもしれへんで。次。『小鳥さんは最高にカッコイイです。』」
「そっちの名前で呼んでくれる人もおらんようになったなあ。なんかなつかしいわ」
「『窮状なんですか?』」
「はい、それらはバナナです」
「あと少し。『わりと好きです。』」
「憎む、愛す、無視以外の選択肢があることが、すごい衝撃―」
「『他人の評価にそこまで固執するのが分からない。  芥川賞とればいいと思う、取りあえず。  ネームバリューで人が集まって、そしたらその中に本物の読者もいるのではないでしょうか。』」
「どうして父の間違った方の精子が母の卵子と結合したのか分からない。芥川賞の選考委員になってnWoを推薦すればいいと思う、取りあえず。それからプロ野球選手になって5年で二千本安打を達成すればいいと思う、取りあえず。ネームバリューで記者会見が開かれ、そしたらその中でnWoの宣伝もできるのではないでしょうか」
「どう、どう。『パアマンに衝撃を受けて以来ちょくちょく覗いてます。』」
「生きながら萌えゲーに葬られをおさえて、パアマンが一番人気なのよねー。ホームページとそれを更新する人物という枠組みに、更新されているキャラクターが接触を果たすという、シミュレーテッド・リアリティの走りみたいな展開がウケたのかもねー。世界、神、人間。次は?」
「ううん、これでおしまい」
「あら、そう。おしまい」
「オチはないの?」
「ない。考えてきたの、出オチ的につかっちゃった」
 舞台に下りる沈黙。それが不自然なほど長くなる前に、襞のついた洋装の少女が、「きみとはやっとれんわ」と金切り声で絶叫する。二人、頭をさげると、観客席におりてくる。カメラの向けられた客席は閑散としており、人はまばらである。水筒の日本茶でせんべいを湿らせて食す老婆や、スポーツ紙を顔にかけて大いびきの中年男性や、接吻とペッティングを繰り返す男女や、思いつめた表情の書生風銀ぶち眼鏡。二人、何かのサービスなのだろうか、身につけた衣類の一部を客席に向けて放りなげるが、誰も拾おうとしない。客席の背後にある両開きから二人が出て行ったあと、思いつめた書生風の青年が衣類を拾いあげ、大急ぎでリュックに詰める。
「あそこで真っ白になるなんて、あそこで真っ白になるなんて」
 両手に顔をうめてぐずぐずにすすり泣く大柄のボディコン女性。
「しょうがないわよ、できの悪い日もあるわよ」
 大柄のボディコン女性を支えるようにして隣を歩く小柄な洋装の少女。二人のささやき合いは、しかし清掃員が濡れたモップをロビーの床へ叩きつける音にかき消される。
「だいじょうぶよ、芸の不安定さがあなたの売りでしょ」
 二人が後にした建物には裸の女性の図画がいくつか大きく掲示されており、入り口にいるもぎりの男性は生来のものだろう、茫洋とした独特の表情を浮かべている。小柄な少女はなぐさめ続けるが、大柄な女性はいっこうに泣きやまない。
「ポルノ映画館で世界を革命したって、誰も認めてくれないのよ。私たちはこの世にいないも同然なのよ」
 小柄な少女、大柄な女性の背中をさすりながら言う。
「あたしがいるじゃない、誰がいなくたって、あたしがいるじゃない」
 真っ赤に泣きはらした目をむいて、大柄な女性、絶叫する。
「もう聞きあきたわ! あんたがいたって、私は寂しいままじゃないの!」
 途方に暮れた表情で立ち尽くす小柄な少女。
「消えないのよ、その寂しさは消えないの。私たちは壊れてるから、その寂しさは消えないのよ……」
 激情の冷めた大柄な女性は、小柄な少女を強く抱きしめ、小柄な少女はその抱擁へ一筋の涙を与え、やがて手に手をとりあった二人は「だいじょうぶ、きっと今頃は萌え画像が届いているはず。だからまだ、だいじょうぶ」と励ましあいながら、場末のネオンの中へ消えていく。

(協力:nWo次世代マーケティング部)

ルナシー


ルナシー


ビジュアル系バンドではない。狂気をテーマにしているはずなのに、ヤン作品の中で最も理性的。登場人物が例外なく長広舌なのが原因か。「君は童貞かね?」

小鳥猊下蹴球のようす

 アフロ・ヘアーの男が猛然とピッチをかけあがる。両目の下には陽光の反射をふせぐためか、黒い塗料が塗られている。アフロ、華麗なドリブルで浅黒い肌の選手を二人抜き去り、パスを出す。
 ピッチの反対側、アニメプリントのTシャツを着た巨漢がフーフーとカンにさわる呼吸音を漏らしながら走りこむ。腹部にある脂肪の盛り上がりの裏側から、豚足をかろうじて飛来するボールの落下地点へ差し入れ、ワン・ツー・リターンを完成させる。直後、盛大にスッ転ぶアニメプリント。
 ふらふらとゴール前に高くあがったボールはそのままラインを割るかと思われたが、アフロ、身長の三倍ほどの高さを跳躍するスローモーションの背面宙返りでコマ送りのボールを逆さ蹴りにする。インパクトの瞬間の静止画からカメラはボールを回りこむように追い、ゴール隅に吸い込まれるのを映す。ネットに包まれてなおしばらく回転を続けた後、ピッチへ落ちたボールからは摩擦熱による煙が上がっている。
 呼吸をひとつにしたスタジアムの観客が、いっせいに息を吸い込む瞬間の静寂と、それに続く爆発するような歓声。
「ゴォール! 小鳥猊下Vゴォォーール!」
 絶叫するアナウンサー。
 自陣で膝の関節を従来とは反対の方向に曲げたまま倒れているイガグリ頭の青年が、両腕で上体を起こして、
「へへッ! やっぱりアイツは別格だ……必ず決めてくれると思ってたぜ!」
 イガグリ頭、うッとうめくと再びピッチに身を横たえる。
 地面をこぶしで打ってくやしがる浅黒い肌のゴールキーパー。
「ありえないッ……ヤツの萌えは不自由じゃなかったのか! まさか、まさかこんな土壇場で合わせてくるなんて……おたくたちの趣味嗜好に……ッ!」
 ユニフォームを脱ぎ、ピッチの中央でもみくちゃにされるアフロの男を見ながら、監督風のアジア人が背広姿で腕組みをしている。その目に光る涙。「滝沢健二は思い出していた」の一節で始まるモノローグが流れはじめたところで、アフロ、アフロのカツラをむしりとる。まとわりつく選手を振り払い大声で、
「おい、もうやめだ。おまえら全員帰れ」
 スタッフらしき一人が拡声器で、
「どうも今日はおつかれさまでしたー。バイト代と交通費は後日ご指定の口座に振り込ませていただきますんでー。気をつけておかえりくださいー」
 オー、という低い落胆の声がピッチと観客席を満たすが、元・アフロの男があぐらをかいて座り込み、考えを変えないようなのを見ると、三々五々、帰りはじめる。
 誰もいなくなったスタジアムの中央に、ぽつんと残される男。スタッフらしき一人が全員が帰った旨を伝えるのに、振り返りもせず片手で追い払うしぐさをする。
 やがて夜のとばりが降り、誰もいないスタジアムに照明が点る。男の影があらゆる方向へ放射状にのびる。
「もう、金にならない大がかりはやめだ。どいつもこいつも、なんでアンケートに答えようとしないんだ……なんで……」
 男、両手に顔をうずめる。人気のないスタジアムには、男へ手を差しのべる者は誰もいない。上空を渡る風の音が、与えられた唯一のいらえであった。
「辛いんだよ……『集まった親族一同に取り囲まれ年かさの孫のすすり泣きと年若い曾孫のあどけない質問とが交錯する厳粛な空気の中もはや虫の息で起き上がるはずのない祖父が突然ハネ起き下半身の局所を死後硬直ではない方で硬直させ“デリバリー・ヘルス! デリバリー・ヘルス!”と叫びだした』のを見るような、周囲の視線が辛いんだ……」

ゾディアック


ゾディアック


アメリカで最も有名なシリアルキラーにまつわる事件簿。二時間半ずっと捜査してるだけなのに、面白い。例の、“名前を書くと死ぬノート”映画版がこんななら良かったのにね。

小鳥尻ゲイカ

――今日のゲストは、女優の小鳥尻ゲイカさんです。
 小鳥尻(以下、尻):(仏頂面で)どもー。
――さっそくですが、今回なぜあのような更新をなさったのですか? そこに至る心理状況といいますか、経緯をお聞かせ願えますでしょうか?
 尻:(そっぽを向いて)別に……。
――何か、昔からのファンへの裏切りだとか、そういう声も聞かれますが……
 尻:(激昂して)ウルセエよ! うちあわせと内容がちがうじゃねえか! そのことには触れないんじゃなかったのかよ! オイ、カメラとめろ!
――落ち着いてください、生放送中ですから。ファンへの謝罪の言葉はないのですか?
 尻:なま……(小声で)ちくしょう、いつもアタシをそうやって罠にハメやがんだ……(沈黙。ふるえる手で前髪をかきあげながら)オタどもの喜ぶようなものを書こうと思ったんだよ。奇抜な名前で精神遅滞のガキがする情緒たっぷりの世迷言や、神話の世界観を借用した奥行きのゾッとするような遠浅ぶりや、自動化された物語のする白痴的精神愛撫をオタどもにブチこんでやりたかったんだよ!(無理に笑い声をたてる)
――ごうごうたる非難を聞けば、その試みは少なくとも成功したとは言えないと思いますが?
 尻:(びくり、と身体をふるわせて)も、萌えやら、ね、熱血やら、オマエらがオッ立つ要素はなんでも入ってんだろがよ! ぜんぶタダで読んどいて文句言うなんてよ、不法侵入の上で狼藉・乱暴しながら戸締りについて説教する強盗と変わらねえよ! ちがうかよ!
――(さえぎって)読者の方から一通のメッセージが届いていますので、読みあげさせていただきたいと思います。『私たちが変わってしまっても、貴方だけは変わらないでと、そう思うのは私たちのエゴなのでしょうか』。いかがですか? 真摯なファンの姿勢に、少しでも反省の気持ちは生まれませんか?
 尻:ケッ、ソープに沈んだ昔のオンナにかけるブンケイの寝言じゃねえか。テメエが身請けしてやらねえから、生活のために仕方なくお客とってンだろ? それ、「ぼくには経済力がなく、そしてきみには処女膜がない」って意味でしょオ? ちがうのオ?(馬鹿笑いする)
 画面の外でサングラスの男が「もっと挑発して」と書かれたカンペを掲げる。目の端でそれを見るインタビュアー。
――では、私の感想を述べさせてもらいますと、しかし重度の萌え不自由でしたね(笑)。
 尻:(頭髪の薄い男があの単語を言われたように、顔面を硬直させる。何か言おうとして、泣き出す)ひっく、ひっく……ひどいじゃないの……わかっててアタシにそれを言うなんて……なにさ、かってにキレキャラみたいにあつかってさ……きょうだって、アタシがあばれだすのをみんなニヤニヤしながら待ってんでしょう? アタシ、女優なのよ……ネット界のおさわがせである前に、女優なの。でも、いまじゃ女優だからキレるのをゆるしてもらってるんじゃなくて、キレるから女優をやらせてもらってるみたい……こんなのって、ないわ……ないわよ……(両手に顔をうずめると、すすり泣く)」
 インタビュアー、当惑してサングラスの男を見る。サングラスの男、身体の前で両腕をクロスさせながら、口パクで「つかえない」と言う。
――小鳥尻さん、ご自分で招いた結果です。泣いたってしょうがないでしょう。ほら、これ使って。
 尻:ありがと……(ティッシュで鼻をかむ)バカだね、アタシ。オンナが泣くのって、サイテーだね。なんだか、ゆるしてくれって甘えてるみたいでさ……。
――落ち着かれましたか? みなさん、小鳥尻さんの言葉を待ってますよ。
 尻:(前髪をかきあげる。鼻の頭が真っ赤である)あー、なんか、昔のこと思い出しちゃったわ。中学のときさ、ちょっとからかうと、ムキになってキモい反応するデブがクラスにいてさあ。イジメ、だったのかな、あれ。みんな、ソイツになら、なに言ってもいいってフンイキだったワケ。んでさ、国語の時間にウザいセンセーがさ、クラスの前で作文とか読ませんのよ。はは、ムナゲってあだ名だったわ、そういや。中身は忘れたけど、将来の夢とか希望とか、きっとそういう漠然と前向きなヤツ。みんなジブンの番が心配だからさ、まばらな拍手とか、ユルい冷やかしとかに終始すんの。もっと正直に意見を交換していいんだぞって、ムナゲがさ。公立だったし、ただ同じ地元だってだけで集まってる連中が、おたがいに深いとこまで通じるハナシなんて、そもそもできっこないじゃん。オカマバーにノンケをつれてってゲイの話をさせるって例えなら、だれだってムリだってわかんのにサ。でもまあ、ガッコってそういうトコだしね。でさ、毎時間、何人かずつ発表してってさ、ついにソイツの番になったワケ。ナニしゃべってたのかは忘れたけど、その日はみんなでしめしあわせてさ、黙って下向いてたの。クラス全員で。発表が終わっても顔あげずに、ただヒジでつつきあったり、クスクス笑ったり。そんで、これは一番うしろに座ってたアタシの役目だったんだけど、頃合いにとびきり大きなため息をついたわけ。ハーッ、って。そしたらさあ、ソイツ、いままでになかったくらい、ものスゴイ逆上しちゃってさあ。教卓を蹴りたおして、アタシのほうめがけて突進してくんの。さいわい、他の男子がとりおさえたけど、まえに座ってた女の子がひとり、倒れた教卓でおデコをケガしちゃってさ。結局、ソイツひとりだけ停学くらうことになるワケ。なんであんな怒ったんだろ。あれは、あと味わるかったわ……(内側へ沈み込むように、小声で)なんであんなに、怒ったんだろ……」
 サングラスの男、空中をチョップする真似をしながら、口パクで「切って切って」と言う。インタビュアー、細かくうなずく。
――(わざとらしく腕時計に目を落としながら)えー、時間も残りわずかとなってきたようです。最後にファンへ一言だけ、お願いできますか?
 尻:(聞こえていない様子で、ひとり言のように)アタシさあ、前にダンナに不倫されて殺すとこまでいっちゃう役やったことあんだけど、最近なんかそのことばっか考えるっていうか、すごいよくわかんだわ。内助の功ってえの? 影で支えてたダンナがさ、どんどん社会的に立派になってってさ、気がついたら築いた地位を利用して別の若いオンナつれてんの。当時は、なにこのうすっぺらなハナシって思ってたけど、いまは想像するだけで目の前が真っ赤になる感じがする。日の当たらない場所で耐えてきたアタシはどうなんのって。アンタは表の顔だけして生きてるけど、アタシがアンタの下着まで洗ってんだって。アタシがアンタの汚い部分をぜんぶ引き受けてきたから、いまのアンタのきれいな成功があるんだろって。だから、nWoの閉鎖が決まったりしたらアタシ――(臍を噛んで、三白眼で)きっと殺すと思うな……」
 サングラスの男が台本を放り投げると、スタッフが撤収を始める。セットから順番に照明が落ち始める。インタビュアー、ソファへぐったりと身体を投げ出す。
――(興味を失った様子で)だいじょうぶですよ、たぶん、どうでも。
 尻:(険のとれた表情で)あー、泣いて愚痴ったらスッキリした。なんだって出すとスッキリするのは、動物らしくてイイね。(立ち上がり)ゲイカ、次からはいつもどおりがんばります。みんな、心配かけてゴメンナサイ、てへっ(頭を下げ、舌を出す)。
――(失笑して)がんばるって、萌えを、ですか?
 尻:(瞬間的に血涙が吹く)ブワッハッハーのハー!! けっきょく、アンタたちはアタシのこれが見たいだけなんだね!!
 小鳥尻、インタビュアーの胸ぐらをつかむと、ともえ投げに投げ捨てる。テレビカメラは激突したインタビュアーごと倒壊し、画面は大音響とともに横倒しになる。サングラスの男、小さくガッツポーズをとると、スタッフに指示を出す。セットに照明がもどる。しらけた雰囲気から一変、にわかに活況を呈する現場。
 お茶の間のテレビ画面。ガラスのテーブルにヒールで仁王立ちになり、何事かを宙空に向けて絶叫している小鳥尻ゲイカの口から、炎のCGエフェクトが発している。かぶせるように、怪獣の鳴き声。流れる血涙は、水色に塗りかえられている。BGMにはドリフのコントでオチに用いられる、例のスラップスティックな曲が流れている。大爆笑のお茶の間。
 「ああ、よかった! メンタルヘルスみたいな告白を始めたときにはどうなるかと思ってドキドキしたけど、やっぱりゲイカ様ね! いつだって最後の最後には、私たちの期待どおりまとめてくれるわ!」
 「(あからさまに戯画的な白人が流暢な日本語で、しかし英単語だけは極めて英語的な発音で)おっと、そこの君! そうそう、顔の造作に問題がないとは誰にも断言できない、ふくよかな脂肪の、そこの君のことだよ! もしかして、nWoがまた、死なない程度のヘルシー・リストカット、予定調和の大暴れで、従来の自閉路線に戻ったと安心してるんじゃないのかな? ノンノン、nWoの未来はいまだにたゆたっている……(雑木林が風になびくときのような擬音)。このウェブ2.0時代にいつまでも昔ながらのテキストサイト的運営じゃ、(そうでないことを確信する口調で)取り残されてしまうからね! 今回、nWoは来訪者のみんなへ向けたアンケートを実施することにしたよ! ホームページはインタラクティブ性が重要だからね、LDゲームのようなね! もちろんキミの匿名は完全に守られるので、「こんな下品なのが好きなんて、私ってやっぱりエッチなのかな?」と性に臆病な女性読者もひと安心だ! nWoの今後の方向性について、忌憚のない意見を聞かせてくれたまえ! なんの権威による裏づけもない、こんな場末の泡沫サイト、どっちに転んだところで人類は滅亡しないって寸法さ(腹を抱えて爆笑する)! (目尻の涙をぬぐいながら、真顔で)アンケート回答者が規定数に達しない場合は、ノーコンテスト。(暗い声で)そのときは、閉鎖します」

小鳥猊下乱心のようす

 全裸に襦袢だけをひっかけた遊女が、抜き身を片手に猛然とコミュニティ方面へ走っていく。
 「ご乱心、ご乱心ーッ!」
 「(男の声で)儂をこうしたのは誰じゃ、儂をこうしたのは誰じゃ」