「 Jam, Jam! MX7! 今週もまたD.J. FOODの”KAWL 4 U”の時間がやってきたぜ! それではいつものように始めよう、 Uhhhhhhhhhhhh, Check it out!
びっくらコきマラ! 空気も温み花も暗示的に咲き乱れ開放的になった婦女たちがたわわな双乳をぶるんぶるんふるわせながら町を我がもの顔で闊歩するのを電波でチャクラを解放されたお仲間が挿入を求めて襲撃するこのよき季節、特殊な嗜好を持った私なんぞはほころびかけたつぼみという修辞的表現を想起させる一定年齢以下の少女たちのする破廉恥さにこの世で一番の好物料理を目の前に出された人間のようにそれを口に入れた瞬間の悦びをより大きいものにするために幾度も幾度も舌なめずりをし自身の手のひらをにぎにぎと揉みしだいて自分をじらす毎日なんやけれども、びっくらコきマラ! まァ、あの頃の僕は今日より若かったものだから、ずっと若かったものだから時と場合によってデッサンの乱れから3~10メートルまで自在に可変する身体でマフラーをなびかせ巨大なナイフでもって世紀末の荒野を疾走する戦国武将のコスプレ集団と真っ正面からしばしば激突して彼らのほとんどを日曜の午後のほんの気晴らしに原型の推測できないミンチ状に丹念に切り刻んだものやったで! そしてちょっとした建物の三階ほどの長さの日本刀を振り回す刃物キチガイとことあるごとに互角に渡り合い、あるときは首を切らせ、あるときは首を切ってやったもんやったわ! あいつも今では某百貨店地下の食品売場で真面目に店員をやっとるんやから世の中わからんもんやね! 奥さんは男性にムチを使用することで破格の金銭をいただく職業についてるらしいで! こりゃもうびっくらコきマラ! さて、いつもの犬のようなおしゃべりはこのくらいにしといて、最初のお便りは練馬区のグンペイグンペイまたグンペイくんからだ! 『こんばんは、FOODさん。正体不明のテログループが各地の放送局とその関係者を無差別に襲撃しているというニュースを聞いたとき、僕はFOODさんが無事なのかどうかをまっさきに思いました。どうしてこんなひどい事件が起こるんでしょう。僕には想像もつかない。でもこの手紙をあなたが読んでいるということはあなたが大丈夫だったということですよね。どうぞ無理をなさらないで下さい。FOODさんの声が聞こえなくても、FOODさんが無事で生きていてくれるなら僕はそれだけで嬉しいんです』 びっくらコきマラ! そうそうそれやそれや、面白い話を言うのを忘れとったで。こないだの放送のときな、俺寝坊してしもて、なんでもっとはよ起こしてくれんかったんやっておかんに文句たれながらメシ喰うとったんや。ほんなら急にばかデカい音がするやん? 気がついたら持っとった茶碗のメシが真っ赤になっとるねん。 俺笑いながら、”おかん、どないしたんや。生理でも来たんか”言うて前見たらな、おかん首ないねん! 首からなんか漫画の管みたいのが出とってピューピュー血ィ吹いとんねん。そんでな、肝心の首はどこにあったかって言うとな、ええか、笑うなよ…なんとたんすの上の花瓶に乗っかっとったんや! 俺、メチャメチャおかしかってなぁ! つねづね俺みたいなオモロイ芸人のおかんがこんなただのオバハンやったらカッコつかんなぁ、思っとったんや。そのときのおかん、めっちゃ輝いとった。カネとれる芸やったわ。俺二時間くらいずっと転げ回って笑い続けてな、気がついたら病院のベッドの上におったんや……びっくらコきマラ! 続いて二枚目のお便りは…なんや、封書かいな…まったく迷惑極まりないで…(と、封を開けようとする。軽い破裂音)うわっ! び、びっくらコきマラ! (マイクから離れた遠い音声で)いや、大丈夫、まだ本番中だから入ってこないで。人差し指の爪が剥げただけだ…(調子を戻して)まったく、ええネタを仕込んでくれるね、ウチの聴視者さんは…ペンネームは、と。封筒燃えてもて読まれへんがな。ええとなになに、『これは警告だ。これ以上その俗悪な思想で民族の魂を汚すというのなら、君に近しい人間にまた消えてもらうことになる。君の罪を贖うために』 びっくらコきマラ! えらい時代がかっとんなぁ! エイプリルフールはもう過ぎとるで、きみ! 最後のお便りは大阪府在住の小鳥くんからだ! 『もうやってらんないっすよ、FOODさん。毎日毎日仕事仕事、家帰ってすることは眠るだけ。いいですよねえ、FOODさんは。マイクの前で一時間ほど馬鹿話して、ダベって金もらえるんですから。あ~あ、もうたまんないっすよ。やってられないっすよ』 びっくらコきマラ! (ぽつりと)…そうだね、そうかもしれない。
おっと、もうこんな時間だ! みんなからのお便り待ってるぜ! それじゃ、来週のこの時間まで、C U Next Week!」
ボブ・ザ・アナリスト
「あら、ボビー。どうしたの。今日のあなたはとても沈んでみえるわ」
「(憂鬱そうに顔をあげて)やぁ、ステフ。ちょっと最近夢見が悪くてね」
「へえ。それはきっと現実がうまくいっていない証拠よ」
「うん。そうかもしれない。特に昨日のは最悪だった(目を伏せる)」
「聞かせてくれるかしら。興味あるわ。もしかしたら力になれるかも。なんだったらジョンソン教授にとりついでもいいわよ」
「ああ、そうか、君は心理学専攻だったな……誰にも言わないって約束しておくれよ。(膝の上で手を組んで目を閉じる)そう、あの夢の中で僕はひとり自室のベッドに寝ていたんだ。月は出ていなかったんだろう、窓からはどんなわずかの明かりも感じられなかった。突然、部屋に黄緑色の不気味な光が射した。次の瞬間、僕は宙に浮かんだ自分自身の身体を感じていた。僕はしびれたように動けなくて、何も考えることができなくて、自然に開いた玄関の扉から自分の身体がふわふわと飛び出すのを他人事のようにぼんやりと見ていた。ふと気がつくと僕はテーブルの上にのせられていたんだ。テーブルという表現は正しくないかな、手術台、そう、手術台のような無機質で冷たい台の上にのせられていた。ぼくはそのときになってようやくその異常な事態に恐怖を感じはじめた。僕が逃げ出そうともがいているうちに、周囲を取り巻く銀色の壁から人型の生き物が何体か現れた。そいつらはちょうどアーモンドのような、顔の半分もあるような大きな黒い目をしていて、身長は、そうだな、君の腰ほどもなかった。そして、それからやつらは、やつらは、おお(顔をおおう)」
「ボビー、つらかったら無理に言う必要ないわ」
「いや、聞いてくれ。聞いて欲しいんだ、ステフ……やつらは僕には意味の不明な言葉で二言三言何かささやきあうと、おもむろに僕のジーンズをひきずりおろした。そして巨大な、ちょうど理科の実験でつかうじょうごのような物体を取り出すとぼくの、ア、ア、ア」
「(両手で口をおおって)おお、ボビー、まさか、まさか」
「ぼくのアヌスにふかぶかと突き刺したんだ!」
「ああ、神よ!」
「それはとても、なんというか、不思議な感覚だった。突き刺されたじょうごから内蔵のすべてが裏返ってとびだしてしまうように思えた。ひんやりとした金属の感触が直腸にあり、その心地よい冷たさに前立腺を刺激され、僕は二度射精した。やつらはかわるがわるじょうごの中をのぞきこみ、カンに障る笑い声のような音をたてた…僕はその最悪の恥辱の中で意識を失ったんだ。気がつくと僕は自室のベッドの上にいた。何事もなかったようにね。ひりつくアヌスの痛みをのぞいては、何も……これがすべてさ(がくりと首を垂れる)」
「ボビー、でも、でも、それは夢なんでしょう。夢のお話に過ぎないんでしょう?」
「(小昏い目で見上げて)本当にそう思うかい、ステフ」
「(あわてて陽気に)ねえ、ボブ、こんないい天気の日に屋内にいるのはもったいないわ。さぁ、外でスカッシュでもして気分を変えましょうよ」
「待てよ! ほら、見ろ、見るんだ! 目をそむけるな! (おもむろに立ち上がりジーンズをずりおろすとケツを突き出す)これが僕だ! 僕はもう普通の人間じゃないんだ、アンヌ!」
「いやっ、いやぁぁぁぁっ!」
「(涙声で)僕はもう普通の人々のようには生きられない。僕はこの世界で一番目立たない人のようなささやかな人生をこそ送りたかったのに。植物のようなおだやかな、高橋陽一の漫画にキャラの描きわけができないために必ず登場する双子や三つ子のような、そんな凡庸な人生をこそ過ごしたかったのに!」
「ばぶん(爆音とともに窓ガラスを突き破って空のかなたへと消えていく)」
「(後ろから歩み寄り)アナル・バースト現象」
「(ふりむいて)ジョンソン教授…」
「かれはいま、かれの意志にかかわらず手に入れてしまった自分の力にとまどっているんだ。ステファニー、いっしょに来てくれないか。かれを呼び戻さなくてはならない」
「(うつむいて)私には…私にはかれにかける言葉がありません」
「今のかれを説得できるのは君だけだ。かれを慰めてやれるのも。我々人類にはかれのアナルが必要なのだ」
「…私はかれをひどく傷つけてしまったわ。かれの異形のアナルを見て悲鳴をあげて、後ずさって。私はなんていやらしい、品性の下劣な女なんだろう! かれのアナルはまったく問題ではなかったのに! 私はいつもつくり笑顔で友だちのふりをしていただけなんだわ…」
「ステファニー…」
「行きましょう、ジョンソン教授。私はかれに会ったらまっさきにひざまずいて、そのアナルに接吻するつもりですわ」
「(微笑んで)うん、そうするといい」
小鳥猊下講演録
「もうタってま~す」
「あっ。小鳥猊下が授業はじめの挨拶のときに立ち上がらず、それを国語科の女教師に指摘されるのに反抗してみせているぞ」
「なんてへだらなビーバップなのかしら。私のヴァギナが挿入を求めて小刻みに蠕動しはじめたわ」
「もうタってま~す」
「はぁ。うん、ちょっと落ち込んでてね。聞いてくれるかな。もし、もしだよ。僕たちを創り出した神のような存在があって、そのかれの影響を僕たちがはっきりと受けるとしたら、かれの本業が忙しくなったりしたら――もちろんこれは例えで言っているんだよ――僕たちは完全にほうっておかれるんじゃないだろうかね。なんだか最近僕たちのまわりを取り巻く愛のムードが希薄だと感じるんだ。それが僕の気持ちを沈ませる…ああ、ちょっと抽象的すぎる話だな。いや、いいよ。忘れておくれ。心が弱くなっているときは何もしゃべらないほうがいいね。そろそろ時間だ。行かないと。
「……みなさんはいつも私の講演を聞きに来て下さる。人生の限られた時間で限られた豊かさをできるだけ多く現実という場所から切り取るために…いや、失礼。どの人間をも無理矢理巻き込もうとする、人生のありかたに対する脅迫的なこのような言い様は私の中にこそ問題があるのでしょう。私は恐怖しています。私はつねに次の瞬間自分の足下が崩れ去るのではないかと恐れている。すべては時間の流れの中で色を失いくすんで、鈍くなり、そして消えていく。消えていった者たちの中には私より明らかに優れている者も多くいた。ここでは力あることが生き残るための条件ではないのです。私にはわかりません。私がなぜ選ばれて、選ばれ続けてここにいま在るのか。私は大勢のうちの、ただ自分が大事な、自分をしか見ない、世界に広がる視点も持たない、小心な、本当に小心な一人に過ぎなかったのに。私がこの場所にいることでこの場所にいることを許されなくなった無数の人間たちのことを考えると、その意味の重さに私はすくんでしまう。流す涙は常に傲慢であり、私は進む一歩の歩みごとに味方を失って孤独を増していく。私はそうして、一人でやるしかなくなってしまう。みなさんはどうぞそれぞれの場所で見ていて下さい、私がどこでつっぷして動かなくなってしまうのか、その行方を。私の破滅があなたたちを何かの形で楽しませるのならば、それは無数の道化たちの一人として、至上の喜びであるでしょう(沈黙。ためらいがちな拍手がまばらにおこる)。
「よくなかったね。よくなかった。いや、いいよ。こういうのは自分が一番わかるもんなんだ。妙な嗅覚だけが発達してね。いやらしいね。ハイヤー? うん、今日はやめとくよ。ちょっと歩きたい気分なんだ。それじゃ、お疲れさま。本当にいつも君たちはがんばってくれるね。(何かの感慨にとらわれたかのように見回して)いったい僕の何を気に入って集まってくれているのかわからないけれど、君たちの奉仕に応えられる日がいつか来るといいね…」
「(ふと空を見上げて)ああ、春雨じゃ。濡れてまいろう…(果てしなく続く曇天の下、都会の雑踏へと消えていく)」
風の歌を聴け
一週間ばかり鼠の調子はひどく悪かった。新年度の始まったこともあるだろうし、童女趣味規制法案の成立のせいもあるのかもしれない。鼠はそれについては一言もしゃべらなかった。
鼠の姿が見えない時、僕はジェイをつかまえてさぐりを入れてみた。
「ねえ、鼠はどうしたんだと思う?」
「さあ、あたしにもどうもよくわかんないよ。最近たくさんのサイトの更新が滞っているから、そのせいかもしれないね。」
毎年四月が近づくと、いつも鼠の心は少しずつ落ちこんでいった。
「多分取り残されるような気がするんだよ。その気持ちはわかるね。」
「そう?」
「サイトの更新が少なくなるのは、みながそれぞれの現実に戻っていっている証拠だから。戻るべきところも行くべきところもなくただ現実に対峙しないために、際限なく依存心を拡大させるこのやくたいもない電脳空間へ閉じこもって、ただ一人ほとんど毎日サイトを更新し続けることの虚しさへの気づきが、鼠を沈ませるんだろうと思うよ。」
「そんなものかな。僕にはわからないけどね。」
「あんたにはどこか悟ったようなところがあるよ。あんたはまだ大学生という立場をもっているからいいが、それを失ってどこにも居場所が無いような場合のことを考えてごらん。とても辛いことだと思わないかい。この国は一度ドロップアウトした人間の復帰を認めないから。前科と同じだよ。履歴書にだけ残る前科。そんな中で気持ちだけは焦ってじりじりしながら、すべての人間に唯一平等で、最初に与えられたのをすり減らすだけで補給のきかない若さを消費することの焦燥感は、焼け付くようなんじゃないだろうか。一般の人間がその若さと言う貨幣を支払って手に入れる社会的価値を、何とも交換せずにただ空費する作業、それがホームページ作成さ。どれだけ積み重ねてもどこにもたどり着かない、何を得ることもない。」
「……。」
「鼠はそんなことを感じてるんじゃないかな。鼠が命を張っているホームページ作成は結局のところそれだけの、現実に敗北することをその発生の当初からあらかじめ約束されている作業に過ぎないんだ。賽の河原の石つみのような。でもいまさらそれに気がついたところでやめられないのさ。拡大した電脳世界への依存心はかれにささやきかける、結局俺にはこれしか残されていないんだ、俺はこの何の役にも立たない、どこにも到達しないガラクタしか持ち物を持ってないんだってね。」
ジェイは手にしたグラスを何度も磨きながらそう言い終えると、しばらく黙った。
「…みんなが帰ったあともずっと公園でブランコにゆられているんだ。日が落ちて、街灯がともって、夜の風が身に冷たくても、ずっと。だって、誰も迎えにきてくれないから。俺はね、待ち続けて待ち続けて、誰かが迎えにきてくれるのをずっと待ち続けて、とうとうこんな年齢になっちまった。だから鼠の気持ちは少しはわかるのさ。あんたよりはね。」
「ジェイ。」
「なんだい。」
「そのトップページの画像、いい感じだね。」
「だろ? 昨日五時間かけて作成したんだ。会心の出来さ。」
ジェイは本当に嬉しそうに、子どものような笑顔をみせた。
或阿保の一生
私とかれは特に親しい間柄というわけではありませんでした。その交際の頻度やかれ自身がどう思っていたかにかかわらず、かれは私にとって腹蔵なく話せる種類の人間ではなかったのです。かれはその、つまり、ある種のマニアでした。様々のものを収集し、それがつもっていくことに精神的な満足を抱いているようでした。私はかれの持つとある品物に興味を持っており、それがかれとの交際を続けさせる唯一の要因でもあったわけなのですが、それらのすばらしさにかかわらずかれという人間は私に少しの魅力も感じさせ無かったのです。むしろ私はかれといるときにしばしば不快さを感じていたことを認めなくてはならないでしょう。かれの収集癖は自分自身の人間的魅力の無さへの意識的か無意識的かの認識から生まれた、かろうじての防衛策であったと言えるかも知れません。自分の存在を成熟したものとして確立できなかった人間はしばしばこういった馬鹿げた性癖を手に入れているものです。それはむろん代替物に過ぎないのですが、かれらにありがちな周囲との折衝の無さからでしょうが、今まで失敗せずに機能してきたのでまったく正しいものだと思いこんでしまっているのです。
その日、じつに一ヶ月ぶりに――私には仕事があり、かれには無いからです。生活基盤の違いは人間関係に如実に影響を与えるものです――かれの私が密かに呼ぶところの”ねぐら”へ訪ねました。築何十年経とうかという、薄汚れた湿っぽいアパートメントの二階の一番奥の部屋がかれの住処です。郵便受けには大量のチラシがつっこまれており、外にまではみだしています。私はいつものように粘つくドアノブにハンカチをあてると、深呼吸をひとつしてからゆっくりと扉を押し開き、中へと入りました。かれが外出することは年に何度もなく、私以外の訪問者は宗教勧誘員くらいで――セールスマンはこの界隈にはよりつかないのです――私のこのような不躾な訪問はほとんど暗黙の了解となっていました。
「おい、いるかい」
私は答えの明らかな質問をわざと口にしました。私とかれの複雑な関係は、それ以下のよそよそしさもそれ以上の親しさも私に許さなかったからです。床にはその、つまり、ある種のマニアックな雑誌や私には意味を持たない様々の物体が積み上げられていました。それらの中で日本経済新聞だけが私にとって認識可能なものでしたが、かれがこの新聞を購読しているのはゲーム業界の今後の動向を知るためなんだそうです。日々親からの仕送りで生活する、大学は9年目に放校され、現在いかなる職にもついていないかれが、どうしてゲーム業界の動向を知らねばならないのかは私にはわかりません。一度かれに尋ねたことがありますが、「まぁ、君、ディレッタントの宿命というやつだよ」などとはぐらかされました(かれはこの手の自分は何でも知っていると見せかけようとするやり方がたいへん好きなのです。そんなときのかれはいつもニワトリのような顔になります)。奥に進むにつれ視界は奇妙な白い薄もやにさえぎられ、バックミュージックは階調を下げておどろおどろしさを増します。この白いもやの正体について私は一度かれに尋ねたことがありますが、「まぁ、君、ブレードランナーみたいだろ」などとニワトリのような顔ではぐらかされました。私はおそらく何かの動物の死体が発酵して吹き出すガスではないかと推測していますが、真相を確かめる気はもちろんありません。
「おい、いないのかい」
玄関奥の四畳半がかれの部屋です。ビデオデッキが縦向きに十台以上積み上げられ、壁には地肌が見えないほどポスターが貼られています。ポスターにはほとんど奇形といってもいいほどにデフォルメされた女性の姿が描かれています。記号として人間をとらえる芸術としてのそれらの完成度の高さを否定するつもりはありませんが、かれはその、つまり、恐ろしいことに、これらの簡略化された人間のパーツの組み合わせに、あろうことか、欲情を感じるらしいのです! 私はそれを信仰者がする重大な告白のようにかれがうち明けたときのことを思いだし、軽いめまいを感じて目をそらしました。窓は分厚いカーテンに遮られ、昼間だというのに少しの光も入ってきません。暗闇のただ中に数台のモニターがぼうっと光を発しています。そこに写っているのは……私はモニターを見ないようにし、なお呼ばわりました。
「おい、僕だよ。いないのかい」
うめき声が足下から聞こえました。私はかれの醜怪な顔面を踏みつけにしていたのです。帰りにコンビニで換えの靴下を購入せねばと苦々しく思いながら私はかれを助け起こしました。かれは驚くことに、泣いていました。感情を、真に自分が感じている感情を他人に知られることを恐怖して、いついかなる瞬間にも、まばたきの一つでさえも軽躁的な演技でやり、現実から身をかわして生きているかれがその醜い顔をさらにゆがめて、誰からも同情を与えられることのない奇怪な様子でさめざめと泣いているのです。私は何かが壊れようとしているのかもしれないと感じました。かれは突然手に持っていたゲームのコントローラーをビデオラックに投げつけました。危うい均衡で本来の収容量以上を納めていたラックから大量のビデオが床に雪崩落ちました。
「もうこんなのはたくさんだ。こんな地獄のような個人主義はたくさんだ。誰か俺を巻き込んでくれ。俺はつながりたいんだ。俺は世界との関係を回復したい。誰でもいい、誰か偏見に満ちた思想で、全体主義的な有無を言わせない圧倒的なやり方で俺の存在が社会の一部を構成する部品に過ぎないことを教えてくれ。俺をあのマスゲームに埋没させてくれ。俺の脆弱な現実をこっぱみじんにうち砕いてくれ。自我が際限なく肥大していくんだ、俺が世界の中で唯一無二の実在であるという妄想的な確信にまったく疑問を感じない瞬間が日々増えていくんだ。もう、いやなんだよ、こんな嘘に囲まれて、ネット上で虚構の美少女たちを論評している自分が、やつらが、たまらなくいやなんだ! 誰か助けておくれよ…誰か…やめる、こんなことはもうやめるから…お願いだ…」
これは革命でしょうか。もしかれの発した今の言葉がかれの現実とまったく一つになることがあるとしたら、それは革命の達成でしょう。ですが私は知っています。こんな演劇のような、一時的な感情の高ぶりによる革命は決して続かないことを。瞬間的な演劇空間の成立による革命の意識は日常を裏切っています。けれど私はあえてそれをかれに告げようとはしませんでした。私はかれの友人ではないからです。私は代わりに崩れたビデオの山を指さし、言いました。
「それでは君にはあれはもう必要なくなってしまったわけだ。決心がにぶるとよくない、私があれらをもらっていってもかまわないだろうか」
かれは泣きながら言いました。ああ、持っていってくれ、今すぐ持っていってくれ。私はかれの言葉が終わるのを待たずに手持ちの鞄にビデオをつめるとそそくさとその場を後にしました。二度と訪れることのないだろうかれの部屋を出ていったのです。久しく経験しなかった激しい感情の動きに疲れたかれはぐっすりと夢を見ない眠りを眠り、やがて目を覚まして自分の行動を身悶えするほどに後悔するでしょう。ですがその過失を埋め合わせる機会は永遠に来ないのです。なぜならかれは私の住所も、電話番号も、名前さえも知らないのですから!
それからの私はと言えば、かれと私をつなぐ唯一の絆であった、今や私の所有物となったあのビデオ群を毎日存分に楽しんでいるんですよ。童女たちのあられもない乱痴気騒ぎをね。ひっひっひ。
聖アヌス衆道院
ここは神の子羊たちが集う人里離れた衆道院。今日の彼らはどんな騒ぎを巻き起こしてくれるやら。
「やばいよ、ブラザー三島。謝っちゃおうよ、ねえ」
「ほほほ、友達の忠告は聞くものよ。あなたがこの便所の床に額をすりつけて『私が悪うございました。二度とファーザーグレゴリウスを誘惑するような真似はいたしません』とさえ言えば、私たちにもゆるす用意が無いわけではないのよ」
「(毅然と)人間の心は常に自由であるべきです! 私がファーザーグレゴリウスを慕わしく思う気持ちも。あなたたちのような最低の暴力に屈する気はありません!」
「(色めきたって)なんだと、このガキ」
「(青ざめて)ぶ、ブラザー三島」
「(低いドスのきいた声で)まぁ待ったれや、おまえたち…立派やないか。だが口だけでおきれいな理念を語るのはどこの白痴にでもできるこっちゃ。いったん口から出たことにはちゃぁんと責任を取らなあかん。それが大人っちゅうもんや。おまえの覚悟がホンモノかどうか試したろ…(ブリーフから刃物を取り出す)」
「きゃあっ」
「こいつはカミソリの刃二枚の間に一円玉をはさみこんだ代物や。(刃物を舌で舐めながら)こいつで切られたらちょっと切ないめにあうでぇ。数ミリの幅で平行に走る二本の傷跡は縫うこともでけん、一生もぐら穴のような傷が顔面に残ることになるんや。こいつの前ではどんな人間も演技をやめて、惨めで臆病な本当の姿を見せてくれる…(ドスのきいた声で)ちょっと踏めるツラしてるからてええ気になってるんやないで! さぁ、ワビ入れるなら今のうちや。最後通告やで、兄ちゃん」
「(泣きながら)ブラザー三島、ブラザー三島ぁ」
「あら、聞こえなかったんですの。私はあなたたちのような下劣な畜生にあけわたすプライドは持ち合わせていません!」
「(後ろに控えていた手下に合図して)おい、こっち引っ張ってこい」
「押忍」
「(葉巻に火をつけさせながら)まったく馬鹿が多くて困るわ。俺もできればこんなことはしとうないんやがな…」
「ぎゃああああっ」「ち、ちくしょう、こいつ、やりやがった!」
「な、なんや、何事や」
「(弁髪の先端に装着した鎖がまを振り回しながら)どうやら喧嘩を売る相手を間違えたみたいやな、おっさんら」
「その口調、おまえはいったい…」
「八州衆道連合二代目総長・三島逝夫とは俺のことよ!」
「ば、馬鹿な。あの伝説のヘッドがこんな片田舎の衆道院に収まっているはずが…!!」
「フカシや、フカシに決もとる。たとえほんまやとしても数ではこっちが勝っとるんや! やれ、いてもうたれ!」
「弱い犬ほど牙を見せたがる…(凄惨な目で睨んで)この始末、おまえらの命だけで済むと思うなや! (飛びかかろうとする寸前、便所の床に薔薇が突き刺さる)むっ」
「双方そこまで。聖アヌス衆道院規則第28条4項「院内デノ暴力沙汰ハ直腸ノ人為的閉鎖ヲ以テ是ヲ処罰スル」(白いスモークの向こうから顔を赤いマスクで覆い隠した全裸の男が薔薇を背負いながら馬にまたがって登場する)」
「アァ? なんだイカれた野郎は。邪魔するんじゃねえ!(手下の一人が馬上の男に襲いかかる。が、その間に青いマスクをつけた全裸の男が立ちはだかり自在に動く弁髪で手下の首を締め上げる)」
「ぐえええ」
「そのへんにしておあげ(青いマスクの男その場にひざまずく)」
「は、はわぁ、青い従者をしたがえ薔薇とともにあらわれる、あの男はまさか」
「どうした、ブラザー山本。何か知ってるのか」
「おまえもその名前は聞いたことがあるやろ、院内の風紀乱れるときその男はあらわれる、聖アヌス衆道院の実質的支配者…」
「ま、まさか……綱紀粛正委員会!」
「あれはその実行部隊の長に間違いないわ…なんで、なんでこんなこぜりあいに委員会が動くんや!?」
「わからねえよ! 逃げるんだ、とにかく逃げるんだ!」
「あ、待ってくれぇ!(全員が蜘蛛の子を散らすように逃げていく)」
「(ブラザー三島の後ろに隠れて)ど、どうしよう」
「怪我は無いようですね」
「どうして私たちをを助けてくれたんです?」
「あなたを、です。あなたはとても興味深い人材だ、ブラザー三島」
「何をおっしゃっているのかわかりかねます」
「(肩をすくめて)ふふ、あなたのチンポに惚れた、とでも言っておきましょうか。また会うこともあるでしょう…(馬の首を返す)」
「あっ、待ってください。せめてお名前だけでも」
「(肩越しに)名乗るほどのものでもありませんが、人は私をこう呼びます、”男色男爵”。はいやーっ!(馬の尻に鞭を入れる)」
「ぱからぱから(遠ざかる蹄の音)」
「(その場にへたりこむ)た、助かったぁ」
「(つぶやいて)男色男爵様…とても懐かしいような…どこかで一度会っているような…かれはいったい何者なのかしら…」
蹴撃手マモル
「(砂をいっぱいにつめたビール瓶ですねを叩きながら)ついに追いつめたぞ! ぼくの兄さんをもうほとんどムエタイという問題では無いような両足を縄の如くねじりあげてする九十日殺しで殺し更には個人の暴力だけで世界支配をもくろむ発展途上国だからの猶予で娑婆の空気の恩恵を授かっている最悪の誇大妄想狂であるところの白人を基準とした場合やや濃いめの肌色を有するコブラの頭飾りをつけたニシキ蛇会総帥め!」
「(屹立したチンポの勢いでマントをぶんぶんひるがえしながら)こわっぱめ! まだ生きておったのか! 雇うのはカマキリの頭飾りをつけたゴム人間など病院収容一歩手前の変態ムエタイ選手ばかりなので組織の資金源の九割を占めてしまっているところの俺が日本にようやく作った幼女がその身体の隅々までの閲覧を許す奔放さでかけずりまわり成人男性はせんずりまわる類のビデオの販売ルートを横取りしようとした兄のように殺されに来たか!」
「(つまようじで歯の隙間をせせりながら)シーッ、ハーッ! ぼくはあの頃のぼくじゃない! 成人女性に欲情してチンポを屹立させついでに成人に達していない幼女にも欲情してチンポを屹立させる一人前の格闘家だ! それを証拠に、見ろ! (トランクスをずり降ろす。マモォール鳥の頭飾りをかむった湯気をたてるキャノン砲が姿をあらわす)」
「(目を細めて)ほほう、少しはやるようになったというわけか。ならばそれなりの礼をもって迎えねばなるまい…(背後に向けて)いでよ、サンボ三兄弟!」
「ははーッ!(舞い上がる砂煙の中から三人の男が姿をあらわす)」
「この小僧を始末しろ」
「待て、おまえのかむっているコブラの皮はおまえの下の皮をも暗示しているのだろう!」
「ぬぬぅ、ロリータめ! いきがりおって!(男の下半身が凄まじい勢いで屹立し、少年ののどを突く)」
「(吹き飛ばされる)ぐええっ」
「(マントをつけなおして)おまえと俺とにはまだ天と地ほどもの実力差があるということだ……あとはまかせたぞ」
「小僧、立て。俺達サンボ三兄弟が相手だ」
「(のどを押さえて立ち上がりながら)くくっ。三人がかりとは卑怯な」
「ふふ、安心せい。おまえと戦うのは一人だけだ。いくぞ! はーッ!(一番体格の大きな男が飛びかかり、裂帛の気合いとともにチンポを突き出す)」
「おわ~っ!(かろうじて身を起こし、自前のチンポで敵のチンポを受け止める)」
「きぃん」
「(暑苦しく荒れた肌の顔を近づけながら)よくぞかわした。初太刀でしとめられないのは久しぶりだよ。だが我々三兄弟の真の恐怖はこれからだ…(残った二人に合図を送る)やれ!」
「まかせろ、兄者!(二人で例のリズムをハミングし始める)」
「(右手で額を押さえて)な、なんだ、このリズムは…単調で麻薬的な…だめだ、これを聞いちゃだめだ…(両手で耳をふさぐ)」
「(両手で少年の頭を抱え込み)ボディががらあきだぜ、ボウヤ。(リズムに合わせてみぞおちに膝蹴りをたたき込む)サンボッ、サンボッ」
「(ハミングして)サンボッ、サンボッ」
「だ、だめだ、ハミングする二人の胸の筋肉の上下が気になって脱出できない…!!」
「(リズムに合わせてみぞおちに膝蹴りをたたき込む)サンボッ、サンボッ」
「(ハミングして)サンボッ、サンボッ」
「(血を吐きながらその場にくずおれる)兄さん…そこにいるのは兄さんかい…? 花畑でたくさんの幼女に取り囲まれて…笑ってる…ああ、兄さんはいま幸せなんだね…兄さん…ぼくも、そこへ…」
「(三人で手をつないで扇形に広がって)サンボ三兄弟、サンボッ!」
カッコーの巣の下で
けえかほおこく1――×がつ○日
キニスキーせんせえわぼくが考えたことや思いだしたことやこれからぼくのまわりでおこたことわぜんぶかいておきなさいといった。それわぼくがこれいじょうわるくならないためにひつようなんだそーです。きょおわさっきよーこがやってきてぼくのしたぎをもってかえった。よーことゆーのはむかしのぼくの知りあいなんだそーです。いっしゅかんほどまえからずっとぼくのせわおしてくれています。よーこはぼくのことおやぶきくんとよびますがそれがぼくのなまえなんだろーか。よくわからない。よーこはとてもびじんです。よーこのことを考えるとちんちんがかたくなる。
けえかほおこく2――×がつ○日
まえがみがうっとーしくてテレビが見にくいのでよーこにきってもらった。なぜかきりながらよーこは泣いていました。きったかみの毛をよーこわビニルぶくろにいれてもってかえった。ぼくわばか人げんなのでわからないことがおおい。
けえかほおこく3――×がつ○日
ものを考えるのがめんどおくさい。さいきんわおんなのひとの出てくるゲームばかりやっている。よーこなんかとはぜんぜんちがうおんなのひとだけどすごくこうふんしてちんちんがかたくなっていたくなります。キニスキーせんせえはそれはギャルゲーとゆうんだとゆいました。ぼくわひとつことばおおぼえてかしこくなった気がしてきぶんがいい。ギャルゲーはとてもおもしろい。ギャルゲー。
けえかほおこく4――×がつ○日
きょおよーこがビデオお見せてくれました。ビデオのなかでおとこのひとがふたりなぐりあっていた。よーこがゆびさして「これがやぶきくんよ」とゆいましたがすごくこわい目おしていた。ぼくわそんなひとわ知らないです。ぼくわそのおとこのひとお見ているとこわくなってそのおとこのひとが見えないよーによーこのうしろにかくれた。よーこはぼくのあたまをなぜながら「わたしがわるかったわ。いいのよ、やぶきくん、いいの」とゆって泣きました。
けえかほおこく5――×がつ○日
となりととなりのとなりのへやのホセとカーロスはここでしりあったともだちです。ふたりともがいじんで(メキシコとゆうくにだそーです)日本ごがあまりわかってないのだけどぼくもわかってないのでちょおどいーです。ぼくたちわよくギャルゲーをこうかんしたりギャルゲーのはなしでもりあがったりする。でも3にんのなかでわぼくがいちばんかしこい。
けえかほおこく6――×がつ○日
きょおわぼくのしりあいというひとがおみまいに来ました。すごく大きなおとこのひととこがらなおんなのひとです。おとこのひとわへやへ入ってくると「ジョー、わいや。マンモスにしや。こんな変わりはてたすがたになってもおて」とゆってぼくのておとって泣きました。おんなのひとわへやのいり口のところでずっと下おむいていた。よーこにきいたらふたりわふうふなんだそーです。こんな大きなおとこのひとのちんちんがあのこがらおんなのひとをまいよつらぬくのかと思うとぼくのちんちんわかたくなった。それをよーこにゆったらよーこわ泣きながらぼくのかおおてのひらでたたいた。ぼくのちんちんわなぜかもっとかたくなりました。ぼくにわしらないしりあいがおおい。
けえかほおこく7――×がつ○日
さいきんいやなゆめお見る。まつげがばしばしのおとこのひとおぼくがなぐりころすゆめです。そんなときわよーこわすごくやさしくなってぼくおなぐさめてくれます。よーこのむねわやらかくていーにおいがしてとてもあんしんする。
けえかほおこく8――×がつ○日
きょおカーロスのへやえあそびに行ったらカーロスがまどべでたそがれていました。どーしたのかぼくがきくとカーロスわテレビおゆびさしました。テレビにわすごい大きな目おしたアニメのおんなのひとがうつっていた。カーロスわがいじんなのでときどき考えていることがわからない。
けえかほおこく9――×がつ○日
きょおのあさトイレに行こーとして下におりたらびょーいんのいり口のところにくろいぬのでかた方の目おかくしたおとこのひとが立っていた。あのひとわよくびょーいんに来るけど、よーこがいつもおいかえしてしまう。いちど「ジョーにあわせろ」と大ごえでゆいながらびょーいんのロビーであばれているのお見たことがあります。よーこわあのひとのことがきらいみたいだ。ゆうがたトイレに行ったらまだいた。なんだかむねがざわざわしておちつかない。
けえかほおこく10――×がつ○日
ホセにわおくさんとこどもがいるそーだ。よーこにきいてびっくりした。
けえかほおこく11――×がつ○日
きょおまどのそとおみたらちいさなこどもたちがたくさんならんでこっちのほうお見ていた。ぼくがまどおあけてかおおだすといちばんちいさなおんなのこがこえおあげて泣きだしました。ぼくわびくりしてあわててまどおしめてカーテンおしめてしまった。あのこたちわいったいなんだろお。
けえかほおこく12――×がつ○日
きょおホセのへやにすごいびじんのおんなのひとが来ました。あれがホセのおくさんなんだろーか。そんでしばらくしたらすごいおとがしてはな血おふきながらへやからころがりでて来ました。よくわからないことばでなんかゆっていた。よーこにきいたらあれはえいごで「りこんよ、りこんよ」とゆっていたのだそーです。あとでホセにはなしおきいたら「マルチのおはなしでかんどーてきなところだったのにリセットおおしたからなぐった」とゆいました。
けえかほおこく13――×がつ○日
きょお中にわで日なたぼっこをしていたらほっぺたにすごいきずがあるおとこのひとがちかずいてきてぼおしおぬいで「やぶきさん、おひさしぶりです」とゆいました。ぼくわすごくこわくなって立ちしょうべんおもらしてしまった。ぼくが泣きながらよーこよーことゆうとおとこのひとわかなしそーなかおで「やぶきジョーはもうしんでしまったんですね」とつぶやいて行ってしまった。ぼくわしんでいない。
けえかほおこく14――×がつ○日
きょおホセとカーロスとけんかおしてしまった。ホセとカーロスとぼくでトゥハートだんぎおしていたらぼくがあかりがいいとゆったらホセもあかりがいいとゆってカーロスもあかりがいいとゆったからだ。ぼくわかっとなって「おまえたちわがいじんなんだからレミィだ」とゆったらホセとカーロスわまじぎれしてそれから3にんでそうぜつななぐりあいになった。とめに来たびょーいんのひとが20にんくらいまきぞえおくった。よーこがてあてをしながら「まったくあなたたちは。よがよならこくぎかんをまんいんにできるカードね」とゆって、わらいながら泣いた。よーこの泣くのお見るとむねがいたくなる。よーこにわ泣かないでほしい。
けえかほおこく15――×がつ○日
きのおたくさんなぐられたせえかきょおなにおしたのか思いだせません。さっきテレビでうつっていたおんなのひとのはだかだけしか思いだせない。おんなのひとのはだかお見てもさいきんわちんちんわかたくならないです。ギャルゲーおするとかたくなる。なぜだろお。
けえかほおこく16――×がつ○日
きのおよなかに目がさめてトイレに行ったらキニスキーせんせえのへやのとびらがあいていた。なかお見たらはだかのよーこがキニスキーせんせえにぜんしんおまさぐられていた。キニスキーせんせえのいもむしみたいな毛むくじゃらのゆびがよーこのまっ白なからだおはいずりまわるのお見てぼくのちんちんわかたくなりました。そしてやらかくなってまたかたくなった。とちゅうよーこと目があった気がするけどきのせーだと思う。そんでトイレでうんこおしてへやにもどったらほっぺたがぬれていました。なぜだろお。
けえかほおこく17――×がつ○日
ぼくわきょおここおでていこーと思います。ぼくわギャルゲーだけおしていたい。ここにわよーこやキニスキーせんせえやホセやカーロスやぼくのしらないしりあいのひとやぼくにわしんどいことがおーすぎます。ぼくわギャルゲーだけがありばいーのです。ギャルゲーわぼくおどーよーさせません。ギャルゲーのおんなのひとわぼくみたいなばか人げんでもびょーどーにあいしてくれます。げんじつわギャルゲーよりもおもしろくありません。ぼくわもうげんじつわいらない。
ついしん。どおかキニスキーせんせえにつたいてくださいひとがわらたりともだちがなくてもギャルゲーおわりくしないでください。ひとにわらわせておけばギャルゲーおあそぶのわかんたんです。ぼくわこれから行くところでギャルゲーおいっぱいあそぶつもりです。
ついしん。どーかついでがあったらホセとカーロスにトゥハートのCGおぜんぶあつめたメモリーカードおやてください。
コナン・ザ・ファイナル
無人のビルの谷間を蝶ネクタイ型のマイクでしゃべりながら遠くから一人の少年が歩いてくる。
「げに恐ろしきは殺人天国日本。一万人殺せば英雄で、一人殺せば商売になる。鉄道会社も喜びいさんで殺人商売にタイアップ。日本縦断殺人旅行。殺せ殺せ、みんな残らず殺してしまえ!」
バス停脇のベンチに座っていた男が横倒しに倒れる。その後頭部に深々と細長い針が突き刺さっている。
「役に立ったよ隠れ蓑。だって子供にゃ権利がない。経済大国日本じゃ、金の量が権利の量。金を持たない子供には、何の意見も認めません。さぁ、思う存分殴れ殴れ。おまえが子供だったときにやられたように、蹴って殴って脅迫しろ、『今夜のご飯はぬきです!』。なァに、心配はいらない。世間様には教育だと言っておけ!」
街灯から茶色のコート、帽子を身につけた小太りの男がロープで吊り下げられている。周囲にただよう異様な臭気。
「無能を養う余裕なんて、今の日本にゃありません。死ねば権威は糞まみれ。どんな権威も糞まみれ。民間人にだしぬかれ、次から次へとだしぬかれ。あるのは逮捕の権利だけ。そのくせ俺のような最悪の、殺人者をのうのうと泳がせて。おかしいねえ!」
禿頭のビール腹が白衣を血に染めて道端に転がっている。
「どんどん発明殺人マシーン。在野の科学者、本当かい? 人を見る目がなかったのが、致命的な失敗よ。あなたにもらったスニーカー、増強されたキック力。なんどもなんども蹴り上げられて、大人の威厳もどこへやら。中年は、血にまみれても中年です。やだねえ、しまらないねえ!」
少年、スクランブル交差点の中央で立ち止まる。昼間だというのに人ひとりいない。
「さて…」
少年の足下に一人の女性がうつぶせに倒れている。
「ここに一つ死体があります。彼女の背中からは包丁の柄が見えており、その刃は心臓にまで達していると思われます。まず彼女が自分で背中に手をまわして突き刺したとは考えにくい。女の力、物理的にもそれは不可能でしょう。これは明らかに他殺です。犯人はいまだ見つかっていません。いや、それ以前に警察が動いていない。これほど明確に人が死んでいるというのにです。警察が動かない以上、犯罪ではない。あなたたちの大好きな完全犯罪の成立です! しかしどうして? 平日の昼間、いちばん人目につくだろうこんな大都会のど真ん中という最も密室とはかけ離れた場所で、最も密室であるような状況が発生している。ふふ、悩んでいますね。私にはこの謎がすでに解けています。さァ、僕からの視聴者のみなさんへの挑戦です。犯人はいったい誰なのか。また、犯人はいかにしてこの完全犯罪を成し遂げたのか。答えはCMのあとです。(カメラ目線で指さしながら)君にこの謎が解けるか」
画面が砂嵐になり何分か続く。
「犯人は……私です。これは簡単ですね。なぜってこの物語のヒロインたる彼女の実存を抹消してしまうことのできるのは、作者をのぞけば、彼女よりも虚構内での位相が上位の私をおいて他ありえませんから。昨晩私は彼女の恋人をかたり、彼女をここへ呼びだした。彼女はまったく疑う様子もなくやってきた、その恋人にぞっこんまいってしまっていましたからね。そして交差点にひとり来るはずのない恋人を待つ彼女を、背後からあらかじめ用意しておいた出刃包丁でぶすり、とこういうわけです。ひどく苦しむものだからこいつの(蝶ネクタイを見せる)麻酔で眠らせてやりました。二度と醒めることのない眠りを眠らせてやったんです。ハハハハ。ああ、おかしい(目尻の涙をぬぐう)。しかしここまで聞いてみなさんは不思議に思うかもしれない。なぜそこまであからさまな殺人でありながら誰にも気づかれていないのか。じつは非常に簡単なのです。奇想天外なトリックを予想されていた方、申し訳ない。我々はこれまでの十億回になんなんとする連載の果てに、日本人口一億二千万人すべてを、あらゆるトリックでもって殺人しつくしてしまったのです! これが目撃者ゼロの真相です。警察も動きようがない。なぜってその構成員すべてが何らかの殺人事件の被害者になって、死んでしまっているんですからね。最後まで残った毎回物語に絡んでくるメインキャラクターたちは私が殺しました(カメラが引いて、交差点の信号の上に小学生三人の死体が乗っているのが画面に写る)。彼女と同じ理由から私が殺さねば死ななかったからです。なるほど、ここまではよくわかった、だが動機は何なのか。ええ、ええ、それを疑問に思うのはもっともです。動機は…あなたたちが一番よくおわかりのはずでしょうに。この日本においていったん語られはじめた虚構は、それが金を生む限りは語られ続けなければならないからです。あなたたちは一億二千万人殺しても飽き足りない。あなたたちは人死にが見たくて見たくてしようがない。(大声で)バカヤロウ! おまえたちのお望みどおりに死んでやろうじゃねえか! (ふところから拳銃を取り出しこめかみにあてる)見てろ、見てろよ…(少年の膝頭が次第にふるえだし、ついには失禁する)ヒヒィ、ヒヒヒヒィ、ヒィ…いやだ、いやだぁっ!」
少年、拳銃を捨てて駆け出す。
「(鼻水と涙で顔面をぐしゃぐしゃにしながら)やだ、やだよぅ、死にたくないよぅ…(後ろを振り返り目を見開く)ぎゃあっ、ぎゃああああっ」
少年の胴が突然まっぷたつになる。吹き出す大量の血。やがて完全に静かになる世界。
以上の内容の原稿が乗った作者の机が実写で大写しになる。
廣井王子(2)
山に囲まれた一軒家。蝉の声。
「ご無沙汰しております、廣井さん」
「おやおや、これは珍しい顔を見ますな。この老人に何のご用ですかな。こんなところに来るまえにお仕事がありますでしょうに」
「いや、これは手厳しい(ハンカチで額の汗をふく)。私たちは今日、廣井さんにお願いがあって参ったのです」
「(聞こえないふうに)まぁまぁ、遠路はるばる暑い中をやってきて下さったことだ。とりあえずお上がりなさいな。日陰に入るだけでずいぶん違うもんですよ。お茶でも一服さしあげましょう」
「田舎の暮らしというのは存外ヒマなものでね。こんなことばかり上手くなってしまった(お茶をすすめる)」
「恐れいります」
「今をときめく一大ゲーム会社のお歴々が、私ごとき老いぼれに何を恐縮することがありましょうや」
「(自分の座っていた座布団を脇にやる)今日はそのことで、お話に参ったのです」
「(目を細めて)ほう」
「単刀直入に申します。廣井さん、あなたに戻っていただきたい」
「(立ち上がり縁側に腰掛ける。ニワトリに餌をやりながら)私は見てのとおり隠居の身ですよ」
「この三年というもの業界内の構図は激変しました。既存のソフトメーカーは軒並み潰れるか合併されるかし、パソコンでいわゆる18禁美少女ゲームを制作していた会社が台頭してきている。これまで築き上げてきた市場ノウハウがまったく通用しないんです。いまやギャルゲーである、ということが売れるための最低条件になってしまっている」
「ほほう、そうなんですか。ははは、世事にはすっかり疎くなってしまった」
「(後ろに控えていた若者が立ち上がる)廣井さん、あなたの魂はまだあきらめていないはずだ! それを証拠に、ご覧なさい(飯櫃のフタを開ける。中にはプレステ2が入っている)」
「(肩越しにちらりと見やって)孫が置いていったんですよ」
「(若者が何かいいつのろうとするのを手で制して)…最後の砦だった大手S社もついに軍門に下りました。見て下さい、先週発売されたS社の最新作『ファイナルファンタジー13』です。キリストの復活をモチーフにしたギャルゲーです。キリストが12歳の幼女で、その使徒たちも全員個性的な美少女だったという設定です。これが今爆発的にヒットしています。S社は時代に同化することで窮状を乗り切ったのです。しかし、我々には方策が見つからない。何本か見よう見まねで出したギャルゲーもすべて一万本と売れていません。社の総力をあげてあと一本作れるかどうか。もう、どうしたらいいかわからんのです。もう、どうしたらいいのか…(畳に涙をこぼす。その視界にすっと影がさす)」
「男がそう簡単に泣くもんじゃねえな」
「(見上げて)廣井さん…」
「(鶏糞で髪を後ろになでつけて、サングラスをかける)見せてみな、おまえたちの企画。おまえたちの必死の最後ッ屁をな!」
「廣井さんの復活だ!」
「(涙声で)は、はいッ! (鞄から紙束を取り出す)どうぞ、これです」
「(表紙を見て眉をしかめる)清少納言伝?」
「はい、大胆な歴史考証で女流作家清少納言の男性遍歴を浮き彫りにする平安恋愛ロマンです。社長自らの企画です。社長は大学時代国文科に所属してらっしゃって、卒論の題材は枕草子だったそうで…うわっ(企画書を顔面に叩きつけられる)」
「ボケ。売る気あんのか。こんなお大尽企画におまえら社運かけてんのか、アァ?」
「し、しかし」
「おまえら何もわかってねえのな。ま、いいや。とりあえずキャラクターの絵を見せてみな。絵だけで売れることってのはあるからよ」
「(鞄から紙束を取り出す)どうぞ、これです」
「(受け取り、見た瞬間に相手の顔面に叩きつける)ボケ。売る気あんのか。なんだ、この細目の白豚は、アァ?」
「げ、厳密な時代考証により平安美人を正確に再現…うわっ(肩を蹴られてひっくり返る)」
「話にならん。顔面の大きさは今の三分の一にしろ。目の大きさは今の五倍…いや、十倍だ」
「馬鹿な! それじゃまったく化け物じゃないですか!」
「リアリティは重要じゃねえんだよ。そのリアルから逃げ出して逃げ出して、その果てにゲームやらアニメやらの虚構へたどりついた連中を相手にすんだぜ? 現実の似姿でありながら、同時に現実の臭いを完全に消さなくちゃダメなんだよ! 小動物やらの目が身体のサイズに比して大きいのはなぜだかわかるか? あれは外敵に対して物理的な反撃手段を持ってねえから、無力なかわいらしさをアピールして、私はあなたに害を加えませんよということをアピールして、相手の敵愾心をそいで攻撃させないようにしてんだよ。これは理屈じゃねえんだ。美少女キャラの目を大きく書くのは、人間が動物だった頃のそういった本能に訴えてるんだ。加えて、相手が無力であるということの実感が、傷つけられることに極度に敏感なおたく連中の精神を安心させるんだよ。目の大きさは単純にその人間に内在する暴力の大きさと反比例してるといっていい。キャラの性格に基づいて目の大きさは変えろ。威圧感を生まない程度にだ。それから、この企画は全部破棄しろ」
「しかし、今から全部練り直していたのでは遅すぎます!」
「ヘッ、そんなせっぱ詰まってから俺ンとこ来やがって(立ち上がると箪笥の引き出しからファイルを取り出す)」
「そ、それは」
「俺が一年前から温めていた企画だ。題して『歌麻呂伝』」
「歌麻呂伝…」
「ふふ、舞台は江戸時代。一人の浮世絵絵師の日常生活を彫刻する…わかるか?」
「(後ろの若者が勢いこんで手をあげる)わかりました! その浮世絵絵師の持つチンポの見事さに毎夜訪れる白人女性たちが『オウ、ウタマーロ』と恍惚の声をあげるという内容ですねッ!」
「はい、アウト。やっぱおまえら負けて当然だわ。東大出て官庁入って権力機構のまっただなかにいるような人間なら白人のデカ女をチンポで蹂躙して征服欲を満たされることもあるかもしれんが、俺達が相手にするのはそんな上等な人間じゃないんだぜ。国の運行に関連する権力機構や企業なんかの経済機構から外れたおたく共を相手にするんだぜ。やつらが必要としているのは自分の優位を前提とした上から下への一方的な愛撫だ。あるいは相手のかわいいだけの女に過去の虐待された自分を投影した自己愛劇だ。設定はこうさ。主人公は浮世絵画家を目指すちょっと気弱で繊細な18歳。ひょんなことから普段は疎遠な祖父から町の長屋を遺産として相続することになる。管理人としてその長屋に訪れてびっくり。なんと住人が全員若い女なんだよ! こいつは売れるぜえ!(両手を広げてみせる)」
「馬鹿な! そんなの非現実的すぎる! 確率論的にありえない!」
「だがある日空から女が降ってきてもうモテモテという話よりはありそうだろう」
「それは比較にすぎませんよ」
「そう、しかし虚構の世界にどっぷりつかった連中にはそれがわからない。同じ車両に毎朝乗り合わせる二人が恋仲になるといったことも現実的にははっきりいって無いんだが、その虚構の持つ『ありそうだ』という部分がやつらのやつら自身を破滅させ続けてきた、やつらをすべての社会機構から外れさせてきた、不都合なことは見えない、盲目な楽観論で構成された頭脳をもしかしてと期待させるのさ」
「しかし、それでは、それでは、まるっきり白痴じゃないですか!」
「あれ、知らなかったの? 白痴なんだよ。ゲームやらアニメやらっていう商売は、システム的に最少人数でまわる、完成してしまった社会における大半の余剰の人員の中の、更に余った社会に不要な人間の不満のガス抜きをするための装置に過ぎないんだよ。精神的なせんずりの手助けとかわんねえんだよ。やつらは期待し続けるのさ。もしかしたらこんなことが次に俺にも起こるかもしれないってな。そして俺達の虚構が与えるわずかの希望にすがって、絶望的な現状に完全に絶望して死んでしまうこともなく無意味に生き続けて、俺達の上にカネを落とし続けるのさ。その無意味な命がつきるまでな。けけけけ」
「(膝の上で拳を握りしめ)私は、私にはそこまで割り切れません…」
「だからおまえらはいつまでたっても三流なんだよ。(黒目と白目が反転した気狂いの記号の目で)せいぜいいい夢見させてやろうぜぇ。やつらの精神とチンポが完全に充足しない程度に満足して、次の作品にもその次の作品にもやつらおたく共が生きている限り永遠に俺達にカネを貢ぎ続けるような、地獄のような夢をよ! ハハハ、アーッハッハッハッハ」
「高須さん」
「(憔悴した顔で振り返り)なんだ」
「我々は、最悪の悪魔と取引をしてしまったのではないでしょうか」
「他にどんな道があったっていうんだ。(自分に言い聞かせるように小声で)これしかなかったんだ。これしかなかった…」
「(遠くから大声で)おぉい、何してんだよ! 早く車まわせよ! 今日は前哨パーティだ! 赤坂で一番高い店を用意させろ! なぁに、すぐに俺が全部取り戻してやるさ! ほっといても可哀想なおたくたちが俺にカネをくれるようになってんだ! いひひひ、 これだからこの商売やめられないぜ!」