猫を起こさないように
<span class="vcard">小鳥猊下</span>
小鳥猊下

おはよう!スパンク

  spank 【動】《【規】【三】-s, 【去分】-ed, 【現】spanking》[1]【他】(1)しりをぴしゃりと打つ, 平手打ちにする.[2]【名】《【複】-s》(1)平手打ち. {【類】slap}
 朝の風景。レースのカーテンを揺らして朝のさわやかな風が室内に吹きこんでいる。棚の上に並べられた愛らしいぬいぐるみの数々。壁には赤いふんどしをしめた毛むくじゃらの男がひきしまった尻を誇示しながら肩越しに振り返り微笑んでいるポスターが貼られている。ベッドの上にはピンクのネグリジェを着た筋骨隆々たる男子が安らかな寝息をたてている。が、おもむろに身体を起こし頬を薔薇色に赤らめながら大きく伸びをする。
 「おはよう!」
 窓をブチ破り、黒タイツに全身を包んだ男が室内に乱入してくる。手にした棍棒で男の顔面を上半身の筋肉に血管の浮くほど力みなぎらせしたたかに打ちすえる。
 「スパンクッ」
 ネグリジェの男子、昏倒してベッドに倒れ込むもすぐに跳ね起きひしゃげた鼻から鮮血を噴出しながら何事もなかったふうで大きく伸びをする。
 「おはよう!」
 天井をブチ破り、黒タイツに全身を包んだ男が室内に乱入してくる。手にした棍棒で男の肛門上部を上半身の筋肉に血管の浮くほど力みなぎらせしたたかに打ちすえる。
 「スパンクッ」
 恍惚の表情で四季折々の花を背負いながら宙を舞うネグリジェの男子。
 場面は変わって、一人の大男と禿げあがった頭の中年男が向かい合っている。突然大男の喉が奇妙な音を立てて鳴ったかと思うとその口から大量の吐瀉物が吐き出される。流れ落ちる吐瀉物を顔面で受け、こぼれたぶんを両手ですくいとりぺちゃぺちゃと舌でなめながら、
 「あなたのゲロを 身体に受けながら」
 中年男、吐瀉物まみれの顔に知性のないものがする薄ら笑いを浮かべる。
 場面は変わって、巨大な浴槽。中にはところどころに赤いものの混じった粘りけのある白い液体が満たされ悪臭を放っている。その傍らでビキニパンツのマッチョが準備体操をしている。突然大声で、
 「膿でッ 心のお・せ・ん・たッ・くッ!」
 言うやいなや頭上で両手をあわせ、頭から浴槽に飛び込む。ひとかきふたかき、満たされた血膿をずるずると飲み干しながらときどき泳ぐ手を休めては全身のあらゆる部位へ表面に浮かぶ正体の知れない半個体状のものをなすりつける。マッチョの顔に浮かぶ恍惚の表情。
 場面は変わって、和風家屋の一室。後ろに掛け軸を背負った構図で熊のような毛むくじゃらの男がひきしまった筋肉にスポーツ刈りのさわやかな青年を膝の上に横抱きに抱いて座っている。おもむろに手を振り上げ、いっさいの手加減のない速度で打ちおろす。
 「ス・パ・ン・ク スパンクッ!」
 打たれたスポーツ刈りの青年、目を乙女のようにうるませ頬は薔薇色に赤らめ恍惚のようすで、
 「大好きよ」
 熊のような毛むくじゃらの男、青年のそぶりにさらに嗜虐をそそられたといったふうに目をギラつかせ再び手を振り上げ容赦なく打ちおろす。
 「ス・パ・ン・ク スパンクッ!」
 打たれたスポーツ刈りの青年、肩越しにうるんだ瞳で毛むくじゃらの男を見上げる。絡みあう二人の視線。夕闇の訪れる室内に時間が止まる。もはや少し離れればお互いの顔すら確認できないほど薄暗い。二つのシルエットがゆっくりと畳の上で重なりあう。
 「二人でひとり」
 バックに流れる軽々しいBGM。番組提供のテロップ。

4th GIG “なんて世の中だ!オナニー好きほど腎虚で早死にをする……!!”

 逃げまどう普通人の三倍程度の肉を常時輸送しなければならない体質の男女たち。その群れの動きにあわせて生ゴミの袋から染みだす汁の臭いをしたもはや視認できるみどり色の大気がゆっくりと移動しはじめる。電線で元気にさえずっていたスズメたちがその大気に巻き込まれたとたんに硬直してまっさかさまに落下、アスファルトの地面に叩きつけられる。
 「キャーッ!」「た、助けてくれぇ!」
 「(1メートルもあるアリクイのような舌で手にしたフィギュアをべろべろとなめまわしながら)ヒャーッハッハ! このブースは占拠した! たった今からここにあるすべてのアイテムは俺たち牙一族のものだ!」
 「(環境団体は真っ先にここを攻撃するべきだといった風情でうずだかく積み上げられた商業向けのキャラクターの裸体やその交接を取り扱った商業目的でない冊子に両手をあわせて高飛び込みの要領で飛び込みながら)うひょぉッ! なんて豊富なせんずりネタなんだ! アニキの見立ては間違いじゃなかったぜ!」
 「(ブースの売り子が着ている破廉恥極まる薄布をはぎとりながら)たりめえよォ! これで当分は俺たちのオナニーライフは安泰だぜ!」
 「(遠くからシルエットで)YOUはCOCK! 俺のチンポ、固くなるゥ」
 「な、なんだありゃ」
 「(夕日をバックに徐々に接近しながら)YOUはCOCK! 愛で――主に二次元を対象とした――チンポ、固くなるゥ」
 「(ブースの売り子が着ていた破廉恥極まる薄布に肉厚のボディをぎゅうぎゅうと押し込みながら)へ、変態だ! 公衆の面前であんな恥ずかしい単語を臆面もなくしゃべるなんてこれはもう最悪の変態に違いないぜ」
 「(顔面の上部と下部をいったん分離したのち、くの字型に誤って再結合させてしまったような歪んだデッサンで)それ以上の狼藉はやめておけ」
 「なんだとこの七曲がりチンポめ! (男の脂肪みなぎるボディを殴りつけるもその弾力に大きくはじきとばされ男子と男子の肛門性愛を主題とした商業目的ではない冊子の山につっこむ)ひィィィ! 肛門を拡張されるゥ! アニキ、アニキぃ!(水に溺れた人のリアクションをする)」
 「(男性のさきばしりを象徴する涙を滝のように流しながら)うぉぉぉぉぉッ! おまえの肛門だけを狸穴やもぐら穴のように惨めに拡張させはしない! 今行くぞ!(後を追って飛び込む)」
 「アニキぃぃぃぃ!(両手を広げる。飛び込んできた兄の先端と待ちかまえる弟の先端がスローモーションで接触する)」
 「あっ…」「あっ…」
 「(二人が薔薇を背負い頬を乙女のように赤らめつつ熱い抱擁をかわしながら男子と男子の肛門性愛を主題とした冊子の海の中へと消えていくのを見ながら)ば、ばかな! あの無敵の殺人兄弟を手玉にとるなんて…!! おまえはいったい何者だ!?」
 「(男に肉厚のボディをしきりと押しつけながら)ただの人間だよ」
 「ひぃッ! た、たのむ、殺さないでくれ」
 「(二重アゴにおたく特有の根拠のない優越感をみなぎらせながら)遅かったようだな。このデブっ腹をはなすと同時におまえの視力はうばわれる」
 「い、いやだ、そんな…!! 現存するすべての女性性を凌駕して俺たち男性自身を三次元的に膨張させるあの隠微な二次元踊りをもう見ることがかなわないなんて、そんなのひどすぎる! これから俺はどうやってオナニーすればいいんだ…(むせび泣く)」
 「オナニーとはイマジネーションだ。それを忘れ二次元美少女の破廉恥踊りを記録した様々の電気的媒体などを優先して購入・使用した自身の愚かさを発射できない欲求不満の中でもだえなげくがいい(男、ゆっくりとデブっ腹を引きはなす)」
 「あひゃぁぁぁぁぁぁッ!(溶暗)」
 「(ケンシロウというよりはむしろ小太りのアミバといった容貌で小鼻をぷくぷくとふくらませながら包帯ぐるぐる巻きの両手を振り回して)…というわけさ」
 「(両足のギプスを天井からつり下げられた養豚場の出荷前の肉を連想させる格好で)なんだか嘘っぽいなぁ。そんな行動力のあるヤツがおたくやってるわけないじゃん。だいたい牙一族ってなんだよ。パクりすぎだよ」
 「(顔全体を石膏で固められくぐもった声で)まぁまぁ、いいじゃないか。それにしても先週はたいへんだったな」
 「(下半身の肉の谷間からブツを探り出し尿瓶につっこむ作業に四苦八苦しながら)まったく。一歩間違えば全員オダブツってところだったからな」
 「(手のひらに拳を打ちつけようとするもデブっ腹に妨げられてできず酸欠の太りすぎた金魚のようにバタバタ暴れながら)しっかしあの野郎め、一度も見舞いに来ないってのはどういうつもりなんだろうな!」
 「まだ俺たちのことを本当の仲間だとは認めていないのさ。…俺たちはあいつにエロを押しつけすぎていたのかもしれない。エロ無しの自己満足的なストーリーもので同人をやるってのも、アリなはずなのにな(なんとなく黙り込む一同)」
 「(小さな金具を手に)ところでこれ、何かな」
 「バカヤロウ! それはベッドの角度を調整するための…」
 中央で突然二つに折れて勢いよく上方向へはねあがるベッド。肉の潰れるにぶい音。サンドイッチ状に屹立するベッドだった物体から流れだす赤い液体。にわかにあわただしさを増す病棟内。”手術中”のランプが暗闇に赤く点灯する。都会のネオンサイン。

to be continued

D.J. FOOD(8)

 「……これが正真正銘、最後の一枚は大阪府在住の小鳥くんからだ! 『こんばんは、D.J. FOODさん。今日は重大な告白をするためにペンを取りました。じつはぼくのチンポは左方向にちょっと冗談ではすまされないほど湾曲しているのですが』YoYoYoYoYoYoYoYo,Yo Men! くたばってしまえ!
 おっと、もうこんな時間だ! それじゃ、またいつの日か、See You!」

D.J. FOOD

 ビルの屋上。空には今にも降り出しそうなぶあつい黒雲。
 「(強風とヘリのローター音にかき消されまいと声をはりあげて)FOODさん! 機材はすべて積み終わりました! スタッフもみんな! 今ならまだ間に合います! 今なら!」
 「(静かだが不思議によくとおる声で)決めたことだ。かまわず行きなさい」
 「(泣きながら)殺されてしまう! FOODさん、殺されてしまいます!」
 「悲しむことはない。すべてはこの日に定められていたのだから」
 「(首を振って)馬鹿な! 誰が、誰が人の生き死にを決めることができるっていうんですか!」
 「……(立てた人差し指を上空へと向け、何事か言う。だが、ローター音に紛れて聞こえない。ヘリが浮揚しはじめる)」
 「(身を乗り出して)FOODさん!」「(涙で顔をぐしゃぐしゃにして)FOODさん!」
 「(穏やかな表情でスタッフの顔を順に見ながら)みんな、ありがとう。よくここまでついてきてくれた。私は君たちのことを誇りに思う。君たちは、私の最高の友人だ」
 「FOODさぁんッ!!(都会の曇天にヘリが遠ざかっていく)」
 「(ヘリの姿が次第に遠ざかり、やがて見えなくなる。背後の扉が土台ごと倒壊する。砂埃の中から人影が現れる。中背の男が一人と、取り囲む黒服の男たち)よくもまぁこれだけ長いあいだ俺たちをたばかり続けてくれたものだ」
 「(ゆっくりと振り返り目を細める)……」
 「こんな廃ビルの屋上で放送を続けていたとはな。いわく最悪の扇動者、いわく神の声。(手にした拳銃の狙いをさだめる)D.J.FOOD、あんたがはじめてメディアに姿を現してから今日までじつに半世紀以上の時間が経過している……いつまでも変わらないままに人々を堕落へと導くおまえは、いったい何者だ?」
 「ただの地方局の一D.J.ですよ」
 「(FOODのすぐ足もとで弾丸が跳躍する)そんなありきたりの言葉で俺をがっかりさせないでくれ…おい(黒服の男たち、一礼すると屋内へと消える)。さァ、これで二人きりだ。腹蔵なく話しあおうじゃないか、山田次郎」
 「……」
 「どうした、マイクが無いと話しにくいか。ではまず俺の話を聞いてもらおうか。あんたは自分を殺す相手のことを事前によく知っておくべきだと思うね。(ちょっと唇を噛んで考え)…そうだな、俺が君のファンだったと言ったら驚くかい。ずっと昔、俺が何も知らないただのガキだった時分、世界とはあんたの言葉を意味していた。自分以外のものに対するあんな熱狂は、あれ以来知らない」
 「(目を伏せて)君は不幸だ」
 「(銃口を油断なく向けたまま)違うな。この世界が不幸なんだ」
 「(顔をあげて)それを贖うために私を殺すのか」
 「そうさ。あんたは世界にとっての父であり、また世界そのものだからだよ。あんたを殺すことで、世界は本来の姿へとたちかえることができる。あんたが創り上げた虚構の世界から離れてな。すべてのメディアは現実を虚構化する力を持つ。だが、あんたのその力は度はずれて強すぎ、現代の脆弱な人々の自我の上にあまりに危険すぎる。この世界のためにあんたの天才に消えてもらいたい」
 「(両手で自身の肩を抱きかかえて)私の持つこんなものが天才だというならそれは恐ろしい。ぼくの自覚するこの程度の領域が天才だというのなら、それはこの上ない絶望だ。それは人間のたどり着ける領域がこの程度までだということを意味しているのだから。私の中には何もないよ。君の求めるようなものは何もない」
 「(銃口を降ろし、うって変わって弱々しく)お願いだからそんなふうに話さないでくれ。あんたのような偉大な才能が何も見えていないことを語らないでくれ。……俺はあんたの持つ虚構を破壊することで革命を成就させなければならないんだ。あんたの確信を破壊することでこの世界すべてを変革しなければならない。だから、そんなふうには話さないでくれ」
 「私ぐらいを殺したところで世界は何も変わらないよ。変わるとすればそれは君だ。君のいう世界とは君自身のことだよ。私を殺した喪失感は君の世界を悲しみへと変質させるだろう。それだけだ。私の死は君以外の人間にとって何の意味も持たないよ。本当に、何も知らなかったんだね…(憐れみの表情で一歩踏み出す)」
 「(飛びすさり、銃口を向ける)言うか、トリックスターめ! 私は他の者たちのようにだまされはしない! (顔を歪め銃口をふるわせて)人の時代にそんな神の言葉は不要なんだ」
 「(立ち止まる)よろしい、すべて充分だ。さぁ、撃ちたまえ。私は解放され、君は永遠にとらわれる。(喉をのけぞらせ、両腕を開く。雲間から光が射し、D.J.FOODのまわりを照らす。銃声が長くビルの谷間にこだまする)」
 「(背中に光を受けて暗い屋内へ戻ってくる。黒服の男たちの一人に拳銃を手渡しながら)今世紀最大の導き手のひとりがいま、死んだ」
 「おおッ!(革命成就への喜びに湧く黒服の男たち)」
 「(両手に顔をうずめて誰にも聞こえないようにひっそりと囁く)わかりはしない。かれは私が無くしたほうの片翼だった。私はかれのことを本当に、本当に愛していたんだ」

Life is just a dream, you know

3rd GIG “レボルーション”

 政府のする少子化対策として、男女の即時的な発情を促しいつでも交尾にうつれるように薄暗く隠微にあつらえられた店内。軽快な音楽にあわせて響く地鳴りのような騒音。
 「どうしたの。いいじゃない、同人即売会なんてどうせ遊びなんでしょ。同じ遊びなら、ほら、こっちのほうが……」
 巨大な画面に表示される矢印に反応して足下に散弾銃を打ち込まれたかのように飛び跳ねる屠殺場の畜生を連想させるデブっぷりの幾人もの青年たち。彼らの顔に浮かぶ粘着質の汗に恍惚とした見苦しい表情。一切の客観性を喪失したその有様はむしろ新興宗教にも似て――
 マンションの一室。窓はビデオテープの山にふさがれ、昼間だというのに室内は薄暗い。様々の一般人には意味をなさない物体に場所を取られ、部屋の中央に身を寄せ合う五人の黙示録的なデブっぷりの青年たち。シューシューという排気音にも似た耳ざわりな呼吸の音。彼らが取り囲む台の上にはすべての男性が持つ願望的な性犯罪を発現させることを目的にしているとしか思えない破廉恥なポーズをとったこの地球上に存在するあらゆる人種を検証しても決して見いだせないだろう種類の髪の色をした婦女子の模型が置かれている。
 「(手垢にまみれた大学ノートに鉛筆を走らせながら)しかし先週は本当に大変だったな」
 「(わかりもしないのに鉛筆を立てて構図をためすがめつしながら)ああ。ヒゲの雇われ店長がエロ同人好きで、学生アルバイトのウェイトレスがデブ専やおい好きだったからよかったようなものの…」
 「(突然立ち上がりさえぎって)やめろ! その話はもうするんじゃねえ!」
 「(涙ぐみながら)ひどいよ…本当にひどい…」
 「(なんとなく二人から目をそらして)すまない。俺たちにはああするしかなかったんだ」
 「(室内に流れる気まずい空気をうち消すようにわざとらしく)さぁ、できたぞ! 見てくれよ(と、大学ノートをみなに向けて広げる。そこには元の題材と似ていなくもないが、奇妙な根本的ゆがみを感じさせる絵が描かれている)」
 「(顔の表面の垢が溶けだして黒く染まった涙をぬぐいながら)わぁ、すごいや、CHINPO! もうトゥハートについてはどのキャラクターも完璧だね!」
 「(大橋巨泉を想起させる黒縁メガネを人差し指でわずかに上下させて)フン…」
 「おい、おまえいま鼻で笑わなかったか?(肉厚の腰を浮かせる)」
 「(二人のあいだに転がるように割って入って)やめとけ!」
 「(腰を浮かせるだけのアクションにフーフー息をきらせながら)いや、言わせてくれ。こいつはこないだの即売会をブッちぎりやがったんだぜ」
 「(大学ノートに描かれた美少女の乳房の下を指でしきりとこすって陰影をつけながら)急な約束が入ったって言ったろう」
 「(素人がする相撲取りのものまねそっくりの声で)ああ。だがその約束の内容については教えてもらってないぜ」
 「(大学ノートに描かれた美少女の股間を指でしきりとこすって陰毛をつけながら)あんたたちには関係ないだろう」
 「大アリなんだよ! なぜならおまえはうちのサークルのエロ絵担当だからだ! おまえは成人指定同人誌からエロ絵を脱落させるという人間として最低のことをやらかしちまったんだ!」
 「やれやれ…(立ち上がろうとするも胴周りにへばりついた肉に邪魔されて何度もスッ転びながら)このさいだから言っておく。あんたらがどう思っているかは知らんが、俺は真剣に同人活動をやる気はまったくない。俺はただマスをかきたいから描く。(へばりついた肉で完全にまっすぐには伸ばすことのできない芋虫のような指で指さして)オーケー?(部屋から出ていく)」
 「あいつめ!(壁を拳で殴りつけようとするも、地肌が見えないほど貼ってあるポスターに気づきあわててひっこめる)」
 「(顔をしかめだんごッ鼻をひくひくさせて)おい、なんだか焦げ臭くないか?」
 「ああ、悪い。たぶん俺の煙草だ」
 「バカヤロウ! 俺のグッズにヤニがついたらどうすんだ! それにこの部屋には引火しやすいものがたくさん…」
 平和そのものを象徴する昼間の住宅街に鳴り響く爆発音。無邪気に遊ぶ子どもたちの上に降り注ぐガラスの破片。母親たちの身も世もない痛切な悲鳴。遠くから近づく消防車と救急車のサイレン。

to be continued

2nd GIG “パッション・ハリケーン”

 ファミリーレストラン奥の一角を我がもの顔に占拠する非人間的なデブっぷりの一団。テーブルの上には気弱そうな青年がほとんど奇形ともいうべきグラマラスな姿態の婦女子の集団に取り囲まれ困惑の表情を浮かべている図の掲載された雑誌や、その他さまざまの一般性に欠ける品々がところ狭しと広げられている。レジの裏で両手に顔をうずめて泣くアルバイトらしいウェイトレスと、それを慰める口髭の雇われ店長。
 「(公共の場でするには不適切な大声で)しっかしよォ、こないだはホント大変だったよなぁ」
 「(どこか均衡の崩れた奇怪な抑揚で)ああ。署長がエロ同人好きじゃなかったら俺たちは今頃どうなっていたことか。ラッキーだったな」
 「(対面に座る肉厚の人物を見ながら)ラッキーと言えば……まったく、どういう心境の変化なんだか」
 「(テーブルの上においた紙に覆いかぶさるように数センチの距離まで顔を近づけてペン走らせながら)別におまえたちのことを認めたわけじゃない。ただ前の連中が気にくわなくなっただけさ」
 「(羽根をむしられたニワトリのように無様に両手を広げて)これだよ!」
 「プルルッ、プルルッ」
 「(非人間的なデブっぷりにオレンジジュースのコップを口元に持っていくのを妨げられて痙攣しながら表面上は平静を装って)電話鳴ってんぜ」
 「プルルッ、プルルッ」
 「(非人間的なデブっぷりに何度も足を組もうとしてできず痙攣しながら表面上は平静を装って)おい、おまえのケータイだよ」
 「(紙の上に覆いかぶさったままで)小学生の乳首の隆起をトーンを使わずに自然かつ官能的に表現するのにいそがしいんだよ……(鳴り続ける携帯電話に手をのばし)もしもし。…ああ、あんたか。ああ。…わかった。それじゃ」
 「プッ」
 「さあってと、(大きくのびをしつつ身体の後ろで手を組もうとしてできず必死の形相で痙攣しながら平静を装って)そろそろ移動しようや」
 「あ、俺つぎはカラオケがいいな。もちろんFourSeasonsの”北へ。”が入ってるとこじゃなきゃイヤだぜ」
 「(無言で立ち上がり)俺はここで抜けさせてもらう」
 「おい、待てよ!(激しく立ち上がり肩をつかむ)」
 「悪いがカードキャプターさくらは本放送をリアルタイムで見ることに決めてるんだ(手を払いのけて店の入り口へと歩き出す)」
 「待てったら! なぁ、CHINPO(本名:上田保椿【うえだやすはる】の名前を逆から訓読みにしたもの。あだ名)からもなんとか言ってやってくれよ」
 「仕方ないさ。あれがヤツの流儀だ(両脇下の黒ずんだTシャツにジーンズの両脇から肉をはみださせて出ていく後ろ姿を見送る)」
 「チッ。まったくつきあいの悪いヤローだぜ…(ひょいとおがむように片手をあげて)ほんじゃ、ごちそうさん」
 「待てよ。誰がおごるって言ったよ」
 「あれ、今日の集まりはCHINPOのおごりじゃないの?」
 「まさか。それに俺は今日一銭も持ってないぜ」
 「なんだって! それじゃ、ここの支払いはいったい…」
 茫然とたちつくし互いに顔を見あわせる非人間的なデブっぷりの四人の青年たち。店内でこれまでの数時間に行われた様々の無意識的反社会活動に業を煮やしたアルバイトのウェイトレスと雇われ店長。遠くから近づくパトカーのサイレン。都会のネオンサイン。

to be continued

1st GIG “エンカウンター”

 タクシーから降りてくる商業目的ではない種類の冊子が底の抜けそうなほどぎっしり詰まった紙袋を両脇に抱えた小太りの男。タクシーの窓から両耳にボール紙で作成した奇ッ怪な飾りをつけ髪の毛を緑に染めた人外の顔面を有する婦女子が手をふっている。露骨な嫌悪の表情をみせる運転手。タクシーが走り去る。小太りの男、マンション入口の人影に気づく。合金製の街灯がはた目にわかるほどひしゃげる非常識なデブっぷりでもたれかかりながら、金髪というよりむしろ黄色の髪をし女物の服に身を包んだ男がたたずんでいる。
 「マルチのコスプレか。なかなか洒落た女とつきあってるじゃないか」
 「誰だ、おまえ」
 「今日の即売会、見せてもらったぜ(男の足元に異様にデフォルメされた人体の掲載された商業目的ではない冊子を投げ出す)」
 「(マンション脇の繁みから異様にレンズの突出したカメラとともに出現して)すげえよ、おまえのエロ絵はサイコーだ」
 「(男の背後のマンホールから汚水にまみれて出現して)だが、惜しいことに奴らではおまえのエロ絵を生かしきれていない」
 「(マンションの屋上から自由落下、アスファルトの路面で二三度バウンドしてから立ち上がり)おまえのエロ絵には俺たちのシナリオがベストだ」
 「そういうことだ。(無酸素運動を数十分も続けたような荒い息をしながら体のあちこちの部位から若干みどり色がかった煙を絶えず噴出しながら歩みより、男の上着のポケットにフロッピーディスクをねじこむ)よかったら読んでみてくれ。俺たちの作品だ」
 「……(小太りの男、そのまま四人の脇を通り過ぎマンションへと入っていく。と、玄関ホールに設置されたゴミ箱にフロッピーディスクを投げ捨てる)」
 「おい、待てよ、てめえ!(激昂して駆け寄り、男の胸ぐらをつかむ)」
 「残念だが俺の愛機はマックなんでね。それに、俺は遊びでおたくをやっているわけじゃない」
 「なんだと。俺たちのおたくライフが遊びだとでもいうのかよ!(握りしめた右こぶしをふりあげる)」
 「(後ろからそのこぶしをつかんで)やめとけ」
 「でもよォ!」
 「(小太りの男を見ながら)ひとつだけ言っておく。俺たちはちょっと自意識の高い時間あまりの学生や無職の人間が自身の精神的疾患に気のつかないまま手なぐさみにやるような、職を得るなどして社会に許容された瞬間に卒業できてしまうような、そんな中途半端なおたくっぷりじゃないつもりだ。俺たちは真剣なんだ。だからおまえも真剣に考えてみてくれ」
 「フッ。(きびすを返し歩み去ろうとする。が、振り返り)そうそう、さっきのあの女だがな。あれはマルチじゃないぜ。パーマン四号だ(男が言い終わると同時にエレベーターの扉が閉まる)」
 「なんだって? あれはパーやんだったっていうのか!? バカな…!!」
 茫然とたちつくす異様な臭気を発する非常識なデブっぷりの四人の青年たち。様々の事件で過敏になった近所住人たちの不審のまなざし。遠くから近づくパトカーのサイレン。都会のネオンサイン。

to be continued

虚構ダイアリー

 「(軽快な音楽とともに”nWo”のロゴが流れる)ニュース・ワールド・オーダーの時間です。さて、全米を恐怖と混乱と深い悲しみの渦へと巻き込んだビルバイン高校銃乱射事件ですが、その後犯人の高校生二人がこの最悪の計画を立案するにあたり参考にしたのではないかと思われる映像が発見されました。まずはご覧下さい。(画面が切り替わる。上品なバーのさざめき。突然裸の男が扉を蹴破って闖入し、人々を銃の形に折り曲げた指でもって次々となぎ倒していく)これは小鳥猊下を名乗る日本人の主演する『虚構ダイアリー』の一部です。この映像はインターネット上のウェブサイトにアップロードされており、誰でも閲覧することが可能な状態にありました。今回の事件の犯行の手口と極めて類似する内容です」
 「うわ、この男すごい包茎やん。うちの小学生の息子でもここまではひどないで……(眼鏡を取り外し眉根を押しもみながら)いや、まったくひどいものです。このような、十代のまだ心の成熟しない少年たちに直接に悪い影響を与えるようなものが垂れ流しにされていたなんて、まったく恐ろしいことです。一日も早いインターネットの法規制化を望みますね」
 「やっべえなぁ。俺んとこのサイト、ここからリンク張ってもらってたんだよなぁ。まさかバレてねえよなぁ……いや、こういったサイト群に一方的に責任を求めるのは正しいやり方ではないでしょう。かれらだって、その生育史において得た何らかの負の要因に無意識的に動かされてやってしまったのだとも考えられる。見方を変えるなら、かれらだって被害者だと言うことができると思います。現代社会と教育のね」
 「せやけどこのキャスターでかいチチしとんなぁ。ほんまメロンみたいにでかいチチしとんなぁ。あれが永遠に俺のものにならへんのやと思うと欲情より先に憎しみがわいてくるで……(指でテーブルを神経そうにコツコツ叩きながら)なにを寝ぼけたこと言ってんですか。実際被害を受けた人間の家族とその関係者のことを考えてみなさいよ。死んだ人もいるんですよ。(急に声をあらげて)だいたいだねえ、幼児期の問題とか生育史とか、そんなのは本当のところ人間の性格の在り方に全然関係なんかないんだ。そういうのは目に見えないからってどうにも最終的な証明がならないからいつまでも消えずに残っているだけで、前世紀からある犯罪者擁護のための寝言に過ぎないんだよ。せいぜいが弁護士の使う技術・方便に過ぎないんだよ。ホームページなんて作るやつはそもそも現実に居場所のない暗いおたく野郎で、先天的に脳に生物学上の欠陥を抱えた一種の不倶者なんだから、どっか郊外の広い野ッ原にでも集めてガスかなんかで息の根を止めるか、それじゃ不細工な肉がたくさん残って見栄えが悪いってんなら、ナパーム弾かそんなもので跡形の無くなるまで焼いてやればいいんだ。単純なことだ、馬鹿馬鹿しい。いつまでこんなことで議論をして限られた時間を無駄にするつもりなんだ。こんなのは問題にすらならないよ(両手を広げるジェスチャーをする)」
 「(激昂して立ち上がり)ホームページは文化ですよ! あんたぐらいの電波を喰いものにしている似非評論家に何がわかるっていうんだ! 絶対に反撃の恐れのない対象にしか攻撃の穂先を向けない最低の卑怯者め! おまえみたいな顔の人間は毎夜エロサイトを巡って最近の安価な大容量ハードディスクがぱんぱんになるほどに婦女が様々の現実の対象と交接する類の画像を収集しまくっているに違いないのだ! この過剰色欲者め!」
 「(立ち上がり相手の胸ぐらをつかむ)なんだと! おまえこそ俺の人気のせいで仕事がまったくまわってこない妬みをバネにホームページを作成し、狭い狭いコミュニティで若干有名になりお山の大将きどりだったりするんだろう! だいたいあのような時間をもてあました学生や無職や人格破産者といった社会の底辺層の形成する集まりに、社会の一線で活躍しているまっとうな人間がなぐり込んでいけば勝つのは当たり前じゃないか! それをおまえの実力と勘違いするんじゃないよ!」
 「(騒然となるスタジオを尻目に冷静に)さて、それではもう一度問題の映像をご覧いただきましょう。(画面が切り替わる。上品なバーのさざめき。突然裸の男が扉を蹴破って闖入し、人々を銃の形に折り曲げた指でもって次々となぎ倒していく)以上、再び『虚構ダイアリー』よりの映像でした。お二方、何か改めてお気づきになった点などはありませんでしょうか」
 「(乱れた頭髪とヒビの入った眼鏡を直しながら吐き捨てるように)包茎だよ、包茎。この男、包茎じゃねえか。それじゃ犯罪もおこすよな」
 「(乱れたスーツとネクタイを直しながら吐き捨てるように)まったくだ。その点については同意するよ。包茎・無職・ホームページの三重苦じゃね。普通の人間ならとうに発狂するか、自殺するかしてるね」
 「(冷静に)この人物は犯罪の原因になったと思われる映像を作成しただけで、犯罪行為の事実があったというわけではありません」
 「(ぎらぎらした目で)いや! それはもう遅かれ早かれだ。間違いない。オフ会で半径50メートルの間近にまで接近・遭遇し、そこから聞こえないようなか細い声で二度も名前を呼ばわったほどの親密な関係を持つ俺が言うのだ、間違いない」
 「(ぎらぎらした目で)まったくだ。それはもう痴漢行為現行犯逮捕と同じくらい間違いがない」
 「(時計にちらりと目をやり)時間もなくなってまいりました。それではお二人に今回の事件について総括していただきましょう」
 「(ぎらぎらした好色な目で)ずばり言って、あなたのメロン状に突き出したボインちゃんは狼男にとっての満月のように青少年の野性に強く激しく訴えかけているのではないかと私は恐れている。君、我々はネット上のあるかないかわからないような幻影を追うよりも、眼前のこの巨悪をこそ打倒せねばならないのではないか」
 「(ぎらぎらした好色な目で)ずばり言って、その点については同意します。(立ち上がり拳を振り上げて)女性ニュースキャスターのタイトなスーツに厳しく束縛されたボインちゃんは青少年性犯罪の抑止力でこそあれ、それを促進するものであっていいはずがない! (拳を前面に突き出し)違いますか! わ、私が何か間違ったことを言っているとでもいうのか!」
 「(椅子を蹴って立ち上がり)その通りだ! 我々はこの最悪の犯罪要因をみすみす野放しにしておくわけにはいかない! 断固没収である! 没収、没収ゥゥゥ!(心もち開いた両手を開いたり閉じたりしながらじりじりとキャスターとの間合いをつめる)」
 「そうだ、その通りだ! ふふふ、君との間には大きな誤解があったようだ。こんな興奮は学生運動で警官の後頭部を棍棒でもって強打したとき以来初めてのことだよ。粛正、粛正ィィィ!(心もち開いた両手を開いたり閉じたりしながらじりじりとキャスターとの間合いをつめる)」
 「(二人の中年に包囲の輪をせばめられながら冷静に)意外な結論をみた今回の討論ですが、我々にはもはやそれを追試するだけの時間は残されていません。今日番組をご覧になって下さったみなさまの今後の人生の宿題となさってくれれば我々にとってこれにまさる幸いはありません。お別れの時間です。それでは、来週のこの時間まで。さようなら。あ。いやん、いやぁん」

大阪オフ始末書

 私はつねづね思ってきた。ホームページ所持者たちが現実に会合を行いその様子を報告としてアップするような場合、なぜあのような過剰に躁的な、過剰に荒唐無稽な、過剰に虚偽に満ちた――たとえば自宅からもってきたマシンガンで列席者を虐殺とか(銃刀法により厳しく民間への武器の流出を制限しているこの国においてホームページを作る程度の積極性をしか持たない彼ないし彼女がそのようなものを入手できる可能性は限りなくゼロに近いし、よしんばそれが本当のことであるにしても、大量殺人を行った彼ないし彼女が世界に名だたる我が国の警察の包囲の目を逃れ無事自宅にたどり着きパソコンを使ってのうのうとホームページを更新できるなど、まったく絵空事でしかない)、身長5メートルもあるような巨体の大男に(生物学的見地からもこのような骨格の直立歩行生物がこの惑星の重力下において発生できる確率を私は信じない)トイレで肛門を陵辱されたとか(ネット上において散見するホモセクシャリティについてはコンピュータ人口における男女比率の問題を想起させるが、実際のところこれは心理学的にみて肛門期に問題を有しておる青年が彼らの母親に本来の対象を持つ憎悪が女性一般に転移した結果の事象ではないかと推測する。これについては近々誌上に論文を発表するつもりだ)の記述がそれだ――ものになるのだろうか。その理由はどんな種類の真実にもためらわず目を向ける真摯さをわずかにでも持つ者には明白である。なぜならば、ホームページとは現実に存在する様々な負の要因の反作用として生まれてくるものだからである。つまりそれらは、彼ないし彼女の中で本来的に相容れないものとして処理されている自身の現実と自身の虚構がせめぎあう結果として生まれてくるひずみであると推定することができる。
 私は私の中にある妄想や、本当の自分はこうあって欲しいといった願望が、現実にこのようにある私という実存と切り離して考えることのできるものでは決してないことをすでに知っている。私のホームページがここにこうしてあるのも、私という惨めで不完全な人間がこの無慈悲な荒々しい現実の中で、個人の側からの何の入力も受けつけないように見える現実の中で、真に肉体的な意味で生きているからこそであることを私は実感しているのだ。だから私は現実を、起こったことをありのままに彫刻することを恐れない。それは私の連綿と続く意味のないように思える人生の先端において、その連続の結果として発生した事件であるからだ。私は一切の虚飾を廃し、事実のみを記そうと思う。 さて、では諸君にこのレポートのフォーマットについての理解を最初に与えたい。テレビに代表される様々のメディアが一秒の隙間もなく映像や音声を流し続ける現代に顕著な精神症に沈黙状態への脅迫的な忌避があげられるだろう。現代の対人関係において確かに存在するが、具体的な言及の難しいそれについて私は今回のレポートにおいて大胆に迫ろうと思う。以下私が”…”と表記した場合、それは現実的に5秒以内の沈黙が存在したことを意味する。以下私が”……”と表記した場合、それは現実的に6秒以上10秒以内の沈黙が存在したことを意味する。さて、では次の場合はどうだろうか。A「あ………」B「私は」。これは発話者Aの”あ”という母音の発声直後から発話者Bの発話まで10秒以上15秒以内の沈黙の時間が経過したことを意味している。これを理解されたい。
 用意はよろしいか? それでは始めよう。
  大阪駅中央口噴水前。
 A「………………」
 B「………………」
 A「………………」
 B「………………」
 A「あ……………」
 B「………………」
 A「あの…………」
 B「…はい?」
 A「あ、いや…」
 B「……×××さん、ですか?」
 A「はい! ぼくが、が(咳きこむ)、×××です」
 B「ぼく、××」
 A「…えっと……」
 B「………」
 A「…こちらの方は?」
 B「ぼく、のサイトのファンの女性です」
 C「どうも」
 A「あっ…………どうも」
 B「………………」
 A「………………」
 B「………………」
 A「………………」
 C「ふぁ(あくび)」
 A「あ。ど、どこか移動しましょうか」
 B「そうですね」
 A「…あ…どこにしましょう」
 B「ぼく、あんまり大阪知らないんですよ」
 A「あ、そうか、あ、そうか……えっと…」
 C「ふぁ(あくび)」
 A「じゃ、あの、適当な喫茶店でも、あの、行きましょう」
  大阪駅付近の喫茶店。
 A「………………」
 B「(鞄の口を開いて)これ、ぼくが持っ」
 店員「ご注文はおきまりですかぁ?」
 A「ええっと……(二人を見る)」
 C「(煙草を取り出しながら)ブレンド」
 A「あ……ぼくもそれで」
 B「……あの……ぼく、お金無い…」
 A「え…………」
 店員「…(しきりと靴底をコツコツいわせる)」
 C「ふぁ(あくび)」
 A「あ……ぼくが……あの…払います…」
 B「え…………ありがとうございます」
 A「……いや」
 C「ふぁ(あくび)」
 店員「…(無言で立ち去る)」
 A「………………」
 B「………………」
 A「………………」
 B「あ、おみやげ(鞄から取り出す)」
 A「あ、(中身を見て困ったような顔で)…ありがとう」
 B「いや、そんな」
 A「………………」
 B「………………」
 C「ふぁ(あくび)」
 店員「…(無言でコーヒーを置く)」
 A「…(救われた表情でコーヒーに手をのばす)」
 B「……熱ッ………」
 C「…(煙草に火をつける)」
 A「………………」
 B「………………」
 A「…(椅子から尻を持ち上げて聞こえないように放屁する)」
 B「………………」
 C「ふぁ(あくび)」
 A「(音を立ててカップをおいて)あの!」
 B「(びくりと身体をふるわせて)…なんでしょう?」
 A「あの、(異常な早口で)あなたのサイトはとても面白いと思う」
 B「……ごめん、ちょっと聞こえなかった」
 A「(真っ赤になって)あ、なんでも……」
 B「………………」
 A「………………」
 B「…(空になったカップにスプーンで砂糖を移す作業に没頭)」
 C「ふぁ(あくび)」
 A「あの!」
 B「(びくりと身体をふるわせて)…なんでしょう?」
 A「…出ませんか?」
 C「…(荷物を取り上げるとさっさと店をでる)」
 B「(泣きそうな顔で)あ……そうですね」
 A「(あわてて)出ましょう、出ましょう」
 店員「お客さん!」
 A「(びくりと身体をふるわせて)…なんですか?」
 店員「(不機嫌な様子で)お金」
 A「あれ、あ、(独り言のように)そうか……そうだよね」
 B「………………」
 C「…(店の外で煙草をふかしている)」
  観覧車下広場。
 A「……えっと。どうしましょう」
 B「……ぼく、大阪のこと知らないから……」
 A「あれ、あ、(独り言のように)そうか……そうだよね」
 B「………………」
 A「………………」
 C「ふぁ(あくび)」
 A「あ、あ! 歩きましょう!」
 B「……歩く……んですか?」
 A「(泣きそうな顔で)はい、歩くんです」
 B「………………」
 C「はぁ(ため息)」
 A「じゃ…………」
 B「………………」
  大阪駅周辺。
 A「………………」
 B「………………」
 A「………………」
 B「………………」
 C「…(煙草に火をつける)」
 A「………………」
 B「………………」
 A「………………」
 B「………………」
 C「ふぁ(あくび)」
 A「あ、あの!」
 B「(びくりと身体をふるわせて)…なんでしょう?」
 A「(早口で)××さんはどうしてサイトを作ろうと思ったんですか」
 B「……え……と……寂しかったから…」
 A「(困った顔で)あ、あ、奇遇だなぁ! ぼくも、も(咳きこむ)、そうなんです」
 C「…(煙草を取り出しながら顔を露骨にしかめる)」
 B「……へえ……」
 A「………………」
 B「………………」
 A「………あ……(独り言のように)大阪駅」
 C「…(舌打ちする)」
  大阪駅東口。
 A「……今日は……あの……会えて嬉しかったです」
 B「(びっくりした顔で)え、あ、もう…ですか?」
 A「(半笑いで)え、あ、まだ…ですか?」
 B「(うつむいて目をそらして)…ぼくも、嬉しかったです…」
 C「…最低(低くつぶやいて肩を怒らせながら雑踏の中に消える)」
 B「(泣きそうな顔で)あ、ああっ……」
 A「………………」
 B「………………」
 A「………………」
 B「………………」
 A「………………」
 B「………………」
 A「……あの、じゃ」
 B「(気の抜けた声で)…じゃ」
 A「(遠ざかる背中に)あの! ネットで!」
 B「…(振り返らず無言で立ち去る)」
 A「………………」
 4月25日の全できごと終了。

Mr.オナニー

 「(扉をちょうつがいごと蹴破って)賢治ちゃん、お夜食をもってきたわ。勉強ははかどってるかしら」
 「(椅子ごと真後ろにぶっ倒れて)うおあッ! ババア、部屋に入るときはちゃんとノックしろっていってんだろうが!」
 「(不気味に緑色の煙をあげる夜食の盆を取り落として)まあっ! なんなのそのむきだしの下半身の先端にティッシュペーパーをはりつけ、アヌスに乾電池を突き刺した人間のオスがとりうる最も間の抜けた姿は! ま、まさかあなた、今まで」
 「(うろたえて)バ、バカヤロウ、何勘違いしてんだよ、何勝手な想像してんだよ…あ、おい」
 「この教科書とノートの間にある扇情的なピンクをした表紙の破廉恥な雑誌はいったい…あなたまさか今までこっそりオ」
 「(全裸にマスクの男が天井を突き破って闖入してくる)奥さぁんッ!」
 「きゃああっ! 春先だからといってこれはあんまり唐突すぎるわ!」
 「(母親と賢治の間に立ちふさがりながら)さぁ、賢治くん。私が来たからにはもう安心だ。(目をのぞきこんで)誰にも君の優雅なオナニーライフを邪魔だてさせはしない!」
 「あ、あなたは……」
 「私か。私の名前は(流れだす勇壮な音楽。両手を前面に突き出し順番に5本・7本・2本と指を立ててみせる)オ・ナ・ニーッ! 人は私をMr.オナニーと呼ぶ!(宣言とともに背景がショッキングピンクとどどめ色で交互に激しく点滅する)」
 「(鼻息荒く)Mr.オナニーだかなんだか知らないけど、これは家庭の問題です! 賢治ちゃん、あなたはオナニーなんて馬鹿なことはしなくていいのよ。ほら、母さんが相手をしてあげるから…邪魔よ、あなた邪魔なのよォォォォ! ブフーッ」
 「ああっ、アザラシをも圧死させる母さんの200キロの巨体が軽やかに宙を舞い、Mr.オナニーに襲いかかったぞ!」
 「グワシャッ(Mr.オナニー、遙か上空まではねあげられ頭から無防備に落下する)」
 「ブフーッ、賢治ぢゃぁぁぁぁん」
 「(部屋の隅で膝を抱えてふるえながら)口ではどんなかっこいいこと言ったって、どだい初代シベリア全生物無差別級格闘王者の母さんにかなうわけがなかったんだ…ああ、僕は母さんに捧げるのか。こんなことになるのがわかっていたら、もっと積極的に青少年の匿名性をかさに着た生きざまで軽犯罪などをいくつか犯しておくのだった……」
 「(瓦礫の中から立ち上がりながら)賢治くん、あきらめてはだめだ」
 「み、Mr.オナニー! だめだよ、立ち上がっちゃ! あなたの実力では母さんには到底勝てっこないんだ!」
 「だいじょうぶ、足りないぶんは…(爽やかに白い歯をみせて)チンポでおぎなえばいい!」
 「(下半身を蜘蛛のように誇示しながら)ブフーッ、チンポですって!? チンポが何だっていうのさ! しょせんチンポはヴァギナに隷属する運命なのよ! ブフーッ(突進する)」
 「ああ、母さんの言うとおりだ。チンポは絶対にヴァギナには勝利できないようになっているんだ、そういうふうにできているんだ(絶望的に両手で顔を覆う)」
 「(迫り来る600キロの巨体に拳を握りしめながら)女よ、言っておく! チンポを笑うものは…(腰を落としてかまえる)チンポに泣くのだ! 今だ、必殺オナニーパンチ!」
 「SMAAAAAAAAAAAAAAAAASH!」
 「ああっ! 怒り狂ったアフリカ象の突撃をも食い止める母さんの1トンの巨体がMr.オナニーの細腕から繰り出されたパンチに吹き飛んだぞ! Mr.オナニーの繰り出したパンチと吹き飛ぶ母さんの間に挿入された書き文字の擬音が両者のそれぞれの状態に存在する暴力的な因果関係をうち消しており、社会的配慮もばっちりだ!」
 「ば、ばかな、たかがチンポごときが…(がくりと首をたれる)」
 「Mr.オナニー、Mr.オナニー!(泣きながら駆け寄る)」
 「(満身創痍の様子で)ふふ、賢治くん、わかってくれたかい。唯一信じる心が、君たちのオナニーを救うのだということを」
 「うん、うん! これからはぼくはあんな自室に引きこもって鍵をかけてするこの世界の原罪をすべて背負ったような後ろめたさではなく、公衆の面前でどうどうとチンポをぶっかくよ!」
 「(優しく目を細めて頭を撫でる)そうだ、その意気だ。私はもう行かねばならない。この世界のオナニーはまだまだ危機に瀕している…賢治くん、いつもチンポを信じる心を忘れないように! さらばだ!」
 「(空のかなたへ飛んでいく姿に手を振りながら)ありがとう、Mr.オナニー! 素晴らしいオナニーをありがとう!」
 「(雲の谷間を全裸で飛行しながらカメラ目線で)テレビをご覧になっているみなさん、オナニーは次世代を担うクリーンなエネルギーです。どうぞ家族のかた、親戚のかた、ご近所のかたに安心しておすすめ下さい。それでは、グッドオナニー!(空の向こうに光となって消える)」

モジャ公

 「(全身を覆う体毛に櫛をつかいながら)あいた、あいた。なんでワシの体毛はこんな一本のうちで先から根本までワカメみたく幅が一定でなかったり波うってたりするんや。いたたたた、いたい、いたい」
 「ぼき」
 「ありゃ、また櫛ダメになってもうたがな。毎月のストレートパーマ代も馬鹿にならんで、しかし。(煙草に火をつける)フーッ…手持ちも寂しなってきたし、そろそろまた二三人宇宙マフィアにメスガキをさばかんならんな。魔羅夫に言うて連れてきてもらうか…」
 「おぉうい、モジャ公、モジャ公~」
 「(煙草をもみ消して)おう、ちょうどええところに来た。魔羅夫、おまえの友だちの女の子を紹介してくれへんか。なぁに、二三人でええんや」
 「ええっ、またかい。先週紹介したばかりじゃないか」
 「ええやんけ。友だちはいくらおっても困ることはあらへん。それに俺、地球人となかよなりたいんや。国際化なんてもう古いで、これからは宇宙と交流する時代や。そう言うて頭の弱いのをな。な」
 「そうだ、それどころじゃないんだ、たいへんなんだよ、SFクラブ(少し不倫クラブ)存続の危機なんだ。唯一の部員だった未来ちゃんが部活動の一環としてはじめた数学科の水口先生とのちょっとした火遊びに本気で燃え上がってしまったんだ。どうしよう、モジャ公」
 「(煙草に火をつけて)なんや、つまらん。そりゃおまえのチンポに魅力が無かったいうだけのことやで。あきらめ、あきらめえ」
 「わかってる、わかってるよ、そのくらいのことは。うう、ぼくはなんて無力なんだ。ぼくのチンポはなぜ他のクラスメートと違う形状をしているんだ(つっぷしてむせび泣く)」
 「しょうもないのぉ…おい、俺の目を見てみい」
 「(魔羅夫、涙に濡れた顔をあげる。そこには不気味な色に明滅する光を宿したモジャ公の両目がある)な、なに…あ、頭が…視界が狭窄する…脳味噌の右半分が冷たくなって…血の気が引いた両手足が痺れる…頭が痛い…頭が割れるように痛い…うげ、げえええ(嘔吐する)」
 「どや、気分は」
 「(吐瀉物の中であおむけになって)最悪…最悪だよ…現実が遠い…もうなんでもいい…全部どうでもいい…なんなの、これ…」
 「おまえの脳味噌は特殊な出来上がりなんや。脳波の矩形が一般人と違うんや」
 「それってぼくの頭がおかしいってことじゃないのか…チ、チンポだけじゃなかったなんて…」
 「違う。おまえは選ばれたんや。おまえは選ばれた人間なんや」
 「ぼくが…?」
 「そや。『ぼくは選ばれた人間です』、繰り返してみい」
 「(弱々しく)ぼくは…選ばれた人間です」
 「もっと強くや」
 「ぼくは、選ばれた人間です」
 「もっと、もっとや! もっと強く言うてみい!」
 「ぼくは選ばれた人間です! ぼくは選ばれた人間です! ぼくは選ばれた人間です!」
 「どや。どんな感じや」
 「不思議だ…ぼくは今までなんでこんな下等種の群の中で自分をつまらぬものと劣等感を抱いてきたんだろう…ぼくは優れている、ぼくにはやつらの上に行使することのできるあらゆる権利がある。なぜならぼくは選ばれた人間だからだ! ハハハ、ハハハハハハハ(気狂いの目で哄笑する)」
 「おいおい、どこ行くねん」
 「なぁに、あの”枯れ枝”水口から未来を引き剥がしにいくのさ。(戸口に手をかけたまま唇の端を歪めて振り返り)未来には俺の本当の価値を見抜けなかった罰として痛い目をみてもらうつもりだ。やつが馬鹿にした俺の男性自身で存分にね!」
 「ほどほどにしとけよ。あ、それとおまえの女友だちをな」
 「わかってる、わかってる。二三人なんて眠たいこと言うなよ、五十人も連れて帰ってやるぜ。楽しみにチンポおっ立てて待ってな(階段を降りる音がする。入れ替わりに女性が部屋に入ってくる)」
 「なんだったのかしら、今の魔羅夫、ようすがおかしかったわ。大丈夫かしら」
 「(あわてて煙草をもみ消し、灰皿を後ろに隠す)あっ、奥さん、えらいすんまへん」
 「ねえ、モジャ公、魔羅夫がどうしたのか知らないかしら?」
 「いやぁ、なんて言うんでしょう、かれも男の子ですさかいに。いろいろな肉体的要因から猛々しい気持ちになることもあるんやないでしょうか」
 「(頬に手をあてて)そういうものかしら。母親ってこういうときに弱いわよね…」
 「そんな深刻に考えんほうがええんちゃいますやろか。時期やと思います」
 「そうね。そうよね。(うるんだ瞳で)…モジャ公、いつもありがとうね」
 「(身体の前で両手をふって)何をおっしゃいますやら! この無駄飯喰いには過ぎたお言葉ですわ! ボクも奥さんの助けになれるなら嬉しいなぁていつも思っとります!」
 「うふふ、ありがとう。物騒な世の中だからモジャ公のような頼れる下宿人がいると安心するわ。先月も魔羅夫の通ってる小学校の女の子が二人失踪したんですって。これで十人よ。女の子ばかり…うちは男の子だからいいけど、どうにもぞっとしないわ…」
 「(胸を反らせて)安心して下さい、奥さん。ボクがおりますから。たとえ何が来てもおいかえしてやりますよ(空中をパンチで叩く真似をする)」
 「うん、そうね。(顔を近づけて囁くように)それじゃ、今夜…ね? 待ってるわ…(部屋から出ていく)」
 「(煙草を取り出して火をつける)フーッ…それにしてもなんでワシの体毛はこんな一本のうちで先から根本までワカメみたく幅が一定でなかったり波うってたりするんやろ。なんでや…」