猫を起こさないように
小噺
小噺

再録「nWo名作ツイート劇場vol.3(2010.10)」

 あー、テステス。マイクテス。

 貴様ら、初老の男性が誇らしげに「定年を迎えるまで一日も欠かしませんでした」と宣言するが如く日々俺を舐めておるのか! 「ねえ、今月ピンチなんだけど、おカネ貸してくんない?」「えーっ、またなのぉ」「絶対返すからさあ」「もーっ、ほんとにこれが最後だよ?」と甘い声で俺に言わせんばかりか!

 何より腹立たしいのは、軽音楽を主題とした部活動アニメに関する先日のツイートの件である! あれだけ俺を時流へおもねらせておきながら、貴様らは相変わらず苛められるクラスメートを取り囲む薄ら笑いの青春群像か!

 それとも、あまりに俺のツイーティングがハイレベル過ぎたため、お前たちの薄まった精を主題とした知能では理解できなかったというのか! よし、貴様らに解説してやろう! いや、解説させて下さい!

 「わかったぞ……!! HTTとは、Humanity Terminated by Totalism……つまり、報道しない自由を振りかざすマスコミによる全体主義的報道管制に圧殺された、我々の人間性のことを表していたんだよ!」「な、なんだってーー!!」

 見よ、この凄みを! 凡百のネット耽溺者ならば、HTTからまず即座にHTTPを連想し、Pの部分を”Penis(陰茎)”か”Pedophilia(小児性愛)”か”Peropero(ぺろぺろ)”へ改変した段階で満足し、すべてやりきった感をだらしなく発散しながらツイートしたことだろう!

 おお、つまりは「放課後ティータイムぺろぺろ」といった無様さにゃん!

 それにひきかえ、俺のツイーティングは欠陥言語でありながら数だけは一人前にそろった英語とやらの母語話者にも配慮してあるし、かつ、HTTの正体に対する”Profiling(プロファイリング)”の裏へ”Pedophiling(ペドファイリング)”という揶揄を含ませておるのだ!

 なんという読解能力にチャレンジなさっているフォロワーどもであることか! それもこれも、俺のツイート偏差値が高すぎるのが災いしておるのだ! こうなったら、ツイート偏差値を下げるしか他に方法はあるまい!

 (軽く開いた両手を腰へ、膝を合わせて内股に構えて)呼ォォォォ……ッ!!(両端を絞った大小の楕円が、男のシルエットを覆うように光線で描き出される。縦の線が楕円を等分に割ると、銅鑼の音とともに鞭毛状の線が外縁を取り囲む)

 (段ボールを鼻に装着した外人が額から一条の汗を垂らして)41、40、39……下ガッテユク! ゲイカのツイート偏差値ガスゴイイキオイデ下ガッテユクネ!

 (入道雲状パーマの女性、腕をもみしぼって)35、34、33……もうやめて、それ以上やったら、猊下に戻れなくなってしまう! ああッ、あなたは愛しすぎる……どうして、(すすり泣きつつ)どうして低い方に合わせる必要があるの……!!

 (男、先ほどのマークと同じ左目をして)この世はリツイートズラ! リツイートされんツイートにゃ、何も価値もねえズラ!

 (無音)

 「ぐわーっ! スラックスの股間がまるで生き物みたいに!」

 「ペニペニーっ! 怪人ペニス男さまの股間のもりあがりはだれにも見切れんペニ!」

 「くそ、もりあがりの出どころはわかっているのに、かわせないなんて」

 「フフフ、1日100回股間をもりあげることができるオナニストならだれでもできる芸当ペニ」

 「うう、わたしの負けです。降参のしるしにこのジーンズをどうぞ」

 「殊勝な心がけペニ。うむ、なかなかの履き心地ペニ」

 「ひっかかったな! おまえの負けだ、怪人ペニス男!」

 「なにを言っているペニか、かえりうちにして……ううっ、デニム生地のスリムジーンズでは股間がテントを張れんペニ! これをねらっていたペニか!」

 「くらえ、必殺・ポロリ落とし!」

 「うわーっ、きれいに出たペニーっ! かんぜんに負けたペニーっ!」

 おわり(制作・著作 NWO)

再録「nWo名作ツイート劇場vol.2(2010.10)」

 あー、テステス。マイクテス。

 nWoがインタラクティブ性を最重要視していることは、ファンの諸君全員が承知と思う。一見、散発的なやり方で複数の方向性を投げかけ、反応のあった部分を濃くしてゆく仕組みだ。

 だが、労をねぎらってもらうまでもない。誰も読まない長めの更新をノーペイで三度も行い、いま四度目の準備をしておるほど強靭な精神力と忘却力を有する俺様であるから、ツイッターぐらいの作業は朝飯前、英語で言えばwith one handなのだ。

 (鼻段ボールの男がひどい寝癖のまま、カメラの前に現れて)エー、タダイマ、タイヘン不適切ナ発言ガアリマシタコトヲ視聴者ノミナサマニオワビ申シアゲマス。申シ訳アリマセンデシタ(深々と頭を下げる)。

 事実、このツイーティングも右手をずっぽりと鼻腔、左手をべったりと陰茎で行っているくらいの気軽さである。

 (入道雲パーマの女性、戸田奈津子の字幕調で)どうやってキーボードを?

 (鼻段ボールの男、ソファに前かがみで座り、両手に顎を乗せて)コレハマダ仮説ノ段階ニスギマセンガ、アノゲイカトイウ男、オノレノ意志デツイート偏差値ヲ自在ニ変化サセルコトガデキルノデハ?

 (無音)*なお、このツイートのみをリツイートして文脈を改変することは、法律により固く禁じられています。

 「シナ! シナ! シナシナ!」

 「なんだ、このさわやかな季節を台無しにするような卑猥な歌は!

 「シナ、シナ、シナ、シナ、シナびマラ~!」

 「おまえは、怪人シナ男!  ここでなにをやっているんだ!」

 「シナーっ! 我が国固有の領土で何をしようがこっちの勝手シナ! おまえこそ、何をしているシナ! 即時の立ち退きを要求するシナ!」

 「くそ、シナ男め! やさしくしてれば、つけあがりやがって!」

 「私が発見した古地図にもそう書いてあるシナ! これ以上居座れば、賠償を求めるシナ!」

 「何が古地図だ 、イトーヨーカドーのチラシじゃないか! 世迷い言もたいがいにしろ! ここは我が国固有の領土だ! 立ち退くのはお前のほうだ!」

 「うう、ひどいシナ……これ以上、我が友邦にディアスポラの苦しみを味あわせ続けるわけにはいかんシナ……」

 「よく見ればコイツ、シナ男じゃない、怪人シナゴーグ男だ!  しまった、争点はパレスチナ問題だったのか!」

 「ひどいでゴーグ、民族離散の苦しみ、ここまで悪しざまにののしられるとは思わなかったでゴーグ……」

 「くっ、まぎらわしい語尾を使いやがって! まずい、このままでは外交問題に発展してしまう! ここはこの一手しかない! どうもすいませんでした!」

 「むう、五体投地シナ? いや、ちがうシナ。これはかの有名なドゲザ・ディプロマシー……まさか、この目で見れるとはシナ」

 「踏んで下さい! あなたの気がすむまで、ボクのあたまを踏みつけにして下さい!」

 「これが一国のあるじの姿とは、信じられんシナ。では、お言葉に甘えるとするシナ。むぎゅっとシナ」

 「ふはは、かかったな! この額に付着したビンディ状のイボは、圧をかけられると下半身のバネを駆動させる仕組みになっているのだ!」

 「し、しまったシナ! 罠だシナ!」

 「くらえ、必殺・土下座スプリング!」

 「シナーっ! 陰茎がバネのように下半身を跳ねあげ、私の下アゴを打ちぬいたシナーっ! 骨はコナゴナで大出血シナーっ! 完全に私の負けシナーっ!」

 おわり(制作・著作 NWO)

再録「nWo名作ツイート劇場vol.1(2010.9)」

 (胸元の位置にギターを抱えたバーコード状の頭髪で股引姿の中年が、重力を無視して宙空へエビぞりに静止しながら)ロックンロール! 小鳥猊下であれかしッ!

 流暢な英語が無意識に口をつく洋行帰りの性病持ちの俺様であるが、久しぶりに日本に帰ってきていちばん驚いたことといえば、町中の看板に大きく“ディック”と書かれており、その下を女学生たちが歩行していたことです。

 諸君の七曲がりディックのように話がそれかけたが、最近の貴様らはぶッたるんでんじゃねえのか。当初、俺様が利用した公衆トイレの便器さえネットオークションで落札しかねないほどの勢いでリタリンし、ベルファボーレしていた貴様らの、下腹部と心のたるみのことを言っておるのだ。

 ただ感情にまかせて貴様らを怒鳴りつけたいが、それでは貴様らのご父兄が幼少期の貴様らに行ったあの仕打ちと何ら変わらぬ。ここでは、愚者へ賢者の知恵を賢者の理解と同じ深度で伝えるために有効だと民俗学的にも立証されているところの、たとえ話をすることで貴様らの育て直しとしよう。

 (吹き替えボイスで)ウォウ、ついに憧れの外タレが来日した! このご時世に、鍋敷き程度の用途しかない彼のコンパクト・ディスクをすべてそろえているくらいの、大、大、大ファンだ! しかも、本邦独占のライブを一週間ブッ続けで行うという! しかも、入場は無料だって? イーヤッハァ!

 (憔悴した吹き替えボイスで)……最初の興奮は、まだ身体の芯に残っている。しかし、ライブ開始よりすでに72時間が経過した。それなのに、この外タレは眠るどころか、舞台袖にひっこむどころか、ギターをステージへ置く気配すら見せない。

 観客の中には倒れる者も出てきた。舞台の上ではいま、一日目と同じ曲が若干のアレンジを加えただけで演奏されている。声援を送ろうにもとうに喉は潰れ、踏み鳴らしすぎた足は疼痛をうったえ、振り上げた腕はいまや鉛のように重い。

 夜を徹して一週間のライブだなんて、聞いてなかった。いくらなんでも、こいつは気がふれている。それに、三日目にして早くも初日と同じ曲がローテーションしてきている。確かに彼のことは好きだが、ここから先はもう生で見なくても大丈夫じゃないか。

 そうさ、こんなにたくさんの観客がいるんだ、ひとりくらい応援のこぶしを下ろしたところで、誰も気づきはしないし、何も変わりはしない。

 そう考えると、君は振り上げた拳を、そっと下ろした。

 はい今死んだ! 今小鳥猊下死んだ! ステージいっぱいに臓物ぶちまけて小鳥猊下死んだよ!

 いま貴様らの胸にあるそれは、実はジャニス・ジョプリンを殺したのと同じそれであるし、さらに言えばマイケル・ジャクソンを殺したのと同じそれだ。

 いまの貴様らに必要なのは、リトリートではない、リツイートである。ライブはまだ、始まったばかりなのだから。

 (アンプのボリュームを最大に上げながら)貴様ら、この231ツイート目”ポイゾナス・ペアレンツ・ドント・ビー・ファックト・バイ・マイ・ディック”を喰らうがよいわ!(ギターをかき鳴らした瞬間、アンプより発生した爆音のソニックブームにより、外タレ、吹き飛ばされる)

 (観客席上空で歌いながら)『オフィスの営業時間にしかー、誰もツイートしていないー(コーラス:リツイートされたけりゃー、昼間にツイートしろー)、暇にあかせてついツイーティングー、アカデミズムの連中にゃ騙されるなー(コーラス:研究名目の夏休みー、経済不況で俺たちゃドカチンー)』