猫を起こさないように
映画「トゥモロー・ウォー」感想(少しエヴァ呪)
映画「トゥモロー・ウォー」感想(少しエヴァ呪)

映画「トゥモロー・ウォー」感想(少しエヴァ呪)

 見終わった直後、オレの両のマナコからは熱い涙がほとばしっていた。これこそ、ほんの30年ほど前のハリウッド映画に満ち満ちていた熱気ーー最高にアタマの悪いシナリオで、最高に政治的にも倫理的にも正しくなくて、最高に無駄な爆薬を使いまくった、最高に女どもに配慮しない、最高の男たちが演じる、最高の超B級アクション映画である! ネコ飼いにとってはトラウマになるだろう、むやみと気持ち悪いエイリアンの造形も、ギーガーのそれを更新していて(言い過ぎ)必見級の仕上がりだ!

 まあ、改変可能な直列宇宙の設定で始まったのに、父娘の会話ではいつのまにか互いを改変できない並列宇宙の話になっていたりとか、細かいツッコミどころはそれこそ無数にある。特に終盤、娘が生命を賭して父に託した対エイリアン毒薬を持参しながら、ロシアの凍土に眠る敵の宇宙船を結局は爆破で始末したのには心底ビビッたし、そこからメスが一匹逃げ出したのには脚本家が伏線を忘れていなかったとホッと胸をなでおろした。大爆発を背に両手足をジタバタさせながらスローモーションで退避ジャンプする主人公の姿にはアナクロな懐かしさで胸がジンとしたし、スノーモービルをエイリアンの横ッ面にぶちかましたときにはインディージョーンズを思い出して少年のような歓声をあげた。よく見れば、主人公の父親ってショーン・コネリーに似てない(言い過ぎ)? そして、メスのエイリアンを父と子の共闘で追いつめたあげく、なんとステゴロで倒しかけたのには映画前半の脚本家が途中で降板させられたのかとドキドキしたし、毒薬入りの試験菅を握りしめて口腔へのパンチをぶちかましたときには思わずガッツポーズが出た。にもかかわらず、主人公が「死ねーッ!」と叫びながら繰り出したナガブチキックと崖からの落下ダメージがエイリアンの直接の死因になったのには、心底ビビッた。

 おっと、カン違いしちゃいけないぜ、オレはこの作品をけなそうとしてるわけじゃあない。この映画では、旧来的な家父長制に対するトラウマ由来の神経症的疑念など一秒たりとも脳裏をよぎったことのない、最高に熱い男たちによる家族賛歌というテーマが、剛直した鉄棒のように2時間18分をズドンと貫いていた。「オレの未来はいつだって、目の前にいる家族なんだと気づいたぜ!」みたいな強い胸ヤケを誘発するセリフから、主人公の顔面の堂々たるアップでエンドロールへと移った瞬間、オレは全裸のまま立ち上がって拍手をしていた。同時に、両のマナコから滂沱と流れる熱い液体が頬を濡らしていた。結局のところ、アタマが悪い制作陣がひらきなおって全力で作ったアタマの悪い映画は、ストーリーの整合性が支離滅裂でも、ほとばしる熱いパトス(笑)でぜんぜん見られるし、なんなら感動までさせられる。本邦で言えば、島本和彦作品(失礼)がそれに当たるだろう。

 一方で、シンエヴァみたくアタマの悪い制作者がアタマの悪いことに自覚的でなく、観客にアタマが良いと見られたいという作り方をした映画は、ふんぷんたる自意識の悪臭にまみれて、とても見られたものじゃない。旧劇はかしこいオレたちのための映画だったのに、シンエヴァはアホのヤンキーどもがベソベソとエヴァ泣きする、心底アタマの悪い映画にさせられちまった。どんな映像作品を見てもシンエヴァのことが思い出されちまうのは、最悪の精神汚染だぜ。なに、今週末に予定されている最後の舞台あいさつは見に行くんですか、だと? 確認はしてないが、どうせ安全圏の太鼓持ちゲストばかりと台本ありでする、ノット感謝・バット集金の銭ゲバあいさつだろうな! 本当にファンの方を向いて感謝していれば、Qを破棄して当初の予定通り破の続きを語る続編になっただろうし、いまみたく無様にジタバタすることもなく、もっと早い段階で興収100億を突破できていたはずだ! ただ、安野モヨコが司会をつとめ、降板した副監督と退社したイラストレーターをゲストとして招いて、監督の前でカヲル・加持・冬月の声優がアスカの声優にウザがらみするのを台本なしの時間無制限でやるなら、万難を排して見に行くことを約束しよう!

 最後に話をトゥモロー・ウォーに戻すが、デジタル配信のおかげでアメリカの映倫的な組織を通さず、こんなにも倫理観のアップデートされていない、最高に古臭い最高のバカ映画を見られているのだとしたら、とんだ怪我(人類規模の)の功名だったと言えよう。そして、最高の映画を最高の悪文で紹介した最高のオレは、今夜は最高にクールに去るぜ。