猫を起こさないように
映画「劇場版 少女☆歌劇レビュースタァライト」感想(ハサウェイ未遂)
映画「劇場版 少女☆歌劇レビュースタァライト」感想(ハサウェイ未遂)

映画「劇場版 少女☆歌劇レビュースタァライト」感想(ハサウェイ未遂)

 「よし、ハサウェイ見に行くぞ!」と何度も声に出すことで己を鼓舞し、イヤイヤ映画館に行ってきました。んで、ハサウェイのチケット買おうとしたら、タッチパネルのボタンが暗転してて押せないの。「エッ エッ 大人気……ってコト?」などとスモプリ(small and prettyの略で、nWoの登録商標)の顔でうろたえてたら、単に上映開始時間を過ぎているだけでした。どうやら、違う映画館のサイトを調べていたようで、オマケになぜか1日1回しか上映してません。やはり、ガンダムには縁が無いのだと、ガックリ肩を落として帰ろうとしたら、「待って、劇場でハサウェイのブルーレイ販売してるよ」って、インターネットがささやいてきました。「ワッ ワッ 買って帰れば、家でハサウェイ見られる……ってコト?」などとスモプリの顔で喜んでいると、「でも、劇場でハサウェイ見ないと売ってもらえないよ」ってインターネットが再びささやいてきたのです。これには無数のクエスチョンマークがスモプリの脳裏を乱舞し、「エッ エッ ハサウェイ見たらもうハサウェイ見る必要ないのにハサウェイ見ないとハサウェイ見られない……ってコト?」と大混乱に陥りました。ビニル製のサイフに千円札と小銭がパンパンに詰まっている、サウジアラビアの王族とは縁もゆかりもない富豪だというのに、欲しい商品を売ってもらえないのです。

 ちなみに、ビニル製のサイフをバリバリゆわせながらオープンし、おつりの出ないよう1円単位の小銭までキッチリ支払うことの文化的対偶が何か、この場を借りてお伝えしておきましょう。赤銅色の肌をした白人ファーマーがガッデム・ビッグなトラクターで荒野のガススタンド兼雑貨店に乗り付け、ジーンズのポケットから直に取り出したシワくちゃのドル紙幣を指で伸ばしながら、コークと洋ピン誌とともにカウンターへ置くことが、それに相当します。

 閑話休題。シンエヴァの興収が100億を超える一方、ハサウェイは15億どまりなので、エヴァがガンダムに勝ったなんて話も聞こえてきますが、興収なんて飾りに過ぎんのですよ、偉い人にはそれがわからんのです(ガンダム下手が露呈)。客単価を考えれば、シンエヴァの各種割引もある1500円に対して、ハサウェイは定額1900円(ひどい)プラス特典付きブルーレイ1万円と、単純計算で8倍ほどにもなります。興収に変換すれば120億、いや、シンエヴァはハサウェイの5倍ほど長く上映していますから、実質は600億ほどの売り上げを達成したと見なしてよいでしょう。40年間にわたり時代に応じた派生作品たちを次々と生み出し続ける豊饒な商いは、25年間にわたり依怙地なまでに固執した同じキャラと同じロボットと同じストーリーをさらにパチンコで薄めてほとんど軟便みたいになった単品コンテンツとは、比較にすらなりません。閃光のハサウェイ、ファンの記憶に汚物をなすりつけてでも記録に残りたいシンエヴァとは真逆の、成熟した大人を転がして喜んでカネを払わせる、堂々たる商売だと言えましょう。まだ見てへんけど。

 んで、このまま帰るのもシャクなので、ロビーで時間をつぶして、ハサウェイの代わりに話題のレビュースタァライトを見ました。そしたら、あまりにビックリして、腰が抜けました。タイムラインへあれだけの激賞しか流れてこないのに、ここまで1ミリも気持ちがシンクロしない映画って、ある? もしかすると、演劇や舞台に関わった方にだけ、引っかかるフックが仕込まれているのかもしれません。一言でまとめてしまうと、「宝塚音楽学校を舞台にした少女革命ウテナ」なんですけど、徹頭徹尾、頭で考えて、理性の内側で作ってる感じがしました。一見して不条理にうつる演出とか同じモチーフの執拗な繰り返しって、絵画で言うとゾンネンシュターンとか、映画で言うとヤン・シュヴァンクマイエルとか、アニメで言うと幾原邦彦とか、作り手が内的衝動に突き動かされて、どうしようもなくそう表現してしまうところに、観客は圧倒されるわけです。この作品は、そういった欲動の放出を一方的に浴びせるのではなく、勉強に使ったノートを隣りに座って丁寧に説明してもらっているような印象を受けました。破綻と不条理を表現のよすがとしながら、どこどこまでも理性的で、けっして狂うことがないと見すかされてしまう感じです。あと、デュエルとデュエルの間に挿入される回想シーンがけっこう長くて、ダレました。それと、歌劇モノなのに歌唱が耳に残らないのも、説得力を弱めているように感じました。マクロス方式で、歌パートだけタカラジェンヌに任せた「アタシ・再録音」バージョンを作りましょう(無茶ぶり)。

 いろいろ言いましたが、これらは偶然みかけたラーメン屋の行列へならんで味にガッカリするような、個人的な「好悪」の話であって、作品への「評価」でないことは強調しておきます。たぶん、私はこの舞台の「観客」ではなかったということでしょう。え、家人の感想を聞きたいって? 生粋の関西圏パンピーであり、「しょうもな。これやったら倍はろて、大劇場のB席とるわ」とか言われたらイヤなので、連れてってません。もちろん、見に行ったことも言いませんよ!