猫を起こさないように
訃報に接して
訃報に接して

訃報に接して

 ぼくにとって太宰治のような、一時期の熱狂がそのまま羞恥ゆえの憎しみに転じ、紐で縛って押入れの奥に放りこんでしまう類の作家だった。放りこむ先が廃品回収や古本屋ではないところが複雑なのだ。創造を生業にする誰かに対する最大の賛辞は、「早く死んで欲しい」だとする文章を読んだことがある。大いに首肯したものだ。己が七転八倒しながら生み出した何かを軽々と飛び越えられる、あるいは己にしかわからない深いところで死ぬほど打ちのめされる、そんな経験をもうさせられなくて済むからだ。欝と加齢とアルコールで短期記憶と長期記憶の連絡が麻痺しているので、きっとすぐにすべて曖昧になってしまうに違いない。だから、いまの気持ちを書きとめておく。
 ぼくは、ショックを受け、悲しみ、そして安堵した。