猫を起こさないように
1st GIG “エンカウンター”
1st GIG “エンカウンター”

1st GIG “エンカウンター”

 タクシーから降りてくる商業目的ではない種類の冊子が底の抜けそうなほどぎっしり詰まった紙袋を両脇に抱えた小太りの男。タクシーの窓から両耳にボール紙で作成した奇ッ怪な飾りをつけ髪の毛を緑に染めた人外の顔面を有する婦女子が手をふっている。露骨な嫌悪の表情をみせる運転手。タクシーが走り去る。小太りの男、マンション入口の人影に気づく。合金製の街灯がはた目にわかるほどひしゃげる非常識なデブっぷりでもたれかかりながら、金髪というよりむしろ黄色の髪をし女物の服に身を包んだ男がたたずんでいる。
 「マルチのコスプレか。なかなか洒落た女とつきあってるじゃないか」
 「誰だ、おまえ」
 「今日の即売会、見せてもらったぜ(男の足元に異様にデフォルメされた人体の掲載された商業目的ではない冊子を投げ出す)」
 「(マンション脇の繁みから異様にレンズの突出したカメラとともに出現して)すげえよ、おまえのエロ絵はサイコーだ」
 「(男の背後のマンホールから汚水にまみれて出現して)だが、惜しいことに奴らではおまえのエロ絵を生かしきれていない」
 「(マンションの屋上から自由落下、アスファルトの路面で二三度バウンドしてから立ち上がり)おまえのエロ絵には俺たちのシナリオがベストだ」
 「そういうことだ。(無酸素運動を数十分も続けたような荒い息をしながら体のあちこちの部位から若干みどり色がかった煙を絶えず噴出しながら歩みより、男の上着のポケットにフロッピーディスクをねじこむ)よかったら読んでみてくれ。俺たちの作品だ」
 「……(小太りの男、そのまま四人の脇を通り過ぎマンションへと入っていく。と、玄関ホールに設置されたゴミ箱にフロッピーディスクを投げ捨てる)」
 「おい、待てよ、てめえ!(激昂して駆け寄り、男の胸ぐらをつかむ)」
 「残念だが俺の愛機はマックなんでね。それに、俺は遊びでおたくをやっているわけじゃない」
 「なんだと。俺たちのおたくライフが遊びだとでもいうのかよ!(握りしめた右こぶしをふりあげる)」
 「(後ろからそのこぶしをつかんで)やめとけ」
 「でもよォ!」
 「(小太りの男を見ながら)ひとつだけ言っておく。俺たちはちょっと自意識の高い時間あまりの学生や無職の人間が自身の精神的疾患に気のつかないまま手なぐさみにやるような、職を得るなどして社会に許容された瞬間に卒業できてしまうような、そんな中途半端なおたくっぷりじゃないつもりだ。俺たちは真剣なんだ。だからおまえも真剣に考えてみてくれ」
 「フッ。(きびすを返し歩み去ろうとする。が、振り返り)そうそう、さっきのあの女だがな。あれはマルチじゃないぜ。パーマン四号だ(男が言い終わると同時にエレベーターの扉が閉まる)」
 「なんだって? あれはパーやんだったっていうのか!? バカな…!!」
 茫然とたちつくす異様な臭気を発する非常識なデブっぷりの四人の青年たち。様々の事件で過敏になった近所住人たちの不審のまなざし。遠くから近づくパトカーのサイレン。都会のネオンサイン。

to be continued