猫を起こさないように
G3(2)
G3(2)

G3(2)

――今回のガメラですが、作品自体のテーマを巡ってかなり紛糾したと聞きましたが。
 緋口:(苦笑いして)うん、本当に大変でしたね。
 伊東:(緋口を指さしながら)全然ゆずろうとしないんだもん、コイツ(笑)。
 緋口:俺がね、今回のG3はポルノなんだぜって言ったんだよ。そしたらすごい勢いで反駁してきたヤツがいてさぁ(と、兼子のほうを見る)。
 兼子:(憮然と)最初の脚本を見たら誰だってそうしますよ。緋口さん、特撮だけやってりゃいいのに脚本にまで口出すんだもん。
 伊東:あはははは。それは言えてる(笑)。
 緋口:でもよ、そのおかげで有意義なディスカッションができたろ。今回のガメラがあるのは俺の尽力のおかげっても過言じゃないと思うぜ。
 兼子:(顔を真っ赤にして立ち上がり)今回のガメラを成功させたのは愛ちゃんだよ!
 伊東:バカ、やめろよこんなとこで。
 緋口:いや、その通りだと思うぜ。あのイリスの粘液に濡れた前多愛の色っぽさと言ったら。けけけけ。俺、じつは公開できなかったぶんの前多愛の映像とってあるもん。特技監督権限で。
 伊東:(顔を真っ青にして立ち上がり)あんた、まさか! あれはみんなで処分したはずだろうッ!
 緋口:絵画や彫刻じゃねえんだから、映像メディアなんて簡単に複製がとれる。特技監督としてあの白く濁った、粘り、まとわりつき、前多愛を身悶えさせる液体をこのまま闇に葬っちまうのは惜しいなァ、と思ったんだよ。自宅のスクリーンで見返すたび、あまりのエロティックさに電気が走るぜ。特に股間にな!(馬鹿笑いする)
 兼子:(緋口につかみかかる)キサマ、今すぐそのフィルムを渡すんだ! さもないと……
 緋口:(ヘラヘラ笑いながら)どうするってんだよ、お坊ちゃん。よしんば俺に返す気があったとして、もう今頃回収不可能なほど日本全国に広まっちまってるよ。はっきり言ってG3のギャラよりいい金になったね。いひひひ。
 伊東:あんたって人は……やっぱりあのときに降ろしておくべきだったんだ!(天を仰いで慨嘆する)
 兼子:(怒りのあまり鼻血を吹きながら)殺してやる、殺してやる、殺してやるゥ!(緋口に飛びかかろうとするところをスタッフに後ろから羽交い締めにされる)
 緋口:(キレて)なんだよ。おまえだってあのとき楽しんでたじゃねえか。娘ほど年の離れた娘に敬語で謝りながら何度も何度もブッぱなしてたじゃねえかよ。おまえと俺、どっちの罪が重いってんだよ。言ってみろよ!
 兼子:(くずおれて)あぁ~んあんあんあん。ごめんよぅ、愛ちゃん、ごめんよぅ。愛ちゃぁん、愛ちゃぁぁん。
――クライマックスの京都駅ビル崩壊のシーンについてうかがいたいのですが。
 伊東:最初あれ、プロットには無かったんだよね。
 緋口:そうなんだよ。京都駅のシーンはあったんだけど、実際あそこまでやることになるとは思わなかった(苦笑)。
 伊東:緋口君のプロ意識が存分に発揮された結果、ああなった(笑)。
 緋口:(椅子にしばりつけられた兼子に向けて大声で)誰かさんの原案では京都駅前で雨に濡れる前多愛の顔に、一輪挿しのつばきの花が首から落ちるって映像が重なるんだったんだよな、確か! (鼻をつまむふりをしながら)臭え、臭え。大正時代のブルーフィルムだってこんな臭い映像は使ってねえだろうぜ。まァ、一周して俺みたいなすれっからしにゃ、逆に新鮮だったけどな!(馬鹿笑いする)
 兼子:(噛まされた猿ぐつわを更に噛みしめながら、縛り付けられた椅子をガタガタ前後に揺らす)
 伊東:やめとけよ!
 緋口:ひひひひ。わかってるって。この坊ちゃんがあんまり面白いからついよォ。何の話してたんだっけか。
 伊東:京都駅ビル。
 緋口:ああ、そうそう。兼子君の貧弱な映像イメージでわかってもらったと思うけど、ありゃ前多愛の処女性の象徴なんだよ。だから二大怪獣に完膚なきまでにブッ壊されなくちゃならなかったんだ。ライブ感覚を反映した、現場そのものの状況の写しとしてな。(兼子に目をやり)象徴としての処女性はガメラとイリスが破壊したわけなんだが、ゲンブツのはってえと…
 伊東:(緋口に厳しい視線を送り)おい!
 緋口:(冗談めかして首をすくめ)おっと、すまねえすまねえ。
 兼子:(顔を真っ赤にして鼻血を吹きながら椅子を激しく揺らしている)
――今回もっとも苦労した部分はどこでしょうか。
 伊東:どこだろうね。渋谷がガメラに襲撃されるところ?
 緋口:いや、違うな。前多愛のラストの台詞だよ。
 伊東:どんなだっけか。
 緋口:おいおい、あんたが書いたんだろうが。イリスの体液に濡れた衣服で放心して、『ガメラ…』ってつぶやくところだよ。
 伊東:ああ(笑)。そういえばあれは本当に苦労したね。
 緋口:八時間もリテイクしたんだからよ。夜中の3時まで。
 伊東:へたな特撮シーン顔負けだね(笑)。
 緋口:最後にはピーピー泣きだしやがるし、やんなっちまうよ。
 伊東:でも君の演技指導で最終的にうまくいったじゃない。ぜんぜん特技監督じゃないね、今回(笑)。
 緋口:まったく(苦笑)。もらってるぶん以上の仕事をしたと思うぜ。
 伊東:ある意味プロとは言えないね(笑)。で、どんな演技指導をしたの。
 緋口:大したことじゃないがね。懇切にあいつの置かれてる状況を説明したんだよ。おまえは暴力でチンポに蹂躙されたばかりなんだぜ、って。それも並大抵のチンポじゃない、身の毛もよだつようなすごい、極太のチンポにさんざんっぱらいいように陵辱された直後なんだぞ、って。
 伊東:(不安そうに)それは……。
 緋口:まァ、最後には彼女も迫真の演技でシメてくれたがね。僕と兼子君ふたりがかりの体当たりの演技指導が功を奏したんだろうぜ。(振り返って)なぁ、兼子!
 兼子:(目に涙をためてゆっくり首を左右に振る)
 伊東:(腰を浮かせて)おまえたち、まさか。
 緋口:けけけけ。こういうまったく嘘っぱちの虚構の中にこそ、最上のリアリティが必要なんだ。彼女にとって脚本の上だけのリアルでない事象を、俺たち二人で現実にしてやったってだけの話じゃねえか。なぁ、兼子!(悪魔のように哄笑する)
 兼子:(血の涙を流しながら噛まされた猿ぐつわを噛みちぎる)あぁ~んあんあんあん。ごめんよぅ、愛ちゃん、ごめんよぅ。愛ちゃぁん、愛ちゃぁぁん。
――最後に映画をご覧になるみなさんに一言お願いします。
 伊東:ガメラ三部作の完結編ということもあって、正直こういう結末にしていいものかどうか、さんざん悩みました。その迷いが映像に現れてしまっているかもしれませんが、それも含めて今回のガメラなんです。あとは皆さんに判断をお任せします。周囲の情報に惑わされず、どうぞ自分で感じとって下さい。
 緋口:日本の映画館ってのは高いよなぁ。1800円あったら、AV何本借りれんだって俺いつも計算しちまうんだけど、今回俺はそんじょそこらのAV百本分のエロスは作品に封じ込めることに成功したと思ってる。ぜひ劇場で確かめてくれ。だがな、間違っても劇場でチンポは出すんじゃねえぞ!(馬鹿笑いする)
 兼子:あぁ~んあんあんあん。ごめんよぅ、愛ちゃん、ごめんよぅ。愛ちゃぁん、愛ちゃぁぁん。
――今日はどうもお忙しいところをありがとうございました。

(3月9日 スタジオにて)