猫を起こさないように
今は亡き王国の
今は亡き王国の

今は亡き王国の

  「たとえばおまえが大学生になって合コンのようなコンパの席に呼ばれたとするだろ(この時点ですでに少し間違っている)。そっちに男が四人ならんで、こっちに女が四人ならぶわけよ。最初は女のほうは淫乱だと思われたくないからそっぽむいて煙草ふかしながらつまらなそうにしているわけだ。ここがまずポイントなわけよ。煙草を吸うような性行のある女ってのは幼い頃に、たとえば親がぞんざいな温めかたをした熱いミルクで口腔を火傷したりして、つまり口愛期に問題があって、そこで受けたトラウマを大人になった今煙草なんかの明らかに害になる刺激物を粘膜から摂取することによって無意識のうちに繰り返し表現してみせているわけよ。わかるだろ? あそこも要するに言ってしまえば粘膜だよな? わかんねえ? ああ、もうヴァギナだよヴァギナ。まァ、ここまでうがった読み方をしなくてもだな、細長い棒を積極的に唇にくわえこんでいるというのは、要するにフロイト的に見るにチンポじゃん。チンポの暗喩に決まってんじゃん。つまり吸ってる煙草の形状と自分の形状を照らし合わせてみて――実際にその場で見るんじゃねえぞ――最も近似値をとる女をねらえばいいわけよ。どうだ。最初に向かい合った瞬間にプロはここまでデータをそろえることができるわけよ。『敵を知り己を知れば百戦危うからず』、これを知ってさえいれば最悪負けはあり得ねえよ。次にだな、インパクトが大切よ。最初に見たものを親と思いこむヒヨコのようにだな、最初のつかみさえドカンと炸裂させておけばあとは少々つまらなくても惰性でしゃべっても最初のイメージがあるから面白く錯覚しちまうもんなのよ。それがむずかしいんだって? 安心しろ、俺がここに定型とも言うべき長年の経験にしっかりと裏付けられたマニュアルを持っている。『ヴァギナとは貴女にとっていったい何なのですか?』これだ。どうだい、マグナム級のインパクトだろう。だが待て、これだけではダメだ。これだけではインパクトが強すぎて逆に相手をおびえさせてしまうおそれがある。『男である僕にはよくわからないんですが(病弱そうに胸の悪い咳をしながら弱々しく)』これを緩衝材として枕詞に置け。『男である僕にはよくわからないんですが、ヴァギナとは貴女にとっていったい何なのですか?』完璧だろう。これでもう相手の四人はおまえの方に釘付けだ。あとは五人同時プレイに思いを馳せろ。あ、お兄さん、注文追加! コカ・コーラをネギ入りで! どうだい、今の間合いで笑いをとるんだぜ? あ、お姉さん、注文追加! コカ・コーラをコカ入りで! ププ~ッ、コカ・コーラって言うくらいだからあらかじめ入ってるに決まってるじゃん! コカ・インじゃん! どうだい、今の間合いで笑いをとるんだぜ? 笑いで一番肝心なのは間合いだからな、間合い」