猫を起こさないように
怒羅美さん
怒羅美さん

怒羅美さん

 「怒羅美さ~ん、助けてよ~」
 「なんじゃい、クソガキ。ワシは今から集会で忙しいんじゃ」
 「助けてよ、怒羅美さん。ぼくはこの世でとても重要な役割を担っている唯一無二の取り替えのきかない存在なのに、ぼくを軽んじるやつらがいるんだ。やっつけてよ、怒羅美さん。圧倒的な暴力でやつらの浅薄極まる論調を叩きつぶしてよ!」
 「あン、またかいな。ええわ。集会のまえの肩慣らしや。得物は何がいい、チェーンがええか、鉄パイプがええか、鎖がまがええか、それとも…ヴァギナか?」
 「鎖がまでずたずたにしてやってよ、怒羅美さん!」
 「ああ? 自分いまなんて言うた?」
 「あ、嘘。チェーンのほうがいいよね」
 「ああ? 自分いまなんて言うた?」
 「ご、ごめん。あの。…鉄パイプ?」
 「ええ加減にせんとおまえから先に喰うてまうぞコラ」
 「ヴァ、ヴァギナで」
 「よっしゃ、ワシが一番得意なエモノや。ひゃっほう!」
 「怒羅美さんが永井豪の偏差値の低い側の一連の作品群を連想させる破廉恥な大開脚でネジで閉める式の薄い窓を突き破って飛び出していったぞ! 破られる窓の象徴する現象については小学生のぼくの実存の持つ知識の範疇外にあるよ!」
 「あれを見て下さい、ジャイやんさん」
 「どうしたんですか、すね夫さん…ああっ、逆立ちの状態で性器をあらわにした痴女が軽快なステップで近づいてきます」
 「おまえらやな。個人的な恨みは無いが、渡世の仁義というやつや。その命もらいうけるで」
 「ち、ちくしょう!」
 「あまりの非日常的な恐怖に追いつめられて逆上した基本的に人間としての器の小さいすね夫さんが木刀で殴りかかりました」
 「甘いわ」
 「ばきゃ」
 「ああっ、様々の樹脂を染み込ませて鋼鉄をひしゃげさせるまでに鍛え上げた、フロイト的に解釈するならば立派なチンポに対するぼくのコンプレックスの表出であるところの木刀が、根本からヘシ折られました。というよりむしろこれは噛みちぎられたのですか、ヴァギナに」
 「グループ同士の抗争にまきこまれて死んだワシの旦那のチンポはもっと堅かったで」
 「それは同時に去勢を象徴してもいます、すね夫さん」
 「おまえが頭目やな」
 「呆然とするぼくこと骨河すね夫という小学生の実存を尻目に、両腕をねじりあげるようにして驚くほど高く跳躍した性器を露出した痴女が、ジャイやんを近代格闘における不落のマウントポジションに組み敷きました」
 「おお、なんということですか。彼女のそれはまるでくみ取り式便所にくみ取りにくる車に付属しているひだのたくさんついたホースのように蠕動して私の男性という性をみるみる吸い上げてゆきます。それは例えるなら全盛期のカール・ルイスと同程度の速度です」
 「差別用語を使うことに微妙に敏感な言いぶりのジャイやんがみるみる精気を吸い取られしぼしぼになっていきます」
 「どうや、天国と地獄が紙一重の位置にあるのが見えるか」
 「(腕時計を見て)私こと剛田たけしは本日12時23分34秒ただいまをもちまして、腎虚で逝去いたします。みなさま、ご静聴ありがとうございました」