「いま三十代ぐらいで、
戦争でもないのに周りでバタバタ人が死んで、
気づけば友人や仲間は誰ひとりいなくなって、
寂しさより先に自分の番が来るのを怯えてて、
世界に大義なんてものはなくて、
人生に目的なんてものはなくて、
生命に意味なんてものはなくて、
痛めつけられた猫が車の下で傷に舌を這わせるときみたいな、
ほんの小さな平穏と安堵だけがただ続けばいいと願っている、
そんな君に向けた、萌え萌え学園ファンタジー」
プロローグ
我が敵は頭上にあり。
血と汗は足元に滴りて、豪奢な模様をなす。
我が脚は腰を貫き、尻でようやく釣り合えり。
我れ、反り返るは古代人の弓の如し。
すさまじいプレッシャーが、両腕を通して全身を伝わるのがわかる。
魂を高揚させていなければ、おそらく最初の衝撃だけで潰れてしまっていたに違いない。
まるで、轍に轢かれる蟷螂のように。
またひとり、崩れ落ちる。倒れたあとも、手のひらは頭上へと向けられている。
両手にあるプレッシャーがわずかに勢いを増す。
背骨がきしむ音が聞こえる。
灼けるような塊が腹部から喉へめがけて、駆けあがってくる。
ここまでか。
いや、まだだ、まだだ。
味らいをひたす熱した海水を、無理矢理のみくだす。
ここで倒れれば、すべてが終わる。
一千年前、小さな集落から始まった寄る辺ない人々の歴史は、終焉をむかえる。
いや、まだだ、まだだ。それは、いつか必ずやってくるのだろう。
だが、いまではない。
折れそうになる膝に力をこめる。
ずっと、自分だけのために死ぬと思っていた。
だから、もしここで命はてるのだとしても――
誰かのために死ねることが、うれしい。
またひとり、崩れ落ちる。
遠くで、何かが砕ける音が聞こえる。
吸い上げられるように全身から力が抜け、急速に地面が接近する。
次瞬、視界は暗転し、耳の中にわずかなノイズだけを残す。