猫を起こさないように
日: <span>2019年11月27日</span>
日: 2019年11月27日

忘備録「ロスジェネについて」(2013.12)

 ああ、またこの世代の犯行だったか、という感じ。ぼくたちの小中学生時代はインターネットが存在せず、ゆえに左の教育の純粋な効果が最も期待できた時代だった。ぼくたちは意味もわからず汗を軽蔑し、土からは遠く切り離されたまま、ファミコンのドットの群れに世界を見ていた。

 その暖かな楽土へ、当時はだれもそれとは知らなかった第一次就職氷河期がやってくる。社会に回収されない個人が多く野へ撒かれたのが、ちょうどこの時期だ。そしてぼくたちは、数少ない優れたクリエイターや、均衡を失った多くのキチガイになった。汗は牛馬に所属し、土を不浄とみなすようずっと教えられてきていたし、何より最悪なことに、大学生のときにエヴァンゲリオンの本放送があった。いや、大真面目だ。

 余談だけれど、90年代後半のテキストサイト管理者は、そんな社会に回収されないアウトローか、その予備軍である学生がほとんどを占めていたように思う。一昔前のアマチュアバンドに例えれば、有名テキストサイトがインディーズレーベルだとすれば、エロゲーライターになることはメジャーデビューする、みたいな感じだった。そう、エロゲー制作が最高にクールで、ワルくて、ゴッドな一時期は確かに存在した。いま、ぼくがそれを感じることはない。

 閑話休題。今回の事件は規模こそ違えど、マーク・チャップマンを描いたチャプター27的であり、また手前味噌を言わせてもらえば、極めて高天原勃津矢的である。護送車に乗せられるときカメラに向けた彼の表情は、目をキラキラさせた満面の笑顔だった。長い長い無視の不遇を経て、ようやく社会に見つけてもらえたこと、そしていま正にこの瞬間、世界の焦点が自分の上にあることが、嬉しくてしょうがなかったのだろう。ぼくに不機嫌にテレビを切らせたのは、まちがいなく同族嫌悪と呼ばれる感情だった。憎しみと自己愛の種子はかように広く深く撒かれており、これが最後の一人だとは、ぼくにはとうてい思えない。

 ぼくたちは、虫のようにたくさんいる。そしてぼくたちは、虫のように人の悪徳を実感できず、ただその種子を萌芽させないことに人生の多くを費やしている。

映画「かぐや姫の物語」感想

 ジブリに、いや、高畑監督にしか作り得ない、ハイパー・日本昔ばなし。そのこだわりは、特定の嗜好品において、ある時点から質の向上と値段の上昇が急激に連動しなくなっていくあの高みにまで達している。一般人には1万円のワインと1000万円のワインの味の違いがわからないように、500万と50億の制作費が生むクオリティの差を感じられるアニメ・ソムリエだけにしか、この作品の真価をはかることはできない。

 個人的には、百年を待たない新しい芸術であるアニメが、ついにこれだけの嗜好品を生み出した事実に、深い感慨を覚えた。ストーリー的には徹頭徹尾、かぐや姫であり、女の子を育てるって本当にたいへんだな、と思った。あと、つがいを得て子を成すことが地上の輪廻に乗ることであり、それのかなわなかった者たちの魂の回収される場所が月なのかな、と思った。

 ちぃちぃ……さみしぃょ……

 自分が名づけをした生命が、この世界から永久に失われるということ。結局、私は、何もわかっていなかった。

ゲーム「艦隊これくしょん」感想

 FUNK LOVE(ファン倶楽部)! 小鳥猊下であるッ! 貴様ら、コミケを直前に控えた猛暑の最中、いかがお過ごしでしょうか? アー・ユー・バイイング・マイ・ファンジン? 少女保護特区効果により、いまやガイジンどもの聖地巡礼が耐えぬ四神相応の地に鎮座する小生だが、昨日全国を駆け巡った大地震の予報にも関わらず、貴様らから身を案ずる声は絶無であった!

 ネット上で小鳥猊下へ言及を行ったものへの自動発番により肥大し続けてきたnWoファン倶楽部の面々は、いったい何をしておったのか! 奈良県沿岸部在住の小生は、暗峠(くらがりとうげ)を越えて迫る大津波をサーフボード一枚で乗りこなし、あの巨大地震を命冥加に生き延びたことだけ報告しておく!

 ところで急激に話題の舵を切るが(唐突な比喩だ!)、最近ドはまりしているものがある。ちょっと手をつけてからしばらく放っておいたのだが、今ではこんなに面白いものがあったのか、これが無ければもう日も夜も呉れぬ(おっと、誤変換失礼!)という感じだ。

 戦争の悲惨を極めた場所へ身を置きながら不服の一言さえ漏らさず、日の終りのわずかな補給だけを楽しみにして、生きて戻れぬかもしれない過酷な命令に日々従事する、あのけなげさ。そして、ボーキサイトを溶かして自作した申し訳の装備を肌身離さず持ち続けるいじらしさ、豊食の日本人が永く忘れていたその清貧と愛らしさに、待ち受ける過酷な運命から逃れさせることはできないまでも、私はそっと背中から抱きしめ、暖めてやりたいような気持ちにさせられる。

 だから私は、少しでも生存率が上がるように、少しでも多くが故郷へ帰れるように神へ祈るのだ、「キラキラしねえか、キラキラしねえか!」と……!!

 さて、もうわかったと思う。いま大人気のアレだ。正解がわかった君は、web拍手などの匿名メッセージで構わないから、こっそりと私に耳打ちして欲しい。もちろん、商品名の一文字を丸の中に入れさせるくらいの簡単なクイズなので、正解者は多数になることが予想される。

 その中から抽選で一名に、nWoの今後に関わる重大な権利を譲渡しようと思う。今度こそ、ファン倶楽部(FUNK LOVE)のみんなの積極的な参加を期待しているゾ!

 うむ? 「やって」る? 「艦コレ」? なにソレ? 貴様らおたくとは、どうも話が噛み合わんな。いま大人気のアレと言えば、ソルジェニーツィン先生の「イワン・デニソーヴィチの一日」に決まっておろうが!

 戦争の悲惨を極めたラーゲリでアルミ(ボーキサイト)を溶かして自作したスプーン一本を脚絆に忍ばせ、わずかの粥と野菜汁を楽しみに酷寒(マローズ)の中での屋外作業をやり過ごす日々。「この野菜汁の一杯こそ、今の彼には、自由そのものよりも、これまでの生涯よりも、いや、これからの人生よりも、はるかに貴重なのだ」の一文にキュン死しない社畜はいないと断言できる。これだけであと十年は社に飼い殺されることができる勢いだ。

 もちろん、「キラキラしねえか、キラキラしねえか!」の台詞は、作業免除になる大吹雪(ブラーン)の到来を知らせる粉雪を祈願してのものに他ならない。「閏年のために、三日のおまけがついたのだ……」を超えるシニックを私は寡聞にして知らないが、貴様らはそうじゃないのか?

 そしてドストエフスキー以降のロシア文学のお約束とも言える、キリスト教徒からの神の愛に関する説法を黙って聞いたあげく、ビスケットを一枚あげちゃうんだぜ? しかも「腹の皮がさけるほど飲む」飽食の本邦とは違って、生きるためにギリギリのカロリーをしか与えられないラーゲリでのできごとなんだ!

 ああ、ワーニャかわいいよワーニャ!

 @nobody やっぱり! ぼくもなんかすでに死んだ人の追憶をたどる気持ちにさせられます! アリョーシュカはやっぱり死んだんだろうな、微笑みながら死んだんだろうな、とか。

 @nobody おしい! 「収容所群島」じゃなくて、初期作品の方です!

 @nobody す、すいません、うちの祖父はなんか兵役免除だったみたいで……すいません、こんな末裔が生きてて、今の繁栄を享受してて、本当にすいません……!!

アニメ「未来警察ウラシマン」感想

 いつのまにかHuluに未来警察ウラシマンが収録されており、のけぞる。私のSFマインドの30%は、この作品で構成されているからだ。

 社畜の悲しさ、第一話と最終回付近のみを閲覧する。二十余年を経て、脳内に相当の理想化と神格化が行われていたことを知った。質の高い昨今のアニメに慣らされた誰かの試聴に耐えるとは到底思えない。しかしそれらを理性で確認してなお、私は心を深く動かされた。ふだん気難しげに映画の感想などつぶやいているが、結局のところ作品の完成度なんていうのはさしたる問題ではなくて、人生の最も多感な時期に出会った作品へ、我々は雛鳥のように感動を刷り込まれてしまうのかもしれない。

 同工異曲のそしりも、人の死を終着とした生命の大いなる惰性の内側に、やがてすべて呑み込まれていく。

掌編「ドラゴンクエスト10のある日常」

 仕事を終えて、四畳半のアパートに戻る。ネクタイの結び目に指を入れながら、電気のヒモを引く。流しに残されたレトルト食品の残骸と、朝出かけるときのままに乱れたシーツが目に入る。

 上着を脱いでベッドに掛けると、タバコに火をつけた。スマホで冒険者の広場を確認すると、分身である魔法使いのステータスには万単位の経験値と千単位のゴールドが計上されていた。今日も誰かに雇われ、順調に責務をこなしていたようだった。現実の俺とは大違いだ。笑みは自然、自嘲的なものになる。

 薄く煙を吐きながら何度か広場を更新すると、つど経験値とゴールドがわずかに増えていく。いまの時間から、半ば寝ながらプレイするより、見知らぬ旅人へ預けておいたほうがよほど効率がいい。アストルティアでの冒険は、今日もおあずけというわけだ。冒険者の広場で確認する元気チャージは、すでに200時間を超えていた。これはきっと、現実世界で奪われた活力――意味の無い部署間の調整に身をやつした分だ――がチャージされているのに違いない。

 底の見えない灰皿にタバコを押しつけると通勤カバンから3DSをとりだし、冒険者の便利ツールを立ち上げる。今日もすれちがいゼロ。この一週間、誰ともすれちがっていない。ハーフミリオンは、関西の僻地では充分に多い数とは言えないだろう。

 ふと、胸にさしこむような孤独を感じた。無人島ならば、きっと感じないような孤独だった。それはほとんど痛みを伴っていて、思わずフローリングの床にうずくまる。疲労はとうにピークを越えていた。もはや何かを胃に入れようという気さえ起こらない。のろのろと立ち上がり、ステテコ一枚になるとベッドに身を横たえる。

 救急車のサイレンが遠くに聞こえて、湿った敷布を全身にまきつけた。夢うつつに見たのは、スーツ姿のエルフがメタルスライムに暴走メラミを唱える光景だった。

 ああ、ここでもか。死と同じ救済――安らかな忘我が訪れたのは、そのすぐあとだった。

 『ドラクエ たのしいね!』