「……これが正真正銘、最後の一枚は大阪府在住の小鳥くんからだ! 『こんばんは、D.J. FOODさん。今日は重大な告白をするためにペンを取りました。じつはぼくのチンポは左方向にちょっと冗談ではすまされないほど湾曲しているのですが』YoYoYoYoYoYoYoYo,Yo Men! くたばってしまえ!
おっと、もうこんな時間だ! それじゃ、またいつの日か、See You!」
ビルの屋上。空には今にも降り出しそうなぶあつい黒雲。
「(強風とヘリのローター音にかき消されまいと声をはりあげて)FOODさん! 機材はすべて積み終わりました! スタッフもみんな! 今ならまだ間に合います! 今なら!」
「(静かだが不思議によくとおる声で)決めたことだ。かまわず行きなさい」
「(泣きながら)殺されてしまう! FOODさん、殺されてしまいます!」
「悲しむことはない。すべてはこの日に定められていたのだから」
「(首を振って)馬鹿な! 誰が、誰が人の生き死にを決めることができるっていうんですか!」
「……(立てた人差し指を上空へと向け、何事か言う。だが、ローター音に紛れて聞こえない。ヘリが浮揚しはじめる)」
「(身を乗り出して)FOODさん!」「(涙で顔をぐしゃぐしゃにして)FOODさん!」
「(穏やかな表情でスタッフの顔を順に見ながら)みんな、ありがとう。よくここまでついてきてくれた。私は君たちのことを誇りに思う。君たちは、私の最高の友人だ」
「FOODさぁんッ!!(都会の曇天にヘリが遠ざかっていく)」
「(ヘリの姿が次第に遠ざかり、やがて見えなくなる。背後の扉が土台ごと倒壊する。砂埃の中から人影が現れる。中背の男が一人と、取り囲む黒服の男たち)よくもまぁこれだけ長いあいだ俺たちをたばかり続けてくれたものだ」
「(ゆっくりと振り返り目を細める)……」
「こんな廃ビルの屋上で放送を続けていたとはな。いわく最悪の扇動者、いわく神の声。(手にした拳銃の狙いをさだめる)D.J.FOOD、あんたがはじめてメディアに姿を現してから今日までじつに半世紀以上の時間が経過している……いつまでも変わらないままに人々を堕落へと導くおまえは、いったい何者だ?」
「ただの地方局の一D.J.ですよ」
「(FOODのすぐ足もとで弾丸が跳躍する)そんなありきたりの言葉で俺をがっかりさせないでくれ…おい(黒服の男たち、一礼すると屋内へと消える)。さァ、これで二人きりだ。腹蔵なく話しあおうじゃないか、山田次郎」
「……」
「どうした、マイクが無いと話しにくいか。ではまず俺の話を聞いてもらおうか。あんたは自分を殺す相手のことを事前によく知っておくべきだと思うね。(ちょっと唇を噛んで考え)…そうだな、俺が君のファンだったと言ったら驚くかい。ずっと昔、俺が何も知らないただのガキだった時分、世界とはあんたの言葉を意味していた。自分以外のものに対するあんな熱狂は、あれ以来知らない」
「(目を伏せて)君は不幸だ」
「(銃口を油断なく向けたまま)違うな。この世界が不幸なんだ」
「(顔をあげて)それを贖うために私を殺すのか」
「そうさ。あんたは世界にとっての父であり、また世界そのものだからだよ。あんたを殺すことで、世界は本来の姿へとたちかえることができる。あんたが創り上げた虚構の世界から離れてな。すべてのメディアは現実を虚構化する力を持つ。だが、あんたのその力は度はずれて強すぎ、現代の脆弱な人々の自我の上にあまりに危険すぎる。この世界のためにあんたの天才に消えてもらいたい」
「(両手で自身の肩を抱きかかえて)私の持つこんなものが天才だというならそれは恐ろしい。ぼくの自覚するこの程度の領域が天才だというのなら、それはこの上ない絶望だ。それは人間のたどり着ける領域がこの程度までだということを意味しているのだから。私の中には何もないよ。君の求めるようなものは何もない」
「(銃口を降ろし、うって変わって弱々しく)お願いだからそんなふうに話さないでくれ。あんたのような偉大な才能が何も見えていないことを語らないでくれ。……俺はあんたの持つ虚構を破壊することで革命を成就させなければならないんだ。あんたの確信を破壊することでこの世界すべてを変革しなければならない。だから、そんなふうには話さないでくれ」
「私ぐらいを殺したところで世界は何も変わらないよ。変わるとすればそれは君だ。君のいう世界とは君自身のことだよ。私を殺した喪失感は君の世界を悲しみへと変質させるだろう。それだけだ。私の死は君以外の人間にとって何の意味も持たないよ。本当に、何も知らなかったんだね…(憐れみの表情で一歩踏み出す)」
「(飛びすさり、銃口を向ける)言うか、トリックスターめ! 私は他の者たちのようにだまされはしない! (顔を歪め銃口をふるわせて)人の時代にそんな神の言葉は不要なんだ」
「(立ち止まる)よろしい、すべて充分だ。さぁ、撃ちたまえ。私は解放され、君は永遠にとらわれる。(喉をのけぞらせ、両腕を開く。雲間から光が射し、D.J.FOODのまわりを照らす。銃声が長くビルの谷間にこだまする)」
「(背中に光を受けて暗い屋内へ戻ってくる。黒服の男たちの一人に拳銃を手渡しながら)今世紀最大の導き手のひとりがいま、死んだ」
「おおッ!(革命成就への喜びに湧く黒服の男たち)」
「(両手に顔をうずめて誰にも聞こえないようにひっそりと囁く)わかりはしない。かれは私が無くしたほうの片翼だった。私はかれのことを本当に、本当に愛していたんだ」