身長ほどもあるようなカラーをつけた学ランを着た、身長ほどもあるようなリーゼントの学生が後ろに手を組んで扇形に並んでいる。中央には右目を前髪で隠し生革ムチを片手に足首まで隠れるスカートをはいた婦女子と、顔面が全く左右対称でないせむしの男が立っている。
「(ムチを打ち鳴らし)さァ、今週もこの時間がやってきたよ。『なぜなにnWo電話相談室』、司会はあたい、血を巻く越前台風・ハリケーン逆巻と」
「(割れた下唇から終始よだれを垂らしながら)ガルルル。俺様、但馬の狂犬・ガウル伊藤だ。ガルルル」
「りりんりりん」
「早速イッパツ目の電話のようだよ。おや、イッパツだなんてあたいとしたことがはしたないね。育ちが悪いんでそこんところは勘弁しておくれよ」
「ガルルル。勘弁しねえヤツは承知しねえぞ。ガルルル」
「(ムチでせむし男の背中を打ちつけながら)すごむんじゃないよ! …おや、つながったようだね」
「(小声で)あ、あの。nWo電話相談室さんでしょうか」
「ああ、そうだよ。ちょいとオしてるんでね。手短に頼むよ」
「ガルルル。手短にしねえと取って喰っちまうぞ。ガルルル」
「(ムチでせむし男の背中を打ちつけながら)すごむんじゃないよ! …さて、話を聞こうじゃないか」
「あ、あの。ぼく小鳥って言います、あ、小さな鳥って書いて小鳥。子供の鳥じゃないんです。あ、え、なんだっけな。あ、そうです。ぼく最近ホームページっていうの始めたんですけど、なんていうのかな、変なメールをたくさんもらうようになったんです。あ、メールっていうのは電子的な、あの。手紙みたいなものなんですけど、文面が、その」
「あんたを脅迫してるってわけだ」
「あ、はい。ぼくこんなのはじめてで、こんなふうにあからさまな悪意っていうのが信じられなくて。会ったこともない人間をここまで憎めるものかなって。すごく、あの、なんていうか、怖くなって、悲しくて」
「ネットの匿名性を利用したケチな犯罪だね」
「ガルルル。そんなド畜生は喰い殺しちまうに限るぜ。肉にくいこむ歯の感触、ほとばしる脂と血。ガルルル」
「(ムチでせむし男の背中を打ちつけながら)こんなところでおっぱじめるんじゃないよ! カタギのみなさんが怯えるだろうが!」
「ヒィィィッ! もうしません、もうしませんからッ! 姉御に見捨てられたら、俺ァ、俺ァ」
「(スタジオの床に唾を吐いて)わかりゃいいんだよ、わかりゃ。…さて、小鳥くんだったか、その脅迫メールがどんな内容だったか私たちに教えてくれるかい」
「あ、はい。今手元にありますから、あの、読み上げます。(涙声で)あ、お『おまえのサイトなんか全然おもしろくねーんだよ!! 調子のってんじゃねえよ!!! この選民思想者め!!! おまえみたいなのがいるから日本がだめになるんだよ!! 死ねチンカス野郎!!!!』…うっ、ふっ、なんで、ぼく、みんなに、楽しんで欲し、それだけ、う、うわ、うわぁぁぁぁぁぁ(泣き崩れる)」
「さて、小鳥くんよ。君はどうしたい。ずたずたに引き裂いて殺してやりたいか?」
「ガルルル。殺す殺す、ひひひ。ガルルル」
「(血の涙を流しながら)殺すなんて生ぬるいです。両目をほじり、耳を引き裂き、喉を潰し、両手両足を切り落とし、チンポも切り落として、江戸川乱歩の芋虫みたいにして、永遠に生き地獄をさまよわせてやりたい。永遠にぼくという唯一無二の存在の心に与えた傷を後悔させ続けてやりたい…!!」
「…わかった。nWoが総力を挙げて捜索した結果、君にそのメールを送った犯人を探り出すことができた。それは…こいつだ!(合図とともに学ランの集団が左右に分かれ、奥の暗闇にスポットライトが当たる)」
「(口に噛まされた猿ぐつわを解かれながら)…ッざけんな、ふざけんなよ、こんなことしてただで済むと思ってんのかよ!」
「(棘を生やしたムチで男の顔面を打ちつける)おだまり!」
「びしり」
「(顔面の肉が裂け左目がグシャグシャに潰れる)ぎゃああああっ」
「ガルルル。血だ、血だよ、いひひひ。ガルルル」
「さぁ、小鳥くん、始めるよ。テレビの用意はいいかい」
「(嬉々として)あ、待って。ビデオ撮らなくちゃ、ビデオ。ハイグレード標準で。何度も見返せるように。いひひひ」
「さァ、思う存分やりな、伊藤! ただし殺すんじゃないよ!」
「ガルルル。血、肉、血、肉、血ィィィ!」
「ぞぶり」
「(噛みちぎられた右腕のつけ根をおさえながら泣きそうな顔面で)マジ、マジかよ、嘘だろ、法治国家だろ、いいのかよ、こんな、嘘だろ」
「(恐ろしく長い舌で返り血をなめとりながら)ガルルル。たまらねえよ、この感触、たまらねえ…!!」
「(スタッフから受け取った紙片に目を通し)おや。名前は知らないし、知りたくもないが、あんたのおかげで視聴率が急激に延びているそうだよ。今60パーセントを越えたらしい…(酷薄な笑みを浮かべながら)あんたのようなのでも誰かの役に立てることはあったんだねぇ」
「ぞぶり」
「ガルルル。右足、右足ィィィィ!」
「あの、ガウル伊藤さん、もっと痛めつけてやって下さい。その顔はまだ反省していない顔ですから。(口の端から涎を垂らしガンガン両手で机を殴りつけながら)足りねえよォ! もっと、もっとだよォ! もっと苦しめてやってくれよォォォォォ!!」
「マジ、マジかよ、嘘だろ、洒落に、洒落になってねえよ、法治国家だろ、マジかよ、マジ……(血がほとばしり肉の裂ける阿鼻叫喚の様相に音声がかき消える)」