猫を起こさないように
ゲーム「ドラクエ2リメイク」感想(クリア後)
ゲーム「ドラクエ2リメイク」感想(クリア後)

ゲーム「ドラクエ2リメイク」感想(クリア後)

 ドラクエ2リメイク、1周目をクリアしてから続けざまに真エンドに到達。いやー、ホーリー遊児はこれをやりたかったんですねえ! ここにいたり、ピザがトマトソースとチーズを、お好み焼きがソースとマヨネーズを食べるための”台”であるーーデブが書いた表現ーーように、3リメイク2リメイクという素材をのせるために作られた”台”にすぎなかったことが確定しました。FC版では、ロム容量の関係でデフォルメ・サイズに縮小され、とばっちりでリムルダールまで滅んでいたアレフガルドが、3リメイクのそれをなんら変更せずにドカンと流用しているため、ゲーム全体の規模感は大幅にアップしています。後述する真エンドでも同じことをしていて、3に強い思い入れのある身には、制作側が2の露はらいぐらいにしか考えていなかった事実をあらためて突きつけられ、悲しくはなりました。クリア後の視点からバランス面にふれておくと、ゲーム中盤から終盤にかけては、敵の攻撃回数の多さに比して回復魔法がわずかに弱いため、持久戦にもちこむと次第にジリ貧になってゆきます。そのため、本来のドラクエからはすこし外れた、高火力で殲滅する「殺られるまえに殺る」戦術が前面に出てくるわけです。中盤以降の調整がメチャクチャだった3とは異なり、その危ういバランスが最後まで崩壊しないのは、6以降の転職システムがいかにダメだったかを、逆説的に証明してしまっていると言えます。最終的にすべての呪文と特技をおぼえて、パラメータのふりきったキャラを4人ならべる状態がゴールに見えている育成をどんなふうに楽しみ、エンドゲームにおけるバランスをどうやってとるというのでしょうか。つまり、2リメイクの絶妙な調整は、転職システムがないから成立しているとも指摘できるのです。

 あらかじめ断っておくと、「ムーンブルクが物理最強」「サマルトリアが最高ダメージ」みたいな、クリア後にレベルをカンストさせて経験値が無意味となってから、ドロップ率の低い種を数百個あつめる時間貴族の遊びーー「もし寿命が千年あったら、どうやって過ごす?」にひとしい思考実験ーーには、ハナからつきあうつもりはございません。本作では、多くのボスに100〜300の自動回復が付与されており、「すべてのターンでそれを上回らないと、永久にたおせない」という簡易DPSチェックになっているのですが、ローレシアの王子a.k.a.破壊神を破壊した男は、そんなすべての小細工を正面から物理のみで破壊します。道中の雑魚どもは、ムーンブルクのやまびこイオナズンとサマルトリア兄のやまびこギガデインで瞬時に蒸発するので、ローレシアには剣をサヤから抜く機会さえありません。しかしながら、ボス戦においては「先生、お願いします」「うゥむ」とばかりに、用心棒のごとくのっそりと重い腰をあげ、パーティのお飾りであるサマルトリア妹の黄色い声援を受けつつ、「3ターン耐えたならば、ぬしの勝ちでよい」と宣言しながら、やおら上段へとふりかぶり、”おうえんバイキルトはやぶさ渾身斬り”をえいと打ちおろせば、3000から4000ほどの、もはやファイナルファンタジー級な大ダメージをたたきだします。オリジナルの2に思い入れのある層ーー就職氷河期で絶滅の憂き目にあい、ほぼ生き残っていないーーには、たいそう不評であるストーリーのキャラづけだけでなく、たとえばアリーナやクリフトのように、ゲームデータとプレイフィールで”勇者たち”の個性が浮かびあがるのは、すばらしいと思いました。

 俎上にのぼりがちなサマルトリア兄の優遇も、じっさいにさわってみれば「調子にのって皿に盛りすぎたバイキング」や「工学と物理学の博士号を持つ日本文学研究者」みたいなものだと了解できるでしょう。2リメイクにおけるサマルトリアの王子は、「人間はひとつの実存をしか持てないので、いちどに複数の対象へ意識を向けることは困難である」という哲学的命題さえはらんだ、矛盾に満ち満ちた存在となっているのです。また、ハーゴンの部下である”悪霊の神々”にも強い個性があたえられていて、「統率されておらず、横の連携もないが、個々の戦闘力がズバぬけている」という描き方は、鬼滅の刃における上弦の鬼たちをどこか連想させます。そして、おのれの妄執にだけとらわれ、部下たちを道具としか見ていないハーゴンの態度は、まさしく鬼舞辻無惨そのもので、「鬼滅のドラゴンクエスト」は、無限城たるハーゴンの神殿での最終決戦において、その絶頂をむかえるのでした。アトラスから身長を揶揄されたことに対するアオリ返しとか、バズズーー40年近く、ずっと”パ”ズズだと思ってたーーの最期に手向けられた優しさとか、シドーを”やっつけた”とたんに安堵で泣きだす様子とか、育ちの良さからくるサマルトリア妹の、いちども抑圧されたことのない自然な感情の発露ーー批判されてるキンキン声も好き(とても好き)ーーがとにかく最高なのですが、演出全般から目線にノリを貼られたクロコダイル先生の影がずっとチラチラただよってくる感じは、すこし笑えました。

 さて、ここからは真エンドの内容へとネタバレ全開でふれていきますので、年末年始に2リメイクをプレイする予定のある方々は、ひきかえすことをオススメします。頭では、ドラクエ初期3部作の世界構造を理解したつもりでおりましたが、ラーミアの背に乗って”偽りの天穹”を突破して上部世界へと飛びでたとき、「なんだか、原神みたいな設定だな」と感じてしまったのには、長さだけは人後に落ちない、おのれのゲーム遍歴を鳥瞰する気持ちになりました(ラーミアで鳥だけにって、やかましいわ!)。そして、始まりの地であるアリアハンにおいて、3の勇者の生家をおとずれ、ロトのかぶと・イコール・オルテガのかぶとを身につけたローレシアの王子を、母なる存在の残留思念が象徴的に抱きしめ、3の冒頭のセリフをささやくことで、「ロトの伝説」を冠する物語は数十年の時を超えて、ついにひとつの円環として幕を閉じたのです。国に命じられて戦場へと送りだした、生死もわからぬ夫と息子の帰りをずっと待ち続けるという意味で、彼女はまさに「岸壁の母」であったことに、いまさら気づかされました。若い人たちのために補足しておくと、ソ連抑留からの引き揚げ船を、舞鶴の港で待ち続ける母親を描いた昭和の歌謡曲で、老境をむかえたホーリー遊児のドラクエシリーズに対する心残りが、どうにかしてあの母親を救済することだったのには、胸をつかれるような思いになります。おそらく、本人が書いているだろうスタッフロール後の結部は、多くの言葉をついやさないまま、「ドラクエとは、なんだったのか?」を正しく総括しているように感じました。

 余談ながら、ときどき話題にのぼせる「丸刈りで首に毒薬の瓶をさげて、満州から逃げのびた祖母」は、命からがら舞鶴に帰港ーー訪れたところ、じつにうらさびしい場所でしたーーしましたが、生涯でそのときのことをいちども口にしないまま、亡くなりました。このエンディングについての評価は、個人的な感情とかなり混線しているので、そこをおふくみおきいただければと思います。「はかぶさの剣」「たたかいのドラム」「はぐメタ防具」など、まだまだやりこめる余地は残っていますが、NPCの発言から追加のエンドコンテンツがDLC配信されるほのめかしを読みとりましたので、いったんここで2の冒険を終えることとします。次は、ドラクエ1リメイクをやっていきましょう。