猫を起こさないように
アニメ「エヴァQ IMAX版」感想その2
アニメ「エヴァQ IMAX版」感想その2

アニメ「エヴァQ IMAX版」感想その2

 アンケートについて、「エヴァQは傑作」をだれも選ばなかったのには、正直ホッとしました。さすが皆さま、お目が高い。シンエヴァ、傑作になる予感も少しだけあって、その場合はカントクの足元へジャンピング土下座して、彼の両足をかき抱いての大号泣から、これまでの非礼を謝罪しようと思ってます。でも、ダメな作品をディスってるときの自分の文章を読み返すのが大好き(表現がキレてて面白いから)なので、できるだけ純度の高い批判を将来のために残しておきたいんですよね。ここまで執着してディスれる作品は、スターウォーズが大轟沈して視界から消えた今、エヴァくらいしか残っていませんもの。予想が当たっても外れても、読み返すためのたいへん愉快な文章(君にとってだけ)だけは確実に手元に残るんですから!

 さて、エヴァQアイ・マックス版を見て改めて感じましたけど、セリフが新劇3作品の中で群を抜いてダサいんですよね。日常会話における単語の出現頻度に関して統計データがあるとしたら、大幅にその中央値を外した漢語が頻繁に出てくるの。特定のキャラだけならいいんですけど、登場人物全員が同じ語彙プールから選んでしゃべってるんですよ。大事なところで聞き手に違和感を持たせるために、一点集中で奇矯な言葉が出てくるぶんには、まあ許せるんですけど、終始そればっかりなので胸やけするほどくどいんです。前にも書きましたけど、化学調味料とラードたっぷりの濃厚豚骨ラーメンに、食べるそばから店主が「ねえ、おいしい? 味うすくない?」とか言いながら、おたまで背脂を注ぎ足してくる感じ。ああ、これは群像劇のためのシナリオではなくて、一人の人間が想いとか願い(エヴァ頻出ワード)だけで書いてるポエムなんだなってことが伝わってきてしまうのです。本質的にはディスコミュニケーションの人が、普遍的なメッセージーー御大に震災の現場をむりくり見せられて、御大からの無言の圧力と期待に応えようとしたーーを語ろうとして、必死に考えて人類とコミュニケーションを取ろうとするんだけど、矛盾した表現ですけど失語症的な過剰さとでも申しましょうか、投げかける言葉がことごとく空転して意思疎通に失敗するのを見せられてる感じです。セリフの中身にしても抽象的なスピリチュアルばかりで、もっと言えばひどく新興宗教じみてます(「縁が君を導くだろう」「ハア?」)。Qだけがすべてのエヴァンゲリオン(笑)の中で、ちがう意味でカルト的になってんですよ。書きながらだんだんムカついてきたけど、こういう取り組みは別作品でやれよ! ああ、エヴァQの大失敗がシン・ゴジラを傑作にしたのは重々承知ながら、この2作品の制作順序が逆だったらなあ! エヴァを壊したのは、ハヤオ氏のクリエイターとしての左翼的な老婆心だと思ってますよ、私は!

 あと、「beautiful world」ってエヴァが大好きないちキモオタとしてのUTD氏がその愛をダダ漏れにしていて、この上なく正しいシンジさんのキャラソンになってると思うんですけど、「桜流し」は東日本大震災への鎮魂歌ではあれ、エヴァ世界については何も語っていないっていうか、エヴァソングとして浮いちゃってるんですよね。カヲル君の死に寄せたキャラソンですらない。エヴァQ、重厚な劇伴もそうですけど、中身がペラッペラなのに、音楽だけはどれもすごくいいんです。逆にその素晴らしい楽曲というタガで、断片的なシナリオがバラけて空中分解しないよう無理やり一つに締め上げていると私には見えます。例えばドグマ最下層で突然、2号機が虚空から現れてシンジさんに襲いかかってくるシーンがありますけど、そこまでの経緯が描かれてないので、ほんとはムチャクチャなんですよ。でも「デッデデデデッ」と勇壮なドラムが同時に小気味よく流れてくると、なんとなくつながってるように見れちゃう。この強力な劇伴の力ーーアイ・マックスで更に催眠力が強まっており、代アニの卒業制作さえ名作にしかねないーーを持ってしても、ときどきスにもどらされて「なんでやねん!」「そうはならんやろ!」と絶叫してしまうのがエヴァQのアンチ魅力(エヴァ語)なんですけどね!

 んで、シンエヴァの「One Last Kiss」ですけど、私にはアスカのキャラソンみたいに聞こえるんですよねー。前に歌詞がダサいって言いましたけど、よくよく考えると「初めてのルーヴルは、なんてことはなかったわ」って独白は、この後のフレーズを含めて、いまだ感性のみで世界を理解している、若くて傲慢で魅力的で無教養な、告白できない恋のただなかにいる一人の少女を想起させませんか。人類が滅んだ後の、だれもいないルーヴル美術館で、モナリザを眺める少年の横顔を見つめる少女ーーそんなイメージです。我ながら恥ずかしいことを書いてますが、私という人間の本質は、現実ではスーツを着てようがマネジメントをしてようが、心の中では赤いチェックのシャツを洗いざらしのジーンズにインして、頭に青いバンダナを巻き、旧劇のポスターがささった黒いリュックを前かがみに背負っている、ずっとエヴァが大好きないちキモオタなのです。そう、半ば廃墟と化したルーヴルで、モナリザの前に立つシンジさんとアスカの後ろ姿を、崩れかけた柱の影からずっと眺めていたい、ただそれだけなのですーーって、オマエがそこにいるんかい!

追悼「シン・エヴァンゲリオン劇場版:呪」