猫を起こさないように
紅の砂漠
紅の砂漠

ゲーム「紅の砂漠」感想

 最近でこそ、DiabloIIR漬けの日々を送っていたものの、UltimaOnlineとかEverQuestとかFF11などに代表される、かつてのMMORPGに向けた郷愁というのは強くあって、都会で定年退職をむかえた男が出里の田舎で農業をはじめるように、いつかそこへ帰りたいという気持ちをいだき続けている。しかしながら、パーティメンバーの募集に1時間、狩り場への移動に1時間、そこからトイレにも立てない3時間におよぶ目まぐるしい連戦を、いまの気力と体力でこなせる自信はなく、少年時代に3メートルの段差をとび降りた直後、そのまま駆けだしたさいに耳元で鳴っていた風の音を思いだすときと同じで、復帰は実現しないものとなかばあきらめていたのです。小鳥猊下がする原神エンドフィールドへの耽溺は、その代償行為なのではないかとのご指摘は当たっておりますが、更新の最突端までゲームを進めてしまうと、そこはストーリーとマップが時限で開放されるのを待つばかりの、いささか窮屈すぎる場所と化してしまうのは難点でした。世界を探索する行為も、地図が広がっていく順を持つことで、一定の指向性をあたえられてしまい、どこか野放図な自由度を欠いた「制作側の意図に管理された冒険であること」を意識せざるをえない瞬間があります。こういった内容を言語化できずにモヤモヤしていたところ、気になっていた紅の砂漠をなにげなくダウンロードしたら、ゲーム内容が漠然とした不満と不足に対する完全な回答になっていて、ビックリ仰天しました。ホヨバに代表される近年の擬似MMORPGは、課金ガチャと定期的な更新による遊戯要素の時限解放が大前提となっていますが、その比較的あたらしいパラダイムによって、知らぬまにゲームに対する価値観を上書きされていたことを、このたび痛感した次第です。

 開発に数年をかけた、メインストーリーとサブクエストと膨大なマップが最初から完全な形で実装されている、課金要素の無い買い切りゲームを1万円以下で販売するなんて、社長が脅迫症的な信念を持っているか、さもなくば気がくるっているかのいずれかとしか思えません。最初に感じたのは、おそらく3DO REALでプレイしたことのある、いまは名前も思いだせない昔の洋ゲーが持つ独特な手ざわりと同じ、なぜこれがそうなっているのかまったく説明のつかない、圧倒的な異文化でした。第7章まで進めたストーリーは、どこどこまでも脈絡なく意味不明で、「高熱のときに見る悪夢」というのが最も適切な比喩と言えるでしょう。システム面は、オブリビオンからエルデンリングーーウィッチャー3を濃く感じるーーまでのすべての3Dゲームにあった要素を節操なくほうりこんでいて、「カロリー摂取だけを目途とした、調味不在の闇鍋」としか表現できない仕上がりになっています。操作系もすべてのボタンを総動員するのは当たりまえで、さらに長押しと短押しと複数同時押しも駆使せねばならず、「左と右のスティックを同時に押しこんだまま、右だけ回転させる」のを要求されたときはイラだちのあまり、夜中にもかかわらず絶叫しそうになりました(加齢で性格が丸くなりましたね)。また、各地に用意されたノーヒントの謎解きを個人でクリアできる叡智は人類にあたえられていないため、往年のMMORPGよろしくインターネットの集合知をたよる以外の解法は存在しないと割りきる必要があります。そして、拠点拡充や傭兵派遣といったサブ要素ばかりか、肝心かなめのキャラの育成方法にさえ満足な説明がなく、数十時間も漫然とさわるうちに”気づく”しか方法がないのです(30時間を過ぎてから、銀行で投資ができるのを発見したので、まだ気づいていないゲーム内の要素は、おそらく無数にあると思われます)。

 ただ、これら1個1個が致命的に思える欠点をすべて呑みこんで、広大な世界を完全なる自由度で探索できることが、底抜けに楽しい。すでに最新とは言えないグラフィックボードなのに、最高画質で寸分のフレームレート落ちもなく、はるか遠景を見わたしながら、ロードゼロのシームレスで縦横無尽に移動できるのは、もはやオーパーツ的な超テクノロジーと言えるでしょう。「フォンテーヌの次はナタ、ナタの次はナド・クライ」ではなく、あなたは東西南北どこへ向かって足を踏みだしたっていいし、どこまでも延々と好き勝手に歩いていっていい。すなわち、戸籍も住所も持たない真の根無草の自由、世界の枠組みの埒外にいる狂人の自由をぞんぶんに、腹の底から体験することができるのです(仕事終わりにフラッと起動して、ただ野原を歩いているだけなのに、気がつけば日付が変わっていたこともありました)。紅の砂漠、人間関係のギスギスをゲーム内へと持ちこみ、時間を無限にコンシュームするMMORPGに、もどりたいけどもどりたくない層へとドンピシャリにお届けする、マッシブリー・シングルプレイヤー・オフライン・ロールプレイング・ゲームとなっておりますが、げっぷの出るほどあふれかえった、JRPGの設定と用語に強く依存する異世界転生ファンタジー群に食傷しており、この陰鬱なテキストを読み切ってなお、興味と関心が残った方にのみ、オススメです!