猫を起こさないように
文系
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漫画「チ。」感想

 前のめりの若書きだと思うし、漫画家としての技術の向上もこれからだろう。しかし、作品に込められたメッセージと、何より強いパッションに、大きく心を動かされた。個人的な事情として、昼間は文系の官僚的ブルシット・ジョブ、夜間はカネにならないテキスト書きに従事しており、理系の仕事に対してどこか劣等感と、たぶん夢想的な憧れがある。つまり、究極的に個の生命は重要ではなく、総体の一部となって一個の知を集団で積み上げ、やがて永遠につながることができるという夢想。かたや、文系の仕事はどうしようもなく生命に、個の寿命に制約されている。私が生み出している(ように思える)何かも、私が生きている限りは流動するが、私が死ねばその瞬間にすべては氷のように固定化して、二度と変化することはない。聖書にもあるように、人類は2つの永遠を持っている。生命の継続の永遠と、知恵の継続の永遠と。かつての預言者たちのようではなく、現代において言葉を紡ぐ者たちは、どちらの永遠にも居場所がない。”The words of the prophets are written on the subway walls, and tenement halls.”の時代には、まだ言葉に価値が残っていた。それは肉筆で刻まれ、読む者も限られただろうから。インターネットのおかげで、書き手を離れて無限にコピーされていく言葉は、いまや無価値であることを越えて、有害でさえある地点にまで来てしまった。ゆえに文系の私にとって、かつてよりいっそう理系の「知。」はまばゆく輝いている。

 ここからは余談ながら、最終的にあの異端審問官が「チ。」を引き継いで極刑に処されれば、もっともきれいに物語が閉じると思うんですけど、勝手に先の展開を予想するのは悪いクセですね。シンエヴァで懲りました。