猫を起こさないように
ハーレクインロマンス
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アニメ「薬屋のひとりごと」感想(5話まで)

 薬屋のひとりごとをすすめられたので、5話ほど見てみる。ひどくなつかしい昭和の物語類型で、特に女性がこれにハマるのはよくわかる気がします。もし本作が同人小説で栗本薫が存命なら、たちまち小説道場でベタ褒めされて段位がついて、角川ルビー文庫で書籍化されそうな内容です(道場主がカセットブックの声優をワチャワチャ妄想する様が、テキストで目に浮かぶよう)。出自的には、「現代人の自我と衛生観念を持った主人公が、作者の薬学知識を使って前近代で無双する」ことから、擬似中華っぽい舞台設定ーーナーロッパならぬ、なんのこっチャイナ?ーーもふくめて、異世界転生モノの亜種に分類できると思います。この作品がうまいのは、「美と生殖が至上の価値にある場所で起きる事件を、知識と推理と行動力によって解決する」仕組みになっている点で、かつて美容ではなく勉学に青春を全振りした高学歴女性たちが、本作のプロットを通じて大きく溜飲を下げており、それがヒットにつながった理由だと推測します(余談ながら、女子の人生において「いつ色気づくか?」というのは、生涯年収にも影響をおよぼす、きわめて重要なのにアンコントローラブルでもある命題ですが、長くなるのでここでは省きます)。

 「美に価値を見出さず、知識に全幅の信頼を置く奇人のたぐいだが、ある種の人々を魅了する美しさを備えていないわけではない」というのは、高偏差値女子にとって人生の遅くになって満開に咲く花、さらに下品な言い方をすれば、キャリアという名の豚骨ラーメンに美男子のチャーハンがついてくる「オンナの欲望まんぷくセット」となっていて、総体としてハーレクインロマンスを複雑骨折させた後の自然治癒みたいな作品だなーと感心しました(ほめてます)。あと、最近のテレビアニメは「このシーンの動き、すげえ!」みたくSNSでバズらせるために、両肩でゼイゼイ息をしながら、使用者も求めていない36協定を無視した労働を自発的にやってる感じが見ていてつらいのですが、本作は適度に手を抜いて枚数をセーブした9時5時のサラリーマン労働からできており、管理職が見ていてしんどくならないのはいいなーと思いました。