猫を起こさないように
クリストファーノーラン
クリストファーノーラン

映画「TENET」感想

 何の、とは言わないけど、口直しに積んだままになってたTENET(英語の回文になってるので、カタカナ表記できない)を見る。劇場で鑑賞しようと思ってたんだけど、何かの併映で映画の冒頭部分がけっこう長めに公開されてたのを見てから、なんとなく興味を無くして、結局は行かなかった。あの冒頭の映像って、続きが気になるような内容とヒキになってなかった気がするんだけど、逆効果だったんじゃないかしら。

 事前の情報で想像していたのは、豪華な「メメント」ぐらいの内容だったんですけど、いい意味で期待を裏切られました。小手先の編集やCGに逃げない、堂々たるタイムトラベルSFアクション映画に仕上がっています。近年の大作映画って悪い意味でCGまみれで、どんな絵でもスタジオで自在に作れるぞっていうギーク感がときどき鼻につく(ホビットとかアベンジャーズとか)んですけど、本作は実在の人物を実在のモノとともに実在のロケーションで撮影するんだという強い執念を感じました。そのおかげで昔の大作アクション映画(ターミネーター2とか)のような、新しいけど懐かしい、不思議な画面の仕上がりになってます。

 ただ、順行と逆行にまつわる映像が正しく表現されていたかどうかは、よくわかりませんでした。タイムトラベル物に新しいパースペクティブを加えていたかどうかも、私には判断できません。インセプションのときみたいに「だれも見たことがない映像を撮ろう!」という意気込みが、若干から回ってる気はしました。この順行と逆行の見た目が本当にややこしくて、監督自身もどっかで編集ミスってそうですし、背景のモブの役者たちもよく見たら、おそるおそる演技してる感じがあって笑いました。

 あと、登場するだけで画面の縮尺がくるってる感をかもしだす例の女優ですが、劇中でだれも身長のことに言及した台詞(拳をボキボキ鳴らしながら「おまえのようなデカいババアがいるか!」)を言わないのが不思議でしたね。そして、男性が女性を殴るインパクトの瞬間と、顔にできたはずのアザを写さない場面には、いまのハリウッドの窮屈さを感じました。

 それにしても、2000年に「メメント」を見たときには、こんな大作映画を撮るような方向へ進むなんてまったく思ってなかったんですけど、「ダークナイト」が監督の人生にとって大きなターニングポイントになりましたね。バットマン・シリーズが無かったとき、クリストファー・ノーランが2020年にどんな映画を作っていたかという仮定には、すごく興味があります。

 いやー、でも映画を見るときに、監督が信用できてビクビク不安におびえなくていいって、こんなにも素晴らしいことだったんですね! みなさんはもうおわかりでしょうが、ひとつ前に見た劇場映画との落差から高評価になってる可能性もあるので、念のためにお伝えしておきます。