猫を起こさないように
アオアシ
アオアシ

漫画「キャプテン翼・ワールドユース編」感想

 なんと、キャプテン翼のワールドユース編を読了。比較的あたらしいシリーズだと思っていたのに、じつはドーハの悲劇より前の時代の連載作品であり、中年期以降の時間感覚にあらためて恐怖をおぼえた次第である。ジャンプ本誌では、リアル・ジャパン・セブンの登場ぐらいまでを読んでいたことが今回わかったのだが、前作の終盤に連呼された、少年に向けた性愛がほんのり香るジェイ・ボーイズ・サッカーなるネーミングといい、あいかわらず全編にわたって独特のセンスがただよっている。そして、この世界における審判はまったくの無力であり、荒れる試合をいっさいコントロールできないため、相手の選手を物理的に痛めつけることが目的の南米式カンフーサッカーが横行し、有名なフレーズである「ボールはトモダチ」どころか、作中に体現されているのは「ボールはマーダー・ウェポン」であり、必殺シュートに接触すると人体はもれなく破壊されるのだった。協会の片桐さんが試合で片目を喪失しているのも、キャプテン翼のサッカー観を如実にあらわしており、おそらくスパイクの裏側で顔面をけずられたーーしかも、ノーファウルーー結果にちがいない。さらに、無印1話から登場し続けるダンプカーが選手とその家族を死傷させまくるのは、ほぼシュールなギャグレベルの反復になってしまっている(これほどまでに大型車が登場人物たちを苦しめるマンガは、他には野望の王国くらいのものだろう)。本邦がまだワールドカップ本戦出場をはたせなかった時代の作品ゆえに、見たくもない中国やサウジアラビアとの死闘を予選リーグで延々とくり広げたあげく、国際ジュニアユース編を焼きなおしたような展開になってしまったからだろう、決勝トーナメントの途中で打ち切りが決定したようで、セミファイナルはナレーションだけで”ごういん”にスッとばし、満を持して登場したロベルト本郷ひきいるブラジルユースとの頂上決戦も、後半ロスタイムで巻きぎみに終わってしまう。これにワリを食ったのは、さんざん読者の期待をアオッてきた世捨て人のサッカー王で、試合時間にして数分とわずか数ページを登場したのち、翼くんにアッサリと返り討ちにされるのだった(それにしても、世界の一流選手たちに絶大な影響をあたえた作品の続編を、ジャンプ編集部はよく打ち切りにできたものだなと感心していたら、当時の彼らは年齢的にまだ小中学生だったことに気づいた)。

 個人的な感覚を言えば、雷獣シュートやらナトゥレーザくんなどは、同人作家によるパチモンのようにしか思えない。なんとなれば、初代の連載終了後に発売されたファミコン版キャプテン翼2・スーパーストライカーにて、真のワールドユースにおける激闘を個人的に何周も”実体験”しているからである。翼くんしかガッツ消費のシュートを持たない弱小サンパウロFCを率いてリオカップを制覇し、続く全国高校サッカー選手権は退屈すぎて特に印象はなく、全員が必殺シュートを持つ全日本バーサスほぼ翼くん単騎チームのジャパンカップは極限の死闘となり、敗退をくり返すことで経験値をかせいでレベルを上げ、ついに初めての勝利を手にしたときの歓喜は、ジョホールバルもかくやというもので、いまでも忘れることはできない。そして、ワールドユースの予選を勝ちあがり、本戦でピエールくん、ナポレオンくん、ジノ・ヘルナンデスくん、ファン・ディアスくん、シュナイダーくん、ミューラーくんと戦いながら、伝説の選手とその必殺シュートについてのミステリーが、テクモシアター演出(忍者龍剣伝!)によって解き明かされていく興奮は、令和の最新ゲーム群が提供するそれに勝るとも劣らないものであった。ブラジルとの決勝戦において、ガッツを400も消費するサイクロンをゲルティスくんのダークイリュージョンでキャッチングされ、パスを受けたコインブラくんが他選手の3倍の速度をしたドリブルで自陣ゴールへとせまる絶望感は、じっさいに経験してみないとわからないだろう。いまでも、ブラジルのレジェンドはだれかと問われれば、ペレではなくジャイロと答えるし、翼くんの最強シュートはスカイダイブではなくサイクロンだと強く主張して、一歩もゆずらないほどである。私の中では、このファミコン版キャプテン翼2がたび重なるゼロからのプレイによって正史と化しているため、マンガ版のワールドユース編はできの悪い二次創作か、それこそ偽史としか思えないのであった。最後にこっそりと、「ビックリするほどあっていないから、これ以上は読まないほうがいい」とのアドバイスをいただいたアオアシを全巻読了したので、それに言及して終わりたいと思う。サッカーにおけるユース世代の育成をテーマとして、「すこし食い足りないが、ここで終わるのがもっともきれいだろう」という地点で幕を閉じており、事前の想像よりもはるかに読後感よくまとまっていて、非常に好感が持てたことをまずはお伝えしたい。それと同時に、おのれの過去の虚構体験から逆算したマイナスの予測をご高説として垂れるのは、以後、厳につつしまねばならぬと反省したのであった。

 ただ、ひとつだけひっかかったのは、バルサのエースであるCUNTーーやだなあ、カッコつけのために英語表記にしただけで、他意はいっさいないですよ!ーーをめぐる勝負の描き方で、「地域の紛争や欠損した家庭からの逃げ場としてサッカーにたどりついた者が持つ、失敗イコール地獄への逆もどりとなるがゆえの、人生と骨がらみになった強さ」に対抗しえたのが、片親で極貧の少年期を過ごしたAKUTZだけだったというのは、その後の主人公による決勝ゴールへといたる展開を加味してさえ、作り手の意図しない誤ったメッセージを発信してしまっているような気がする。現在、現役生活とGOAT論争の終わりを迎えつつある二人の大スター選手がいるが、かたや長身の筋肉質なイケメンであり、かたや中肉中背のオタク顔をした喪男であるという見かけの相違だけが、高校時代の学内ヒエラルキーのような、余計なイザコザを場外に引き起こしているような気がしてならない。それは、カースト上位に位置する生徒が視界に入れただけでイライラするキモオタを、教師にバレないよう取り巻き連を使って間接的にイジメる構図に酷似しており、騒動の規模がグローバルであろうとも、根っこの部分に横たわるのは、青春時代に万国共通のルッキズムだと指摘できるだろう。突然のリアル方向への脱線でなにが言いたいのかといえば、イケメンがアル中の父親に対する憎悪を自己愛へと反転させ、サッカーを立身の道具と決めて勝ち続けてきた結果、いよいよ年齢を重ねて、汲むべきエネルギーを枯渇させてガス欠となってきたのに対して、ブサメンのほうは両親への深い愛情と感謝の念をかくそうとしないだけでなく、なによりまだサッカーをプレイできることへの喜びに満ちあふれていて、いよいよ年齢を重ねて、常人には理解不能の領域へと突入しているということだ。現実のサッカー界において、まったくCLITRISやCUNTやAKUTZのようではない人物が軽やかに、いとも簡単そうにすべての栄冠を手に入れていくのは、人生の初源に憎悪を持つ小鳥猊下にとって、人類全体へと向けられた救済や福音であるように思えてならない。

雑文「Captain T., Blue Leg and J. Dream」(近況報告2026.7.19)

 気むずかしげな見かけと文体をしていながら、根の部分がミーハーなので、最近は世界球蹴り合戦の影響を受けて、密林の無限焚書でサッカー漫画ばかり読んでる。まず、大定番であるキャプテン翼の小学生編ですが、いまではギョッとするようなラフプレーの数々を審判が流しまくり、まったくファウルもとらずカードも出ないのには、ビックリしました。小学生にケガの状態を自己判断させすぎだし、気温35度の炎天下で試合を決行するし、これが年をとったということなのでしょう、無責任な大人たちによる大会運営のずさんさばかりが印象に残りました。それにつけても、作者の加齢によって世界的な人気作品が、オリンピック編の下書き連載で終了しそうなのは、じつに残念なことです。いまはタイトルも思いだせない、プレートを目いっぱいに使って対角線上に速球を投げこむことを、クロスファイアと呼ぶ野球漫画を無かったことにして、キャプテン翼の話数を積み増すことができたらとさえ思います。ナレーションで過程をスッとばしていいので、最後のページは翼くんと若林くんがワールドカップをかかげる見開きで終わることを願っています。くれぐれも現在、人気の長編作品を連載されている漫画家のみなさまは、50代半ばくらいでご自身には寿命があり、そこからは目も体力も衰えていくばかりだと自覚してくれればと、思わずにはおれません。

 次に、エッキスで評判のいいアオアシですが、20巻をすこし越えたあたりまで読んだものの、全巻の半分を過ぎてもしょうもない国内レベルの試合(失礼)で、あれだけ圧倒的強者として描かれてきたユースAチームが、無計画の場あたりサッカーで大苦戦するのを延々と見せられると、もしかしてハイキュー!!エンドa.k.a.尻切れトンボなのではないかと、だんだん不安になってきました。一試合もどんどん長くなっていて、それは敵味方の双方の過去エピソードを挿入しまくるせいなのですが、「群像劇になると、主人公の特別性が薄まる」を地で行っており、サッカーの戦術にフォーカスがある漫画のはずなのに、「選手の感動エピソードが入ると、試合が大きく動いたり、点が入ることが事前にわかる」という妙な具合になってきております。このまま読み進めていいものか迷っておりますので、有識者のみなさまにはぜひアドバイスをお願いします。最後に、もっとも感銘を受けたのは「ドーハの悲劇」の前から連載がはじまったJドリームです。自分の家ではない本棚で読んだような記憶はあるのですが、全シリーズを通読したのは今回がはじめてだったように思います。特に無印の1巻は、「Jリーグ発足に間にあった者と、間にあわなかった者」にフォーカスしていて、今日にいたる本邦サッカー界の大幅な躍進の裏に、無数のこういった苦難や挫折があったのだと気づかされ、見えている現実が厚みを増す感じさえありました。

 また、2巻以降の主人公である少年には、「日本のワールドカップ出場を手だすけするためにつかわされた、正体不明の異国の鳥」としての描写があり、そのように美しく物語は閉じられるはずだったのに、現実ではまさかのロスタイム逆転負けを喫したせいで、盛りあげに盛りあげたストーリーも、泣く泣くそれにあわせる形で「本戦出場ならず」を結論として、尻すぼみに幕を閉じてしまいます。ここから、さらに4年後のワールドカップ出場とフィクションとの同期をもくろみ、Jドリームは「飛翔編」として再起動します。簡単にまとめると、ユース世界大会において、日本がアルゼンチンとイタリアをやぶって優勝するという会作なわけですが、これだけの活躍をしたファンタジスタ(笑)の主人公が、続く「完全燃焼編」では当時の本邦の状況を反映させられてその輝きを失い、イランやサウジアラビア相手に大苦戦を強いられる展開には、もうまいりました。このあたりから、「背景より人物を描きたい」とのたまう作者のクセが悪い方向に出はじめ、異様に近いカメラとバストアップの連続によって、画面は窮屈かつ閉塞感に満ちたものとなり、サッカー漫画版・修羅の門(なんじゃそりゃ)みたいな読み味になっていくのです。それでも、日本のワールドカップ本戦初出場にあわせた最終ページの、「夢物語をやめよう」というナレーションには、ジンと胸をうつ力がありました。

 さすがに若い人が全巻とおして読むのはたいへんだろうので、この駄テキストで興味がわいた向きは、無印1巻と完全燃焼編の最終話、そして当時の日本サッカーの赤裸々な状況がよくわかる各巻末のコラム漫画を読むとよいでしょう。あと、作者が女性であるからなのか、小鳥猊下が栗本薫の影響下にあるせいなのか、登場するすべてのキャラクターに”受け”か”攻め”かの連想を強いる感じがあって、キャプテン翼には無数にあったようですが、本作にもそういった同人誌(婉曲表現)が存在したのかは、気になるところです。そして、新旧代表キーパーのどちらが”受け”でどちらが”攻め”なのかは、一目瞭然と言えるでしょう。へへ、おまえ、代表戦とちがって、こっちのゴールはだらしなく開きっぱなしじゃねえか……(最低)。