猫を起こさないように
鈴木先生
鈴木先生

映画「鈴木先生」感想

 「グレーゾーン」「アウトサイダー」「システム」をテーマとして、原作の2つのエピソードを融合させた脚本の良さが際立っている。二人のアウトサイダーがたどった異なる結末を対比することで、「もしかすると、世界は良い方向へ変わっていけるのかもしれない」という希望を、絵空事ではなく信じる気持ちにさせてくれる。

 ご存知のように小生は、世代のバトンによる変革というメッセージに極めて弱い。原作を偏愛する身にとってテレビ版は承服しがたいものだったが、この映画版へは手放しの称賛をさせていただきたい。

 しかしながら、小川蘇美役の演技は映画の良さを一等減じており、このキャスティングだけはテレビ版に引き続きなお承服しがたい。

ドラマ「鈴木先生」感想

 『ねぇ、僕は今こんなことを考え付いたんですがね。僕たちが教育っていっているものはもしかすると単に力の問題でしかないんじゃないかって』

 Huluで鈴木先生のドラマ版見る。こちらから原作へ誘導するには良い出来かと思う。しかしながら、原作にあった「聖と俗の綱引きで、最後にはほんの少しだけ聖が勝る」という絶妙のバランスが崩壊してしまっている。全般的に「実録・中学教師の肉欲」みたいな、「ああ、なんや、聖職者、言うたかて、先生も人間やさかいに、大変どすなあ」みたいな、すごく世間のゴシップ的関心に寄った作りで、原作の魅力を大いに減じていると感じた。混沌に秩序を与える鈴木先生のカリスマ性は後退し、卑俗な独白と妄想ばかりが強調された傍観者に成り果てている。初回放映時はほとんど視聴率が取れなかったと聞いていたので、原作の聖の部分にフォーカスしたもっと舞台演劇ふうのものを想像していただけに、余計にガッカリ感は大きかった。

 だいたいさあ、ワンレンの小川蘇美ってどうなのよ。最も重要な人物の性格設定を完全に無視してるじゃん。彼女がすごく下品な感じがするのも、ドラマ全体の雰囲気にマイナスの影響を与えているなあ、と思った。