猫を起こさないように
太宰治
太宰治

ゲーム「艦これ2019夏イベント」感想

 うん、カンコレ? ……3海域だけだし、久しぶりに甲勲章ねらえるかもなどと考え、じっさい友軍が来るまえにイー・ツーをすんなりと抜けてしまったのがマズかった。イー・スリーも最終段階にさしかかり、ボスの装甲破壊ギミックに着手するも、なぜか基地防衛の航空優勢がなかなかとれない。調べてみると甲は乙の倍ほど制空値が必要なのだという。なけなしの装備をかき集めてみると、イー・ツーでもらったばかりの局戦の熟練度を最大まで上げれば、ギリギリ航空優勢の制空値に届きそうな感じである。そこで、イー・ワンに戻っての熟練度上げを始めた。

 幾度も出撃・撤退を繰り返すが、熟練度は遅々として上がらない。ちょうど二十回目の出撃後ぐらいだろうか、私の脳髄にトカトントンが響き始めた。人生の貴重な時間を、こんな無駄な作業に費やしていていいのか。何か大病をして、人生の残り時間が決まった場合、まっさきに後悔するのは正にこの時間なのではないかーーそう考えると、手が止まった。

 それ以来、一週間ほど遠征による資源回復も行わず、放置したままである。もしかすると、本当に引退かもしれない。

 カンコレのイベントどうなりましたか、だって? ハハハ、君はこんなバスエ・サイト・マネジャーの昏い趣味にまで気をかけてくれるいいヤツだなあ! あるいは、クリア済みの甲提督が優越感でなぐりに来ているのか、んん? まあ、その気分はわかる。イー・ツー・甲をクリアできないグズどもを見るのは、本当に胸のすく感じだったからな!

 あれから、トカトントンが響いていない瞬間は私の人生には無かったことに気づき、なんとか航空優勢のギミック解除にまではこぎつけた。しかし、それがワナだった。すなわち、ビッグ・スワンプの始まりである。大破、撤退、大破、撤退。ボス旗艦を中大破に追い込んでからの夜戦敗退は数知れず。繰り返される虚無と空費は、瞬発的な怒りとは異なった、日常生活では意識することのない、根源的で巨大な感情の存在を顕現させる。表面はしんと静まり返っていて、煮え立ちもしない。

 しかしこれこそが、他者の肉に刃物を通し、幻想の肉を火刑にし、肉親の骨を鈍器で砕き、偽りの肉を電気コードで締め上げるときの感情なのだ。私たちの世代が本質的に呪われていることの証左である。受験、就職、結婚、出産、育児、マイカー、マイホーム、昭和の追憶を表面だけトレースしても、決して満たされることはない。こんな玄妙極まる激情を惹起するゲームは、他にないだろう。

 そして、ほとんど誤差にしか見えない微細な数値を膨大な時間を費やして積み重ねた先に、かろうじて届く領域がある。これは最高のギャンブルと同じで、技術を突き詰めた究極の先には、純粋に運だけが残る。その場所では、自分は勝てないことを改めて思い知らされた。人生についての苦い学びがあるのは、良いゲームの証拠だ(そういえば、エフエフ・イレブンもそんなゲームだった)。やがてバケツが尽き、アルミが尽き、燃料が尽きた。イベントの終了期限から判断して、難易度を乙に落とす。すると、エス勝利が2回続いて嘘のようにスッとクリアできた。

 至高のステージでは敗者にしかなれず、一流にはわずか届かない技術で二流を相手に糊口をしのぐ。つまらない勝ち、達成感のない勝ち、無意味な勝ちだけが積み重なる日々。本イベントは、己の人生をふりかえって自嘲するが如き顛末に終わった。カンコレ、罪なゲームである。