猫を起こさないように
ゲーム「ロマンシング・サガ2:リベンジ・オブ・ザ・セブン」感想
ゲーム「ロマンシング・サガ2:リベンジ・オブ・ザ・セブン」感想

ゲーム「ロマンシング・サガ2:リベンジ・オブ・ザ・セブン」感想

 ロマンシング・サガ2:七英雄の逆襲をプレイ中。まず、近年の洋画につけられた悪いカタカナ邦題を逆輸入したサブタイトルに苦言を呈しておくと、”オブ”入りの場合は日本語の機序を無視するため、きわめてダサくなるという審美眼ぐらいは、養ってほしいところです(おそらくリベンジ・オブ・ザ・シスのパクりで、ウェイ・オブ・ウォーターに背中を押されたのでしょう)。崩壊スターレイルの「ピノコニー学園編」序盤を視聴し、ニンジャスレイヤーそのまんまな美少女忍者の言動にゲラゲラ笑ってから、非常にゆかいな気分で目尻の涙をぬぐいつつ、本作を起動してオープニングをながめたとたん、デプレッションの井戸の底の底までストンとまっすぐに気持ちが落ちました。ホヨバの手がける世界最高水準の3DCGを見た直後だと、モデリング・モーション・カメラワークなど、ゲームのルックスに関わる部分が、すべてプレステ2の水準にとどまっていて、25年前の就職氷河期の入口まで、人生の強制ZAPをくらったような感覚を味わわされたからです。

 以前からくりかえしていますように、「本邦の衰退」という言葉を聞くとき、それをもっとも実感するのは、スクエアというファミコン時代の絶対ブランドーースクエニ? なにそれ、こわーーだったゲームメーカーが、その技術とセンスにおいて、完全に時代遅れになってしまっているのを目のあたりにする、今回のような瞬間です。深い悲しみにつつまれながら、クジンシー打倒を進めていくのですが、崩スタの饒舌なシナリオを目にした直後だと、リメイク用に追加されたとおぼしきテキストが、声優の下手クソさもあってか、寒気のするほど幼稚な内容に響いて、近年の商業作品が持つクオリティに達しているような気さえしません。かつて、簡素なテキストとチープなドット絵を無限の想像力で補完して、脳内にくり広げられていた壮大な帝国興亡史の正味は、じっさいこの程度のものだったのかと、ひどく落胆させられました。タイムラインに好評価しか流れてこないのは、直近で言えば室井慎次のような、思い出補正の「氷河期ホイホイ」だったのだろうとコントローラーを置きかけたところ、3代目の皇帝に代がわりしたあたりから、独自のシステムと戦闘の軽快さが欠点をまさってきて、がぜんおもしろくなってくるのです。

 オリジナルはウィザードリィと同レベルの不親切なゲームで、イベントのフラグ管理は紙と鉛筆と記憶力でするしかなく、戦闘難度の高さからプレイの手順次第では、簡単にゲーム進行不能の”詰み”状態に陥ってしまうぐらいでした。その、プレイヤーをつきはなした感じが同時にロマサガ2の魅力になっていて、今回のリメイクは原典が持つおもしろさの本質をこわさないまま、巧みにユーザー・フレンドリーを作りだしていることも、ショボい(失礼)グラフィックに慣れてくると、次第にあきらかになってきます。誇張ぬきでプレイ時間の70%以上を占めるだろうバトルは、高火力を押しつけあう「殺られるまえに殺る」バランスで、ヒットポイントがゼロになるとライフポイントが失われ、ライフポイントがゼロになるとウィザードリィばりの擬似ロストーー本家とちがって、すぐに同じ能力の後継を雇えるためーーを体験でき、非常に緊迫感あふれるものになっています。「ゲーム中はデメリットなしで、いつでも難易度を変更できる」という仕様によって、令和の御代に平成前期のゲームバランスを再現しているのですが、「ノーマルが充分にハードで、カジュアルもイージーとは言いがたい」のは、ロマサガ2本来のゲーム性を守るための、かなり攻めた調整だと感じました。

 システム由来の没入が深まると、つたないグラフィックやテキストも、こちらの想像力による補完をゆるす対象に思えてくるから、不思議なものです。オリジナルをプレイしていた当時とはちがって、塩野七生の「ローマ人の物語」をすべて読み、サピエンス全史の記述から「帝国なる現象」への解像度が格段にあがっているため、脳内に仮構される物語はいきおい陰影に富んだ重厚なものとなり、この胸に大きな感慨を引き起こすのでした。それとは対照的に、原神にせよ崩スタにせよ、ホヨバのゲームは最高レベルのグラフィックと完成されたテキストゆえに、プレイヤーが行間を埋める余地をほとんど残していません。もしかすると、半島や大陸で勃興した新進気鋭のゲームメーカーに、本邦が対抗できる唯一の要素は「遊び手へ、想像の余地を与える」ことなのかもしれないーーなどと一瞬だけ考えたものの、1分動画を愛好する昨今の若人たちが、硬く乾いたスルメのごとき、いかめしいルックスをした本作を味の出るまで(3時間くらい)しがんでくれる気はしませんので、やはりタイムラインの盛りあがりは「踊る大捜査の最新作に足を運んで、キャッキャはしゃぐ中高年」と同質のものなのでしょう。

 ここからは完全なる妄言なので、積極的に聞き流してほしいのですが、冨樫義博がFF11の重篤な廃人プレイヤーだった事実を、識者のみなさまはすでに忘れかけてはいないでしょうか? つまり、昔ながらのディープ(ダンジョン!)なスクエア・ファンである彼が、ロマサガ2における最強の体術技である「千手観音」やターム軍団の襲来ーー「アリだー!!」ーーに影響を受けていないはずがないとお思いになりませんでしょうか! さらに踏みこんで言うと、ハンターハンターのアリ編はロマサガ2をきっかけに「閃いた」アイデアであるのやもしれず、だとすれば「創造物による感染」こそが本邦のオリジナルであり、やはり半島や大陸にまさる唯一無二の美点なのかもしれません。あと、タイムラインに流れてきた「3代目以降の皇帝が全員巨乳」という昭和の性倫理な漫画は、ロマサガ2あるあるすぎて、思わず笑ってしまいました。