鈴木先生(10)
“愛のうた”は、「鈴木先生」の第1巻から始まった。はたして、何人がこの10巻までを追い続けているだろうか。現実を題材としながら、もはやファンタジーと称してよい中身にも関わらず、そのボルテージは依然として高まる一方である。そして、読むときに呼吸が止まり時計を見なくなる瞬間が訪れる、すれっからしの享楽乞食にとって数少ない作品の一つだ。さて、同じ学校を舞台にしたファンタジーという意味で、この作品が対比されるべきは、誰も指摘しないのが不思議なくらいだが、諸君がスメリー・マウスで萌え萌え言うところの「けいおん!」である。前者が「言葉が万人に有効である」というファンタジーを忍ばせているのに対し、後者は「女子の青春が男子無しで充足できる」というファンタジーを忍ばせている。違いは、それらのトリックを用いて作り手が描きたいと考える現実の側面なのだが、あえてその解答は諸君へ残しておきたい。ページの半分以上を文字が埋めるこの異様な群像劇を、君も体験してみないか。