インセプション
結論から言えば、本編の主要な映像をコラージュした配給会社による予告編がいちばん面白かった。君は「何度も見る価値がある映画」という評論筋のふれこみに騙されてはいけない。なぜなら、物語が難解なのではなく、設定が難解であるに過ぎないからだ。以下の括弧内は読み飛ばしてもらって全く問題無いが、「ゲメレ星人の右脇の下から伸びているのは我々で言うところの生殖器である。彼らは我々のようには、その露出を躊躇しない。なぜならそれは、文化的役割を持つ第三肢と考えられているからである。重力方向に対してそれを垂直に三十度捻りながら性交を行えば快楽目的の情事となり、三十五度を越えて捻った場合は本来の目的、すなわち純粋な生殖の合意となる。ただし、ゲメレの母星における重力は直下へ向かうが、その衛星においては天頂へ向かうことを念頭に置かねばならない。さらに、150日周期で母星と衛生の重力方向が入れ替わることは、触れるまでもない常識である」と同程度に混みいった設定を開始直後から一時間足らずで叩き込まれ、後に訪れるトリックの衝撃と物語の感動がその設定の理解度に大きく依拠するという作り方になっており、SFとミステリーの融合はギャグにしかならないというのは、改めて真理であると気付かされた次第である。それと、「マトリックス以来の新しい映像表現」って、ほんとに北米メディアが言ったの? 英語で記述されてる第三世界の掲示板から適当に拾って極東メディアが翻訳したんじゃないの? ウォシャウスキー兄弟つながりで言えば、ザ・ウォーカーがたちまち上映終了になって、あちこちインセプションだらけになったのもすごく気持ち悪い。つまり、ケン・ワタナベの出演こそが本邦における高い評価の理由なんじゃないの? なんとなれば、我々は学校で、職場で、ネットで、あるいは家庭でさえ、愛国心を検閲される社会に生活しており、 抑圧されたその感情は常に出口を求めているため、いったんそれが見つかれば高圧で噴出するのである。例えば、芸術とか、スポーツとか、もしかして差別とかね。あと、「最後にコマが倒れるシーンをフィルムに入れなかったのは、深いよね」としたり顔で語る学生カップルの男の方、ちょっとこっち来い。直々にチョウパンいれてやるから。