猫を起こさないように
2nd GIG “パッション・ハリケーン”
2nd GIG “パッション・ハリケーン”

2nd GIG “パッション・ハリケーン”

 ファミリーレストラン奥の一角を我がもの顔に占拠する非人間的なデブっぷりの一団。テーブルの上には気弱そうな青年がほとんど奇形ともいうべきグラマラスな姿態の婦女子の集団に取り囲まれ困惑の表情を浮かべている図の掲載された雑誌や、その他さまざまの一般性に欠ける品々がところ狭しと広げられている。レジの裏で両手に顔をうずめて泣くアルバイトらしいウェイトレスと、それを慰める口髭の雇われ店長。
 「(公共の場でするには不適切な大声で)しっかしよォ、こないだはホント大変だったよなぁ」
 「(どこか均衡の崩れた奇怪な抑揚で)ああ。署長がエロ同人好きじゃなかったら俺たちは今頃どうなっていたことか。ラッキーだったな」
 「(対面に座る肉厚の人物を見ながら)ラッキーと言えば……まったく、どういう心境の変化なんだか」
 「(テーブルの上においた紙に覆いかぶさるように数センチの距離まで顔を近づけてペン走らせながら)別におまえたちのことを認めたわけじゃない。ただ前の連中が気にくわなくなっただけさ」
 「(羽根をむしられたニワトリのように無様に両手を広げて)これだよ!」
 「プルルッ、プルルッ」
 「(非人間的なデブっぷりにオレンジジュースのコップを口元に持っていくのを妨げられて痙攣しながら表面上は平静を装って)電話鳴ってんぜ」
 「プルルッ、プルルッ」
 「(非人間的なデブっぷりに何度も足を組もうとしてできず痙攣しながら表面上は平静を装って)おい、おまえのケータイだよ」
 「(紙の上に覆いかぶさったままで)小学生の乳首の隆起をトーンを使わずに自然かつ官能的に表現するのにいそがしいんだよ……(鳴り続ける携帯電話に手をのばし)もしもし。…ああ、あんたか。ああ。…わかった。それじゃ」
 「プッ」
 「さあってと、(大きくのびをしつつ身体の後ろで手を組もうとしてできず必死の形相で痙攣しながら平静を装って)そろそろ移動しようや」
 「あ、俺つぎはカラオケがいいな。もちろんFourSeasonsの”北へ。”が入ってるとこじゃなきゃイヤだぜ」
 「(無言で立ち上がり)俺はここで抜けさせてもらう」
 「おい、待てよ!(激しく立ち上がり肩をつかむ)」
 「悪いがカードキャプターさくらは本放送をリアルタイムで見ることに決めてるんだ(手を払いのけて店の入り口へと歩き出す)」
 「待てったら! なぁ、CHINPO(本名:上田保椿【うえだやすはる】の名前を逆から訓読みにしたもの。あだ名)からもなんとか言ってやってくれよ」
 「仕方ないさ。あれがヤツの流儀だ(両脇下の黒ずんだTシャツにジーンズの両脇から肉をはみださせて出ていく後ろ姿を見送る)」
 「チッ。まったくつきあいの悪いヤローだぜ…(ひょいとおがむように片手をあげて)ほんじゃ、ごちそうさん」
 「待てよ。誰がおごるって言ったよ」
 「あれ、今日の集まりはCHINPOのおごりじゃないの?」
 「まさか。それに俺は今日一銭も持ってないぜ」
 「なんだって! それじゃ、ここの支払いはいったい…」
 茫然とたちつくし互いに顔を見あわせる非人間的なデブっぷりの四人の青年たち。店内でこれまでの数時間に行われた様々の無意識的反社会活動に業を煮やしたアルバイトのウェイトレスと雇われ店長。遠くから近づくパトカーのサイレン。都会のネオンサイン。

to be continued