猫を起こさないように
野望の王国
野望の王国

野望の王国

 「いやはや大したもんだよ。我が東大せんずりチームが本場アメリカのチームを破るとはね」
 「アメリカ大学せんずりチーム唯一の敗けですからね。立花と片丘二人でアメリカの瞬発力だけが頼みの持久力に欠ける大チンポをねじ伏せたってわけですよ」
 「我が東大閨房術学部のトップの座を争う二人がね」
 「ところで諸君は進路を決めたかね。誰が私の教室に残ってくれるのかね」
 「(片丘・立花両名の隆々と勃起し、もうもうたる湯気で置かれた湯飲み茶碗の前に陽炎を引き起こす物体を装着した丸出しの下半身を自分のそれと見比べながら)まあ、立花と片丘のどちらかでしょう」
 「ぼくたちはどうせ残ったって片丘と立花がいたんじゃ教授になって女学生にせんずり以上のことを教授することはできやしないから、あきらめて就職するよ」
 「全くだ。ぼくも実はぼくの卒業した高校はじまって以来のオナニストだなんて言われて自信マンマンだったけれど、立花と片丘に会って天狗の鼻もぺしゃんこさ。そしてぺしゃんこになった鼻が暗示するのは欠陥のあるぼくのチンポで、同時に去勢をも象徴しているのさ。なぜって、男性の自信は一般的に男性自身から来るものだからね。そしてマンマンとわざわざ片仮名表記したことの意味がわからぬ君でもあるまい」
 「ああ、おれも度肝をぬかれたね。さすが東大、すげえオナニストがいるもんだと思った。この場合”ぬかれる”という動詞は、受け身であるし、『自分以外の力でせんずりを行う』という国語的解釈が適当だろう。つまり自慰に関して自信が持てなくなっている状態を暗示しているんだね。だからより誤解のない正しさを期すならば、目的語を”度肝”から”チンポ”におきかえるべきだろうね」
 「ぼくらはもうギブアップですよ。このテクストには『これ以上せんずり行為を続けることに』が挿入されねば発話者の意図が正確に完成しないと思うな」
 「うむ、私も同感だ。この二人ほどのオナニストは私も見たことがない。この二人のどちらかが残ってくれれば私は最高の後継者を持つことができる」
 「申しわけありませんがぼくは教室に残る気はありません」
 「ぼくも同じです」
 「(慌てて)じゃ、大蔵省かどこかに就職するのかい?」
 「ど、どうしてかね!?」
 「いや、どこに就職する気もない!」
 「官庁にも、企業にも!」
 「学校にも残らない、就職もしない……いったいそれではどうする気なんだ?」
 「ぼくたちが閨房術学部せんずり学科でせんずり学を学んだのは自慰が性交を超克する仕組み、快楽をつかむための方法を学ぶためだったと言っていいでしょう!」
 「人間の快楽構造のカラクリを研究し尽くし、ぼくたちが新しい自分たちの王国を築くための準備を進めてきたのだとも」
 「な、なんだって!?」
 「き、君たち、気でも狂ったのか……」
 「せんずりしすぎて頭がおかしくなったんだ……」
 「ぼくと片丘はせんずりチームに入って初めて知り合ったが、そのとき二人とも同じ野望を持っていることを知った」
 「つきあってみて――この場合”突き合って”と漢字表記するのが適当でしょうが、それだとあまりに婦女子に対して露骨すぎると言わねばなりますまい――我々は互いの男性能力を極めて高く評価するようになった。で、我々は互いに野望を達成するために協力することを誓ったのです」
 「我々は野望達成にすべてをかけると決めたのです。だから学校に残ってせんずり生活に没頭したり、就職してオナニー生活に身を削ったりするわけにはいかないのです」
 「き、君たちはまるで誇大妄想狂のようなことを」
 「我が東大閨房術学部始まって以来のせんずり行者の二人がどうしてこんな下らぬ妄想を」
 「(上半身には詰め襟の学生服、下半身には密集したすね毛とチンポ丸出しで立ち上がりながら)誇大妄想と思うなら思って下さい! 我々は自分たちの痴力と体力を信じているんです!」
 「(上半身には詰め襟の学生服、下半身には密集したすね毛とチンポ丸出しで立ち上がりながら)この世は荒淫だ! 唯一野望を実行に移す者のみがこの荒淫を制することができるのだ!!」