「どうしたんだい、委員長。急に屋上なんかに呼び出して」
「ねえ、坂上君…青空は好き?」
「うん、好きだな。ほら、僕って重度の二次コンだろ。何の自己再生産性もない、人類という種の本義に反した悪魔的な罪の上にいる僕だけど、このぬけるような青空を見上げていると、僕の持っているような何も生み出さない種類の糞ほどにも役に立たないちょっとした繊細さを傷つけないで尊重してくれる、薄布をわずかにまとっただけの男にとってたいへん都合のよい様子の婦女子の連隊がある日突然空から舞い降りて来て、戸籍だとか国民年金だとかそういった現実の方法を無視したやり方で僕の家に押し掛け女房的に住み着き――当然それを成立させない実際的な理由のうちの最も蓋然性の高い両親という問題はすでに死に別れているとか、海外への長期出張だとかで向こうから解決してくれているのさ。彼女らを養っていくための金は当然両親ないし両親の知り合いの富豪が毎月口座に何不自由ないほど振り込んでくれるんだ。これは彼女たちとより多くの時間を共有せねばならないという劇的必然性からもこうでなくちゃならないんだ。両親の不在については何か象徴的なものを感じないではないがね――こちらはむしろちょっと迷惑そうな様子で、現実の資本主義的社会では悪徳とされるような優柔不断さで彼女らをいつまでもずるずると追い出せずいるうち、彼女らの全員が全員それぞれのキャラクターに適したやり方で――熟女なら熟女の、不良なら不良の、天然なら天然の、ヒロイン系ならヒロイン系の、さ。まァ、最終的に選ぶのはロリータキャラなんだがね――今まで僕が知らなかったような種類の愛を注いでくれて――ここにも両親の不在が大きなファクターとなっているんだな。『※※君は、本当の家族っていうのがどういうものなのか、知らなかったんだね』が殺し文句になるわけだよ、最終的なね――こちらからはHPを作る程度の何も失わない消極的なアクションしか無いのにもうモテてモテて困っちゃう愛欲の宴に陥れてくれないだろうかと夢想するんだ。もしこの夢を贖うために僕が毎夜消費し続けてきたスペルマがあったのだとしたら、そのスペルマを放出する作業に使うカロリーを得るための貴重な動植物の無駄な死が――これ以上に犬死という言葉がぴったりくる死にっぷりは人類史上ちょっと他に考えられないね――あったのだとしたら、僕は少し救われた気持ちになるだろうと思うんだ」
「坂上君…」
「ははっ、こんなことを話したのは委員長が初めてだな。でも学校という閉鎖された現実ともっとも遊離した虚構空間において、それは充分にありそうなことだと僕は思うんだ。あっ。うわっ。委員長、何をするんだ。やめろ、早まるな。やめろ、やめろぉぉぉぉぉ…ぐちゃ」
「ざわざわ」
「なんだなんだ」
「上から人が落ちてきたのよ」
「投身自殺かしら」
「あっ。あれは商業的に成功しそうにない種類の詩の冊子を同人誌即売会で売る、特にこれといった外見的・性格的特徴を持たないんだが、なぜかクラス内で敬遠され孤立する人間の2年B組坂上裕次君ではないか」
「そうよそうよ。同級生の坂上裕次君だわ。私がある日昼休みになにげなく発した『かれってでも夜中にひとり猫とか殺してそうよねえ』という一言がクラス全体に水を打ったような静寂を引き起こしてしまい、たいそう気まずい思いをした坂上裕次君よ」
「ざわざわ」
「坂上君、あなたが悪いのよ。あなたが悪いの…」