前回までのあらすじ:同人誌ゎ売れなかった……こわぃ家人がまってる……でも……もぅっかれちゃった……でも……ぁきらめるのゎょくなぃって……パィソンゎ……ぉもって……ゃかたぶねで……がんばる……でも……原価……われて……ィタィょ……ゴメン……200冊もぁまった……でも……パィソンとサメンゎ……ズッ友だょ……!!
夕闇にリングレイスと映ったものは、ギャザーするロトン・ガールズの見間違いデシタ! ソー・コールド戦利品をロードにブチまけてエンジョイしているところを「通行の邪魔になりますからー」とガードマンに追い払われていマシタ! アヌス・スキピオ・魯鈍・ガールズどもめ、ルック・アット・ザマ、ざまを見ろデス!
アンド、サプラーイズ! バック・ドアー・チケットのプロバイドを渋ったサメンが、ミーにホテル・ルームをプリペアーしていたことをコンフェス、告白してきマシタ!
「ジツハヨウ、オマエノ名前デ、ホテルノ部屋ヲ用意シテルンダ。ヤカタブネノ出航マデマダ時間ガアル。少シソコデ休憩シヨウゼ」
ミーが感激のあまりサメンにハグしようとすると「ヨセヤイ、男ト抱キアウ趣味ハネーゼ。モチロン、払イハ全部オマエダカラヨ」と鼻の頭をかきながら頬を染めて言いマシタ! ホワット・ア・ツンデレ・イラキ・パーソン・ヒー・イズ! そのプリティな仕草にミーはキュン死しそうになりマシタガ、ロトン・ガールズが付近に潜んでいるポシビリティをビッグサイト周辺ではオールウェイズ疑っておく必要がありマス! ミーは努めてビューロクラティックに「サンキュー・フォー・ユア・カインドネス」と述べるにとどめマシタ!
ホテルにアライブ・アットし、サメンと二人でラブラブ・ファッキン・チェッキンを済ませてルーム・ドアーをオープンすると、突如ノーウェア、どこからともなくアピアーした異臭(isyuu)を放つギークスどもが土人誌のイシュー(issue)を抱えて室内に続々と蝟集(isyuu)し、フロアーへダイレクトにシット(shit)しはじめたのデス! こましなスイートだったミーのホテル・ルームは、たちまちガレー船のボトムのようになりマシタ!
驚きと臭気にゴールデンフィッシュの如くマウスをパクパクさせるミーに向かってサメンは、「コイツラハ、今日ノ打チ上ゲノ参加者タチダ。悪イガ、シバラク居サセテヤッテクレ。ソレジャ、俺ハシャワーヲアビテクルゼ」とワン・ウェイに言い残して去っていきマシタ! オフコース、ミーはこのギークスどもとノーバディ面識がありマセン! オーッ、サメンサーン、それジャパニーズ・コメディアンが言うところのムチャ振りネー!
ミーは借りてきたキャットのようにベッドの端にそっと腰掛けると、うつむいたままワンハンドレッド・エイトあるフェイバリット遊戯のうちのひとつ、手の皺カウントを始めマシタ! サドンリー、突然ワンノブゼム、ギークスどものひとりが「あー、あちーな」とアター、発話しマシタ! ボスのフェイス・カラーをうかがうアビリティのみで社内ポリティクスを泳ぎきり、あの壮絶なリストラクチャリング・ウェイブを乗り切ったミーは、そのフォー・レター・ワーズ(イッツ・ホット・イズント・イット?)から、ギークスどもがドリンクを婉曲的に所望しているアトモスフィアーを察知したのデス! ミーはバックヘッド、後頭部へライト・ハンドを当てることで敵意の無さをインディケイトしながら、「オー、それじゃ、ミーがドリンクを買ってくるネー!」とベッグされてもいないのに勢い良くアピールしマシタ! それもこれも、エクストラ土人誌ズをソールド・アウトにリードするためデス! 営業のベースはプライドをダストビンにスロー・アウェイするところから始まると教わりマシタ!
ゼン、そのうちのエクストリーム・ギーク・ルッキングをしたベガー(後にシャアウフプとターンアウトする男デス!)が「なんや、案外ホームページよりは腰が低いやないか」とツイーティングしたのを、ミーはオーバーヒアーしませんデシタ!
段ボール製のつけ鼻を貼りつけたセロテープの下の皮膚にしりしりとしたかゆみが生じる。十数年来の人間関係がすでに出来上がった面々の中にひとり部外者として座っている事実に、喉元へ孤独感が痛いほどこみあげた。続けて、エロ同人を制作しているぐらいの情報しかない連中を一切紹介することなく、いきなりの放置プレイへ至ったことに対して、憤りにも近い感情が芽生えた。先ほどのつぶやきから察するに、このうちの一人はどうやら私の運営しているホームページの正体を知っているようだ。だが、連中全員が私を誰と認識しているのかは、わからない。本当は、話題に入れない気まずさ、嘲りを含んだ値踏みの視線から一時でも逃れるために、私は飲み物を買いに出ることを志願したのだ――
ドント・レット・ミー・ダウン! ノーバディ・エバー・ディスレスペクト・ミー・ライク・ユー、デース! ドント・リック・ミー、ミーをナメんなデース!
ベッドから腰を浮かせたミーは、親指と人差し指をすりあわせるジェスチャーでギークス・アズ・ベガーどもへドリンクを購入するためのマネーを要求しマシタ! バット、連中はミーをイグノア―しながら「おれ、晴海時代からコミケ参加してるからさー」などと内輪のトピックで盛り上がってやがりマス! カインド・オブ・敗北感を味わいながらルームを出ようとすると、アット・ザ・セイム・タイム、ベガーどもは異口異音にそれぞれが所望するドリンクの銘柄をミーに告げマシタ! さっきまではアイコンタクトさえなかった連中がナウ、ミーを見てニヤニヤ笑っていマス! 知ってマス、これ知ってマース! 自分のマネーでドリンクを買いに行かされたあげく、銘柄がひとつでも間違っていたらナックルでボコられるやつデース! スクール・カーストの頂点のオポジットに君臨していたミーには、この手のブリイングの手法はワン・ハンドレッドも承知なのデース! ミーを苛烈な受験ウォーズにウィンさせた膨大な暗記力をナメてもらっては困りマース! オーケー、ミーにまかせておいてヨー!
「ダイエット・コーク、十六茶、午後の紅茶、ミネラル・ウォーター」などと小声で繰り返しながらエレベーターの中を小走りにローリングしていると、後から入ってきた一般ピープルがぶしつけにミーをルック・アットしてきマシタ! 闘拳コミックを愛好していた頃の激しいゲイズでにらみ返すと、たちまち目をそらして見なかったふりデス! ホワット・ア・カワード! ミーの胸中をたちまちプライドが満たしマシタ! スクール・カーストはブリーするサイドとブリーされるサイドに分かれマス! ニーザ―・サイド、そのどちらにも加担しない、ある意味もっともクルーエルなヘラヘラ笑いのトーテム像だっただろう一般ステューデンツに、ミーがキアイで負けるわけがないのデス!
みんなー、お待たセー! ダブル・アーム・スープレックス、両腕いっぱいにドリンクを抱えてリターンすると、ミーはベガーどもに所望のドリンクを手渡していきマス! すると、ブリイング・ギークスどもは互いに顔を見合わせると小さく舌打ちをしマシタ! ミーの買い物がパーフェクトだったことを確認したようデス! ゼン、ギークスのうちの一人がミーに婦女子のイラストが描かれたネーム・カードを差し出しマシタ! オーッ、ジャパンのフェイマス・コマーシャル・トラディションであるところのメイシ・ゴウカンネー! ミーは腰を90度に折り曲げてカンパニー・ネームの入ったメイシを差し出しマシタ! このときミーはアクセプトされる喜びにうちふるえたのデス!
そこへステテコ一丁で首にタオルを巻きつけたサメンが、ソープの香りを発しながらアピアーしマシタ! 「フッ、コノ気ムズカシイ連中ヲハヤクモ手ナヅケチマウトハ……ヤハリ、俺ガ見込ンダトオリノ漢ダッタヨウダナ……」とツイーティングし、先ほどのサメンの行動が一刻も早くスウェットを流したいからではなく、ミーの実力をイグザミンするためにしたことがわかったのデス! ヤッパリネー、サメンのこと信じてたヨー!
「ソウソウ、オマエラニ言イ忘レテイタガ……」
ふいにボイス・トーンをチェンジすると、サメンは人差し指と中指の間に親指をはさみこんだジェスチャーを誇示しながらギークスどもにデクレアー、宣言したのデス!
「今日ハ来ルゼ、ナヲンガ! ソレモ、二人ダ……!!」
とたんにルーム内のギークスたちは色めき立ちマシタ! オブ・ゾウズ・ギークス、中でも晴海からコミケトーに参加しているという古強者ギークがエスペシャリー大きなリアクションを見せたのデス!
「な、何? いまお前はナヲンって言ったのか? そ、それはまさかヲンナ、女のことか? もしかして、本物の女のことを言っているのか? 二次元じゃない方の女のことを言っているのか? 本物の女ってそれ、都市伝説じゃなかったのか? やばいだろー、それ、やばいだろー」
トゥー・ショックト、ベテラン・ギークはよほど衝撃を受けたのか、アフター・ズィス、しばらくの間「やばいだろー」を連呼するだけのステイトに陥ってしまいマシタ! サメンのアクウェインタンスの土人オーサーが売り子ヘルパー(マネーでタイムとボディを提供する売女みたいなものデス!)を帯同してくるとのことデス! 知ってマス、それ知ってマース! プライベートな場からパブリックな場へ売女とやってくるコト、ソー・コールド、同伴出勤ネー! ミーが大きな声で「カッパン・インサツ、ドウハン・シュッキン!」と言うと同時に、サメンのナックルがミーの眉間に火花を散らしマシタ!
コンシャスネスがバックすると、ミーはタクシーのインサイドでドアーにリーン・アゲインストしていマシタ! 同乗者はサメンとオットマンのようデス! サメンがまとうバイオレンスな気配へのフィアーから、ミーはこのヤングマンをカンバセーションの相手に選ぶことにしマシタ! ヘイ、ボーイ、しばらくミーとお話ししようヨー! オットマンはここで初めて、セクスペリアから視線を上げたのデス! ゃだ……このコ……すごぃきれぃな目……してる……!!
クリエイター・フェローズとルームを共有して住んでいるコト(今日はシェアハウス・レートが高いデスネ!)、少年誌の連載をフィニッシュしたが(ソワカ反吐、とかいうタイトルデシタ!)持ち出しばかりでエロ・カートゥン時代のセービングを逆にデクリースさせてしまったコト、トウキョウ・ステーションでクソビッチ(ビチグソの聞き間違いだったかもしれマセン!)のメタル・アクセサリーに商売道具のフィンガーをデストロイされたコト、アンド・ソー・オン、いろいろなトピックをフランクに語ってくれマス! 話しぶりも好印象でセクスペリアを愛撫するだけの感じ悪い青年かと思っていたマイセルフが恥ずかしくなりマシタ! 聞けば今回のコミケトー参加にもサメンが尽力してくれたとのことデス! オットマンがサメンへの感謝を口にし始めると、助手席で黙っていたサメンが口を開きマシタ!
「俺タチハ究極、アウトサイダーナンダ。国ナンザ少シモ頼ミニナラネエ、組織ナンザ元ヨリドウ搾取シヨウカバカリ考エテヤガル。困ッタ時ニハ互イヲ助ケ合ウ、ソレガ俺タチニトッテ唯一守ルベキJINGIナノサ」
ゃだ……すごぃ……ぉとこまぇ……! オットマンがインプレスト、感じいったように深くうなづきマス! メイビー、もしかするとエロ・カートゥン業界の出稼ぎフォリナーにとって、このサメン・アッジーフという男は元締め的な存在なのかもしれマセン! バイ・ザ・ウェイ、ミーは二人のリレーションにア・リトル、すこしセクシャルなものを嗅ぎ取りマシタ! ロトン・ガールズならばウケ・オア・セメという言葉で表現したことデショウ!
タクシーを降りた先のバス乗り場でサドンリー、突然、土人誌の配給が始まりマシタ!
「――体調が悪くて今日来れないから、××さんがみんなによろしくって、これ」
もしかするとトウキョウではサルベーション・アーミーの炊き出しぐらいの、当たり前の光景なのかもしれマセン! ミーはそのアブセント・パーソンにとってパーフェクト・ストレンジャーだったのデスガ、ものほしげな上目遣いフェイスで人差し指の第二関節までをマウスに突っ込んでチュパチュパいわせていると、土人誌をゲットすることができマシタ! イン・アディション、しかもページ数に比してトゥー・エクスペンシブな冊子をフォー・フリーでデース! ワーイ、ヤッター! キョウト・プリフェクチャーならイメディエットリーお縄を頂戴(荒縄で全身をキッコー縛りすることデス!)するような年齢のポルノグラフィが満載ダヨー!
バスを降りるとそこがヤカタブネの乗り場デシタ! 生粋のパリジャンであるミーは、セーヌ・フラーヴをバトービュスでクルーズするのが日常だったのデス! ジャパンのバトービュスはどんな外観をしているのデショウカ? ワクワクしながらバージをルックするとジャパニーズ・ヒラヤ・ハウスを木造のシップにアッドしただけという、ベリーいい加減な乗り物が頼りなげにフロートしていマシタ! オオサカ・キャッスルの上にデビルがまたがっているビジュアルのメイフラワー、豪華客船を想像していたミーはベリー・ディスアポインティッド、たいそうガックリさせられたのデス!
ヤカタブネの中は少しでも平方メートル辺りの利益率を上げたいのデショウ、陸地ならば消防法にタッチ、抵触するほどのデンスリー・ポピュレイティッド、人口過密ぶりデシタ! オーッ、これがかの有名なジャパニーズ・トラディション、スシ詰めネー! ミーとサメンを含めた6人の野郎どもがフェイス・トゥ・フェイスになり、通路を挟んだテーブルに細面の優男とルーモア、うわさの売り子ガールズどもが座りマシタ!
ヘイヘイ、初対面のウタゲ・フェスティバルではテレコに座るのがコモン・センス、常識デショウ! ファースト・ハンド、初手から知り合いだけ固まってどうするんデスカ! セールス・マネジャーのスピリットが一瞬ネックをもたげマシタガ、ミーはここではパーフェクト・ストレンジャーなのデス! コンパニオン的ビヘイビアーとは遠く、ケータイ遊びにアブソーブド・インするフィーメイルたちにはベテラン・ギークもガックリきたようで、あからさまなディスアポイントメントにショルダーズをドロップさせていマス! シンパサイズ・ユー、その気持ち、痛いほどわかるヨー!
それにしても、ブルブル! 夜のリバーからウィンドウを吹き抜けるウインドはサマーだというのに冷たく、スキニーなミーはガタガタとふるえだしマシタ! イッツ・ソー・コールド! ヘイ、クルーのブラザー! こっちにアツカン、ジャパニーズ・サキをアツカンでプリーズ!
「えー、申し訳ありません。本船には缶ビールと缶チューハイしか積んでおりません」
ワ、ワット? 寒風ふきすさぶ中、よく冷えたビアーしか置いていないというのデスカ? 加えて重度のアルコール・アディクションであるミーにとって、ビアーぐらいで酔うことなんてできマセン! ミーのハンドがブルブルとふるえだしたのは、寒さではなく離脱症状によるものデス! 赤ら顔のロシア人なら「シュトービスカザーリ? ビールはアルコールじゃないだろ? コストコでも清涼飲料水のコーナーで売ってるぜ? コストコはロシア資本だろ? なんたって値札がぜんぶロシア語で書いてあるからな! ハラショー、サンボ!」と答えて四十過ぎで死ぬところデス!
オーケー、アルコールの種類が少ないことにはクローズ・マイ・アイズ、目をつぶりマショウ! こと酒類のフィールドでジャパンは二等国なのデスカラ! ハウエバー、食材への深い造詣とUMAMIに精通した日本食は、舌の肥えた欧米の食通をもうならせると聞きマス! アンド、生ガキとフォワグラ・ソバージュを常食としてたミーの舌は、生半可の食通に劣らないと自負していマス!
バット、出てきたディッシュはミーの想像をはるかに越えていマシタ! それはボールいっぱいのゲロ状のゲル、あるいはゲル状のゲロだったのデス! ヒロシマ焼きだかドテ焼きだか言うそうデスガ、なんでトウキョウくんだりまで来てヒロシマの名物を食わなあかんネン! オフコース・ユー・ドゥー、利益率を高めるためデース! シップに食わせるギャスが値上がりし続ける中、客に食わせるミールの単価をボールいっぱいのゲロで抑えるのは理の必然デス! ホワット・アン・エコノミック・アニマル・ゼイ・アー! 慄然たるエコノミック・アニマルどもデス!
オールライト、オールライト! アルコールや食事のクオリティはこのウタゲ・フェスティバルには全く関係ありまセン! 今日はタレントあふれる土人オーサーたちとのカンバセーションのクオリティを楽しむために、ミーは来たのデスカラ!
はしけを離れてからほどなくして、テーブルを満たすのは土手焼きの具材がジリジリと鉄板の上に焦げる音だけになった。携帯電話の画面を見つめ続ける者、腕組みをして虚空を眺める者、手持ちぶさたに具材をコテでつつき回す者――私は気まずさに耐えられなくなって、早くも3本目の缶ビールを注文した。背後では浴衣を着た若い女子が嬌声をあげている。合コンだろうか、実に楽しそうだ。ひるがえって、誰も話題を振りさえしないこの会合は何なのか。宴席の幹事としての活躍だけで社内の地位を固めた身にとって、実に気をもむ状況だ。まさか、ゲスト未満の部外者が場を仕切るわけにもいくまい。鉄板のジリジリいう音が内心の焦燥の擬音化のように聞こえ始めたそのとき――
「マア、ネットジャ良ク話ヲスル面々ダガヨ、コウヤッテリアルデ会ウノハ初メテッテ連中モイルダロウ。コイツガ焼ケチマウマデ、マダ時間モアルコトダ。ドウダイ、堅ッ苦シイノハ申シ訳ネエガ、ヒトツ自己紹介ッテノハ」
サメン・アッジーフ! アウア・セイビアーはやはりこの男デシタ! 気まずさをリムーブすると同時に、アウトサイダーであるミーが発言するのに自然なシチュエーションを作ってくれたのデス! ハーイ、ハイ、ハーイ! ミーはエナジェティックにハンズ・アップしマシタ! ミーが最初にセルフ・イントロデュースするネー! ミーはナラ・プリフェクチャーから来たパイソン・ゲイだヨー! ニュー・ワールド・オーダー・フォー・グッド・メンっていうテキストサイトを十年ほど前から運営してるんだケド、みんな知ってるかナー?
「知ってる」
女のうちのひとりがケータイの画面から目を離さないままボソッと、吐き捨てるように私の言葉へかぶせてくるのが耳に入り、無理にも奮い立たせていた感情は一気に冷えた。 アタシたちは優男のファンなんだから、おまえの暑苦しい自己紹介なんざどうでもいいんだよ。そう言っているように聞こえた。この女は、私がこの瞬間に川へ飛びこんだとしても、携帯の画面から顔さえ上げないだろうと確信できた。女を連れてきた色白の優男は涼しげな微笑を浮かべたまま、ツレの無礼をたしなめることも、私の方へ視線をやることもしなかった。愛情の反対は憎悪ではなく無関心――マザー・テレサの有名な言葉がふと浮かんだ。
ほとんど泣きそうになりながら、しどろもどろで尻すぼみの自己紹介を終える。伏せた顔から涙がこぼれ、鉄板の上でジュッと音を立てた。
ウオァァァァッ! これ、テキストサイトのオフレポやねんで! 現実に負けてどうすんのや! もっとウソ・エイト・ハンドレッドで、狂い踊らなアカンがな!
ライク・ア・ローリング・ストーン、さすがコミケトーで一枚看板を張る烈士たちの集まり、ただのセルフ・イントロデュースにさえ緊張で思わずハンド・スウェットを握りマス! この後の人物紹介は、グラップラー刃牙最強トーナメントのイットを思い出してもらえば、ピッタリのシチュエーションをインサイド・ブレインに再現できると思いマス!
ミーの隣に座るのはセクスペリアのオットマン、その隣りがイラク人のサメン・アッジーフ、この二人についてはもうエクスプラネーションは不要デショウ!
ミーのトイメンにいる「俺って典型的な酒の飲めない日本人だな」という風貌をした、このソース&オイリーなメンツの中でオールモスト・ゲット・ロストしている青年は、コウヤヒジリだかシモツキ(ミーはウエツキの方が好みですケドネ!lol)だかいうペンネームでイラストを描いたり、アニメの絵を動かす(大道芸の類デショウカ? よくわかりマセン!)ことをプロフェッションにしているそうデス! ホワット? ゲンガー? ポキモンの一種デショウカ? ウェル、どんなアニメの絵を動かして(?)いるんデスカー?
「あの、有名なとこでいうと電脳コイルとか」
とたん、エブリバディがどよめくのがわかりマシタ! どうやらビッグ・ネームのようデス! だとすればジャパンのギーク・カルチャーに造詣のディープなミーが知らないはずはありマセン! ウォーッ、思い出せ、思い出すのデース! 思い出しマシタ、ライトナウ、ソレ思い出しマシタ! ミーはうれしくなって叫びマス!
「ワーオ、裸神活殺拳ネ! 脱げば脱ぐほど強くなるネー!」
アイ・ドン・ノウ・ワイ、なぜかエブリバディのリアクションは悪かったデスガ、それはきっとミーがジャパニーズ・エモーションの起伏を読み取れなかっただけのことデショウ!
シモツキの隣にいるのがハルミ・エラからコミケトーでブイブイゆわせていたという古参ギークデス! ホワッツ・ユア・ネイム? アー、どうもイングリッシュ・ワードのようですがヒアリングできマセン! ジャパニーズのプロナウンスは平板すぎマス! 何度か聞きかえして、この古強者のペンネームがシャアウフプであることがわかりマシタ! シュアリー、ハンターハンターのトガシ先生をリスペクトしているに違いアリマセン! 「手淫すげえよ!」(これも元はイングリッシュ・ワードのようデス!)みたいなタイトルのゲームでアクセサリーとかのデザインをしていたそうデス! スリー・ディメンションへの絶望のせいかメディケーションのせいか、なかなかテンションが上がりマセン! ホテルではミーへのブリイングの火種となった人物デシタガ、このウタゲ・フェスティバルで小学生が大好きと知りマシタ! ミーがビリーブするセイイングは「子ども好きに悪人はいない」デース! 見直したヨー! オウ、これがシャアウフプの作成した土人誌デスカ? レット・ミー・ハブ・ア・ルック! ガッ、マイガッ! ユー・アー・アンダー・アレスト! ゴー・トゥー・ジェイル、ユー・ブラッディ・アス・ホール!
ソリー、思わず取り乱してしまいマシタ、スイマセン! クリミナルの隣には、「ナントカ村」という名字の人がよくやる、カタカナのムを突き出た鼻、ラを開いた口に見立てた自画像のようなフェイスのパーソンが座っていマス! トゥ・テル・ザ・トゥルース、実のところこの人物に関してわかっていることはあまり多くありマセン! ジェネラリー・スピーキング、一般的に言って俯角に設定されることの多いウェブカメラを仰角に設置しているということだけデス! なぜ俯角ではなく仰角なのデショウカ……オオップス、コレ以上は勘弁してくだサイ! ア・フュー・モア・ワーズ、アイ・ウィル・ビー・キルド! ペンネームを聞きそびれたので個人的にホニャ村と呼ぶことにしマス! どうやらホニャ村はマス・オーヤリなる人物をレスペクトしているようデシタ! フー・イズ・ヒー? キョクシン・カラテのファウンダー、創始者のことデショウカ? ミーがザ・疑問を口にすると「マア、オマエハ、飲ンデロヨ」とサメンがミーに新しい缶ビールをプッシュしてきマシタ! 「違うんデスカ? ビッグ・ファック先生じゃないんデスカ?」と重ねてアスクするとホニャ村の表情マッスルがひきつり、サメンはシリアス・フェイスで「バカ、ヤメロ」とミーをたしなめたのデス! 実在の人物かどうかさえわかりませんデシタガ、マス・オーヤリの話はどうもこの席ではビッグ・タブーのようデシタ! フォックスにつままれるとは正にこのことデス! エロ・カートゥン業界ではヤスタカ・ツツイの小説に登場するフーマンチュウ博士みたいな位置づけのパーソンなのかもしれマセン!
アンド、通路をアクロスしたテーブルでハーレムを形成しているのはファインド・ウォーリーかカズオ・ウメズのようなストライプト・奇抜・ファッションをした優男デース! ヘイ、レット・ミー・リマインド・オブ・ユア・ネイム! ボーボボボ・ボボーボボボ? 何回聞いても、ボの回数がわかりマセーン! 少年ジャンプ愛読者からキヨシ・ヤマシタをレスペクトしている可能性までありマース! ジャパンのカルチャーは多様すぎるネー! ミーは個人的にズィス・ガイをウォーリーと呼ぶことにしマシタ! オウ、これがウォーリーの作成した土人誌デスカ? レット・ミー・ハブ・ア・ルック! ガッ、マイガッ! ファティ・メルティ・ウェイスト・ウィズ・ボミッティング・ストレンジ・ヒュージ・ティッツ! 人を見た目でジャッジしてはいけないとよくマムはミーに言いマシタガ、このときほどマムの言葉が実感を伴ったことはありマセン!
ザッツ・イット、これだけの多士済々なのデスカラ、ドッカンドッカンおもしろトークが次から次へエクスプロードしそうデス! これぞトウキョウまで出張してきたかいがあるというモノ、エクストリームリー楽しみデース!
鉄板の周囲には幾たびかの沈黙が降りている。ホニャ村がスッと挙手する。皆の視線が集まる。「今まで隠していたことがあります。私、サメンさんと同じ雑誌で描いていたことがあります」と発言する。誰も拾えないボールだった。話を振られた当の本人も「アア、ソウナノ?」と困惑気味の応対で話題の種火はたちまち消滅した。船上ではトイレを理由に中座して、そのままフケることもできない。窓から川に飛び込むことを本気で思案し始めたとき――
「アア、コノ土手ハ素晴ラシイモリマンダネー、恥丘ノ神秘ヲ表シテイルンダネー」
パーハプス、もしかしてレオ・モリモトが乗船しているのデスカ? ノー・ヒー・ダズント、やはりこれもサメン・アッジーフの仕業だったのデス! 土手の外壁をコテで成形しながら、サメンはさらに続けマス!
「柔ラカナ土手ノ内側ニ満タサレテイルノハ愛ノジュースナンダネー。緑ノ滓ヲ浮キ沈ミサセナガラ白ク泡ダッテ、ホラ、今ニモコボレソウダネー。剥キ海老ノ白サハ、ソウ、包皮ヲ剥イタアノ甘イ豆ノヨウダネー」
サハラの熱い風を意味する族長名・アッジーフを冠したサメンの語りは、冷え切ったプレイスをたちまちウォームしていきマス! ホワット・ア・シェイム! ミーはアウェイを理由に保身に満ちたサイレンスのインサイドで自己憐憫にひたっていたことを恥ずかしく思いマシタ! ポジションなんて関係ありマセン! ワン・ミーティング・ア・ライフ、一度の出会いがハウ・レアかを思い、そのミーティングに全力をかけられるかがインポータントなのデス! ミーはマイセルフをおおっていたエッグシェルがクラックするサウンドを確かに聞きマシタ! サンキュー、サメン! 今こそプライドのセルからレスキューしてくれたユーへのJINGIを、ミーが果たすときデス!
「ヘーイ、みんな知ってマスカー? ナラの仏像さんはめっちゃエロいのネー! それを証拠に頭はケマン、喘ぎはアハン、左手はテマン、居るのはネハン、股間はたちまち濡れそぼり、ニルヌルニルヌル、ニルヴァーナ!」
ミーは大ハッスルでサメンの暖めたステージにとびこみマシタ! ホワット・ア・ミステリー! なんということデショウ! 場の空気が急激にクール・ダウンしていくのを感じマス! オットマンだけがミーの隣で、「サメンさんとパイソンさんのやりとり、すごい面白いです」と両手をクラップして大喜びデシタ! ジャパンの若者の中央値としては考えにくい青年のチアフルネスにエンカレッジされ、ミーは最後のデンジャーなギャンブルにうって出マシタ!
「ダイインシン、チュウインシン、ショウインシーン! チュウナゴンはいるのに、なぜチュウインシンだけありマセンカー? チュウのインシン王にカツレイされたからデスカー? カツカレーイ!」
絶叫が虚空に消えると、テーブルにはしんとした静寂が残された。そして、いつの間にか背後の席からは一切の声が聞こえなくなっていた。はしけに船体が当たり、船全体が少し揺れた。日本人の顔になったサメンが伝票を取り上げながら、「えー、三千円通しでお願いします。端数はいいっすよ」と言った。三々五々、船を降りてゆき、私はテーブルにひとり残された。
「あーっ、だれか携帯電話忘れてるよー」
黄色い声にふりかえると、私のアイフォンを浴衣姿の可愛らしいお嬢さんがひろいあげるところだった。
「あ、それ、ぼくのです」
言うや否やあからさまに怯えた表情になり、汚いものにでも触ったかのように私にアイフォンを投げよこした。グループの他の女子が集まってきて「だいじょうぶー?」「なにもされてないー?」と口々に声をかける。私は黙って船を降りた。
帰りのバスは混み合っていたが、私の隣には誰も座らなかった。頭の芯まで恐ろしいほどにシラフで覚醒しきっていたが、酔ったフリで目を閉じた。
またやってしまった。ふだん社会性でがんじがらめにさせられている誰かにとって、酒の席は反社会的な部分を少し解放してやることで、共感を得られる場になる。勝手な推測に過ぎないが、たぶん今日の酒席はその逆だったのだ。私は貯蓄とか、住宅ローンとか、フィットネスとかの話をするべきだったのだ。
しかし、すべてはもう遅かった。宴席で関係を築き、大量に余った在庫を押し付けよう、あわよくば彼らの知り合いに同人誌を紹介してもらおうという甘い見通しは、粉々に砕け散ったのだ。
ホテルのロビーに戻ると、なぜかホニャ村が話しかけてきた。自分は三十歳を過ぎてから絵を描き始めてここまできた、頑張れば遅すぎるということはない、などとアドバイスを受けた。サメンの弟子か何かと勘違いし、たぶん、私を励まそうとしたのだろう。先ほどの宴席で自ら話題をふったことといい、実はかなりいいヤツなのかもしれない。しかし、私の望みはイラストのスキルを向上させることではない。己のテキストをより広範な形で世に問いたいという一点なのだ。ホニャ村の励ましに心温まるものを感じながらも、このディスコミュニケーションこそが今回のすべてを象徴しているな、と思った。
互いに名残を惜しむサメンとその同人仲間たちを尻目に、私は黙って自室へと引き返した。いろいろな意味で、終わったな、と感じながら。一刻も早くひとりになりたかった。
灯りもつけず、服も着替えないままベッドに倒れこむ。空調か何かのぶーんという音が部屋の中に充満していた。何も考えずただ頭を空っぽにしていたかった私は、そのぶーんという音に意識を同調させていった。最後まで読み通すと発狂するというあの小説のことが、ふと頭に浮かんだ。
どのくらいそうしていただろうか。ふいに部屋のドアがノックされる。ルームサービスは頼んでいない。しばらくすると、再びノック。ノロノロと立ち上がり、覗き穴も見ずに部屋のドアを開ける。そこにははたして――
「アンナンジャ、オマエハ飲ミ足リネエダロ? サシデ飲ミ直シトイコウヤ」
なんとノックの主はサメンだったのデス! ホワイト・ワインのビンをかかげながら、ルームに入ってきマス! ミーは人差し指でノーズの下をこする仕草で涙を隠しながら「も、もちろんネー!」とアンサーしマシタ! そしてミーとサメンのセカンド・ウタゲ・フェスティバルが始まったのデス!
ムーディな間接照明の下に洗面所のグラスでイーチ・アザー、差しつ差されつを繰り返していると、ジャパンにエロ・カートゥン・オーサーとして生きるアフガニスタン人の苦しみを、サメンはポツリポツリと吐露し始めマス! 浅黒いフェイス・カラーに濃いヒゲで、酔っているのかどうかはわからなかったデスガ、ホワット・イズ・コールド、ガイジンとしてのシンパシーが互いを満たしていることだけは確信できたのデシタ!
今日一日のエブリシングはオールライト、ウォーターに流そう、そう考えているところへサメンが言ったのデス!
「マァ、ホレ、今回ハサ、オマエニ気ヲツカイスギチマッタトコロガアルカラヨ」
ノーズの頭をかきながら照れくさそうにサメンは言いマシタ! ホワット・ディド・ユー・セイ? 気をつかう? ユーズ・気・オーラ? ライク・太極拳? ミーのヘッドにはクエスチョン・マークが乱舞していマシタ! サメンの様子をうかがうと、どうやら日本語ディクショナリーのデフィニション通りの意味で言ったようデス! ミーのブレイン・バック、脳裏には今日一日のベアリアスなシーンがクロッシング、よぎりマシタ! 罵倒、殴打、ネグレクト――どれひとつとしてミーの中では気をつかうの定義に当てはまりマセン! プロバブリー、おそらくバズーカをミーの顔面にブチかまさなかったり、ロケットランチャーをミーのアス・ホールにブチかまさなかったり、売り子をヘルプしているミーのスロートを背後からサバイバルナイフで掻き切らなかったことを指しているのデショウ! おそろしいまでの彼我の認識の差異、カルチャー・ギャップに、ミーは世界から戦争が無くならないリーズンの深淵をのぞきこんだ気がしたのデシタ! サメンはそんなミーの動揺にも気づかず、コミック・オーサーとは思えぬほどゴツゴツしたナックルをミーの眼前へヌッと突き出して、「モシ次ガアッタラ、今度ハ手加減無シダゼ?」と言ったのデス!
シュアリー、間違いなくサメンの本気とはSATUGAIした後、生命を失ったボディを前に、死体こそアイドルであり偶像崇拝のタブーに値すると絶叫しながら、エー・ケー・ビー・フォーティ・エイトならぬエー・ケー・フォーティ・セブンで原型を留めぬほどミンチにするようなタイプのものに違いありマセン! 犬歯を剥き出しにしたその笑顔は、クルセイダーを血塗れの偃月刀で殺害しながら性的絶頂に達する獣たちの末裔、正に快楽天ビーストの凄惨さをエクスプレスしており、ミーのキドニー、腎臓はシティング・ピー、座り小便を危うくマイセルフにアラウしてしまうところデシタ! でも……ミーとサメンゎ……ヌッ友だょ……!!
「オット、モウコンナ時間ジャネエカ。俺ハ、一足先ニ寝カセテモラウゼ」
ミーのレスポンスを待つワン・モーメントの隙間も無く、サメンは大あくびをしながら大股にルームを出ていきマシタ! クロックを見ればまだ0時を回ったところデス! 昼夜のリバースしたコミック・オーサーをノーマルなものとして想定していたミーにとって、そのヘルシーすぎるライフ・スタイルはデルビッシュ有な風貌を裏切っているように思えマシタ! マーダラーのイノセンスという言葉をミーはなぜか思い出したのデス!
ボトルに半分以上残ったホワイト・ワインをMOTTAINAIのスピリットでラッパ・ドリンクしたライト・アフター、ミーの意識はバニッシュしマシタ! 体感にしてフュー・セカンズ、数秒したぐらいでルームのテレフォンがけたたましい音をたてたのデス!
「オウ、ナンダ。マダ寝テタノカ。アンマリ遅エカラ、ビッグサイトノ回リヲ5周ホド走ッテキチマッタゼ」
なんというビガー、精力デショウ! ミーはこれを聞いて、サメンの創作パワーのソース、源泉をディスカバーする思いがしたのデス! このミドル・イーストからの出稼ぎコミック・オーサーはネバー、決して夢見がちなチェリー・ボーイどもの妄想をフルフィルするためにエロ・カートゥンを描いているのではありマセン! ローカル・タウンをジョギングし、バイスィクルで数十キロを走破し、リアル・ワイフにカムショットし、ベッド・メイトにカムショットし、フッカーにカムショットし、まだカムショットし足りない分でペイメントの発じるマガズィーンのマヌスクリプトを描き、それでも余っているビガーを発散するために土人誌にエロ・カートゥンを描いているのデス! これぐらいのパワーを持ったパーソナリティで無ければペンニス1本(訳注:当該部分が何かで汚れており、penかpenisか判読不能なため、このように表記した)でチンチン代謝(訳注:原文はshinchinの表記。タイプミスか)の早いエロ業界でサバイブしていくことなどインポッシブルなのデス!
階下のダイナーでブレックファストを共にした後、サメンがミーをアキハバラまで送ってくれることになりマシタ! オーッ、知ってマース、ソコ知ってマース! アニマ・ムンディがアポカリプティックにサクガ・ホウカイしたところデスネー! サメンはミーのワーズを完全にイグノア―すると、荒々しくアクセルをフロアーまで踏みこんでホテルのパーキングをリーブしたのデス!
オーッ、レインボー・ブリッジ、レインボー・ブリッジデース! ホワイ・ノット、今日はなぜか封鎖されていまセーン! ウィンドウにフェイスを押しつけてチャイルドのようにユージ・オダを探すミーをサメンがネグレクトし続ける最中、事件はカンファレンス・ルームではない場所で起こりマシタ! 大型のゴミ収集車がスピルバーグ監督の「激突!」を思わせる動きでヌッと車線変更してきたのデス! サメン・アッジーフは今こそ中東でテラーを行使してきた凶悪なネイチャーをエクスプロードさせ、「アオッテンジャネエ! コノEdda避妊ドモガ!」と大声でイェルしながらナックルでクラクションをガンガン殴りましたマシタ! ミーゎしょうじきびびった……でも……こわがるのょくなぃって……ミーゎ……ぉもって……がんばった……ミーとサメンゎ……ヌッ友だょ……!!
ウェル、ところで、エッダ? エンシェント・ノルドのポエムのことデショウカ? Edda避妊というシャウトはどうもフォー・レター・ワーズ、ののしり言葉のようデシタが、アンダーグラウンド・カルチャーにうといミーにはその意味がよくわかりませんデシタ! フィアーに満たされながら横目で隣を見ると、サメンは目を真っ赤にしてさめざめ(lol)と泣いていマス!
「アイツラ、午前中ダケ三時間ホドゴミヲ集メテ、午後ハ飲ンダクレテル。ソレナノニ、オレノ倍以上ハ金ヲモラッテルンダ。コナイダ役所ニ行ッテアノ仕事ヲ回シテ欲シイッテ言ッタラ、『申シ訳アリマセンガ、アレハ生マレツキノ権利ナノデ……トコロデ、外国人登録証明書ヲゴ提示イタダケマスカ?』、ダトサ! 知ッテタカ? インディア並ミノカースト制度ガ、コノ日本ニハ実在シテルンダヨ! アンナヤツラガイル一方デ、オレハ一日十六時間エロマンガヲ描イテ、国ニ残シテキタボウズトカカアヲ養ッテルンダ! ナア、ヒドイ話ダト思ワネエカ! コレジャ、現地妻ヲ作ルヒマモネエ! 現地妻ヲ作ルヒマサエネエンダヨ……!!」
サメンはハンドルへ身をあずけるようにして、いまや滂沱と涙を流していた。段ボール製のつけ鼻を貼りつけるセロテープの下の皮膚にしりしりとしたかゆみが生じる。俺たちは現実から逃げ出して、二次元の安らぎにやってきた。だが、俺はその場所からも逃げた。結局また現実へと戻ってきて、もうどこへも逃げられない中で、日々の鬱屈をなんとか無知と酒でしのいでいる。
だが、この男は違う。俺は二度も逃げたが、この男は一度しか逃げなかった。そして己の居場所を維持するために、未だに最前線で戦い続けている。私は鼻につけた段ボールに手をかけると、一息に引き剥がした。何がパイソン・ゲイだ。おまえはいい年をした、何者にもなれなかった凡人じゃないか。本当に好きなものなんて何ひとつない、日々を空費するだけの凡人じゃないか。
古書のまちをぬけると、大きなビルの林立する電気街に到着した。降りるときに、ふたりで握手を交わした。励ましでもなく、友情でもなく、約束でもない、そんな握手だった。車が走り去るのを見送ると、近くのゴミ箱に握っていた段ボール片を放りこんだ。
もはや早朝とは呼べない時間なのに、店のシャッターの多くは下りたままだった。街全体がまだ、昨日の夢をまどろんでいるように見えた。
さあ、これからどうしようか。ゲーセンで時間でもつぶしてから、同人ショップにでも寄ってみようか。メイド喫茶に入ってみてもいいし、たしかAKB劇場もこのあたりにあったはずだ――
だが、私はそのどれに対しても心が平たく閉じているのを感じた。
まっすぐ駅にむかい、東京までの切符を買う。改札の前でふりかえり、秋葉原の街にむかって深々と頭を下げた。それはおたくを象徴する場所への、この十余年の謝罪をこめた一礼だった。
ぼくはずっと、君たちおたくがうらやましかった。ぼくはずっと、おたくになりたかった。ぼくにとってのおたくは、身を包むブランドのようなものにすぎない。他人に自分をどう見せたいかの飾りで、なくして困るようなものでは全然なかった。
もう一度言う。ぼくは、おたくになりたかった。骨がらみの、それを引き剥がせば失血して死んでしまうような、ひどいおたくになりたかった。いまや現実のぼくは、君たちを断罪し、粛清する側に立ってさえいる。君たちをとりまく人々のいちばん外側から、石を投げるふりさえしている。
どうか、こんなぼくをゆるしてくれ。ぼくはずっと、君たちみたいに純粋に生きたかった。ぼくは、本当は、おたくになりたかったんだ。
よい大人のnWo 第一部完