なんと、マシンチャイルドをダウンロードして5時間ほどプレイ。本作は、すでに衰退したジャンルであるところの、プリンセスメーカーを源流とする育成ゲームであり、8時だョ!全員集合にフィーチャーした(まちがい)卒業〜Graduation〜でアダルトゲームのうぶ湯をつかった身としては、見すごせない作品であったからだ。つまり、都市伝説解体センターを手にとった動機と類似する、ある種の過去への憧憬と言えるかもしれない。科学が誕生する以前、個人の知がその生を超えては悪い効率でしか蓄積しなかった時代において、「現在は過去の劣化したもの」と考えられていたというが、ムダに馬齢をかさねた個人の感覚だけで言えば、まったく正しいように思える。なんとなれば、最近ではファミコンから初代プレステ、あるいはセガサターンぐらいまでのゲーム体験が、心中であやしい魔術的な神秘性をたたえるようになってきたからである。少々それた話をマシンチャイルドにもどせば、本作のイラストを手がけるマス・オーヤリa.k.a.ビッグ・ファック先生ーーエロ漫画家ばかりが集う十数年前のオフ会にて、名前が出たとたんに場の空気がおかしくなった、筒井康隆の作品で言うところのフーマンチューみたいな存在ーーの描く女性の特徴は、比較的プレーンな顔だちに強烈なフェティッシュを感じさせる、氏独自の骨格と肉づきをそなえた身体が接続されているところである。ボディ素体の書き分けは、大きく分けて「十代前半」「十代後半」「二十代前半」の3パターンで、その類型を作品によって出しいれする作家なのだが、マシンチャイルドには3人の娘が登場するにもかかわらず、うち2人は「十代前半」が選ばれている(残る1名はキメラティック・パイオツカーデー娘で、隠しキャラは未見)。すなわち、顔面サイズとほぼ同じ肩幅、ブドウのような胸部と浮いたアバラに、ししゃもを思わせるぽっこり腹部に、たっぷりとした臀部をのせるのに充分な広さを持たせた腰といったぐあいである。
本作はプリンセスメーカーへのレスペクトを公言しているため、成長段階に応じて先にあげた3パターンを推移させるのかと思えば、育成期間がわずか1年ということもあってか、身長や胸部サイズに変化はいっさい生じない。冒頭にサラリとふれられる「機械の子ども」という設定は、タイトルにまでなっているくせに物語的な意味はなく、「ある日、空から美少女が降ってくる」の変形にすぎないことがわかる。田舎から中世ヨーロッパ風の街へ移動したあとは、季節感にとぼしいボンヤリとした日々を送ることになるのだが、プレイアブルな娘が3人いるにも関わらず、性格もイベントでの応答もまったく同じで、気がつけば全員がほぼ全裸のマイクロビキニで恥じらいなく街を闊歩する始末である。たとえば瑠璃の宝石が「性欲を入口に、長大な時間軸を知覚することで気づく、世界の深奥にいざなう」作品だったのに対して、マシンチャイルドは「性欲を入口に、姉妹や娘を持たない者がいだく、近親相姦への憧れにいざなう」作品になっているのだ。そもそもこのジャンルは、PCのスペックがいまよりはるかに低かった時代に、プリンセスメーカーなら赤井孝美、卒業〜Graduation〜なら竹井正樹といった、当世の有名イラストレーターによるCGを30枚ほど閲覧させるための時間かせぎ的な障壁にすぎず、なんならゲーム部分には、女性のヌードが背景に隠されているブロック崩しぐらいの意味しかなかったのである。なので、もともとの期待値が高かったわけではないのだが、「お父さん」というムダに解像度の高い分野が選択されていたことは、プレイする上でかなりの「ノイズ」になったことをお伝えしておかねばなるまい。
畢竟、親なんてものは「羽化するまでの止まり木」にすぎず、幼虫にはたっぷりと繁らせた青葉をたらふく食わせ、サナギになるための広くて静かで外敵のいない幹を用意し、あんな細い糸1本では自重を支えきれないのではないかとハラハラさせられ、サナギの内側でかつての愛らしい幼虫が原形を失ってドロドロに溶けてゆくのをかなしく見まもり、サナギが身じろぎもしない静かな夜には本当に生きているのか心配し、ある朝にはサナギの上につかまる別の生き物にハッとさせられて、しわくちゃに濡れたその羽が美しくピンと広がって乾いていくのに息をのみ、それが青空へと羽ばたいたあとは、ただその場に立ちつくしたまま、おのれが枯れはてるまで、それの旅路の無事と幸福を祈ることしかできない、無力な存在なのである。他方で、マシンチャイルドが父性と呼ぶなにかは、幼体から成体までのあいだにある、おのれにとってもっとも好ましい時期に胴体へ防腐剤を打ち、標本箱にピン止めして、無垢なる美の静謐を永遠に観察したいという、すべての男性の胸中にめずらしくないーー「ほう、」ーー欲望そのものである(「性欲を上回る、名状しがたい感情」を経験せずにいられることが、不幸なのか幸福なのか、私には判断できない)。ともあれ、昭和時代には有効だった「少ないリソースを鬼のように周回させることでカサ増しし、最終目標はイベントとエンディングCGのコンプリート」というゲーム性は、令和の御代にあってギョッとするほど古めかしく、「マス・オーヤリの大ファンで、彼の絵を見るためならどんな苦労もいとわない」人物以外には、まったくオススメできない内容となっている。以前、都市伝説解体センターは5,000円以上とるべきと書いたが、ただのCG集にすぎないマシンチャイルドこそ、2,000円以下で売られるべきであろう。