メタファー:リファンタジオ、このウンザリするような超大作を95時間(!)かけて、ようやくクリア。「物語摂取」だけを考えた場合、映像やマンガなどに比べると、やはりゲームの時間あたりの効率は最悪です。このディスアドバンテージについて、物語そのもののクオリティや、ゲームならではの体験部分によって納得感ーー言い換えれば、映画40本に伍するエンタメという錯覚ーーをあたえるのが名作の条件であり、この意味で本作は、そのどちらにも失敗しています。最近のトレンドにあがっていたバクマンをひきあいに、週間少年ジャンプのアンケートシステムについて、「ワナビーの情念を火にくべて、当たるまで回し続ける物語ガチャ」と揶揄することもできましょうが、いわゆるAAA級ゲームを数百人が関わるプロジェクトとして立ちあげたあとの、制作撤回どころの話ではない、執行役員やメディアの前はもちろん、仲間であるはずの会社スタッフ相手ですら、ネガティブなことは微塵も言えないというスタークリエイターの地獄は、この対極に位置しているような気がします。メタファーの制作期間は7年の長きにおよび、制作チームのメンバー以外にも、さまざまな役割で本作が世に出ることへ貢献した人々がおり、彼ら/彼女らの中には子育ての時期がそのまま重なった方々も、きっと少なくなかったことでしょう。
すでに成人してから、永遠をなかばまで生きている我々は、「キミ、ひとつのゲームつくんのに時間かけすぎや! いいかげん、オッチャンらの寿命のほうが先にきてまうで!」ぐらいの感じでヘラヘラ笑っていられますが、本来7年とは、新生児が小学生に、小学生が中学生に、中学生が成人をむかえるほどの、一個の無垢な魂が知恵と人格を身につけて、世界へと解き放たれるのに充分な、意味性の密度に満ち満ちた時間でもあります。基礎工事さえままならない、グズグズの沼沢地みたいな世界観とシナリオの上へ、多くの人生から年単位を供出させて、自立するかも不明な巨大伽藍の建造を強いる行為には、なんらかの罪名すらつくような気さえしてきました。鬼滅の刃が5年で連載を終えて、継続的なアニメ化による超ヒットが全国を沸かせているさなか、稚拙な政治観と浅い人間理解による陳腐きわまるストーリーを、ただただ制作費回収のために鳴り物入りで世に問わねばならないのは、良識ある人の親たちにとって、ほとんど恥辱と言えるのではないでしょうか(またもや週間少年ジャンプでたとえておくと、「10週で打ち切りになるはずの作品が巻末で7年の連載をゆるされ、単行本のリリースは随時ではなく、なぜか1巻から最終巻までを同時発売した」といったぐあいのイビツさです)。7年という時間は、たとえ大人であっても別人のように成熟ーーこの単語が人間に期待しすぎなら、変容ーーするのに充分な長さであり、個人的にも7年前に書いたテキストなんて、ちょっと怖くて読みかえせません。
唐突に話はそれますが、最近の原神はナタ編の後半からずっと低調で、最新のバージョンにおいて、これまでなら時限マップにとどまったはずの夏期リゾート地を、正規マップとしてナタ本体へと合体させてしまいました(炎の印の数から判断して、確定事項)。くわえて、初期からの人気キャラであるベネットを「じつは、ナタ人である」としたのは、スターウォーズ8級なアトヅケのドッチラケで、いったん悪印象をいだくと幽霊になった両親との心あたたまる交流も、中共のプロパガンダとしか思えなくなってきます(次章のナド・クライを「ゴッサム・シティのような、原神という物語の中心地にする」との発言から、すでに開発リソースをそちらへ全振りしているのかもしれません)。「もうデイリー消化からは外して、ときどきログインするぐらいでいいかな……」とコントローラーを置きかけたところで、しかし、イネファの魔神任務に心を射ぬかれて、泣いてしまったのでした。たとえ悪性をもって生まれた者ーー両親との関係性や犯罪被害による、幼少期のトラウマと読みかえてもいいでしょうーーであっても、正しい人間関係と日々の生活を記憶や経験として積み重ねていけば、やがてみずからの悪性を乗り越えて、ついにはそれを消滅させることができるといった内容で、「別の人間を何人か育てても、いっさい変わることはなかったと思いこんでいたおのれの内面が、じつは善良なものに上書かれているのではないか?」というささやかな希望へ、救われた気持ちになったからかもしれません。このように、自己弁護ではなく、他者へ届こうとつむがれた物語は、書き手の見知らぬ場所で、大輪の花を咲かせることがあるのです。
さわやかな感動から、話をけったくそ悪いメタファーへとイヤイヤもどしますと、「もしかして、このストーリー、全然ダメなのでは?」という、制作責任者として、周囲のだれに吐露することもできない、苦しい胸のうちを糊塗するかのように、物語終盤からラスボス撃破後のウイニング・ランa.k.a.長すぎる後日談にかけて、どんどん蛇足な補足の言いわけが、等比級的に増えていきます。あれだけ民主主義の価値を強調しておきながら、選挙なしで旅の仲間全員に国の要職をあてがうという、ゲバラとカストロも真ッ青の革命”オトモダチ”政権には、町のNPCから批判的なことを言わせ、暴力による政権奪取からわずか1年で、エンディングのためのエンディングを演出すべく、閣僚全員が統治の席をカラにして外遊へと出かけるさいには、「瞬間転移装置があるから大丈夫」と細かいフォローを入れます。山月記で虎が一晩だけ正気にかえるような、軍歌を耳にした恍惚の老人が一瞬だけ直立して敬礼するような、一種異様の「厳粛な滑稽さ」が本作の結部には満ちあふれているのです。「7年後の自分には、7年前の自分の頭がおかしかったとわかるが、数百人の人生をまきぞえにここまで作らせた以上、いまさら正気にかえるわけにはいかない」というガンギマッた悲壮感が、ひしひしと伝わって泣けますが、流れる涙のわけは悲しみというより、同情に由来するものだとお伝えしておきます。そして、まちがった世界設定をなんとか整合するため、どんどん言葉が増えていくのに対して、ゲーム部分はコピペダンジョンと使いまわしのエネミーで、どんどん先細りしてゆくのです(結局、最初に攻略したダンジョンが、いちばん豪華でギミックに富んでおり、制作途中での制作費縮減を疑いました)。
さらに、ゲームバランスも調整不足を通りこして完全に崩壊していて、二度ともどれないくせに平坦な2マップだけの最終ダンジョンへと監禁されたあとは、ここまであれだけイジメのように制限をかけてきたMP回復が、なんと無料の無制限で解放されるのです! ストーリーをカレンダーどおりに進めたぐらいでは、とうていまかなうことのできない膨大なジョブ経験値をかせぐため、最終セーブポイントの半径数十メートルをぐるぐると何時間も周回する息ぐるしい作業には、ほとんど閉所恐怖症的なものを誘発させられ、アニメのながら見ーー瑠璃の宝石、おもしろいですーーがなければ、それこそ心がバターになってしまうところでした(わかりにくいたとえ)。満を持して登場するはずだった東京各地をモチーフにしたダンジョンは、7年にわたる制作費の蕩尽に業を煮やした執行役員の大ナタによって、渋谷?の1枚絵のみで処理され、ルシファーそのまんまの見た目をしたラスボス戦へと突入した時点で、”ニンゲン”なる表記は特に物語的な意味を持たない、メガテンの”アクマ”に対する逆張り連想ゲームにすぎなかったことが確定します。このラストバトル、強力なジンテーゼ持ち2枚とアルティメットガード役1枚をならべ、回避すると敵のターンをすべて潰せるブッ壊れーーおそらく、テストプレイが充分ではないせいーーアクセサリを装備したハイザメ先生を準備し、毎ターン同じコマンドを入力し続けるだけの”簡単なお仕事”なのですが、HPはほぼ無傷のままMPが先に枯渇し、MPを完全回復するアイテムを所持しているかの”持ち物チェック”が、最大の難所になるという腰くだけぶりでした。
最高度に美麗な見かけをよそおいながら、ゲームや物語の内実がここまでそれと乖離している超大作ーー美女を誘蛾灯にする、ベルセルクの触に登場したモンスターを想起ーーは、近年まれに見る「羊頭狗肉の商売」ではないでしょうか。中高年期の貴重な余命である95時間を、生きたままむさぼり食われた哀れなこの先人の手記が、新たな犠牲者を生まないための一助となることを切に願います(人間の乳房の形状をした怪物の器官をもみしだきながら)。最後に言っときますけど、優秀なスタッフたちを飼い殺したまま、メタファーの完全版なんかに着手したら、ぜったいにダメですからね! 土台が腐って家屋全体が傾いてるのに、いまさら高価な家具を搬入したり、内装に凝ったってしょうがないでしょ! 仮に次回があるとすれば、彼ら/彼女らが子どもーーまあ、7年もの制作期間中に成人して、すでに家を出たかもしれませんけれどーーに誇れて、せめて学校でイジメられないようなものを作らせてあげてくださいね!