前から気になっていたメタファーが蒸気のセールでほぼ半額になっていたため、ダウンロードして35時間ほどプレイ。本邦における「スタークリエイターの功罪」問題を極限にまで煮つめたような作品で、ここまでの印象をお伝えするならば、「最新の調理器具をそなえた、ビカビカにみがきあげられてホコリひとつない厨房に案内され、最高級食材の説明を受けていたら、奥からトップシェフが下半身まるだしで登場し、キメキメのポーズでとりだした小皿にぶりぶりと軟便をひりだすと、とめるいとまもあらばこそ、優雅な仕草でそれをフォン・ド・ヴォーに溶きいれだした」のを目のあたりにする唖然とでも表現できるでしょうか。すなわち、最高の美術とデザインに最低の世界観とシナリオーー「ライターはまともで、物語がエス・エイチ・アイ・ティー」なのは、めずらしいパターンーーという自己矛盾をはらんだ、FF16を彷彿とさせる「やっぱじんしゅさべつとせんそーはいくないし、なかまとみんしゅしゅぎはさいこー」な昭和時代のレフトウイングド平和教育の恩恵をぞんぶんに受けた、無思考的自動書記の脳天壊了ファンタジーになっているのです(システム面は後述します)。女神転生ではない新規IPを立ちあげるために、「王道ファンタジー」として企画され、7年もの制作期間を費やした本作は、近年の創作で言うなら「全修。」のような「自分の実力をカンちがいしたアホ」がやらかした感にあふれています。海外の児童文学と、たぶん偉大なるドラクエの影響から、本邦ではファンタジー作品を「気軽に作れるもの」として、フィクションのうちでも下に見る傾向がある気がしますが、本来はル・グゥインや栗本薫やトールキンのようなレベルの創作者たちによる、作家人生の円熟期に全知全霊をかけた、世界をまるごとゼロから構築するヤハウェにひとしき御業(みわざ)なのであり、言語と文化はもちろん、歴史と宗教、重力の規模や大気の組成、物理法則や公転周期にいたる「ほしのなりたち」のすみずみにまで通暁していなくてはなりません。
個人的に、生殖と交雑についての言及がゼロなのは大問題で、8つの種族のうち、どれとどれの生殖器が合致し、どれとどれが交配可能で、どれとどれが一代雑種にとどまるのかは、良識的なプレイヤーに生じて当たりまえの疑問でしょう。トールキンの強い影響下にあるD&Dをダイレクトに孫引きした、半世紀前の和製ファンタジー群ですら、「美形のエルフと人間のオッチャンはセックスできるヨー! チンチンマンマン、チンチンマンマン!」みたいないきおいで、ハーフエルフを登場させるぐらいの機転(性欲?)はありました。他ならぬクリエイター本人に聞いても、この質問に対する回答がまったく用意されていないことを想像できてしまうのは、アセクシャルな性嫌悪の時代を象徴しているとは言えるかもしれません。そして、ファンタジー世界を構築する上でなにより重要なのは「固有名詞のセンス」であり、貴族にはルイ(サイファー?)、武人にはなんたらベルグ、ミノタウロスまんまの見た目をした敵はモジってグプタロスみたいな、3秒の思考も感じられない借り物のネーミング(と、過去のメガテン制作者たちによる知恵の結晶である魔法名の丸パクり)で構築できるのは、「ファンタジーの王道」とはほど遠い「劣化した現実」でしかないのです。今後、小説を通じた民主主義の描写や、東京タワーの3Dモデルがオープニングに登場することから、真・女神転生4よろしく地下か天上に渋谷やら新宿が存在していて、「その通り、メタファー世界とは、我々が生きる現実の暗喩であり、その劣化が争いや差別の萌芽につながるという、一種の社会批評実験なのです!」などの、アタマが悪くプライドは高い人物(オマエが言うな!)による言い訳が用意されていたらイヤだなーと思っています。
ゲームシステムについて言えば、そのまんまペルソナ5を踏襲していて、傑作と名高い同作を終盤でほうり投げ、クリアにいたっていない身には、かなりきびしい仕様であると言わざるをえません。なんとなれば、完璧なデータを作るためには日数とMPのリソース管理をかなり厳密に行わねばならず、後追いで攻略サイトをフル活用するばかりの社畜ゲーマーにとって、チャートをカタワらに置いて指呼確認しながら、他所様の粘液トラックを1ミリも外れないようなぞるだけの作業と化してしまうわけです(ペルソナ5はどこかでトレースしそこねて、「取りかえしのつかない要素」が生じたことに、嫌気がさしてやめた)。公転周期の話をしましたが、異世界なのに1ヶ月30日のカレンダーが存在するのも意味不明ーー週5日で日曜が多いのだけは好印象ーーで、本邦に住まう者たちの共有財産であるところの、学生生活を下敷きにしていたからこそ有効だったフレバー要素を、無思考でファンタジー世界に敷衍する態度には、「作り手の怠慢」以外の言葉が見当たりません。プレイヤーの行動を制限すればするほど、全体のゲームバランスはとりやすくなるのでしょうが、なにも参照せずにプレイを進めると適切な強化を得られず、明確な”詰み”が生じるのは、いかがなものかと思います。うすうす、このシステムの欠点に気づいているのでしょう、ネット経由で他プレイヤーによる同日の行動を見られる機能もあるのですが、溺れる者へ投げわたされる竹の棒くらいしか役にたちません。
また、とりこぼしのないデータを作るためには、タイトなスケジュール管理を要求され、ダンジョンの低レベル攻略をなかば強いられることになり、20年間を改善なくこすり続けられているプレスターンとの食いあわせは最悪です。フォロワーが生まれないことからもお察しである、「弱点」「回避」「クリティカル」で彼我の行動数が増減する戦闘システムは、特に低レベル帯において運の要素を大きくしすぎるからです。ボスが最弱行動を選択し、できるだけ多く味方の回避とクリティカルが出ることを祈りながら、幾度も「戦闘をやり直す」ボタンを押すのって、RPGの楽しさからはもっとも遠い作業のように思えてなりません(しかしながら、「格下をフィールド攻撃で一掃でき、ダンジョンの出入りで敵が復活する」仕様を悪用して、無限にレベリングできることに気づいたあとは、いっきにヌルゲーと化してしまいました)。全体的に、用意された多くの要素がたがいにかみあわずチグハグとなっており、完全新規のゲームシステムを求めて、7年間をかけたスクラップ・アンド・ビルドをくりかえしたあげく、タイムアップでペルソナのシステムにもどしたような印象を受けます。最近、似たようなことを感じたゲーム、あったなー、なんだったかなーと考えていたら、モンスターハンター・ワイルズだった。また、タウンマップより遷移する全体マップからは各地のロケーションに直接は飛べず、いちいち鎧戦車へと移動しなくてはならなかったり、装備・アイテム・アーキタイプの階層が絶妙に使いにくかったり、7年間の建て増しによる弊害ーーステータス画面のデザインを変更できなかったのか、右下の余白に三角アイコンでジョブ着脱のボタンが追加されたのには、微苦笑しましたーーだろうとは察しながら、「日本人はゲームを作るのが、本当に下手になったなー」と思いました。最近、似たようなことを感じたゲーム、あったなー、なんだったかなーと考えていたら、ドラクエ3リメイクだった。
……などとブツクサ言いながらプレイしていたら、やっぱり出てきましたよ、現代都市が作中の古代都市として地下に眠ってるヤツ! あー、もう! こんな手クセのマンネリをいつまでも続けるくらいなら、前から言ってるみたいに、ファミコン版の女神転生2から関西をロケーションにして、順にリメイクしていきましょうよ! 梅田、なんば、天王寺、三ノ宮、四条あたりをダンジョンにして、奈良はフィールドマップで再現、東大寺、法隆寺、唐招提寺をめぐり、盧舎那仏、百済観音、鑑真和上をたおすと、興福寺の阿修羅戦がアンロックされる、簡単なメインクエストです! もちろん、文明は崩壊していますから、移動手段は徒歩のみとなります(暗黒微笑)。