猫を起こさないように
日: <span>2023年11月10日</span>
日: 2023年11月10日

映画「バービー」感想

 ほんの一時期、オッペケペーみたいな映画との抱きあわせ商法で話題になっていたバービーを、アマプラでようやく見る。個人的には、コメディ・ミュージカル・社会風刺のいずれにも振り切れていない、じつに中途半端な作品のように感じましたけれど、どうも頭文字Fの観点から読み解く態度がネットでは主流のようです。以下は、幼少期に人形遊びをしたことがない性別の人物ーー頭に浮かんだのは、どちらですか?ーーによる、そんな視点での感想文と思ってください。端的に言って、我々サイドの本性は「邪智・性欲・暴力」から成り立っていて、本作に登場する人物たちはマテル社の重役連をふくめ、決定的にこれらの要素を欠いており、その外見がどうであるにかかわらず、全員が我々とは異なる方の性別に属していると言えるでしょう。「暴力による死と、その究極へ至る道程に横たわる不倶のグラデーション」を予期しないですむ、劇中で行われているような話し合いによって、何か有益かつ有効な結論が導かれるとは、とても信じられません。同様に、ネットでの議論が社会の変化へと結実しないのは、まさに死を前提とするフィジカル・イコール・肉体の破壊を伴わないからであり、「全裸の範馬勇次郎と密室に閉じこめられたときに言えない言葉」さえ気軽に発信できてしまうことが、レギュレーション上の不備であると指摘できるでしょう。ある不快を感じたとき、外的な抑止が無ければ「不可逆な地点まで、無言で対象をなぐり続ける」ことこそ、我々が持つ偽らざる性質であり、とりかえしのつかない死を大量に発生させないため、「法律・婚姻・国家」なる自縄の概念をみずから作りだすことで、自縛による死の回避を試み続けてきたのです。

 かつて人形遊びをする側の性別は、「邪智・性欲・暴力」の本来をたわめないまま、間接的にそれらをコントロールする手法に長けていました。なぜなら、異なるルールを持つ小集団が割拠する場所では、他の集団から向けられるそれらの毒を、同じ毒をもって制する必要があったからです。そこから長い時間をかけて、同一のルールを共有する集団の規模は併合によってどんどん大きくなり、めったに死を伴う争いが生じなくなった結果、かつて有効な手段として乗りこなしていた「邪智・性欲・暴力」を不愉快なものとみなし、ゼロへと希釈しようとする内向きの動きが発生します。しかし、それは自分たちが文明と定義する埒外への想像力を欠いた運動で、他の集団において脈々と受け継がれる「邪智・性欲・暴力」に対して、むきだしの無力をさらけだす危険性を裏腹にはらんでいます。その執拗な、例えるならば陰茎にするハモの骨切りがごとき思想未満の思惑は、近年ではフィクション全般にもおよんできており、雑に言いますと、プリキュアやマーベルによる特定の性別への「物理的な」エンパワメントは、文字どおり字義どおりの虚構かつ虚妄に過ぎないことは、次の世代へキチンと伝えておく必要があります。人をなぐったことのない若いオタクが、人形遊びをする側の性別を「フィジカルにひいでた属性」と心から信ずる姿勢は、人類全体の価値観を一様化することの困難さが証明され続けている現在、未来において有害な瞬間をもたらしかねないことを、くりかえし何度でも強調しておくべきではないでしょうか……

 オップス、最近の陰鬱な精神状態にひっぱられて、なんだかオンナ子どもをムダに怖がらせるしゃべり方になっちゃってたね! ちょっとモードをーー眉間に皺を寄せた劇画調から、ポップなトゥーン調の顔面にモーフィングするーー変えて、本作のクスッと笑えるブライト・サイドについてお話しするね! この映画の面白いところは、リアル人体にドールと同じ動きをさせていることなの! ジェニーやリカちゃんの両脚を180度回転させて、ツルツルおマタをオッぴろげた逆八の字ポーズにゲラゲラ笑った記憶って、だれにでもあるわよね! そんな「ドール遊びあるある」が、全編にわたって小ネタとして挿入されてるんだけど、中でもアタシのお気に入りは、「床に放置されたバービー系の人形は、必ず顔面を下に伏せた状態になる」というマーフィーの法則(古ッ!)を再現してるとこなのよ! 人間がうつぶせになるときって、高い鼻が邪魔になるーーえ、アジア人の話なんてしてないわよ?ーーから腕を枕にしたり、顔を横に向けたりするじゃない? なのに人形の演技をしてるもんだから、両腕をまっすぐ体のワキにそわせたまま、鼻から地面に顔をつけてんのよ! 美人のパツキン女優が全力でそれをやってんのがおかしくっておかしくって、アタシひさしぶりに涙がでるほど笑っちゃった! ベセスダゲーの死体がときどきハチャメチャに笑えるのも、これが原因なのかもしれないわねえ(目尻の涙をぬぐう)! それにしても、戦火から遠い文明国に住むマイノリティ人種でシングルマザーな家庭が抱える葛藤ーートゥーン調から、劇画調の顔面へとモーフィングするーーなんてもうだれも、1ミリの興味関心もねえよなァ!

 ……などと、世情と季節に起因する気持ちのアップダウンにふりまわされていたのですが、ついさきほど原神の最新ストーリーをしょぼくれた顔でプレイしていたところ、”Love is destructive”なるアチーブメントの達成を目にした途端、たちまち大破顔となって、すべての憂悶はふきとんでしまいました! うわー、やっぱりキミら、フォンテーヌ編は確信犯でやってるんやないの! 中華の若い世代がつむぐ、旧エヴァ劇場版の堂々たる先の先を、ワテに力いっぱい見せておくんなはれ! なぜって、同じ意図で始まったはずの、本邦の若い世代によるマーキュリー・ガンダムは、見るも無惨な大失敗に終わってしまったからなァ!(だいぶ不安定だし、もうバービーと関係ない)