猫を起こさないように
日: <span>2022年5月29日</span>
日: 2022年5月29日

海外ドラマ「ベター・コール・ソウル」感想

シーズン5終了時

 ベター・コール・ソウル、前作と同じくシーズン5が最終だと思ってて、「ハハッ、どうせキム死ぬんやろ?」くらいの感じで見てたら、すごいヒキから来年のシーズン6へ続くとなって、今は「うわー、キム殺さんとってー、おねがいー」みたいになってて、リアルタイムの重要性を再認識した次第である。このシリーズ、ブレイキング・バッドの前日譚で、スターウォーズの456に対する123、FF11の三国ミッションに対するアルタナミッションみたいに、本編のシナリオを補完しながら干渉していく仕掛けになっている。前者が本編の意味を完全に変じて一部のファンから大ブーイングを浴びたのに対して、後者はキャラクター造形を深ぼりし既存ストーリーの読解へさらなる深みを与えている。ベター・コール・ソウルはこれまでのところアルタナミッション的であり、最終シーズンでもこの方向性を堅持してくれることを願う。

シーズン6第7話視聴後

 ベター・コール・ソウル、最終シーズンの7話を見終わった。これまた予想外のものすごいヒキに、思わず身を乗り出して大きな声を出してしまった。そして驚きから我に返って、この続きを見るのになんと一週間を待たなければならないことに気づいた。週刊少年ジャンプを毎週買っていた頃の感覚を思い出しながら、いまは名前を付けられない感情に身をもみしぼっておる次第である。本作はブレイキング・バッドの前日譚であり、ブレイキング・バッド本編に登場しない人物は、何らかの形でジミーの人生からいなくなったということが、あらかじめ視聴者にはわかっている。その「いなくなり方」をどう見せるかが本作のキモで、今回は6シーズン57話をかけて人間関係を丁寧に積み上げた末のまさかの展開で、制作者の感じているカタルシスーードヤ顔が目に浮かぶようだーーはいかばかりのものかと思う。リアルタイムでこれを体験できていることは、まさに僥倖という他はない。まったく先の見えない状況に置かれていることを嬉しく思うし、未見の君には昼夜を通じた前作からのマラソンでこの最先端へと追いつき、残すところ3話となった終わりゆく物語をともに伴走してくれることを願っている。

 (満面の笑みで)よおし、話そ? ……え、8話の公開は7月なの!? オレはいま初めて、心の底からコロナウイルスのことを憎いと思ったぜ……!!

シーズン6第8話視聴後

 ベター・コール・ソウル、シーズン6の8話を見る。これ、ドラクエ3で言うところのバラモス後のアレフガルドの話で、あの地には遺体が2つ眠っていることがわかりました。スター・ウォーズ3が4以降の解釈を永久に変えてしまったのと同じレベルで、本作はブレイキング・バッドを上書きしたのです。もう昨日までのようには、あのメス工場を見ることはできません。このエピソードが最終回でいいくらいの内容ですが、残り5話でキムの行く末はどう描かれることになるのでしょうか。

シーズン6第9話視聴後

 ベター・コール・ソウルのシーズン6第9話を受けて、ブレイキング・バッドのシーズン4と5を見かえしている。やはりと言うべきか、初見のときに抱いていた印象が大きく変わると同時に、「あれだけの修羅場をくぐりぬけてきたヴィランたちが、こんなハゲの高校教師に皆殺しにされるんだ……」と少々せつない気分にさせられてしまった。それもこれも、ただの前日譚だったはずの本作が、各キャラの人生と生き様を深掘りする出色の仕上がりになっているせいだ。この9話では、スター・ウォーズで例えるならダース・ヴェイダーが手術台から起き上がるところまでが描かれ、時系列はソウルがウォルターと出会う直前まで一気に繰り上げられた。本作の目的が、単にブレイキング・バッドへ接続するだけでなく、ソウルにとってのエルカミーノを描くことによって、アルバカーキ・サーガとして全体を上書きしようとする試みであることが、いよいよ明らかになったと言える。

 「ある人生の、どこを切り出してピリオドを打つかが、物語の性質を決める」とつねづね語ってきたが、自らの手で殺しすぎたウォルターのエンディングとして、ブレイキング・バッドは避けようもなくビターに閉じられた。その一方で、やり方こそ悪辣きわまるものの、自ら手を下したことのないジミーには、どんな結末が与えられるのだろうか。前作をも含めた物語のメッセージが、それによって永久に確定するのを、怖いような想いで待っている。「ネブラスカで再会したキムが、ブルーメス中毒になっている」というのが大方の予想だと思うし、「廃人となったキムの車椅子を押すジミー」などの場面が描かれて物語の幕が下りても、因果の応報として大いに納得するとは思う。けれど、14年にわたる悪徳と汚濁の果てに、最後の最後で「ほんの小さな、きれいなもの」を見せてくれるのではないかと、祈るような気持ちでいるのだ。

シーズン6第10話視聴前(BB感想)

 ブレイキング・バッド、シーズン5の後半を見てる。全体として、良くも悪くも少年漫画誌の週刊連載を思わせる展開であり、「打ち切り回避」への力点を感じる瞬間も少なくない。一方、前日譚であるベター・コール・ソウルは、偉大な本編の存在により最後まで語り切ることをあらかじめ約束された作品で、ストーリー展開から伏線の張り方まで、想定する物語の総体を俯瞰的に眺めながら精緻に組まれている印象だ。このファイナル・シーズン、面白いことは間違いないが、ベター・コール・ソウルを経てしまったせいだろう、どうしてもガスがいないことに「丞相亡き後の世の混迷」を感じるし、王の不在を嘆くマイクの退場が決定的となって、どうにも見るべき所在を失わせてしまう。ウォルターが新たな麻薬帝国を築く展開は、コズミック・ジャスティスの観点から周到に退けられ、小悪党による小悪党との小競り合いで悪事の報いを描き、引いていくカメラが天井の梁を逆さ十字のように映して、この結末がキリスト教的断罪であることを強調しながら、物語は幕を閉じる。このバッド(アンド・スモール)エンドの先を、ベター・コール・ソウルの残り4話が「トゥルー・エンド」として描いてくれることを、切に願っている。いまから見ます。

シーズン6第10話視聴後

 ベター・コール・ソウル、シーズン6の10話を見る。シーズン1から5の1話冒頭にモノクロで挿入されてきた「ネブラスカ編」の完結回となっており、内容を忘れている向きは5分×5シーズン分を見直してから視聴することを強くおススメする。残りの話数から逆算した視聴側の想像を軽快に裏切る小品で、翻弄される我々の反応はさぞや制作側を楽しませているのだろうと思う。小悪党が小商いをするうち、最も重大な己の秘密と悔恨を、最も軽薄に赤の他人へとさらけ出す羽目になる滑稽さ。それはすべて、彼の生きざまが招いたものであり、「おもしろうて、やがて悲しき」を地で行く顛末だった。次週のサブタイトル”Breaking Bad”がタイムラインをザワつかせているが、今週の”Nippy”を振り返れば単に慣用句として用いているに過ぎないのやもしれず、もう余計な考察からは離れて、赤子のようにヴィンス・ギリガンへ身を預けたい気分になっている。

シーズン6第11話視聴後

 ベター・コール・ソウル、最終シーズン11話を見る。ブレイキング・バッドの第2シーズン8話”Better Call Saul”の裏側が過去のソウル視点から挿入されながら、現在のジーンが”Breaking Bad”、道を踏み外していく様が描かれる。前後編の前編といった描写で、まだ何か取りかえしのつかない事態が生じたわけではないのに、ウォルターとジェシーの掘った荒野の墓穴がベッドに横たわるジーンにオーバーラップしたり、ウォルターに関わらないよう忠告を受けたにも関わらず彼の勤務する高校を訪ねるシーンの後に、睡眠薬が切れる頃だから止めたほうがいいと言われたにも関わらず証拠を残す形での不法侵入を行ったり、すべての演出はソウルが破滅へと突き進んでいることを執拗に暗示する。生きてキムと再会するフラグは今回の冒頭で無惨にもへし折られてしまったし、これまで安しと侮ってきた老人が彼の犯罪を立証する存在になりそうだったり、ソウルにジミーとして幸せになってほしいという私のささやかな願いは、やはりかなわないかもしれません。

 最終話のタイトル”Saul Gone”の意味するところは、「ソウルというペルソナを捨て、ジミーに戻る」か、「ジミーに戻れず、ソウルのまま死ぬ」のどちらかでしょうが、ここまでのところ後者の可能性が8割くらいの印象です。でも、シーズン6の予告を見返していたら、マイクに「いずれにせよ、お前の思うような展開にはならない」と言われてしまったので、残り2話を心静かに待ちたいと思います。でもでも、次週のタイトル”Waterworks”だけど、ついに殺人を犯してしまったジーンが、ウォルターよろしく遺体を薬品で溶かして、上水道に流す展開を予告しているんじゃないかなー。

シーズン6第12話視聴後

 ベター・コール・ソウル、シーズン6の12話を見る。キムがソウルの事務所を訪れていたり、キムとジェシーが出会っていたり、前作ファンに向けたサービスを織りまぜながらも、物語はいよいよ「贖罪」の段階へと進んだようです。ブレイキング・バッドの世界って、ピカレスク・ロマンの見かけを装いながら、キリスト教的な因果応報が極めて純粋に適用される世界なのね。中でも殺人が最大級の罪で、これを犯した者は必ず自らの死によって報いを受けることになってるの。今回はジーンにその危機が2度あって、ひとつ目は不法侵入した家宅で犬の骨壺を使って、家主の後頭部を殴打しようとしたところ。途中まで、ブレイキング・バッドのシーズン2でウォルターがジェーンの窒息死をあえて見過ごしたシーンが再演され、その対応によって2人の根本的な性質についての違いを示すのではないかと予想してました。ふたつ目はジーンが電話線を両手に巻きつけて老婆に迫る場面で、いよいよ一線を越えるのかと顔をおおった指の隙間から見てたんだけど、最後の最後で善人のジミーが顔を出して、決定的な事態は回避されました。キムがハワードの奥さんに真実を告白したこともそうですけど、「罪と罰」の最後の最後で描かれたような魂の救済が、アルバカーキ・サーガのエンディングとして用意されている気がしてなりません。ともあれ、次週最終話、あとはもう、祈るだけです。

シリーズ最終話視聴後

 「君は、その頃から何も変わらないんだな」。最後までゲームを楽しむ気でいたのに、キムの告白を知ったことで、彼は等身大の自分をついに受け入れる。ソウルでもなく、ジーンでもなく、ジミーでもなく、ジェームズとして。

 最終話の3分の2ほどを過ぎても、ソウルはソウルであることを止められないままで、展開は少しも予定調和のコースに入ろうとせず、制作者が物語をどこへ落とそうとしているか見せなかったのには、ほとんど窒息死するかと思いました。ラストカットへ至るギリギリまで抑制した演出には、「ここまでついてきてくれたのなら、きっと伝わるだろう」という、作り手と受け手の間へ横たわる共犯関係にも似た、深い信頼を感じることができました。

 もしかすると、本当の自分を受け入れ、罪を認めることで訪れる救済は、14年にわたる一大ピカレスク・ロマンの結論として、凡庸きわまるものなのかもしれません。けれど、ブレイキング・バッドからの14年を振りかえりながら反芻してゆくと、登場人物たちが持つ人格への敬意を失わないのならば、これ以外の選択肢はないことが痛いほどにわかるのです。

 そして、モノトーンの世界で煙草の先端にゆらめくオレンジの火は、この汚濁と悪徳に満ちた物語で最後の最後に訪れた、「ほんの小さな、きれいなもの」でした。

ジェームス・マッギルについて

 ベター・コール・ソウル、最終話追記。この観点で書かれた感想をほとんど見かけないので……。物語の終盤、裁判官にグッドマンさんと呼びかけられ、「マッギルです。ジェームズ・マッギルです」と応答する場面があります。ご存じの通り、ジミーというのはジェームズの愛称であり、目上の者から庇護する対象に向かって投げられる呼びかけです。ジミーとしての彼はずっと、「叱ってもらうために悪戯を続ける子ども」であり、父から、母から、兄のチャックから、そしてもしかするとキムから、「許してもらう」ために生きてきた。「許される」ことでしか、「愛されている」ことを実感できなかった。弁護士の道を選んだのも、外部に法という「許し」を仮構するためだったのかもしれません。しかし、自らをジェームズと呼んだとき、彼は法律や家族や恋人に「許し」を求めることを止め、自らのふるまいの責任を、自らの魂に照らして負うことに決めた。もっとベタな言い方をするならば、はじめて庇護される立ち場から離れ、本当の意味での「大人」になった。ソウル・グッドマンという名前は、他者からの揶揄を先回りして織り込んだ、石ころを黄金と呼ぶような一種の韜晦であり、心理的防壁でした。それを捨ててジェームズ・マッギルを名乗ることで、彼はついに「魂の善良な人間」という本質を手に入れることができたのです。

 ”And I’ll live with that”.

オークション入札について

 暑さで気がくるって、ベター・コール・ソウルのオークションに1万ドルぐらいビットしている。おそらく終了間際10分の勝負になると思うが、何かひとつでも手に入れたい。フィクションにまつわるグッズについて、こんな気持ちになったのは、生まれて初めてかもしれない。

質問:S1から見直してみると、確かになぜその選択肢を取ったか分からなかった所を許しを求めてると見ると腑に落ちる部分ありますね。デイビス&メイン事務所で許可を取らずに勝手にプロモーションビデオ作る所などはなるほどとなります
回答:ジミーの改悛については、それこそ人生の数ほど解釈があると思いますが、私にとって「許し」というのは有効な補助線でした。そんなことより、ベター・コール・ソウル最後のお祭に参加しようぜ! オレぁもう、1万ドルも溶かしちまったよ(まだ溶けてない)!
https://propstoreauction.com/auctions/info/id/342

オークション結果について

 うん? ベター・コール・ソウルのオークションどうなりましたか、だって? イヤミか貴様ッッ!! いちばん欲しかったのは、キムと煙草を吸うラストシーンの囚人服だったんだけど、早々に5,000ドルを越えてきてて、最大の激戦区になることが予想されたため、あえて候補から外しました。最終的に、「ギリガン・グールド・オデンカークのサイン入り名刺」「ジーン収監時の囚人服」「チャック回想時のスーツ」「凶器になりそこねた犬の骨壷」の4アイテムにビッドをしぼったのです。オークション終了時刻が日本時間の深夜で、「社畜に徹夜は難しい」ため、だいたいの予想で順に3,500ドル、2,000ドル、2,500ドル、2,000ドルと、現状のラインから1,000ドルほど積み増しをして、就寝しました。

 それでは、(突如、声を張って)結果はっぴょーう! 4アイテムの落札価格は……(ドラムロール)順に、5,500ドル、4,500ドル、5,500ドル、3,000ドル(涙目)! ちなみに、ビッドを見送ったラストシーンの囚人服は、9,000ドルと意外に伸びず、ここに1点集中しておけばと、いまは激しく後悔しております。落札価格を眺めていると800ドルくらいのものもあり、アイテム選択の段階で完全に戦略ミスをおかしていたわけです。今後は、イーベイで安価なベタコTシャツとかを落札して、この傷を癒すことにしたいと思います……失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した(以下、無限ループ)