猫を起こさないように
日: <span>2021年8月4日</span>
日: 2021年8月4日

漫画「ゴールデンカムイ」感想

 ゴールデンカムイ全巻無料、読む。最初のほうは単行本も買ってたんですけど、土方歳三が博徒を鏖殺するあたりでノレなくなって、なんとなく読むのをやめてしまいました。群像劇で大長編化していき、そのうち連載が間遠になり、ついに完結を見ずに終わる例の作品群と同じにおいをかぎとったせいもあります。作者がキャラを愛しすぎるようになり、だれも殺せなくなって、ストーリーが停滞するというアレね。それが、いよいよ最終章に突入して、どうやら完結するらしいとのふれこみに、出戻ってきた次第です。一気に読むとダレ場も多く、既視感あふれる大ゴマのアクションと脇役の過去編に割かれる話数とで3分の1くらいは削れると思うんですけど、要所要所の伏線回収話はさすがに面白い。そして、ページをめくったときの転調を効果的に使っているのも本作の特徴で、一瞬でシリアスをギャグに、ギャグをシリアスに変じるのがとてもうまい。最新話ラスト2ページの転調も、本当にうまい(雑誌掲載時のアオリ文を書く担当は変えた方がいいと思いますが……)。

 ただ一点だけ気になるのは、あれだけホモホモしい、チンポ・スケベ・フェロモン・ギャグ(ムワアァァ)をくりかえし挟んでくるのに、少女アシリパの描写にセクシャルな視点がいっさい無いところです。キャラ崩壊スレスレの変顔をさせたり、チンポやキンタマの話をさせたりするのに、見事なまでに性的なニュアンスを消しているんですよ。300話近く連載しているのに、彼女がどんな体型をしているかさえわからない。アイヌの衣装がドラえもんレベルのデザインとしてキャラと一体化してて、身体の曲線を想像すらできないようにしている。男性作家だったら必ず入れるだろう川での沐浴とか、顔以外の肌を見せるシーンが本当に1話もない。男どうしの同性愛ギャグでごまかそうとしているのは、作者の性別なのではないかという話も、どこかうなずけるところがあります。もし、この指摘が何らかの大オチを隠すためだったりしたら、面白いのになあと思ってます。

 あと、マンガが良かったのでアニメをFF11のオトモに流し始めたら、ひどい出来でビックリしました。原作の持ち味がすべて消された、昭和によくある納期優先の量産型アニメなんですよ。アシリパに説得力を持たせられるかが序盤のすべてなのに、声優の演技が魅力にとぼしいのもマイナスです。もっと原作を大事にする制作会社に預けてほしかったなー、もしかして雑誌掲載時のアオリ文を書いてる偏差値の低そうな担当が美人局でやらかしたのかー(妄言)?

 それと、ゴールデンカムイのギャグにところどころ漂うこの感じ、前にどっかで体験したことあるなー、どこだったかなーと考えていたら、えの素だった。

 ゴールデンカムイ、最終話まで読む。列車に例えるならば、長らく時速60キロの運行だったのが突如、時速200キロに加速した感じ。男たちの「死に様」を次々と描いた後は、歴史大河として我々の現実に接続させるための怒涛のナレーションからの、この作者らしい余韻をブッたぎる人を食ったラスト。そしてついに、近年のインターネットに顕著である胸部サイズをめぐる不可思議な争いを避けるため(違う)なのか、少女アシリパの裸体は7年半におよぶ長期連載にも関わらず、ただの一度も描かれませんでした。

 主人公との関係も恋人というよりバディに留まったままで、本作では一貫してすべての男性を「女性を性愛の対象としない人物」として描いているのです。人間を細分化する近年の知的遊戯にはついていけてないので、私にとって当カテゴリに入るのは2種類しかないんですけど、この作者はどっちなのかなー。どちらにも入らない読者の多くは、主人公とアシリパのロマンスの行く末を知りたかったと思うのですが、またいつでもそれを語り始めることができる場所としての「3年後」を、いったんのエンディングに置いたのかもしれません。

 まあ、解釈違いの実写版では、胸やけするほど描かれるんでしょうけどね!