(広いスタジオの中央に布のかかったキャンバス。背なしの椅子に浅く腰掛けた段ボール鼻の外人、カメラに向かってにこやかに)やあ、ぼくの名前はトゥレット。みんなをより良いツイートに導く、当ツイッター講座の伝道師だ。もしかして君は、こんなふうに考えてはいないかい? 「うかつなことをツイートして、炎上したらどうしよう?」「140文字なんて短い文章で、本当に思ったことが伝わるのかな?」「ぼくの面白くないツイートなんて、みんな無視するに違いないよ! 結局ハイスクールと同じさ!」ってね。大丈夫! ぼくといっしょに学べば、君のツイートは必ず良くなる! このメソッドは、米国でもワンハンドレッド・パーセントの成功が保証済みなんだ! それじゃ、いっしょに今日のテキストを見ていこうか(鼻段ボール、キャンバスにかけられた布を取る。現れる文字列)。
『この筋立てを日本で作れば青木雄二の絵柄で漫画になり、英国で作ればユアン・マクレガー主演の映画になる。諸君、これが文化の差というものだ。』
(口笛を吹いて)ヒューッ! 悪くはないが、まずまずといったところだね。まずは着想からだ。このツイートの肝は青木雄二とユアン・マクレガーを併記することのギャップが醸しだす可笑しさにあるんだけど、どうやってこんなのを思いつくのか? 簡単さ! キーワードは類似点、それを探し出すんだ! 漢字とカタカナだからわかりにくいけど、両方カタカナにしてみたらどうだろう? ユウジ・アオキー、ユアン・マクレガー。ほら、簡単に類似点が見つかったろ? この方法さえ身につければ、考えつくツイートのネタなんて百や二百じゃきかないよ! とっても簡単なんだ!
次はツイートそのものの表記を見ていくよ。この冴えないツイートも、少し文章に気をつかってオシャレにしてやるだけで、リツイートの数は百や二百じゃきかなくなるよ! 大丈夫、誰にでもできる、簡単さ! まず、最初の助詞「を」だけど、助詞ってのは前後の連結を強くしすぎるんだ。「この筋立て」は「日本で作れば~」と「英国で作れば~」を共有するんだから、「を」じゃ「日本で作れば~」との連結を強くしすぎる。こいつは、読点に変えちまおう。
『この筋立て、日本で作れば青木雄二の絵柄で漫画になり、英国で作ればユアン・マクレガー主演の映画になる。諸君、これが文化の差というものだ。』
ほら、軽くなった。簡単だろ? 次に、二文目を見てみよう。「という」は名詞の持つ断定調を弱めるために便利な言葉だけど、書き手の自信の無さも同時に表してしまうんだ。ハイスクールでもそうだろ? 弱気を見せた瞬間、たちまちやつらに攻めこまれちまう! だから、これは「呼ばれる」に変えちまおう。受け身にすることで書き手の判断を世間に丸投げできるし、後になって炎上したときにも簡単に言い逃れできる。「おいおい、誰だよ、文化の差なんて呼んだのは? もちろん、俺じゃあないぜ!」ってね! 簡単さ!
『この筋立て、日本で作れば青木雄二の絵柄で漫画になり、英国で作ればユアン・マクレガー主演の映画になる。諸君、これが文化の差と呼ばれるものだ。』
フーム、この冴えないツイートもだいぶ良くなってきたね。でも、まだ充分とは言えない。君のツイートをフォロワーは3秒で読んでしまうが、君はその1万倍は時間をかけなきゃいけない。君が始終もてあましてる時間をかけるだけでいいんだ、簡単だろ?
「日本で作れば~」と「英国で作れば~」の順番が気にくわないな。一般的に言って、文章の後半に来るほうが本当に伝えたい内容、パンチラインになるんだ。「あなた、やさしいけどデブね」って言われたらムカつくけど、「あなた、デブだけどやさしいのね」って言われたら小鼻が膨らむだろ? ユアン・マクレガーの顔を想起させてから青木雄二の顔を想起させた方が断然、笑えるだろ? だから、このパートは前後を入れ替えちおう。
『この筋立て、英国で作ればユアン・マクレガー主演の映画になり、日本で作れば青木雄二の絵柄で漫画になる。諸君、これが文化の差と呼ばれるものだ。』
ホラ、格段に笑えるようになった! な、簡単だろ? じゃあ早速、この傑作ツイートをツイーティングしよう……って、待ちなよ! 言ったろ、フォロワーは3秒で読んじまうけど、君は他に何も持ち物がないんだから、せめてその1万倍の時間をかけろってさ! もう忘れちまったのかい、このニワトリ頭め! 「日本で作れば~」と「英国で作れば~」は、「この筋立て」に共有されるパートだって、いちばんはじめに言ったろ? つまり、この二つの部分は文法的にも全く同じ構成をしてないと不充分ってことさ! 「ユアン・マクレガー主演の映画に」「青木雄二の絵柄で漫画に」……フーム、どっちに統一するかだけど、「青木雄二絵柄の漫画に」とすると漢字が連続するせいで読みにくいね。これは前半に統一しよう。簡単だろ? 「ユアン・マクレガーの主演で映画に」……うん、ぴったりだ! なに、「青木雄二制作の漫画に」にすればいいじゃないかだって? おいおい、青木雄二はもう他界してるだろ! 2007年制作の映画なんだから、2003年に他界した青木雄二が漫画にできるわけないだろ? しっかりしてくれよ! 本人じゃなくて青木雄二プロダクションが制作したと読ませなきゃダメだろ? ツイートに明らかな嘘は厳禁さ! 簡単なことだろ!
じゃ、完成したツイートを見てみよう。こんな感じだ。
『この筋立て、英国で作ればユアン・マクレガーの主演で映画になり、日本で作れば青木雄二の絵柄で漫画になる。諸君、これが文化の差と呼ばれるものだ。』
フーム、いいね。100+のリツイートも夢じゃない。な、簡単だったろ? アメリカでもワンハンドレッド・パーセントの成功が保証されているメソッドだからさ、ただ手順に従うだけで、誰にでもステキなツイートができるようになるんだ! (腕時計を見て)おっと、もうお別れの時間が来てしまったようだ。それじゃ、来週のこの時間まで、シー・ユー・ネクストウィーク! バイバーイ!(にこやかに手を振る鼻段ボール。引いてゆくカメラ)
おわり(制作・著作 NWO)