ロフト.
「来世でなら、あるかもしれないけど」。君とぼくの生息する文化圏とは二重の意味で正反対の世界を描いているなあと思って見ていたら、気がつけば犯人は君とぼくだった。あれ、松井選手? 試合、どうしはったんですか?
月: 2010年9月
続報だよ!
――あの衝撃的な、「萌え萌え学園ファンタジー」更新を宣言してから、はや一ヶ月半が過ぎましたが、現在の状況を教えていただけますか。
更新を待ちわびるファンのことを思うと、次から次へと気力が湧き上がる感じだ。お気に入りの鉛筆がちびて使えなくなり、家人が新聞を取るのを止めたせいで広告チラシの裏も尽きてしまい、何より暑いので、一ヶ月半ほど中断してはいるが、おおむね良好だよ。
――さぞかし、反響は大きかったのでしょうね。
そりゃ、凄まじいものさ! 父親は毎夜狂ったように俺へ暴力をふるうし、母親は深夜エプロンの前かけに顔をうずめて部屋の前で泣くし、スーツ姿の兄は毎朝虫ケラに向ける視線でひとり食卓に飯を食う俺の背後を素通りするし、薄い壁越しには昼間からアンアンと隣人の艶めいた嬌声が聞こえてくる。外に出れば、犬は電柱と間違えて俺の足にマーキングするし、妹は潤んだ瞳で電柱の影から俺を見つめてくるし、近所の婦女が蝟集して囁きあうそばを通れば静まり返るし、黄色い空からは太陽と同じ大きさの顔面が無表情に俺を見下ろしているし、突然の騒音に驚いて耳をふさげば俺自身の絶叫だったりね。そりゃもうあれ以来、俺の周囲は上を下への大騒ぎなのさ! まあ、妹だけはいないんだがね!
――身内や近所だけでもその有様なのですから、nWoファンからの反応はさらに大変なものだったのでしょうね。
ないよ。全然ない。ネットはいつも通り、ビックリするくらい静かだよ。あまりの静寂に、父親が契約するプロバイダーへ確認の電話を入れたぐらいだ。二千回ほど確認をしたら、営業担当が菓子折りを持って謝りに来た。その後、父親から狂ったように殴られたが、やはり回線の不調のせいなんだろうね。けどそれは、ファンのみんなに期待していないってことではないんだ。全くのその反対の気持ちなのさ。だって考えてもみてくれよ、俺の周囲ではこれだけの騒ぎが巻き起こってるんだぜ! 反応が無いのは、ただ回線が不調だっただけなんだから!
――「萌え萌え学園ファンタジー」は、今後どのように展開していくのでしょうか。
もちろん、俺の人脈を最大限に生かした、グローバルな展開を考えているよ。まず、今まで言ってなかったんだけど、俺はフランスのモード界の重鎮の一粒種ではないんだ。そして、アメリカの大手CATVの敏腕プロデューサーに知り合いもいない。だが、台湾の芸能界事情に明るい制作会社の社長と個人的に懇意にしているという事実関係は未だ確認されていないので、「萌え萌え学園ファンタジー」へのオファーに自宅の黒電話は鳴りっぱなしさ! もっとも、俺以外の家族全員が携帯電話を持つようになってから、家の電話回線はとうに解約したはずなんだがね。ただ、勘違いして欲しくないんだが、俺には確かに黒電話の、次第に高まってゆくあの音が聞こえるんだ! ジリリーン、ジリリーン、ジリリーンってね! これは表現を志すものにとって重要な教訓を、偉大なる親神様が俺に伝えようとしているんじゃないかと思えてならないんだ。『おい、小鳥。重要なのは他人がどう感じるかじゃない、お前がどう感じるかなんだぞ』ってね。
――最後に、更新を待ちわびるファンの方々へ、一言お願いします。
視界の右半分を覆う羽虫のようなノイズがいっこうに晴れないし、左足の痙攣も止まらない。先月亡くなったはずの祖母が本棚と天井の隙間からずっと俺を監視しているのも気になるが、次回の更新を読めば、衝撃のあまり正気も理性も消え去rrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr
――今日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。
(9月11日、脳内某所にて)
鈴木先生(10)
鈴木先生(10)
“愛のうた”は、「鈴木先生」の第1巻から始まった。はたして、何人がこの10巻までを追い続けているだろうか。現実を題材としながら、もはやファンタジーと称してよい中身にも関わらず、そのボルテージは依然として高まる一方である。そして、読むときに呼吸が止まり時計を見なくなる瞬間が訪れる、すれっからしの享楽乞食にとって数少ない作品の一つだ。さて、同じ学校を舞台にしたファンタジーという意味で、この作品が対比されるべきは、誰も指摘しないのが不思議なくらいだが、諸君がスメリー・マウスで萌え萌え言うところの「けいおん!」である。前者が「言葉が万人に有効である」というファンタジーを忍ばせているのに対し、後者は「女子の青春が男子無しで充足できる」というファンタジーを忍ばせている。違いは、それらのトリックを用いて作り手が描きたいと考える現実の側面なのだが、あえてその解答は諸君へ残しておきたい。ページの半分以上を文字が埋めるこの異様な群像劇を、君も体験してみないか。
マイレージ、マイライフ
マイレージ、マイライフ
いい脚本、いい俳優、いい映画。語りすぎず、じわりと沁みる。なあ、知ってるか。三十代の監督が撮ってんだぜ、これ。孤高を気取るnWoを本当の意味で絶望的な気持ちにさせるのは、こういう作品なんだ。