猫を起こさないように
月: <span>2010年4月</span>
月: 2010年4月

Up


Up


虚構が与える夢やメッセージは、たとえ嘘でもいい、現実のDownに打ち勝たなくちゃダメなんだ。

NWO EXISTS IN DIRECTION Q. (エヌダブユオウはQ方向に居る)

 黒人大統領が火星有人飛行を宣言したことにより「度胸星」がいよいよ現代の預言書であることが明らかとなり、2030年に超立方体の異星人と人類とのファーストコンタクトが確定的になった。その全人類的な高揚を伴なうイベント進行の裏で、nWoが便所か安宿の壁面へ経血でなすられた何かであることもまた、ひっそりと証明されたのだった。秒単位でチェックするメールや掲示板はいっこうにエロ系スパム以外の反応を返さず、しばしモニターの前で呆然となった私は、直接に感想を述べるのをはばかる奥ゆかしい層が、この広大なネットのどこかで春画や議論を交わしているかもしれぬと思い立った。そして現存するすべての検索エンジンを駆使したが、「少女保護特区(7)において一人称を徹底的に排除していることが、(9)における“予”から“私”への自我変容の効果をより劇的にしていますね」など、当たり前に予測されて然るべき論評は一つも見つからなかった。足かけ2年ほど、時々の全身全霊を傾注して行われた更新群が、この現代社会の膨大さの前に何の反応も引き起こさず、実質上、完全に消滅したのである。正に、一度も、どこにも存在することを許されなかった、真の意味での非実在青少年と言えよう。nWoを更新する動機がどこにあるかと問われれば、保存された幼児的全能感による自我肥大に由来するのであり、それは無条件の肯定や承認が無ければたちまちしぼんでしまう類の根拠である。いったん縮小した自我が再び更新可能になるまで回復するには、父母を欠いたネット孤児の私にとって、ただひたすら与えられた屈辱と絶望が忘却の彼方に去るのを待つしかない。更新は間遠になり、酒量が増えるのも道理である。この下りは、目の据わったマッチ売りの少女が酒瓶を傾けるイメージで想像して欲しい。まあ、相も変わらずの愚痴だが、愚痴を書けるほどには自尊心を回復してきたと考えてくれたまえ。ここ数週間というもの、全人類から無視を決め込まれた哀れな少女の精神状態は、それはもう悲惨極まるものだったのだから。

ディアブロ2


ディアブロ2


(籐椅子の老婆が微睡むような声音で)あれから十年以上が過ぎた。住む場所も変わった。つきあう人たちも変わった。いくつものOSが代替わりした。その度にnWoを更新するパソコンは変わった。ただ、うつし世の転変の中でひとつだけ、ずっと変わらないものがある。それは……(修羅の形相に豹変した老婆がモニターに齧りついて)どのパソコンにも、このゲームがインストールされ続けてきたってことだ! (荒々しいクリック音で孫を怯えさせながら)1.13ってもー! リスペックって何よもー! ルーン出まくりって何なのよもー! 時間ないのにもー! Moo!

カポーティ


カポーティ


カポーティとニーチェって、精神の崩壊までいっちゃう決定的な瞬間を体験した点で共通してると思ってんだけど、トラウマから汲むって怖いよなあ。突き詰めすぎても人格を破綻するし、解消しすぎても書けなくなるんだからさあ。正気のまま論理的に壊れていくって、すごいしんどいよなあ。少女保護特区の冒頭でも引用してるけどさあ、おれ、「冷血」に出てくるおばさんの発言が好きでさあ、永遠の話をしてから鼻をかむ話をするくだりって、なんかすごい女そのものっていうかさあ、人生みたいな感じがすんだよね。誰も指摘してくれないから言うけどさあ、少女保護特区も永遠の話をしてから鼻をかむって構成にしてあるんだぜ。あと、まだ「冷血」読んでない人は、この映画を見てからのほうがグッとくると思った。