猫を起こさないように
月: <span>2007年5月</span>
月: 2007年5月

反キリスト


反キリスト


ニーチェの私的ベスト。彼は三次元を憎悪したゆえに大哲学者となり、私は二次元を憎悪したゆえに矮ホームページ制作者となった。

悲しき熱帯


悲しき熱帯


邦題がコピーライティングとして素晴らしすぎる。非論理的で時系列はブッとんでいながら、通底する音階が全体を有機的な固まりとしてまとめ上げるというオバケのような本。

蠢動


蠢動


ずっと書いていて欲しい人ほど、すぐに書くのをやめてしまいますよね。あなたにもいませんか、そんな相手。心当たりがあれば、目に見える形で応援の言葉を送りましょう。

毒になる親


毒になる親


エヴァンゲリオンの物足りなさがどこに起因したのかわかる本。ものすごい駆け足だが、この分野のすべてを俯瞰できる。

嘔吐


嘔吐


実存主義の聖書。「ディレッタント=おたく」のゆるやかな精神的崩壊を追いかける。引きこもりの貴君こそ手に取るべきであろう。

ノーマーク爆牌党


ノーマーク爆牌党


マイナーでビロウな題材を選択するがゆえに、彼の凄絶な才能が日の目を見ることはない。しかし、その題材を選ばずにはいられぬ愛に共感する。

小鳥の唄(18)

 階段状の観客席が六角形に取り囲み、すり鉢状になっている底で全裸の男が少女の遺体に腰掛け、両手に顔をうずめている。
 男、気配を感じて顔を上げると、そこには少女が立っている。彼が腰掛けにしている少女とは似つかぬ容姿なのだが、おそろしく似通った雰囲気を感じさせる。
 男、再び両手で顔をおおう。
 「いつになったらぼくは君たちから解放されるんだろう。いつまで君たちはぼくに執着し続けるんだろう」
 「答えは自明なのに、口にされた言葉を改めて聞かないと納得できないのね」
 少女、老婆のような深く長いため息をつく。
 「ずっとよ。私は、私たちはあなたの無意識から生まれてくるのだから、ずっとよ。あなたが死ぬまで、ずっと」
 男、老人のようなしゃがれた声でつぶやく。
 「それは、それは。本当に、修辞的ですらない、地獄のような恋慕だな」
 少女、口元に冷笑を浮かべる。
 「あなたにしては気の利いた言葉だけど、何かからの引用かしら」
 男、笑顔のように口元を歪めて顔を上げる。
 「ずいぶんと無意味な質問をするもんだ。ぼくたちの言葉はすべて、引用からできている。巨大な歴史が順繰りに言葉をしらみつぶしにしていった結果、ぼくたちの言葉はすべて引用になってしまった。歴史がその処女野を蹂躙しつくした言葉を、ただむなしい引用として、中年夫婦の諦観と希薄さでぼくたちは発話する――」
 男、ゆっくりと立ち上がると通路の奥へと去っていこうとする。
 少女、一瞬、何かの感情をこらえるかのように口を引き結ぶと、それをすべて呑み込んで、大声を出す。
 「ねえ!」
 男、振り返る。その瞳は灰色に彩色されており、虚ろである。
 「なんだい」
 少女、消え入りそうな声で問う。
 「これで、終わりなの?」
 男、悪魔のように哄笑する。
 「ハ、ハ、ハ。これもやはりエヴァンゲリオンからの引用なんだがね……『わかるもんか』」