「いやァ、うれしわァ。私、子どもの頃からずうッとガッデムさんのファンやってん」
「さよか。そら、おおきに」
「主題歌かて、まだそらで歌えますよ。非道ォー、せぇんしィ、ガぁッデムぅ、ガぁッデム、君よォー、パシれー」
「自分、看護士のくせして相部屋で大声だしなや。向かいのベッドのニイちゃん、にらんどるで」
「あの人は誰に対してもあんなふうなんですよォ。ここだけの話、ガッデムさんの前にもふたり、オバアチャンが入っとったんやけど、ふたりともなんや気味悪いゆうて部屋かわってますねん」
「ぶるぶるぶるぶるッ。なら、ワシは三人目かいな」
「まァ、ガッデムさんは戦争にも行ったことあるロボットやし、だいじょうぶかなァ、おもて」
「じぶん、傷くつわ、それ。鋼鉄の中身は繊細なハートでできとんねんで」
「またまたァ。これ、入院のための書類やからサインだけしてもらえますか」
「えらい細かい字やなァ。老眼で読まれへんわ。それにしても向かいのニイちゃん、顔色も目つきもだいぶ悪いで。なんで外科病棟なんかに入院しとるんや。ぱッと見ィ、どっこもイワしてへんけど」
「本人は精神病やゆうて信じてるみたいやけど、先生の見立ては大腸炎ですわ。切るかもしらんからここに入れてるんやて」
「へえ」
「なんでも地元で有名な髪結いのオバアチャンが身内におって、テレビにも出たことあるらしいねんけど、そのオバアチャンがなんかするたび親戚中ふりまわされるねんて。こんどの都知事選にも出馬するゆうて、だいぶ親族会議でもめたらしいわ」
「そら、美談どころの話やあらへんな。しかし自分、ひとの個人情報をあんまベラベラしゃべらんほうがええんとちゃうか。最近どないもこないもうるさいで」
「なに水くさいことゆうてんのん。ガッデムさんはどんな年とっても私のアイドルやさかい、特別やがな。ほら、早うサインしてしもてや」
「君がずっと邪魔しとんのやがな。ハラ撃たれてからこっち、どうにも手に力が入らんのや……ほれみい、せかすから書き損じてしもたやないか」
「歯ァ、食いしばれ。そんな書き損じ修正してやる」
「アラ、この子くちきいたわ。めずらしなァ。やっぱりガッデムさんの人柄ゆうか、人徳やねえ」
「あほ、もうただの中年ロボットや。あちこちボロッとるわ」
「冴えてはるわー、ガッデムさん」
「ニイちゃん、わざわざすまんな……おっと、いま自分、服に白いのついたで。はよとらな」
「わかるまい。戦争を遊びにしている者には、この俺の体を通してでる力が」
「どう見たって修正液やがな。なんや、はやりのプチ右翼かいな」
「ガッデムさん、着替えの装甲もってきましたよ」
「何から何まで迷惑かけるなァ。おっと、このアクセラレーターはもらわれへんゆうたやないか」
「ぼくの気持ちやから。黙って紙袋にしまっといてくださいよ、ガッデムさん」
「あらッ。もしかしてこの人」
「ほれ、サインでけたで。自分おるとややこしいから、仕事もどれや。さっきからナースコール鳴りっぱなしやで。隣のベッドのオッサン、土気色やないか」
「もうッ、女心がわからないんだから。何かあったらぜったい私を指名してや」
「キャバクラちゃうねんど。もう呼ばへんわ」
「あッ、コイツ、ガッデムさんのいとことコンビ組んでたヤツですやん」
「ホンマかいな。そら気づかんかったわ」
「そや、間違いないわ。髪ピンク色に染めたごっついオバハンをヤクザと取り合いして、それから蒸発してしもてたんですわ」
「や、ヤクザやて」
「ガッデムさんをねろうとる組とは関係ありませんよ。すごい黄色のストライプのスーツ着て、ふはははは、ゆうて笑うインテリ風のヤクザやったさかい」
「おどかすなや。あれからワシ、ドアとか開くたびにビクッてなるねん」
「病院の中は安全ですやろ。コイツもホンマはそのクチで逃げこんどるんとちゃいますか」
「自分、その袖口のてんてん、どないしてん」
「これは、あの、なんでもあらしまへんわ」
「ワシを病院にかつぎこむときに付いた血ィやな。ホンマ、自分にはいろいろと悪いことやったわ」
「なにゆうてますのん、ガッデムさんはぼくのために腕もげたことありますやん。こんなん、なんでもあらへん」
「大きな星がついたり消えたりしている」
「うわ、なんやいきなり。あほが、修正液で服の染みが消えるかいな。後ろにも目ェつけとけ、われ」
「男の証明を手に入れたかったんだ」
「意味がわからんで。頭おかしなっとんのか」
「いや、案外見かけより狡猾なヤツかもしれへんで。ヤクザに訴えられたときのこと考えて、今からあほのふりしとんのや」
月: 2007年4月
小鳥猊下・サフォケイション
この記述は本当ならば、4月2日の日記のコメントへのレスポンスとして行われるべきなのだが、「日記を書く」しないと有象無象どもの「マイミクシィ最新日記」とやらに更新が宣言されないため、便器の外側で大便するような抵抗感をおして「日記を書く」することにする。他人を想定しない「日記を書く」が他人を想定するコメント上でのやりとりと”>”の不等号で結ばれる事実は、mixiの抱く潜在的欺瞞を何より証明する。
以下は、4月2日の日記につけられたコメントの一つである。ここへ到るまでの軽妙なトークについては4月2日の日記を参照されたい。
“ところでnWoにおかれましては一部の民より、古くから『無骨なhtmlによる改行も容赦も無い文字の群に圧倒蹂躙される感覚がステキ』と叫ばれておったと記憶しますが、あの横列陣形の侵略感には一行あたりの表示数も大いに関連していたかと存じます。
現状横に縮まり縦に長くお見受けしますので、もそっと横にひろげてガッツリ蹂躙していただけるとアリガタク。”
>所長
横に広げてガッツリ蹂躙したいのは山々だが、あの幅はトップ画像の横幅550ピクセルから逆算したに過ぎないのである。諸君が600~700ピクセルの横幅を持つ画像を送信しさえすれば、一行当たりの表示数はたちまち改善を見るであろう。
小鳥猊下・オベイション
六畳ほどの部屋。正面には窓、右手には安手のスチール製の机、左手には本棚。窓の外には青空。二階の一室か。窓枠を基準にすれば白い雲がじりじりと移動しており、時間が静止していないことを伝える唯一の情報である。長い間。何も起こらない。前衛劇の様相を呈し始める。突然の大音響。ちょうど諸君の右肩を跳び越すようにして、全裸の男の引き締まった尻えくぼが六畳間へ姿を表す。何かを破壊したらしい大音響に伴って白人女性の、決して拒絶ではない「ア~ン」という音声が諸君の左右後方に設置されているらしいスピーカーから流れる。全裸の男、引き締まった尻えくぼの位置はそのままに、上半身だけで諸君を振り返る。
「お家芸の”閉鎖”にすら『成田屋!』等のかけ声を期待できないのだとすれば、おまえたちがそこへ蝟集することは私にとってどんな意味を持つのだろうな。今回の件に対して釈明を求める無言アクセスに回答を与えるとするなら、再放送やDVD販売やリメイクの”リ”の部分を軽視した回数を繰り返して稼ぐ手法が存在するなら、ネットにそれを取り入れて非難される言われはないと考えたからだ。しかし、汗がしたたる人いきれと嘔吐をもよおす臭気に比して、ここは白痴と唖の王国ように静かだな」
全裸の男、引き締まった尻えくぼの窪みをいっそう深くすると、続く一つの大きな跳躍で前方の窓を破り、六畳間から消える。窓ガラスの割れる音に伴って白人女性の、決して拒絶ではない「ア~ン」という音声が諸君の左右後方に設置されているらしいスピーカーから流れる。窓枠を基準にすれば白い雲がじりじりと移動しており、やはり時間は経過しているのがわかる。