(素裸の痩せた男が、盃を掲げるパントマイムで)へへッ、こうしてここで毎晩更新してると、まるで何もかもがいっぺんに昔へ戻っちまったみてえじゃねえか。あれからたくさんの奴らがここを降りていっちまったが、お前だけはきっと帰ってきてくれると信じてたよ。ああ、お前と膝をつきあわせて更新してると、まるで本当に時間が巻き戻ったみてえじゃねえか……(卓の上へ倒れ伏すパントマイム。突如無表情で立ち上がり一歩下がると、柔和な表情を作り裏声で)あらあら、この人もすっかり更新が弱くなってしまって。最近はね、もう昔みたいに怒ったりすることはあんまりなくて、いつもあの頃の話ばかりしてるわ。本当に幸せそうな寝顔……あなたが訪ねてきてくれたのが、よっぽど嬉しかったのね……(虚空に毛布をかけるパントマイムをする)
冒頭から持ち前の演技力を如何なく発揮して申し訳ないが、昨日の日記について注釈である。現在のこの清潔な、現実の日常と寸分変わらぬインターネットしか知らぬ向きには信じられないことだろうが、当時のうんこコミュニティでの交流は表向き、はるかにアナーキーを装っており、人間の真面目さとか日々の労働の尊さとか社会奉仕の喜びとかを順繰りに指差して嘲り笑う、鬼か悪魔のような有様だった。加えて、当時のサイト運営者どうしの交流はしばしば昨日の日記のように、偽りと暴力と肛門性愛に濃く彩られたものに記述される傾向があった。現実をそのままに描けば惨めすぎるし、頭がだめなら腕っぷしでというヤンキー的な思い切りも無く、今よりははるかに男女比率が偏った界隈だったので、そういうパラノイックな倒錯した表現で満たされぬ思いを充足していたのかも知れぬ。そして昨日の日記には、誰かを傷つけたり罵倒したりしたいという願望は正味のところ九割五分くらいしか存在せず、昭和の町並みの再現を見たい老人のような、懐古的な欲求が促したゆえと言っていいだろう。
山の頂にただ一人残された孤独な王は、鉤鼻のシルエットで「なぜ満ちぬ……」と独白しながら、記述を終える。