「(半眼で瞑想するかのように)我々が創造性というとき、それは何か特殊な、人間の本来に付加された才能のことを言うようやけれども、ワシは違うと思う。それは人間が本当に愛情を与えられて育ったような場合手に入れることのできる完全な生――これは心理学者の抱く実現のあり得ない空想やない。現にワシはそれを知っている――に足りない部分を補うために生み出されたぎくしゃくする、いつ停止するかわからない怖れにおびえなければならない、欠損した人格を世界に仮に生かすための、言うなれば人工臓器に過ぎないということや。この不出来な人工臓器は現実の様々の事象――主に愛情やな――を虚構によって作り出す働きをしている。これは特別何かの文学作品などということを意味しているのではないで。現実生活においてもそれは起こり得るし、こうしている今にも起こっているんや。しかしこれは所詮まがいものに過ぎん。どんなに上手に擬態して現実を模倣してみせたところで、ホンモノにはかなわんのや。人生の初源において豊かな打算のない愛情において育った人間は、豊穣な人生という樹木を自由に上り下りし、そこから両手いっぱいにまるまる太った生命と意味性の果実をもぎとることができるやろう。一方でかりそめの人工臓器に動かされる欠損した人格にはそこに近づくことも難しいし、近づいたところで自分でつくりあげた不出来な梯子でその樹木の一番日の当たらない傷ついた固い実をひとつかふたつもぎとるのがせいぜいや。欠損を抱えた人間が完全な生に到達するための絶望的な死力を尽くした努力も、完全な生を持つ人間には決して届くことが無いんや。なぜって、欠損を抱えた人間にとっての一生をかけてたどりつけるかどうかのゴール地点が、完全な生をあらかじめ持っている人間のスタート地点やからや。…エヴァンゲリオンがすばらしかったのはこの行程を作品上に暗喩してみせたところやし、あわや完全な生を持った人間たちの背中をもとらえるかという走りざまを我々に見せてくれたからや。結局それは果たされんかったけどな。最初から完全な生を持つ人間にはこの作品が語る世界への憎悪は全く理解できないし、むしろ悪魔的であるとして忌避すらするやろう。ワシは今日京都でガキどもをじゃれつかせながら漠然とそんなことを考えていた。だからな、のび太。おまえは神風怪盗ジャンヌの創造性の無さを批判したらアカンのや。確かにこの手の作品を有名なものにする一番の要因であるところの決めセリフが圧倒的に他と較べて弱いということは認める。だがな、それをしてこの作品を無慈悲に断罪したらアカンのや」
「…わかったよ、ドラ江さん。ぼくが間違っていたよ」
「ええのや。わかってくれたらええのや」
虚構日記 -時空の探求-
ドンボルカン
「こんにちわ、おばさま」
「あら。誰かと思えば近所のミッション系お嬢様女子中学校に通っている、最近子どもから大人への過渡期の身体に幼艶な魅力を漂わせはじめたお隣の中山久美子ちゃんじゃないの。もう学校は終わったのかしら」
「ええ、今日は土曜日だから。おばさまこそ口元の大きなホクロと開ききって腐汁を垂らす妖花を思わせる厚ぼったい唇にこってりと真っ赤な口紅を塗りつけた姿が丸刈り男子中学生にたいそう劣情をもよおさせ、実際数人くわえこんでもいるとご近所でもっぱら評判の熟女っぷりがオーラとして視認できるほどむんむんで久美子うらやましいです。あたし、将来はおばさまみたいになるんだ」
「うふふ、ありがとう」
「ところでおジイちゃんの(わざわざ”ジイ”と片仮名で表記したことがいったい読者諸賢に何を暗示させるためなのか、当然おわかりですよね?)具合はどうですか」
「最近はちょっといいみたいだったんだけど、流行り風邪にやられちゃってね」
「ごほごほ」
「(縁側から家の中をのぞきこみながら)ほんとだ。おジイちゃん苦しそう。このまま抵抗力の低い老人の身体で回復しないまま衰弱していくのかと思うとおばさまも色々と気が重いですね」
「色々と、ぃろぃろ、ぇろぇろ、えろえろ、エロエロ! ギャ・ギャ・ギャーーン!」
「ああっ。風邪のウイルスにやられてせんずりを終えた直後のチンポのようにしぼしぼだったおジイちゃんのかさかさの乾ききった肌が、初潮を迎えたばかりのロリータの無意識に発するエロ擬音に少し張りと瑞々しさを取り戻したわ」
「あれ、もうこんな時間。今日はパパといっしょにお昼を食べる約束なんです。あんまりうろうろしてると久美子怒られちゃう」
「うろうろ、ぅろぅろ、ぇろぇろ、えろえろ、エロエロ! ギャ・ギャ・ギャーーン!」
「ああっ。風邪のウイルスにやられてせんずりを終えた直後のチンポのようにしぼしぼだったおジイちゃんのかさかさの乾ききった肌が、うぶげのようやく生えはじめたばかりのロリータの無意識に発するエロ擬音にまた少し張りと瑞々しさを取り戻したわ」
「それじゃ、久美子もう帰ろうっと。おジイちゃん、またね」
「帰ろう、かえろう、えろう、えろ、エロ! ギャ・ギャ・ギャーーン!」
「ばりり」
「ああっ。ようやくほころびはじめたつぼみを思わせるロリータの無意識に発するエロ擬音に反応してせんべい布団を突き破り(この突き破られるせんべい布団がいったい婦女のどの部分を暗喩しているのか賢明な読者諸氏にはもうおわかりですよね?)くろぐろと露出し湯気を立てるその先端は、普段そうであるような枯れ木を思わせる弱々しさではなく魔法瓶そこのけの見事な巨根だわ」
「わしじゃい! わしがドンボルカンじゃい!」
「ああっ。港区の一老人というくびきから解き放たれ、地上最強が縁側を踏み抜き一歩毎に足腰の弱いものなら即座にその場にくずおれてしまうような地響きを巻き起こしながら動き出したわ。この私でさえ能動的なアクションを起こす余裕もあらばこそ、かれのそれが一方的に私の女性を蹂躙し通り過ぎるのを待つしかない苛烈さだというのに、性交を知らない女子中学生にとってドンボルカンの相手は荷が勝ちすぎる。久美子ちゃん、逃げて、逃げて~ッ!」
「あっ。おジイちゃん。もうお風邪はいいの?」
「わしじゃい! わしがドンボルカンじゃい!」
「ばりり」
「きゃああ~っ!」
「あの悲鳴は! 久美子ちゃん! 久美子ちゃぁぁぁぁぁん!」
D.J. FOOD(3)
「 Jam, Jam! MX7! 今週もまたD.J. FOODの”KAWL 4 U”の時間がやってきたぜ! それではいつものように始めよう、Uhhhhhhhhhhhh, Check it out!
まァ、今では安孫子素雄がよくゴルフ漫画でやり今もやっているような、ボールが発射される際に高々と鳴り響く『ドピュ』という擬音に電車内でのけぞり、「先に球形のひっかかりのついた棒! 玉! ドピュ! おお、少年誌でなんという犯罪的な! おまえは青少年性犯罪の悪魔的扇動者か!」と叫んで人々の顰蹙を買うこともしばしばの俺の実存だったんだけど、今では充分に枯れた地方局の一D.J.という立場でもって近所の女子小学生にそれの表記されているページを見せながら「でも実際こんな音しないよね」とたずね、彼女らが早く逃れたいものだからしょうがなくうなずくところに「ふぅん。なら桜ちゃんは聞いたことがあるんだね、実際に。今そういう意味のことを言ったよね? ああ?」と畳みかけ合わせた狂信的な目をしつこくそらさずに難詰する、ふつうの成人した職を持たないHPは持っている大人がしばしばやる程度のことをお父様方の日々の晩酌のようにつつましやかにやるだけなんです。そしてあの頃は血気盛んなものでしたから、初登場の頃はただのへたれキャラだったのにストーリーが進むにつれ次第に渋い脇キャラとしての重要性を持ち始め、その自前のサザエさんのような髪型で声が潰れるまで仲間を応援したり、仲間を戦場に送り込むための肉の橋になったり、それらの事実で男色的な意味合いを読者少女層に感じさせて絶大な人気を博したり、そして感動させんがための物語のご都合主義的必然でついうっかり死んでみたり、すぐに復活して読者少女層の支持を失ったり、最後のほうにはやたら影が薄くなってみたり、そんな日々の暮らしでした。AVビデオをこそこそ借りるくらいには姑息でしたし、だからといって性犯罪を犯さない程度には生活に充足していました。そんな青春でした。あの頃の友人は今では総理大臣やってます。わからぬもんですよ。さぁて、いつもの犬のようなおしゃべりはこれくらいにして最初のお便りは…これは書いてないな、住所不明のあしたのジョーウィルくんから! 『ミサイルかっこいいよ、ミサイル! チンポみたいで! ムカついたら全部ブッこわしてくれるしさぁ! ゴジラかっこいいよ、ゴジラ! チンポみたいで! ムカついたら全部ブッこわしてくれるしさぁ! 最近あんた調子のってるよ!』YoYoYoYoYoYoYoYo, Yo Men! や、やんのかコラァ! 次のお便りは仙台にお住まいの北へちゃんからだ! 『最近外につもる私の性的な純潔さをひそかに暗喩するところのまっしろな雪を見てると思うんです。この白を、たとえば泥やそれに類する汚れのたっぷりとついたゴム長靴で(それぞれがいったい本当は何を意味しているのかは言いませんよ)ぐちゃぐちゃになるまで汚すことができたらどんなに胸がすくだろうって思うんです。FOODさん・・・』YoYoYoYoYoYoYoYo, Yo Men! 斉藤くん、宮城行きの新幹線の切符大至急入手して! 最後の一枚は大阪府在住の小鳥くんからだ! 『こんばんは、D.J. FOODさん。何度も迷ったんですけど、重大な告白をするためにペンを取りました。ぼくはじつはオナニーをする際しばしば尿道に異物を挿入し、両手をつかわずに自力でそれをひり出すことで快楽を得るんですが』YoYoYoYoYoYoYoYo,Yo Men! くたばってしまえ!
おっと、もうこんな時間だ! みんなからのお便り待ってるぜ! それじゃ、来週のこの時間まで、C U Next Week!」
少女地獄
「こんにちは」
「ああっ。私の、幻想の、ロリィタァァァ!」
「貴方は小鳥くんのホームページを金も払わず切り取り強盗の図々しさでさんざんっぱらねめまわした後『何なんですか、あのHPは。二度と行きません』という内容のメールをわざわざ送信したわよね。それを知ったときの小鳥くんの、自分の性病を医者に知らされたときのような、悲しげな愁いをふくんだ表情は今でも私の幼い胸を痛ませるの。あのときの小鳥くんの悲しみをすすぐことができるのなら、この世界に存在するその努力は無しにただ愛されたいといやらしく舌を突き出してみせる皮膚病の赤犬のような有象無象ども何人のただ環境破壊に貢献するだけの無駄で無価値な生とひきかえにしてもいいと私はこころから思うの」
「なんて愛らしい。なんてすばらしい石鹸の匂いのするすべすべした肌なのかしら。そして無垢な少女性を存分に引き立てる上等の洋服。私が望んで望んで望み続けて手に入れられなかったものたちよ。両親は子供時代の私の実存に無上の愛撫ではなく殴打でもって応えたわ。もし私があなたのようだったら、私はどんなに愛されたことだろう。ちくしょう、ちくしょう」
「というわけで、お楽しみ中のところ失礼ですけど、これからあなたを殺しちゃいます。えへ。ごめんね」
「ぶすり」
「ぎゃあっ」
「きゃはっ。ゲットぉ。水枕に使う分厚いゴム袋を差し貫くときのようなちょっと抵抗のある感触。長年刃物に親しんできた私だからわかるの。心臓ゲットぉ。死んじゃえ、死んじゃえ~。誰にも見返られることなく、一人太りすぎて自力では動けなくなったトドのように死んじゃえ~」
「ごぼ。私だって、本当は、こんなふうな、誰からもかえりみられない、醜い、私でありたかったわけじゃ、ないのに。私は、いつも、いつも、次の朝目覚めたら、違う私にと、願いつづけて、惨めな一人の眠りを、眠ってきたのに。ごぼ」
「ぶすり」
「ぎゃあっ」
「きゃはっ。ゲットぉ。想像よりはるかに固い薄膜を突き破る抵抗に続いてぷちぷちとひも状の何かをひきちぎる感触。長年刃物に親しんできた私だからわかるの。眼球ゲットぉ。死んじゃえ、死んじゃえ~。巷間にあふれる平等な意味のある生という無数の例証が近代社会を表面上成立させるための幻想に過ぎないことや、容姿などの個体差により生まれながら分けられた人生の明暗の真の不平等さや、自分自身の惨めでこの上なくリアルなスケールを死ぬ瞬間にはじめて実感しながら一人太りすぎて自力では動けなくなったトドのように死んじゃえ~」
「待って、おいていかないで、私のロリィタ、私が本当はそうあらねばならなかった、そうあるべきだった私のすがた…」
「おもしろぉい。あふれる血に残された視界をふさがれ、両手を前向きにさしのべる格好で電柱を抱きかかえるように自分から思いきり激突して重力方向にブッ倒れたわ。歯を剥きだしてシンバルをたたきながら前進する猿の人形みたぁい。きゃっきゃっ。もっともっとぉ」
「ごぼ…やだ…こんな…おとう…さん…」
「こら。探したんだぞ。今までどこ行ってたんだ」
「あっ、パパ。あのね、小鳥くんをいじめる悪いおとなのひとを殺していたの。今日は十五人も刺殺しちゃった」
「そうか。さぞ猊下もお喜びになるだろう。いいことをしたな、江里香」
「えへへ」
「今日の夕食はスパゲティだってママが言ってたぞ」
「やったぁ。あたし、スパゲティだぁい好き!」
ロシアの妖精マリヤ・ポコチンスキー
「飛行機の関係で到着の遅れていたマリヤ・ポコチンスキー嬢がただいま到着なさいました。どうぞ、マリヤさん」
「記者のみなさん、お待たせしちゃってごめんなさい。ただいまご紹介に預かりましたマリヤ・ポコチンスキーです。よろしくお願いします」
「すでにご存じでしょうが、ポコチンスキー嬢は弱冠13歳でシェフチェンコ劇場にてオネーギンのヒロイン役タチヤーナに抜擢された天才バレリーナです。加えて、この春モスクワ大学の博士課程を修了なされた英才でもあります。日本文学を専門に研究しておられ、今回の訪日に際しまして通訳は一切つけておりません。記者のみなさまもご質問は日本語でどうぞとのことです」
「なんや、沢木、ぼ~っとして。ははぁん、さてはおまえあのロシア娘に惚れたな。やめとけやめとけ。三流私大出て、こんなやくたいもない地方新聞の記者やっとるおまえとは人生の格が違いすぎるわ」
「ち、違いますよ、柳谷さん。取材対象としてちょっと興味をそそられただけです」
「若い若い。ええわ、そういうことにしといたろ」
「それでは、みなさまからご質問をお受けしたいと思います。こちらが指名しますので、挙手を願います」
「はいッ!」
「さ、沢木。今日は俺のおともで現場の雰囲気を味わいに来ただけやろうが。はよ手ぇ下げんかい」
「それでは、ええと、浜北新聞社さん?」
「まかせておいて下さいよ、先輩。…ロシアの距離の単位を日本では露里(ろり)と翻訳することもしばしばですが、研究者としてのポコチンスキー嬢はこの事実についてどのようにお考えですか?」
「グロロロロロロロ。くちばしの黄色いのが勢いこんで何を尋ねるかと思えばそんなことか」
「なんだと、無礼な! ううッ、なんだ、この恐ろしいまでのプレッシャーは。ほとんど突風のような妖気が押し寄せて来る・・・うわっ」
「ふふん、若造めが」
「大丈夫か、沢木」
「あいたた…ええ、なんとか」
「命を取られんかっただけでめっけもんや。あれは逢坂新聞の今村征五郎や」
「えっ。あれが今村征五郎ですか」
「この世界で喰うていこ思たらあいつとだけは張り合ったらあかん。22歳で東大法学部を主席卒業した後、各官庁からの誘いをすべて断って逢坂新聞の事件記者になったという経歴だけでもふるってるが、それからのヤツの活躍ぶりはそれに数倍する勢いや。当時ほとんど潰れかけとった逢坂新聞社の売り上げが、ヤツが入社してから一年で数百倍以上に跳ね上がり、いちやく一流新聞社の仲間入りをしたのはあまりにも有名な、ほとんど伝説と化している話やで」
「くそっ。きっとあの3メートルもあるような巨体でライバルを汚いやり方で始末してきたのに決まってるんだ」
「それは違うで、沢木。ヤツの外見にだまされたらあかん。ヤツの一番の武器はその舌鋒の鋭さや。ヤツを前にしたら、どんなに韜晦の強い政治家もタレントも、文字通り丸裸にされてまう。ヤツが記者会見の席で潰してきた哀れな人間たちの数は十や二十じゃとうていきかへんで」
「そ、そんなにすごいやつなんですか」
「ああ。おまえも事件記者を続けたかったあいつには極力関わらんほうがええ…見ろ、今村が質問するで」
「それでは、逢坂新聞さん」
「今村や」「逢坂新聞の今村が質問するで」「鬼の今村が口をあくんや」「みんな、静かにせえ、今村がしゃべりよる」
「しぃん」
「…ときにポコチンスキー嬢は」
「ごくり」
「殿方のポコチンはお好きですかな」
「ざわざわざわざわ」
「(額ににじむ汗をぬぐいながら)どうや、沢木」
「(蒼白な顔面で)おそろしい…悪魔のように完璧な質問です。あの悪魔的な知性に比べたら、かれの外見などとるにたらない小動物みたいな飾りだ。ぼくの質問は、あの寒い国から来たロリータの口からロリという単語を引き出せればと、ただ安直に自分のつまらない知識をひけらかしただけに過ぎない。そうか、そうに決まってる…大衆はあの美しいロシアの妖精が男性のポコチンを好きかどうかをこそ切実に知りたがっているに決まっている。ぼくは今かれが質問して、初めてその隠された、しかし何よりも明らかな事実に気がつくことができました。おそろしい、おそろしい男…今村征五郎」
「あの。あたし」
「ポコチンスキー嬢が今村の質問に答えるぞ」
「ポコチン、嫌いじゃありません」
「おお」
「ポコチン、わりと好きです」
「ああっ。寒い国からやってきた15歳の少女がむくつけき大男から発された質問に先端に球形のひっかかりのついたフロイト的に判断するならばカリ高ポコチンの直喩であるところのふっといマイクをちっちゃなおててでつかんで初冬の雪をおもわせるぬけるような白い肌を薔薇のピンクに紅潮させながらチロチロと愛らしい真っ赤な舌を見せつつたどたどしく回答する様子に記者団は全員前傾姿勢でうずくまってしまいました。怪物今村も例外ではありません」
「カメラ、何してるカメラだ!」
「駄目です、今村さん。みんなテントを張ってしまってそれどころじゃありません」
「くそ、あの様子を写すことができれば部数倍増は間違いないのに!」
「パシャパシャ」
「誰や、あそこでフラッシュをたいとるのは。ここにいる全員が動けへんはずやぞ」
「ああっ。局部をスーツのジッパーからぼろりと露出した沢木記者が望遠レンズを装着したカメラでポコチンスキー嬢を激写しています。それぞれがいったい男性のどの部位とどの行為を暗喩しているのかについてはあえて言及しませんよ」
「チンポがテントを張って動けないなら、チンポを解放してやればいい。単純で明快な理屈さ」
「でかした、沢木。大手柄やで」
「(携帯電話で)あ、俺です。沢木です。今すぐ輪転機を止めて下さい。ええ。今日の夕刊の一面を差し替えるんです。(今村に視線を送りながら)見出しはこうです、『妄想のロリータ、ロシアの妖精はポコチンがお好き』」
「いいんですか、今村さん」
「ふふ、あの若いのなかなかにやりよるで。気に入ったわ。今日のところはゆずるとしようや」
「見てみぃ、沢木、逢坂新聞の連中、ガウォーク状態でご退場やで! ざまぁみさらせ! ひゃっほう!」
「よくやった、マリヤ。あれからCMとグラビアの依頼が殺到しているぞ。これで明日からの公演は大性交、いや、大成功をあらかじめ約束されたようなものだ」
「うん、お父さん。ところでポコチンって何なのかしらね」
「さぁ、クロサワとか、そんな日本の有名人の名前か何かじゃないのか」
「ポコチンっていったい何なのかしらね…」
島本和彦的クライマックス予告・媾合陛下 THE MOVIE
小鳥プロダクション制作
路上に寝転がる黒人の酔っぱらいがまぶしさに目を開く。
「”Wazzat?”(字幕:なんだ?)」
空から無数の光がニューヨーク市街に舞い降りてくる。
媾合陛下 THE MOVIE 予告編【映倫】
”西暦1999年 突如天空より飛来する無数の天使たち”
エンパイヤステートビルの後ろから背中に羽根を生やした光に包まれた巨人が姿をあらわす。
「”Is he an ANGEL?”(字幕:天使さま?)」
両手を組んで見上げる少女。次の瞬間、巨人の羽ばたきが巻き起こす旋風が林立する無数のビルディングを紙細工のようになぎたおす。少女のマフラーが空を舞う。
”媾合陛下衝撃の最終回から八年 小鳥プロダクションが満を持してお送りする今世紀最後の一大官能ロマン”
不気味に夜空を照らすサーチライト群。首相官邸を取り囲む数台の戦車と無数の武装した兵士たち。
監督・脚本 小鳥満太郎
テロップ「首相官邸内」
「君に私のこの十年の恐怖がわかるか? 歴史からすればそれはほんの取るに足らないわずかな時間に過ぎないのかも知れないが…私は怖かった。私はただ、怖かったんだ」
音楽 猪上源五郎
「あなたは政治家として少々ロマンチストに過ぎるようだ。おい」
「はっ」
「な、何をする。君、わかっているのか、これは日本国に対する明らかな反逆だぞ」
「もちろんですよ、総理。ですが反逆する対象である国家そのものが消滅してしまうとしたら、どうします?」
「き、君たちは、まさか。この、この非国民らめ!」
「これはまた時代がかった恫喝ですな」
特技監督 円谷英二郎
「我々は国家に殉ずるのではないッ! 我々は我々の思想に殉ずるのみであるッ!」
「狂っている…あれは人間の言うことをききとげるような、生やさしい存在じゃないんだ」
「知っています。我々が正しいかどうかはすべて後世の人間たちが決めることですよ。おしゃべりな総理大臣殿にはそろそろ歴史の舞台から退場していただくとしましょうか」
鳴り響く銃声。どさりという鈍い音とともに床に広がる赤いシミ。
”彼らがもたらすのは人類への福音か、それとも”
テロップ「米国ホワイトハウス前」
演壇を、しわぶきの音ひとつたてず取り巻く数万の人々。演壇にあがり愛しげに人々を見渡す大統領。
「国民のみなさん、すべては崩壊しました。我々の信じてきた国家という概念も、建国以来我々の誇り高き精神を支えてきた信念も、最後のよりどころである宗教でさえも、あり得る最悪の形で我々を裏切りました。すべては壊れてしまった。もう何の意味も無いかも知れないが、私に言わせて下さい。これは国民のみなさんに選ばれた国をあずかる大統領としてではなく、一人の個人として言わせて下さい。我々はずっと泣き続けてきました。我々の祖先がこの大地を初めて訪れた昔から、我々の幼い乳飲み子に惨めでない居場所を与えてやるためにインディアンたちの頭蓋をふりあげた岩でもって砕き、恐怖をはりつかせた瞳で生暖かにぬめる彼らの脳漿を浴びたその時から、我々はずっと泣き続けてきました。その涙の意味をここに集まったみなさんには知っておいて欲しい。我々は愚かだったが、罪のない人間たちを殺すほど愚かだったが、それでも我々は生きたかった」
みじろぎひとつしない人々。
”滅びゆく営々と築きあげられてきた人類の歴史たち”
「本日ただいまをもって、アメリカ合衆国の解体を宣言します」
まろびでた老婆が演壇にすがるように泣き出す。
”我らの媾合陛下は襲いくる最強の敵に果たして勝利できるのか”
左腕を光線に吹き飛ばされながら、自由の女神を破砕しつつヴァギナで大天使ののどぶえを噛みちぎる媾合陛下。
「おまえの寄越した使徒たちはすべて殺した! さぁ、姿を見せろ、突然降臨し戯れに人類の歴史を幾度も無に帰してきた機械の神デウス・マキーナ、嘲笑する道化の神よ!」
”人類の原罪とは、我々の生命の真の意味とは”
全身から鮮血をしたたらせ、天空に向かって咆哮するその悪魔的な姿。
「私は人間だ! 私は生命だ! 私は…媾合陛下だ!」
”構想五年 総制作費200億 空前のスケールで展開する媾合陛下最後の戦い”
「クオ・ワディス、ドミネ?(主よ、どこへ行かれるのですか?)」
”あなたは最後に何を見るのか”
媾合陛下 THE MOVIE
COMING SOON…
「(激しいノイズの向こうから聞こえるかすかな囁き)…ラ…ラ…ラヴ…」
ハンサムな彼女
「 ゆりあ に ちんぽ が 」
泣いている。どんな物事にも動じない、あの気丈な彼女が泣いている。
彼女の目に溜まった涙がぎりぎりまで張りつめ、クリスタルを思わせる透明な青の球となってその頬を転がり落ちる。
ぼくは彼女をなぐさめる言葉をかけることも忘れて、その様子をまるでスクリーンの向こうにあるすばらしい映像ででもあるかのように眺めながら、ただ馬鹿のように呆然と立ちつくしていた。
ぼくはそのときになって初めて、彼女がどんなにそれというそぶりは見せずに、ぼくというどうしようもない男を守ってくれていたかに気がついたのだった。
ぼくと彼女が初めて会ったのは、その年はじめての雪のちらつく、ある寒い日のことだった。
街灯に灯がともり、周囲のサラリーマンたちは冷気に肩をすぼめながら暖かい家と家族のことを思いつつ足早に通り過ぎていく。それぞれが帰る場所を持ち、その頃のぼくは一人で、そうして彼女と出会った。
人波に逆らうように立ちつくし、舞い降りる雪の来し方を追うように空を見上げる彼女は、女性には珍しいほどのたくましい骨格や太い眉などにもかかわらず、そこにいる誰よりも小さく、誰よりも孤独に見えた。
互いにふと目を合わせたぼくと彼女は、しめしあわせたように同じ方向へ歩きだし、その日のうちにセックスをした。震えながら唇を重ねるぼくに、彼女は少し頬を赤らめながら言った。
「 おまえ の くち は くさすぎる じごく いきだな 」
ぼくは恋に落ちた。まるでその言葉がぼくに魔法をかけたように。
ぼくは彼女に夢中になってしまっていた。口数が少なくて、ほとんど思うところを言わない彼女だけど、ほんのときどきハスキーな声で語られるウィットにぼくはしんそこ魅了された。
ある日ぼくたちは昼食をとるために二人で中華屋に入った。掃除のまったくゆきとどいていない店内を見た瞬間からいやな予感はしていたのだけれど、最悪だった。愛想悪く注文を取りにきた身の丈4メートルはゆうにあろうかという老婆が置いた水のコップには、小さなゴキブリの死骸が沈んでおり、店内に流れるBGMは初代ゲゲゲの鬼太郎のオープニングだった。
席を蹴って立ち去るべきかどうか、うろうろと迷うぼくを目で制してから、彼女はそのコップを取り上げると老婆に向かって突き出しながらこう切り出した。
「 ばばあ のんでみろ 」
ぼくは彼女の生き方の誰にも真似できない軽やかな鮮やかさにぞっこん参ってしまっていた。
でも今になって気づく。ぼくは、彼女を至高の偶像のように崇拝はしたけれど、本当の意味で愛してはいなかったことに。彼女はそのことでどんなにか傷ついていただろう。
いつのまにか泣きやんだ彼女は立ち上がると、ぼくの脇を音もなく通り過ぎていった。背後で玄関の開く音と、閉まる音がした。
不思議と涙は出なかった。ただ、極上の映画を見終わった後のような、物語のほうが自分を取り残して去っていったというような、透明な喪失感が胸にことりと落ちた。
彼女が最後にぼくの耳に残した囁きは、もしかすると彼女のぼくに対する愛情だったのかもしれない。すべては、もうせんのない想像に過ぎないけれども。
耳朶に残る彼女の熱い息の感触。こだまする優しい言葉。
「 すまぬ ゆりあ の ちんぽ を 」
家族ゲーム
「あれは私が14歳になった誕生日のことだったわ、スコール」
「リノア…」
「お誕生日おめでとう、リノア。とってもきれいですよ」
「あっ。熱いコテでもって両端を天に向けて反らしたカイゼル髭の(反らされた髭が暗示するのは男性生殖器だろうって? 馬鹿な!)見るもいやらしい精神の淫猥さを表出する風情が、娘の私にさえ一匹のメスとして本能的な危機感を抱かせるのに充分な、お父さん」
「今何か隠しましたね? お父さんに見せなさい」
「何も隠してなんかないわよ、何も隠してなんか…あっ」
「ばりり」
「なんですか、これは。乳首を起点として中央からせり出しはじめた、我々健康な成人男性にのちの豊満なバストへの連続性をいやがうえにも実感させる卑猥な、男を誘う青いつぼみ。こんな凶器を薄布一枚の下に隠しもっているなんておまえはまだレジスタンス活動をあきらめていないのですね。こんな危険物はお父さんが没収します」
「きゃうっ」
「精神的には表層の拒絶を表すが、それは見せかけにすぎず、肉体的にはこの上なく欲情していることを暗示する年齢制限ゲーム特有の記号を乳首をひっぱられたのに呼応して無意識に発話するような、そんなモラトリアム青年たちにとってたいへん都合のよいはしたない娘に育てた覚えはお父さんありませんよ」
「お父さん、やめて、やめて…ひぐぅ」
「おお、おお、なんとふしだらな。男にとって自分の襲撃を正当化するに都合のよい記号。裸体であるよりも男の劣情をよりそそる薄い布ッきれ一枚で申し訳程度にその最悪の凶器とも言うべきペドチックな身体を隠し、スカートには健康な張りつめたふとももをもっとも効果的にパンチラ的にちらちらと我々を誘うように定期的に見せる劣情発生装置として恐ろしいような深いスリットが入っています。そのスリットの深さは貴女の自前のスリットの深さを明示しているのに違いありません。お、お父さんに比喩的にではなく直接的に見せてみなさい」
「やだ、やだよぅ」
「この期におよんで蹂躙されることをあらかじめ神によって約束されたようなその語尾。この男にとってたいへん都合のよい抵抗の無さをして、なな何がレジスタンスか。早く見せなさい。おまえはお父さんがつくったのだからお父さんにはそれを図書館司書のように検死官のように冷徹な学者の目でもってなめまわすように閲覧する神にあらかじめ与えられた生得的権利があります。スリット、スリットォォォォォォ!」
「ぬるり」
「あっ」「あっ」
「お父さん、リノア、早く降りてこないと誕生日の鶏の丸焼きが冷めちゃうわよ…あっ。(口を押さえて後ずさりながら)ジャ、ジャンクション」
「おかぁさん、おかぁさん」
「こ、これは違うんです母さん。使わないような場合でもちゃんとジャンクションしておかないと相性とレベルがあがらないんです。そう、それだけのことなんです。あなたが今勝手な想像を膨らましているようなことはちっともないんです」
「嘘、嘘! あなたはそんなことを言う裏で毎戦闘で使っているのに違いないわ。その証拠に今のあなたの能力値は私とジャンクションしたときの数値の150パーセントは優に出ているじゃないの。あなたたち二人はそうやって私をたばかって陰で笑っていたんだわ。もう終わり、終わりね、楽しかった家族ごっこももうおしまいね」
「ぱたぱたぱたぱた」
「あっ。ち、ちくしょう。それもこれもジャンクションシステムがややこしいのが悪いんです」
「おかぁさん、おかぁさん」
「こんな最悪のトラウマを持つ私だもの、誰からも愛されなくて当然よね…(鉄柵に顔を押しつけて泣く)」
「リノア…」
このHPというかたち ~一万ヒット御礼小鳥猊下講演禄~
「よく官能小説なんかで男性自身って言葉がありますよね。これは要するにチンポを婉曲的に表現する記号なんですが、じゃあ、雑誌に女性自身ってありますよね。あれはつまり…そうなの?」
「あっ。小鳥猊下が国民の中に潜在的に存在する、女性化粧品の容器はすべて男性器のかたちを模して作られていますといった俗説と同程度の信憑性を持ち景気を悪くさせている疑問をおずおずと発話しながら軽快なフットワークを使いながら御出座なされたぞ」
「ああ、なんてエロティックなダンディズムなのかしら。私の女性自身も大洪水よ!」
「ねえ、そうなの?」
「……なわけで破裂しちゃったんですね。おや。今の爆笑どころなのになぁ。え、何? マイク入ってなかったの? ふぅん。あれっ。今日の責任者は女の子なの。へえ。若いねえ。年いくつ? 18。そうでもないか。男性経験はあるのかな。無い? いまどき珍しい娘さんだね。バイトいけないんじゃないの。ほぉ。母親に死なれて病気の父親がひとり。泣かせるねえ。浪花節だねえ。うんうん、あとはこの猊下君がいいようにしてあげるからさ。それじゃ早速だけど捧げさせちゃって。そう、捧げさせるの。二度言わせないでよ。いくら温厚な僕でもいい加減怒るよ。今の世の中貞操なんて邪魔なだけじゃん。いっそ無くしちゃえばこんな時給800円ほどの割にあわないバイトしなくても、もっと効率よく稼げる手段も生まれてくるじゃん。慈悲だねえ! これはまったく今の世の中に無いくらいの御慈悲ですよ。けけけっ。
「……ええっと、何話してたんだっけか。こういうのって計算のない無意識からの抽出が大事なんだよね。あ~ぁ、さっきまでいい調子だったのにムカつくなぁ。ねえ、きょう上山君来てる? あ、来てる。上山君に栄誉ある貫通式のおつとめを果たさせてあげてよ。そう、アニメプリントシャツの口臭とワキガと吃音のひどい、水平方向と垂直方向に同時にチャレンジされている、僕が自分の優越感を満たすために面接で猫背ぎみにこの世の原罪すべてをしょって立つ様子で入ってきたのを見た瞬間に一発採用したあの上山君にだよ。二度言わせないでよ。いくら温厚なぼくでもいい加減怒るよ、ほんとに。今日初めて出会った彼氏彼女の事情ならぬ情事がいったいどのようなものになるのか興味はつきませんよ。いやぁ、つまらないつまらないと不平を言う行き着いた日本人の毎日、あればあるもんですねえ、こんなイベントは。これだから人生あきらめきれませんよ。あ、ちゃんとビデオまわしといてね。講演終わったあとで見るからさ。あの上山君のことだから目が合った瞬間に射精しちゃうんじゃないの。あんな可愛い子だし、他の童貞バイト少年たちがやっかんで路地裏で死ぬまでボコっちゃうかもね。あ、そこまで追いかけてビデオまわしとくんだよ。エンディングは血塗れの上山君にスタッフロールがかぶさってさぁ。作品だねえ! これはまったく今の世の中に無いくらいの作品ですよ。けけけっ。
「……さてこのHPなんですが、みなさんからよく聞く批判にベタ書きでたいへん読みにくいというのがあります。せっかくそれができる方法が存在するのだから、文字の大きさを変えるだとか、文字の色を変えるだとかして、もっと視覚的に受け取りやすくしてみてはどうかというのが彼らの弁なのですね。しかしそれは違うと思う。それは、例えばここ数年のお笑い番組でよくやるような、笑うポイントをわざわざ視聴者に指示して下さる我々の知性と感性に極めて懐疑的な効果音やらテロップやらとまったく同じことをやっている。元の素材が多少おもしろくなくても、そういった付加的な要素で無理矢理に笑わせてやろうと言うわけですね。それらのやり口に似たテキスト加工行為は、書き手の知性に対しても読み手の知性に対してもこの上ない最大級の侮辱であるとぼくは思うわけです。あなたたちはもっとその侮辱に怒らねばなりません。
「顔面を愛人のホステスとの情事の最中にずたずたに切り裂かれたみじめな男性の死体の映像であっても、股間に”禁”のマークを入れ、二回ほども『ぱお~ん』と象の鳴き声をかぶせれば、それはお笑いになるんです。こんな表層的な幻惑にまどわされてはいけません。あなたたちは発信する側が隠そうとしている本質をこそ見抜かねばいけません。例えば、元のテキストが本当のところ少しも面白くない、といったようなね。まァ、私の場合は常に何の秘し隠しもなくチンポ丸出しアヌスおっぴろげですからみなさんは何の心配もありませんけれどね。あっ。婦女子のみなさんは目のやりどころにお困りになるかな。(会場爆笑)
「あ~ぁ、疲れたよ、ほんと。ねえ、どうだった? ちゃんと貫通した? どう、やっぱりあんな黙示録的な顔面の男に貫かれるのは辛そうだった? あっ、だめ。言わないで。こういうのって日活ロマンポルノとおんなじでちゃんとストーリーを追わないと面白くないからさぁ。ちゃんとビデオ撮れてるだろうね。いいとこで切れてたりしたら温厚なぼくでも怒るよ、ほんとに。ああ~ぁ、アワビ喰いてえなぁ、アワビ。店予約してきてよ。ちゃんとビデオも見れるようにセッティングしといてよね。シャワー浴びたらすぐ行くから。
「……うう、寒い。えっ。なんでぼくがやらなかったのかって? 基本的にぼくってインポだしさぁ、それに18なんてトウが立ちすぎてるじゃない。触るのも汚くていやだなぁ。けがれですよ。ああ、それとさっきのやつ見て良かったら売り出すから。小鳥レーベル第一弾として。会社作っといてよ。これであの娘の家庭も救われるってものさ。現物を見たら病気で弱った親父さん、逝っちまうだろうけどね。二重の意味でね。けけけっ。いやぁ、いいことをしてすがすがしい気分だね。それにしても寒いよなぁ。ハイヤーまだ来ないの。渋滞であと二十分かかる? ふぅん。あれっ。今日はおかしな日だなぁ、また女の子じゃない。若いねえ。年いくつ? 15。ふぅん。捧げて。そう、ぼくに捧げるの。こら、待て。待ちなさい。スリット、スリットォォォォォォ!
委員長金子由香
「どうしたんだい、委員長。急にトイレなんかに呼び出して」
「ねえ、田口君…水は好き?」
「はは、唐突だな。うん、好きだよ。ほら、ぼくって重度の童女趣味だろ。初潮前の少女をこよなく愛する、聖書に記された大罪の八つ目(the sin of lolita complex)の悪魔的な背徳の上にいる何の自己再生産性も無い、一個の動物としてその存在が地球にとって無益であるどころかむしろ有害なこのぼくだけど、水の流れる無垢を象徴する命を刻む音に耳を澄ましていると――その水の量は少女の小水と淫水の量に正比例するのだろうって? 何を破廉恥な!――生活時間を削ってまで誰も見ないHPを毎日更新するぼくという実存の内包する自己矛盾を鼻で笑いとばさずに尊重してくれる、暗喩的なピンク色のフリルの大量についた見かけは大仰だが実はたいそう脱がすことの容易な不可思議を具現したような衣服を身にまとった幼女が、眼前の水面に起こったわずかの波紋からぼくを絶望させる冷徹な物理法則をくつがえして出現してくれないだろうか、そして暗示的に濡れた前髪をぬぐおうともせずに挑戦的な小悪魔的な方法で見上げてぼくを誘惑してくれないだろうか、そして最初はそのような強気な様子だったのが少し冷たくあしらうとたちまち不安な雨の日に捨てられた子犬のようなふうになってしまいぼくの学生服の袖をちっちゃな親指と人差し指でつまみながらぼくにぼくの優越を確信させるやり方で顔面の三分の二もあるような巨大な眼球を明示的に濡らしながら哀願してくれないだろうかと夢想するんだ。何か圧倒的な暴力や社会権力という手段でぼくのアルバイト程度の資本主義社会における立場やこの動乱の世紀末に向けて露助ほども役に立たない繊細な自我を動揺させる恐れのないそんな永遠の弱者である者たちの上にする限りなく自己愛的な童女愛は、執行猶予期間内待機者であるところのぼくの身体と魂をこの上なく慰めてくれると思うんだよ。二重の意味でね」
「田口君…」
「ははっ、こんなことを話したのは委員長が初めてだな。それにしても、ああ、臭い(眉をしかめてハンカチを口に当てる)。ここには不潔な血を流す大人の女の臭いが充満しているよ。ぼくはこの辺で失礼していいかな。うわっ。委員長、何をするんだ。やめろ、早まるな。やめろ、やめろぉぉぉぉぉ…ずぼ」
「ざわざわ」
「なんだなんだ」
「二階女子トイレの和式便座の中から毛むくじゃらの足が二本突き出しているのよ」
「きゃっきゃっ。犬神家の一族みたぁい。もっともっとぉ」
「あっ。あのO脚っぷりは顔面もまぁまぁ踏めるし、運動・勉強ともに中の上ではあるのになぜか婦女子を本能的に遠ざけてしまう雰囲気を終始かもしだしている二年F組の田口淳二君ではないか」
「そうよそうよ。あのO脚っぷりは間違いなく同級生の田口淳二君よ。私が休み時間の雑談で女子生徒がよくやるような男子生徒評の最中になにげなく発した『かれってでも小学生とか好きそうよねえ』という一言が女子グループ内に妙に腑に落ちたといったふうな沈黙を引き起こしてしまい、たいそう気まずい思いをした田口淳二君よ」
「ざわざわ」
「田口君、あなたが悪いのよ。あなたが悪いの…」