前回までのあらすじ:同人誌ゎ売れなかった……こわぃ家人がまってる……でも……もぅっかれちゃった……でも……ぁきらめるのゎょくなぃって……パィソンゎ……ぉもって……ゃかたぶねで……がんばる……でも……原価……われて……ィタィょ……ゴメン……200冊もぁまった……でも……パィソンとサメンゎ……ズッ友だょ……!!
夕闇にリングレイスと映ったものは、ギャザーするロトン・ガールズの見間違いデシタ! ソー・コールド戦利品をロードにブチまけてエンジョイしているところを「通行の邪魔になりますからー」とガードマンに追い払われていマシタ! アヌス・スキピオ・魯鈍・ガールズどもめ、ルック・アット・ザマ、ざまを見ろデス!
アンド、サプラーイズ! バック・ドアー・チケットのプロバイドを渋ったサメンが、ミーにホテル・ルームをプリペアーしていたことをコンフェス、告白してきマシタ!
「ジツハヨウ、オマエノ名前デ、ホテルノ部屋ヲ用意シテルンダ。ヤカタブネノ出航マデマダ時間ガアル。少シソコデ休憩シヨウゼ」
ミーが感激のあまりサメンにハグしようとすると「ヨセヤイ、男ト抱キアウ趣味ハネーゼ。モチロン、払イハ全部オマエダカラヨ」と鼻の頭をかきながら頬を染めて言いマシタ! ホワット・ア・ツンデレ・イラキ・パーソン・ヒー・イズ! そのプリティな仕草にミーはキュン死しそうになりマシタガ、ロトン・ガールズが付近に潜んでいるポシビリティをビッグサイト周辺ではオールウェイズ疑っておく必要がありマス! ミーは努めてビューロクラティックに「サンキュー・フォー・ユア・カインドネス」と述べるにとどめマシタ!
ホテルにアライブ・アットし、サメンと二人でラブラブ・ファッキン・チェッキンを済ませてルーム・ドアーをオープンすると、突如ノーウェア、どこからともなくアピアーした異臭(isyuu)を放つギークスどもが土人誌のイシュー(issue)を抱えて室内に続々と蝟集(isyuu)し、フロアーへダイレクトにシット(shit)しはじめたのデス! こましなスイートだったミーのホテル・ルームは、たちまちガレー船のボトムのようになりマシタ!
驚きと臭気にゴールデンフィッシュの如くマウスをパクパクさせるミーに向かってサメンは、「コイツラハ、今日ノ打チ上ゲノ参加者タチダ。悪イガ、シバラク居サセテヤッテクレ。ソレジャ、俺ハシャワーヲアビテクルゼ」とワン・ウェイに言い残して去っていきマシタ! オフコース、ミーはこのギークスどもとノーバディ面識がありマセン! オーッ、サメンサーン、それジャパニーズ・コメディアンが言うところのムチャ振りネー!
ミーは借りてきたキャットのようにベッドの端にそっと腰掛けると、うつむいたままワンハンドレッド・エイトあるフェイバリット遊戯のうちのひとつ、手の皺カウントを始めマシタ! サドンリー、突然ワンノブゼム、ギークスどものひとりが「あー、あちーな」とアター、発話しマシタ! ボスのフェイス・カラーをうかがうアビリティのみで社内ポリティクスを泳ぎきり、あの壮絶なリストラクチャリング・ウェイブを乗り切ったミーは、そのフォー・レター・ワーズ(イッツ・ホット・イズント・イット?)から、ギークスどもがドリンクを婉曲的に所望しているアトモスフィアーを察知したのデス! ミーはバックヘッド、後頭部へライト・ハンドを当てることで敵意の無さをインディケイトしながら、「オー、それじゃ、ミーがドリンクを買ってくるネー!」とベッグされてもいないのに勢い良くアピールしマシタ! それもこれも、エクストラ土人誌ズをソールド・アウトにリードするためデス! 営業のベースはプライドをダストビンにスロー・アウェイするところから始まると教わりマシタ!
ゼン、そのうちのエクストリーム・ギーク・ルッキングをしたベガー(後にシャアウフプとターンアウトする男デス!)が「なんや、案外ホームページよりは腰が低いやないか」とツイーティングしたのを、ミーはオーバーヒアーしませんデシタ!
段ボール製のつけ鼻を貼りつけたセロテープの下の皮膚にしりしりとしたかゆみが生じる。十数年来の人間関係がすでに出来上がった面々の中にひとり部外者として座っている事実に、喉元へ孤独感が痛いほどこみあげた。続けて、エロ同人を制作しているぐらいの情報しかない連中を一切紹介することなく、いきなりの放置プレイへ至ったことに対して、憤りにも近い感情が芽生えた。先ほどのつぶやきから察するに、このうちの一人はどうやら私の運営しているホームページの正体を知っているようだ。だが、連中全員が私を誰と認識しているのかは、わからない。本当は、話題に入れない気まずさ、嘲りを含んだ値踏みの視線から一時でも逃れるために、私は飲み物を買いに出ることを志願したのだ――
ドント・レット・ミー・ダウン! ノーバディ・エバー・ディスレスペクト・ミー・ライク・ユー、デース! ドント・リック・ミー、ミーをナメんなデース!
ベッドから腰を浮かせたミーは、親指と人差し指をすりあわせるジェスチャーでギークス・アズ・ベガーどもへドリンクを購入するためのマネーを要求しマシタ! バット、連中はミーをイグノア―しながら「おれ、晴海時代からコミケ参加してるからさー」などと内輪のトピックで盛り上がってやがりマス! カインド・オブ・敗北感を味わいながらルームを出ようとすると、アット・ザ・セイム・タイム、ベガーどもは異口異音にそれぞれが所望するドリンクの銘柄をミーに告げマシタ! さっきまではアイコンタクトさえなかった連中がナウ、ミーを見てニヤニヤ笑っていマス! 知ってマス、これ知ってマース! 自分のマネーでドリンクを買いに行かされたあげく、銘柄がひとつでも間違っていたらナックルでボコられるやつデース! スクール・カーストの頂点のオポジットに君臨していたミーには、この手のブリイングの手法はワン・ハンドレッドも承知なのデース! ミーを苛烈な受験ウォーズにウィンさせた膨大な暗記力をナメてもらっては困りマース! オーケー、ミーにまかせておいてヨー!
「ダイエット・コーク、十六茶、午後の紅茶、ミネラル・ウォーター」などと小声で繰り返しながらエレベーターの中を小走りにローリングしていると、後から入ってきた一般ピープルがぶしつけにミーをルック・アットしてきマシタ! 闘拳コミックを愛好していた頃の激しいゲイズでにらみ返すと、たちまち目をそらして見なかったふりデス! ホワット・ア・カワード! ミーの胸中をたちまちプライドが満たしマシタ! スクール・カーストはブリーするサイドとブリーされるサイドに分かれマス! ニーザ―・サイド、そのどちらにも加担しない、ある意味もっともクルーエルなヘラヘラ笑いのトーテム像だっただろう一般ステューデンツに、ミーがキアイで負けるわけがないのデス!
みんなー、お待たセー! ダブル・アーム・スープレックス、両腕いっぱいにドリンクを抱えてリターンすると、ミーはベガーどもに所望のドリンクを手渡していきマス! すると、ブリイング・ギークスどもは互いに顔を見合わせると小さく舌打ちをしマシタ! ミーの買い物がパーフェクトだったことを確認したようデス! ゼン、ギークスのうちの一人がミーに婦女子のイラストが描かれたネーム・カードを差し出しマシタ! オーッ、ジャパンのフェイマス・コマーシャル・トラディションであるところのメイシ・ゴウカンネー! ミーは腰を90度に折り曲げてカンパニー・ネームの入ったメイシを差し出しマシタ! このときミーはアクセプトされる喜びにうちふるえたのデス!
そこへステテコ一丁で首にタオルを巻きつけたサメンが、ソープの香りを発しながらアピアーしマシタ! 「フッ、コノ気ムズカシイ連中ヲハヤクモ手ナヅケチマウトハ……ヤハリ、俺ガ見込ンダトオリノ漢ダッタヨウダナ……」とツイーティングし、先ほどのサメンの行動が一刻も早くスウェットを流したいからではなく、ミーの実力をイグザミンするためにしたことがわかったのデス! ヤッパリネー、サメンのこと信じてたヨー!
「ソウソウ、オマエラニ言イ忘レテイタガ……」
ふいにボイス・トーンをチェンジすると、サメンは人差し指と中指の間に親指をはさみこんだジェスチャーを誇示しながらギークスどもにデクレアー、宣言したのデス!
「今日ハ来ルゼ、ナヲンガ! ソレモ、二人ダ……!!」
とたんにルーム内のギークスたちは色めき立ちマシタ! オブ・ゾウズ・ギークス、中でも晴海からコミケトーに参加しているという古強者ギークがエスペシャリー大きなリアクションを見せたのデス!
「な、何? いまお前はナヲンって言ったのか? そ、それはまさかヲンナ、女のことか? もしかして、本物の女のことを言っているのか? 二次元じゃない方の女のことを言っているのか? 本物の女ってそれ、都市伝説じゃなかったのか? やばいだろー、それ、やばいだろー」
トゥー・ショックト、ベテラン・ギークはよほど衝撃を受けたのか、アフター・ズィス、しばらくの間「やばいだろー」を連呼するだけのステイトに陥ってしまいマシタ! サメンのアクウェインタンスの土人オーサーが売り子ヘルパー(マネーでタイムとボディを提供する売女みたいなものデス!)を帯同してくるとのことデス! 知ってマス、それ知ってマース! プライベートな場からパブリックな場へ売女とやってくるコト、ソー・コールド、同伴出勤ネー! ミーが大きな声で「カッパン・インサツ、ドウハン・シュッキン!」と言うと同時に、サメンのナックルがミーの眉間に火花を散らしマシタ!
コンシャスネスがバックすると、ミーはタクシーのインサイドでドアーにリーン・アゲインストしていマシタ! 同乗者はサメンとオットマンのようデス! サメンがまとうバイオレンスな気配へのフィアーから、ミーはこのヤングマンをカンバセーションの相手に選ぶことにしマシタ! ヘイ、ボーイ、しばらくミーとお話ししようヨー! オットマンはここで初めて、セクスペリアから視線を上げたのデス! ゃだ……このコ……すごぃきれぃな目……してる……!!
クリエイター・フェローズとルームを共有して住んでいるコト(今日はシェアハウス・レートが高いデスネ!)、少年誌の連載をフィニッシュしたが(ソワカ反吐、とかいうタイトルデシタ!)持ち出しばかりでエロ・カートゥン時代のセービングを逆にデクリースさせてしまったコト、トウキョウ・ステーションでクソビッチ(ビチグソの聞き間違いだったかもしれマセン!)のメタル・アクセサリーに商売道具のフィンガーをデストロイされたコト、アンド・ソー・オン、いろいろなトピックをフランクに語ってくれマス! 話しぶりも好印象でセクスペリアを愛撫するだけの感じ悪い青年かと思っていたマイセルフが恥ずかしくなりマシタ! 聞けば今回のコミケトー参加にもサメンが尽力してくれたとのことデス! オットマンがサメンへの感謝を口にし始めると、助手席で黙っていたサメンが口を開きマシタ!
「俺タチハ究極、アウトサイダーナンダ。国ナンザ少シモ頼ミニナラネエ、組織ナンザ元ヨリドウ搾取シヨウカバカリ考エテヤガル。困ッタ時ニハ互イヲ助ケ合ウ、ソレガ俺タチニトッテ唯一守ルベキJINGIナノサ」
ゃだ……すごぃ……ぉとこまぇ……! オットマンがインプレスト、感じいったように深くうなづきマス! メイビー、もしかするとエロ・カートゥン業界の出稼ぎフォリナーにとって、このサメン・アッジーフという男は元締め的な存在なのかもしれマセン! バイ・ザ・ウェイ、ミーは二人のリレーションにア・リトル、すこしセクシャルなものを嗅ぎ取りマシタ! ロトン・ガールズならばウケ・オア・セメという言葉で表現したことデショウ!
タクシーを降りた先のバス乗り場でサドンリー、突然、土人誌の配給が始まりマシタ!
「――体調が悪くて今日来れないから、××さんがみんなによろしくって、これ」
もしかするとトウキョウではサルベーション・アーミーの炊き出しぐらいの、当たり前の光景なのかもしれマセン! ミーはそのアブセント・パーソンにとってパーフェクト・ストレンジャーだったのデスガ、ものほしげな上目遣いフェイスで人差し指の第二関節までをマウスに突っ込んでチュパチュパいわせていると、土人誌をゲットすることができマシタ! イン・アディション、しかもページ数に比してトゥー・エクスペンシブな冊子をフォー・フリーでデース! ワーイ、ヤッター! キョウト・プリフェクチャーならイメディエットリーお縄を頂戴(荒縄で全身をキッコー縛りすることデス!)するような年齢のポルノグラフィが満載ダヨー!
バスを降りるとそこがヤカタブネの乗り場デシタ! 生粋のパリジャンであるミーは、セーヌ・フラーヴをバトービュスでクルーズするのが日常だったのデス! ジャパンのバトービュスはどんな外観をしているのデショウカ? ワクワクしながらバージをルックするとジャパニーズ・ヒラヤ・ハウスを木造のシップにアッドしただけという、ベリーいい加減な乗り物が頼りなげにフロートしていマシタ! オオサカ・キャッスルの上にデビルがまたがっているビジュアルのメイフラワー、豪華客船を想像していたミーはベリー・ディスアポインティッド、たいそうガックリさせられたのデス!
ヤカタブネの中は少しでも平方メートル辺りの利益率を上げたいのデショウ、陸地ならば消防法にタッチ、抵触するほどのデンスリー・ポピュレイティッド、人口過密ぶりデシタ! オーッ、これがかの有名なジャパニーズ・トラディション、スシ詰めネー! ミーとサメンを含めた6人の野郎どもがフェイス・トゥ・フェイスになり、通路を挟んだテーブルに細面の優男とルーモア、うわさの売り子ガールズどもが座りマシタ!
ヘイヘイ、初対面のウタゲ・フェスティバルではテレコに座るのがコモン・センス、常識デショウ! ファースト・ハンド、初手から知り合いだけ固まってどうするんデスカ! セールス・マネジャーのスピリットが一瞬ネックをもたげマシタガ、ミーはここではパーフェクト・ストレンジャーなのデス! コンパニオン的ビヘイビアーとは遠く、ケータイ遊びにアブソーブド・インするフィーメイルたちにはベテラン・ギークもガックリきたようで、あからさまなディスアポイントメントにショルダーズをドロップさせていマス! シンパサイズ・ユー、その気持ち、痛いほどわかるヨー!
それにしても、ブルブル! 夜のリバーからウィンドウを吹き抜けるウインドはサマーだというのに冷たく、スキニーなミーはガタガタとふるえだしマシタ! イッツ・ソー・コールド! ヘイ、クルーのブラザー! こっちにアツカン、ジャパニーズ・サキをアツカンでプリーズ!
「えー、申し訳ありません。本船には缶ビールと缶チューハイしか積んでおりません」
ワ、ワット? 寒風ふきすさぶ中、よく冷えたビアーしか置いていないというのデスカ? 加えて重度のアルコール・アディクションであるミーにとって、ビアーぐらいで酔うことなんてできマセン! ミーのハンドがブルブルとふるえだしたのは、寒さではなく離脱症状によるものデス! 赤ら顔のロシア人なら「シュトービスカザーリ? ビールはアルコールじゃないだろ? コストコでも清涼飲料水のコーナーで売ってるぜ? コストコはロシア資本だろ? なんたって値札がぜんぶロシア語で書いてあるからな! ハラショー、サンボ!」と答えて四十過ぎで死ぬところデス!
オーケー、アルコールの種類が少ないことにはクローズ・マイ・アイズ、目をつぶりマショウ! こと酒類のフィールドでジャパンは二等国なのデスカラ! ハウエバー、食材への深い造詣とUMAMIに精通した日本食は、舌の肥えた欧米の食通をもうならせると聞きマス! アンド、生ガキとフォワグラ・ソバージュを常食としてたミーの舌は、生半可の食通に劣らないと自負していマス!
バット、出てきたディッシュはミーの想像をはるかに越えていマシタ! それはボールいっぱいのゲロ状のゲル、あるいはゲル状のゲロだったのデス! ヒロシマ焼きだかドテ焼きだか言うそうデスガ、なんでトウキョウくんだりまで来てヒロシマの名物を食わなあかんネン! オフコース・ユー・ドゥー、利益率を高めるためデース! シップに食わせるギャスが値上がりし続ける中、客に食わせるミールの単価をボールいっぱいのゲロで抑えるのは理の必然デス! ホワット・アン・エコノミック・アニマル・ゼイ・アー! 慄然たるエコノミック・アニマルどもデス!
オールライト、オールライト! アルコールや食事のクオリティはこのウタゲ・フェスティバルには全く関係ありまセン! 今日はタレントあふれる土人オーサーたちとのカンバセーションのクオリティを楽しむために、ミーは来たのデスカラ!
はしけを離れてからほどなくして、テーブルを満たすのは土手焼きの具材がジリジリと鉄板の上に焦げる音だけになった。携帯電話の画面を見つめ続ける者、腕組みをして虚空を眺める者、手持ちぶさたに具材をコテでつつき回す者――私は気まずさに耐えられなくなって、早くも3本目の缶ビールを注文した。背後では浴衣を着た若い女子が嬌声をあげている。合コンだろうか、実に楽しそうだ。ひるがえって、誰も話題を振りさえしないこの会合は何なのか。宴席の幹事としての活躍だけで社内の地位を固めた身にとって、実に気をもむ状況だ。まさか、ゲスト未満の部外者が場を仕切るわけにもいくまい。鉄板のジリジリいう音が内心の焦燥の擬音化のように聞こえ始めたそのとき――
「マア、ネットジャ良ク話ヲスル面々ダガヨ、コウヤッテリアルデ会ウノハ初メテッテ連中モイルダロウ。コイツガ焼ケチマウマデ、マダ時間モアルコトダ。ドウダイ、堅ッ苦シイノハ申シ訳ネエガ、ヒトツ自己紹介ッテノハ」
サメン・アッジーフ! アウア・セイビアーはやはりこの男デシタ! 気まずさをリムーブすると同時に、アウトサイダーであるミーが発言するのに自然なシチュエーションを作ってくれたのデス! ハーイ、ハイ、ハーイ! ミーはエナジェティックにハンズ・アップしマシタ! ミーが最初にセルフ・イントロデュースするネー! ミーはナラ・プリフェクチャーから来たパイソン・ゲイだヨー! ニュー・ワールド・オーダー・フォー・グッド・メンっていうテキストサイトを十年ほど前から運営してるんだケド、みんな知ってるかナー?
「知ってる」
女のうちのひとりがケータイの画面から目を離さないままボソッと、吐き捨てるように私の言葉へかぶせてくるのが耳に入り、無理にも奮い立たせていた感情は一気に冷えた。 アタシたちは優男のファンなんだから、おまえの暑苦しい自己紹介なんざどうでもいいんだよ。そう言っているように聞こえた。この女は、私がこの瞬間に川へ飛びこんだとしても、携帯の画面から顔さえ上げないだろうと確信できた。女を連れてきた色白の優男は涼しげな微笑を浮かべたまま、ツレの無礼をたしなめることも、私の方へ視線をやることもしなかった。愛情の反対は憎悪ではなく無関心――マザー・テレサの有名な言葉がふと浮かんだ。
ほとんど泣きそうになりながら、しどろもどろで尻すぼみの自己紹介を終える。伏せた顔から涙がこぼれ、鉄板の上でジュッと音を立てた。
ウオァァァァッ! これ、テキストサイトのオフレポやねんで! 現実に負けてどうすんのや! もっとウソ・エイト・ハンドレッドで、狂い踊らなアカンがな!
ライク・ア・ローリング・ストーン、さすがコミケトーで一枚看板を張る烈士たちの集まり、ただのセルフ・イントロデュースにさえ緊張で思わずハンド・スウェットを握りマス! この後の人物紹介は、グラップラー刃牙最強トーナメントのイットを思い出してもらえば、ピッタリのシチュエーションをインサイド・ブレインに再現できると思いマス!
ミーの隣に座るのはセクスペリアのオットマン、その隣りがイラク人のサメン・アッジーフ、この二人についてはもうエクスプラネーションは不要デショウ!
ミーのトイメンにいる「俺って典型的な酒の飲めない日本人だな」という風貌をした、このソース&オイリーなメンツの中でオールモスト・ゲット・ロストしている青年は、コウヤヒジリだかシモツキ(ミーはウエツキの方が好みですケドネ!lol)だかいうペンネームでイラストを描いたり、アニメの絵を動かす(大道芸の類デショウカ? よくわかりマセン!)ことをプロフェッションにしているそうデス! ホワット? ゲンガー? ポキモンの一種デショウカ? ウェル、どんなアニメの絵を動かして(?)いるんデスカー?
「あの、有名なとこでいうと電脳コイルとか」
とたん、エブリバディがどよめくのがわかりマシタ! どうやらビッグ・ネームのようデス! だとすればジャパンのギーク・カルチャーに造詣のディープなミーが知らないはずはありマセン! ウォーッ、思い出せ、思い出すのデース! 思い出しマシタ、ライトナウ、ソレ思い出しマシタ! ミーはうれしくなって叫びマス!
「ワーオ、裸神活殺拳ネ! 脱げば脱ぐほど強くなるネー!」
アイ・ドン・ノウ・ワイ、なぜかエブリバディのリアクションは悪かったデスガ、それはきっとミーがジャパニーズ・エモーションの起伏を読み取れなかっただけのことデショウ!
シモツキの隣にいるのがハルミ・エラからコミケトーでブイブイゆわせていたという古参ギークデス! ホワッツ・ユア・ネイム? アー、どうもイングリッシュ・ワードのようですがヒアリングできマセン! ジャパニーズのプロナウンスは平板すぎマス! 何度か聞きかえして、この古強者のペンネームがシャアウフプであることがわかりマシタ! シュアリー、ハンターハンターのトガシ先生をリスペクトしているに違いアリマセン! 「手淫すげえよ!」(これも元はイングリッシュ・ワードのようデス!)みたいなタイトルのゲームでアクセサリーとかのデザインをしていたそうデス! スリー・ディメンションへの絶望のせいかメディケーションのせいか、なかなかテンションが上がりマセン! ホテルではミーへのブリイングの火種となった人物デシタガ、このウタゲ・フェスティバルで小学生が大好きと知りマシタ! ミーがビリーブするセイイングは「子ども好きに悪人はいない」デース! 見直したヨー! オウ、これがシャアウフプの作成した土人誌デスカ? レット・ミー・ハブ・ア・ルック! ガッ、マイガッ! ユー・アー・アンダー・アレスト! ゴー・トゥー・ジェイル、ユー・ブラッディ・アス・ホール!
ソリー、思わず取り乱してしまいマシタ、スイマセン! クリミナルの隣には、「ナントカ村」という名字の人がよくやる、カタカナのムを突き出た鼻、ラを開いた口に見立てた自画像のようなフェイスのパーソンが座っていマス! トゥ・テル・ザ・トゥルース、実のところこの人物に関してわかっていることはあまり多くありマセン! ジェネラリー・スピーキング、一般的に言って俯角に設定されることの多いウェブカメラを仰角に設置しているということだけデス! なぜ俯角ではなく仰角なのデショウカ……オオップス、コレ以上は勘弁してくだサイ! ア・フュー・モア・ワーズ、アイ・ウィル・ビー・キルド! ペンネームを聞きそびれたので個人的にホニャ村と呼ぶことにしマス! どうやらホニャ村はマス・オーヤリなる人物をレスペクトしているようデシタ! フー・イズ・ヒー? キョクシン・カラテのファウンダー、創始者のことデショウカ? ミーがザ・疑問を口にすると「マア、オマエハ、飲ンデロヨ」とサメンがミーに新しい缶ビールをプッシュしてきマシタ! 「違うんデスカ? ビッグ・ファック先生じゃないんデスカ?」と重ねてアスクするとホニャ村の表情マッスルがひきつり、サメンはシリアス・フェイスで「バカ、ヤメロ」とミーをたしなめたのデス! 実在の人物かどうかさえわかりませんデシタガ、マス・オーヤリの話はどうもこの席ではビッグ・タブーのようデシタ! フォックスにつままれるとは正にこのことデス! エロ・カートゥン業界ではヤスタカ・ツツイの小説に登場するフーマンチュウ博士みたいな位置づけのパーソンなのかもしれマセン!
アンド、通路をアクロスしたテーブルでハーレムを形成しているのはファインド・ウォーリーかカズオ・ウメズのようなストライプト・奇抜・ファッションをした優男デース! ヘイ、レット・ミー・リマインド・オブ・ユア・ネイム! ボーボボボ・ボボーボボボ? 何回聞いても、ボの回数がわかりマセーン! 少年ジャンプ愛読者からキヨシ・ヤマシタをレスペクトしている可能性までありマース! ジャパンのカルチャーは多様すぎるネー! ミーは個人的にズィス・ガイをウォーリーと呼ぶことにしマシタ! オウ、これがウォーリーの作成した土人誌デスカ? レット・ミー・ハブ・ア・ルック! ガッ、マイガッ! ファティ・メルティ・ウェイスト・ウィズ・ボミッティング・ストレンジ・ヒュージ・ティッツ! 人を見た目でジャッジしてはいけないとよくマムはミーに言いマシタガ、このときほどマムの言葉が実感を伴ったことはありマセン!
ザッツ・イット、これだけの多士済々なのデスカラ、ドッカンドッカンおもしろトークが次から次へエクスプロードしそうデス! これぞトウキョウまで出張してきたかいがあるというモノ、エクストリームリー楽しみデース!
鉄板の周囲には幾たびかの沈黙が降りている。ホニャ村がスッと挙手する。皆の視線が集まる。「今まで隠していたことがあります。私、サメンさんと同じ雑誌で描いていたことがあります」と発言する。誰も拾えないボールだった。話を振られた当の本人も「アア、ソウナノ?」と困惑気味の応対で話題の種火はたちまち消滅した。船上ではトイレを理由に中座して、そのままフケることもできない。窓から川に飛び込むことを本気で思案し始めたとき――
「アア、コノ土手ハ素晴ラシイモリマンダネー、恥丘ノ神秘ヲ表シテイルンダネー」
パーハプス、もしかしてレオ・モリモトが乗船しているのデスカ? ノー・ヒー・ダズント、やはりこれもサメン・アッジーフの仕業だったのデス! 土手の外壁をコテで成形しながら、サメンはさらに続けマス!
「柔ラカナ土手ノ内側ニ満タサレテイルノハ愛ノジュースナンダネー。緑ノ滓ヲ浮キ沈ミサセナガラ白ク泡ダッテ、ホラ、今ニモコボレソウダネー。剥キ海老ノ白サハ、ソウ、包皮ヲ剥イタアノ甘イ豆ノヨウダネー」
サハラの熱い風を意味する族長名・アッジーフを冠したサメンの語りは、冷え切ったプレイスをたちまちウォームしていきマス! ホワット・ア・シェイム! ミーはアウェイを理由に保身に満ちたサイレンスのインサイドで自己憐憫にひたっていたことを恥ずかしく思いマシタ! ポジションなんて関係ありマセン! ワン・ミーティング・ア・ライフ、一度の出会いがハウ・レアかを思い、そのミーティングに全力をかけられるかがインポータントなのデス! ミーはマイセルフをおおっていたエッグシェルがクラックするサウンドを確かに聞きマシタ! サンキュー、サメン! 今こそプライドのセルからレスキューしてくれたユーへのJINGIを、ミーが果たすときデス!
「ヘーイ、みんな知ってマスカー? ナラの仏像さんはめっちゃエロいのネー! それを証拠に頭はケマン、喘ぎはアハン、左手はテマン、居るのはネハン、股間はたちまち濡れそぼり、ニルヌルニルヌル、ニルヴァーナ!」
ミーは大ハッスルでサメンの暖めたステージにとびこみマシタ! ホワット・ア・ミステリー! なんということデショウ! 場の空気が急激にクール・ダウンしていくのを感じマス! オットマンだけがミーの隣で、「サメンさんとパイソンさんのやりとり、すごい面白いです」と両手をクラップして大喜びデシタ! ジャパンの若者の中央値としては考えにくい青年のチアフルネスにエンカレッジされ、ミーは最後のデンジャーなギャンブルにうって出マシタ!
「ダイインシン、チュウインシン、ショウインシーン! チュウナゴンはいるのに、なぜチュウインシンだけありマセンカー? チュウのインシン王にカツレイされたからデスカー? カツカレーイ!」
絶叫が虚空に消えると、テーブルにはしんとした静寂が残された。そして、いつの間にか背後の席からは一切の声が聞こえなくなっていた。はしけに船体が当たり、船全体が少し揺れた。日本人の顔になったサメンが伝票を取り上げながら、「えー、三千円通しでお願いします。端数はいいっすよ」と言った。三々五々、船を降りてゆき、私はテーブルにひとり残された。
「あーっ、だれか携帯電話忘れてるよー」
黄色い声にふりかえると、私のアイフォンを浴衣姿の可愛らしいお嬢さんがひろいあげるところだった。
「あ、それ、ぼくのです」
言うや否やあからさまに怯えた表情になり、汚いものにでも触ったかのように私にアイフォンを投げよこした。グループの他の女子が集まってきて「だいじょうぶー?」「なにもされてないー?」と口々に声をかける。私は黙って船を降りた。
帰りのバスは混み合っていたが、私の隣には誰も座らなかった。頭の芯まで恐ろしいほどにシラフで覚醒しきっていたが、酔ったフリで目を閉じた。
またやってしまった。ふだん社会性でがんじがらめにさせられている誰かにとって、酒の席は反社会的な部分を少し解放してやることで、共感を得られる場になる。勝手な推測に過ぎないが、たぶん今日の酒席はその逆だったのだ。私は貯蓄とか、住宅ローンとか、フィットネスとかの話をするべきだったのだ。
しかし、すべてはもう遅かった。宴席で関係を築き、大量に余った在庫を押し付けよう、あわよくば彼らの知り合いに同人誌を紹介してもらおうという甘い見通しは、粉々に砕け散ったのだ。
ホテルのロビーに戻ると、なぜかホニャ村が話しかけてきた。自分は三十歳を過ぎてから絵を描き始めてここまできた、頑張れば遅すぎるということはない、などとアドバイスを受けた。サメンの弟子か何かと勘違いし、たぶん、私を励まそうとしたのだろう。先ほどの宴席で自ら話題をふったことといい、実はかなりいいヤツなのかもしれない。しかし、私の望みはイラストのスキルを向上させることではない。己のテキストをより広範な形で世に問いたいという一点なのだ。ホニャ村の励ましに心温まるものを感じながらも、このディスコミュニケーションこそが今回のすべてを象徴しているな、と思った。
互いに名残を惜しむサメンとその同人仲間たちを尻目に、私は黙って自室へと引き返した。いろいろな意味で、終わったな、と感じながら。一刻も早くひとりになりたかった。
灯りもつけず、服も着替えないままベッドに倒れこむ。空調か何かのぶーんという音が部屋の中に充満していた。何も考えずただ頭を空っぽにしていたかった私は、そのぶーんという音に意識を同調させていった。最後まで読み通すと発狂するというあの小説のことが、ふと頭に浮かんだ。
どのくらいそうしていただろうか。ふいに部屋のドアがノックされる。ルームサービスは頼んでいない。しばらくすると、再びノック。ノロノロと立ち上がり、覗き穴も見ずに部屋のドアを開ける。そこにははたして――
「アンナンジャ、オマエハ飲ミ足リネエダロ? サシデ飲ミ直シトイコウヤ」
なんとノックの主はサメンだったのデス! ホワイト・ワインのビンをかかげながら、ルームに入ってきマス! ミーは人差し指でノーズの下をこする仕草で涙を隠しながら「も、もちろんネー!」とアンサーしマシタ! そしてミーとサメンのセカンド・ウタゲ・フェスティバルが始まったのデス!
ムーディな間接照明の下に洗面所のグラスでイーチ・アザー、差しつ差されつを繰り返していると、ジャパンにエロ・カートゥン・オーサーとして生きるアフガニスタン人の苦しみを、サメンはポツリポツリと吐露し始めマス! 浅黒いフェイス・カラーに濃いヒゲで、酔っているのかどうかはわからなかったデスガ、ホワット・イズ・コールド、ガイジンとしてのシンパシーが互いを満たしていることだけは確信できたのデシタ!
今日一日のエブリシングはオールライト、ウォーターに流そう、そう考えているところへサメンが言ったのデス!
「マァ、ホレ、今回ハサ、オマエニ気ヲツカイスギチマッタトコロガアルカラヨ」
ノーズの頭をかきながら照れくさそうにサメンは言いマシタ! ホワット・ディド・ユー・セイ? 気をつかう? ユーズ・気・オーラ? ライク・太極拳? ミーのヘッドにはクエスチョン・マークが乱舞していマシタ! サメンの様子をうかがうと、どうやら日本語ディクショナリーのデフィニション通りの意味で言ったようデス! ミーのブレイン・バック、脳裏には今日一日のベアリアスなシーンがクロッシング、よぎりマシタ! 罵倒、殴打、ネグレクト――どれひとつとしてミーの中では気をつかうの定義に当てはまりマセン! プロバブリー、おそらくバズーカをミーの顔面にブチかまさなかったり、ロケットランチャーをミーのアス・ホールにブチかまさなかったり、売り子をヘルプしているミーのスロートを背後からサバイバルナイフで掻き切らなかったことを指しているのデショウ! おそろしいまでの彼我の認識の差異、カルチャー・ギャップに、ミーは世界から戦争が無くならないリーズンの深淵をのぞきこんだ気がしたのデシタ! サメンはそんなミーの動揺にも気づかず、コミック・オーサーとは思えぬほどゴツゴツしたナックルをミーの眼前へヌッと突き出して、「モシ次ガアッタラ、今度ハ手加減無シダゼ?」と言ったのデス!
シュアリー、間違いなくサメンの本気とはSATUGAIした後、生命を失ったボディを前に、死体こそアイドルであり偶像崇拝のタブーに値すると絶叫しながら、エー・ケー・ビー・フォーティ・エイトならぬエー・ケー・フォーティ・セブンで原型を留めぬほどミンチにするようなタイプのものに違いありマセン! 犬歯を剥き出しにしたその笑顔は、クルセイダーを血塗れの偃月刀で殺害しながら性的絶頂に達する獣たちの末裔、正に快楽天ビーストの凄惨さをエクスプレスしており、ミーのキドニー、腎臓はシティング・ピー、座り小便を危うくマイセルフにアラウしてしまうところデシタ! でも……ミーとサメンゎ……ヌッ友だょ……!!
「オット、モウコンナ時間ジャネエカ。俺ハ、一足先ニ寝カセテモラウゼ」
ミーのレスポンスを待つワン・モーメントの隙間も無く、サメンは大あくびをしながら大股にルームを出ていきマシタ! クロックを見ればまだ0時を回ったところデス! 昼夜のリバースしたコミック・オーサーをノーマルなものとして想定していたミーにとって、そのヘルシーすぎるライフ・スタイルはデルビッシュ有な風貌を裏切っているように思えマシタ! マーダラーのイノセンスという言葉をミーはなぜか思い出したのデス!
ボトルに半分以上残ったホワイト・ワインをMOTTAINAIのスピリットでラッパ・ドリンクしたライト・アフター、ミーの意識はバニッシュしマシタ! 体感にしてフュー・セカンズ、数秒したぐらいでルームのテレフォンがけたたましい音をたてたのデス!
「オウ、ナンダ。マダ寝テタノカ。アンマリ遅エカラ、ビッグサイトノ回リヲ5周ホド走ッテキチマッタゼ」
なんというビガー、精力デショウ! ミーはこれを聞いて、サメンの創作パワーのソース、源泉をディスカバーする思いがしたのデス! このミドル・イーストからの出稼ぎコミック・オーサーはネバー、決して夢見がちなチェリー・ボーイどもの妄想をフルフィルするためにエロ・カートゥンを描いているのではありマセン! ローカル・タウンをジョギングし、バイスィクルで数十キロを走破し、リアル・ワイフにカムショットし、ベッド・メイトにカムショットし、フッカーにカムショットし、まだカムショットし足りない分でペイメントの発じるマガズィーンのマヌスクリプトを描き、それでも余っているビガーを発散するために土人誌にエロ・カートゥンを描いているのデス! これぐらいのパワーを持ったパーソナリティで無ければペンニス1本(訳注:当該部分が何かで汚れており、penかpenisか判読不能なため、このように表記した)でチンチン代謝(訳注:原文はshinchinの表記。タイプミスか)の早いエロ業界でサバイブしていくことなどインポッシブルなのデス!
階下のダイナーでブレックファストを共にした後、サメンがミーをアキハバラまで送ってくれることになりマシタ! オーッ、知ってマース、ソコ知ってマース! アニマ・ムンディがアポカリプティックにサクガ・ホウカイしたところデスネー! サメンはミーのワーズを完全にイグノア―すると、荒々しくアクセルをフロアーまで踏みこんでホテルのパーキングをリーブしたのデス!
オーッ、レインボー・ブリッジ、レインボー・ブリッジデース! ホワイ・ノット、今日はなぜか封鎖されていまセーン! ウィンドウにフェイスを押しつけてチャイルドのようにユージ・オダを探すミーをサメンがネグレクトし続ける最中、事件はカンファレンス・ルームではない場所で起こりマシタ! 大型のゴミ収集車がスピルバーグ監督の「激突!」を思わせる動きでヌッと車線変更してきたのデス! サメン・アッジーフは今こそ中東でテラーを行使してきた凶悪なネイチャーをエクスプロードさせ、「アオッテンジャネエ! コノEdda避妊ドモガ!」と大声でイェルしながらナックルでクラクションをガンガン殴りましたマシタ! ミーゎしょうじきびびった……でも……こわがるのょくなぃって……ミーゎ……ぉもって……がんばった……ミーとサメンゎ……ヌッ友だょ……!!
ウェル、ところで、エッダ? エンシェント・ノルドのポエムのことデショウカ? Edda避妊というシャウトはどうもフォー・レター・ワーズ、ののしり言葉のようデシタが、アンダーグラウンド・カルチャーにうといミーにはその意味がよくわかりませんデシタ! フィアーに満たされながら横目で隣を見ると、サメンは目を真っ赤にしてさめざめ(lol)と泣いていマス!
「アイツラ、午前中ダケ三時間ホドゴミヲ集メテ、午後ハ飲ンダクレテル。ソレナノニ、オレノ倍以上ハ金ヲモラッテルンダ。コナイダ役所ニ行ッテアノ仕事ヲ回シテ欲シイッテ言ッタラ、『申シ訳アリマセンガ、アレハ生マレツキノ権利ナノデ……トコロデ、外国人登録証明書ヲゴ提示イタダケマスカ?』、ダトサ! 知ッテタカ? インディア並ミノカースト制度ガ、コノ日本ニハ実在シテルンダヨ! アンナヤツラガイル一方デ、オレハ一日十六時間エロマンガヲ描イテ、国ニ残シテキタボウズトカカアヲ養ッテルンダ! ナア、ヒドイ話ダト思ワネエカ! コレジャ、現地妻ヲ作ルヒマモネエ! 現地妻ヲ作ルヒマサエネエンダヨ……!!」
サメンはハンドルへ身をあずけるようにして、いまや滂沱と涙を流していた。段ボール製のつけ鼻を貼りつけるセロテープの下の皮膚にしりしりとしたかゆみが生じる。俺たちは現実から逃げ出して、二次元の安らぎにやってきた。だが、俺はその場所からも逃げた。結局また現実へと戻ってきて、もうどこへも逃げられない中で、日々の鬱屈をなんとか無知と酒でしのいでいる。
だが、この男は違う。俺は二度も逃げたが、この男は一度しか逃げなかった。そして己の居場所を維持するために、未だに最前線で戦い続けている。私は鼻につけた段ボールに手をかけると、一息に引き剥がした。何がパイソン・ゲイだ。おまえはいい年をした、何者にもなれなかった凡人じゃないか。本当に好きなものなんて何ひとつない、日々を空費するだけの凡人じゃないか。
古書のまちをぬけると、大きなビルの林立する電気街に到着した。降りるときに、ふたりで握手を交わした。励ましでもなく、友情でもなく、約束でもない、そんな握手だった。車が走り去るのを見送ると、近くのゴミ箱に握っていた段ボール片を放りこんだ。
もはや早朝とは呼べない時間なのに、店のシャッターの多くは下りたままだった。街全体がまだ、昨日の夢をまどろんでいるように見えた。
さあ、これからどうしようか。ゲーセンで時間でもつぶしてから、同人ショップにでも寄ってみようか。メイド喫茶に入ってみてもいいし、たしかAKB劇場もこのあたりにあったはずだ――
だが、私はそのどれに対しても心が平たく閉じているのを感じた。
まっすぐ駅にむかい、東京までの切符を買う。改札の前でふりかえり、秋葉原の街にむかって深々と頭を下げた。それはおたくを象徴する場所への、この十余年の謝罪をこめた一礼だった。
ぼくはずっと、君たちおたくがうらやましかった。ぼくはずっと、おたくになりたかった。ぼくにとってのおたくは、身を包むブランドのようなものにすぎない。他人に自分をどう見せたいかの飾りで、なくして困るようなものでは全然なかった。
もう一度言う。ぼくは、おたくになりたかった。骨がらみの、それを引き剥がせば失血して死んでしまうような、ひどいおたくになりたかった。いまや現実のぼくは、君たちを断罪し、粛清する側に立ってさえいる。君たちをとりまく人々のいちばん外側から、石を投げるふりさえしている。
どうか、こんなぼくをゆるしてくれ。ぼくはずっと、君たちみたいに純粋に生きたかった。ぼくは、本当は、おたくになりたかったんだ。
よい大人のnWo 第一部完
戦場のピアニスト
もし我々がシュピルマンと同じ立場に置かれたら、何を感じるだろうか。きっと死ではなく、生を感じるだろう。それこそが、私と君の抱える病理の正体だ。半年毎に更新される新作アニメに狂騒し続けながら、電子データの少女画像売買に一喜一憂し続けながら、それらが決定的に終わる瞬間をどこかで求めている。高天原勃起津矢の言葉を一部、以下に引用しておきたい。『私の作り出してきたものが所属する文化は、精神の死を前提としていない。だが、肉体は死ぬ。君の苦しみの正体はそこにある。だから、死を選ぶことは間違いではない。死を生涯の前提としない文化に所属する以上、いつどこで精神を終えるかを選択することは、全く個人の決断によっている』
桐島、部活やめるってよ
この映画のクオリティの高さを担保する最大の要素は、その風貌を見た瞬間に彼らがスクールカーストのどこに位置しているかがわかるという、キャスティングの完璧さだろう。その完璧なキャスティングを下敷きに、スクールカーストのあらゆる層に対して冷徹なまでに中立的にカメラを向けた映像が、息を飲むほどの完全さを保った構成で一糸乱れず進行していく。しかし、それが最後の最後で大きく崩れてしまうのは、リア充と呼ばれる人間たちよりも実はおたくたちの方が充実しているんだよという、かすかなほのめかしを行なってしまったせいだろう。何でもできるがゆえに何も選べないスーパーマンが、カメラを向けられたことで自分の中にある空虚に気がつく。その気づきは、同じスーパーマンでありながらひとつを選ぶことのできた誰かの崩壊を前提としていた。あのシーンが何者にもなれないことを自覚しながら充足している誰かと、何者になるかを選択できずに満たされない誰かの対比というのは理解する。けれど、撮影側が少し溜飲を下げている感じが伝わってきてしまうのがよくない。この映画に激賞が多く見られるのも、結局、エインターテイメント界隈へ漂着するのはスクールカーストの最下層にいた者たちで、やはりラストシーンに溜飲を下げたというのが大きいんじゃないのと、勘ぐってしまう。かつて自分が被差別側にいた身分制度があったけど、それは時限的なものに過ぎなくて、そこでの優劣なんて何の根拠もないんだよ、という裏メッセージに全力で同調することでかつての復讐に代えているというか。でも、まあ、ちょっと強くおたく礼賛臭のしたラストをまぜっかえしたくなったからのコメントであり、全体としては誰もが見るべき素晴らしい青春群像劇に仕上がっています。冒頭のキャスティングを含めて、大マスコミの大資本が制作に絡まなかったことが、この作品が傑作になるのを許したのでしょう。日本アカデミー賞なんていう、正気を疑うネーミングの田吾作賞は、この映画の素晴らしさに何も付け加えることができません。河原芸人のクリエイティブを権威様が札束で横ツラ叩いて追認してやってるみたいな構図には、さすがに少しイラッとしますけど。
桐島、追記するってよ。つらつらとネトーサフィーンするに、桐島を頂点としたスクールカーストの崩壊という見方が結構多いのに驚く。これこそ、スクールカーストの最底辺にいた誰かの願望、あるいは勃起不全を抱えた中年の妄言ではないか。まず、スクールカーストが何かを定義しよう。それは洋の東西を問わず、最も卵子の数が多く最も精子の量が多い時代の、セックスアピールを絶対基準としたヒエラルキーのことだ。作中、映画部の面々は言動ぎこちなく、空気の読めない存在として描かれる。セックスを求める本能が達成されないことに薄々気づいており、それを理性で抑圧しようとしているからだろう。象徴的なのは、神木君の演じる映画部の部員が廊下を走るシーンである。物語の後半で、バスケ部の部員たちが屋上へと走るシーンと比べてみて欲しい。自分の身体を自分のものとして使えていない感じが、痛いほど伝わってくる。これが本当に演技だとするなら、彼は素晴らしい俳優だと思う。セックスという未知に挑むに際して、スポーツができるとか身体をうまく使えるとかいうのは男女双方にとって非常に重要なことで、ゆえにこの年代は「言葉を必要としない、しなやかなけものたち」が作中での台詞通り「セックスしまくり」なのである。つまり屋上での騒擾を契機に、映画部の面々が帰宅部のスーパーマンと同じほどセックスの機会に恵まれるようにならなければ、スクールカーストが崩壊したとはとても言えないのである。スクールカーストの頂点たちはこの映画を見た後、「なんか、なんも解決してなくない?」「そんなことよりおれ、腹減ったよ。焼肉でもいこうぜ」「えー、なんかエロいこと考えてるでしょー」などとやりとりし、永久に自分たちが見た内容を忘れてしまうだろう。この映画に意味付けをするのは、やはりスクールカーストの底辺たちだけであり、橋本愛の意味ありげな視線に虚しい希望を生きながらえさせながら、ツイッターに長文の感想を投稿したりするのである。
ディクテーター
年を重ねるほどに気難しくなり、人類全般へ共通するお涙頂戴に弱くはなれど、こと笑いに関しては徹底的に不感症になっていく。それが横隔膜を痙攣させての、久しぶりの大笑いである。笑いというのは突き詰めるほどに文化的な差異の部分へ面白さを依拠するようになるといつか書いたが、正にその極北に位置する、極端に受け手を選ぶ作品だとは思う。しかしながら、アメリカ社会の抱えるあらゆるタブーへ片ッ端から無差別に触れていきつつも、最後にはハリウッド的恋愛映画のフォーマットへ落としこむという構成には、嫉妬さえ感じる。この類のコメディを見るたびに思うのは、なぜ本邦の芸人が誰一人としてこの境地に至らないのかということである。本邦はタブーの多さでいうならば米国に負けずとも劣らないのだから、大陸や半島や琉球やメディアを揶揄したこれと同じレベルのフィクションが、芸人サイドより上梓されて然るべきなのだ。現状はと言えば、世間に認められないことを恐れ、権威に無視されることを恐れ、芸人たちは市民感情やお上品な芸術へすりよることに汲々とするばかりだ。サシャ・バロン・コーエンの無冠は、誰もが目をそむけたい事実をつきつけ、その結果生じる大衆の無視や罵倒を恐れない信念の証明であり、彼はその事実によってすでに戴冠していると言える。ことコメディアンに関して、本邦は米国に百年の後塵を拝していよう。真実を語る政治家が身の危険を吐露し、当の芸人はお軽い映画で政治家を志向する。本当に情けなく、くちおしい。
ファンタスティック・ミスター・フォックス
本邦のサブカルチャーが提供するフィクションは、母親から精神的な虐待を受けた美少女を主人公へ依存させるか、父親から性的な虐待を受けた美少年を主人公へ依存させるかの、いずれかへと大分される。必要なのは依存者の持つトラウマ描写のみで、主人公の成長に触れる必要は全くない。意識的にせよ無意識的にせよ、世俗の本流から外れることを選んだ誰かは、疑いなく生育の過程で負った精神的外傷にそれを強いられている。そして、自らの傷をセックスの対象へと投射し続ける作業に創作と名付けて金銭を得られるほどに、我が国のサブカルチャーの裾野は広い。ダージリン急行のときにも書いたが、ウェス・アンダーソンは宗教でも心理学でもないアプローチから救済の物語を紡ぎだす。己のトラウマから汲まないフィクションが持つ強靭さに、私はもう、ただただ恥じ入るばかりである。
ダヴィンチ・コード
ブームが去ってからしかヒット作に触れられない、重篤の高二病罹患者がようやく本作を視聴した。二千年の継続を全く実感させない、サリカ法をガン無視したまさかのヒロイン=キリスト末裔認定に「やったッ!! さすがアメリカさん! 万世一系の皇統を戴くおれたちには決して真似できないことを平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!」とは叫ばずに、ただあきれかえった。また、ヒロインの弟を死亡させる原作改変に「はい今死んだ、今キリストの血脈完全に死んだよ!」とは叫ばずに、ただあきれかえった。同一の染色体をどこまで過去へ遡及できるかという単純に生物学的な問題へ、政治やフェミニズムを絡めて貶そうとする心根に、ただあきれかえった。
トラブル・ウィズ・ザ・カーブ
父娘の典型的なトラウマ劇にベースボールで風味づけをし、終盤は怒涛のご都合展開。偶然モーテルの前でキャッチボールをしている超高校級の投手には、悪い意味で度肝を抜かれた。クリント・イーストウッドをわざわざ俳優へ引っ張り戻してまで撮る意味のある内容かと言えば、はなはだ疑問に感じざるを得ない。しかしながら宣伝効果だけは抜群であり、彼をキャスティングできたことが監督の最大の手腕と言えよう。それにしても、またもや珍妙な邦題である。有難い舶来の活動写真をアホな大衆にも届きやすいよう咀嚼して、啓蒙のために下賜するみたいな大時代の広報体質から、配給会社とその周辺が抜け出せていないんだろうな、と思った。
アルゴ
政治的な受賞との批判を聞いていたので、シリアナみたいな映画を想像していたら、現実を舞台にしながらも徹頭徹尾のエンターテイメント路線でびっくりした。外野が勘ぐるほど、このご時勢に中東を題材としたことはさして重要ではないと思う。おそらく監督をもっとも引きつけたのは、幼い頃に愛したB級フィクション、一等低いものとみなされていたSF映画が、現実の最も深刻な問題を実際に解決へと導いたという構図そのものではないか。それは例えば我々にとって、半島北部のアブダクションをエロゲーや萌えアニメの制作が解決へ導いたぐらいの、センス・オブ・ワンダーに満ちたモチーフだったに違いない。虚構を愛するものは、いつだってそれが現実に勝ることを夢見ているのだから。
シャイン
『二つの旋律がせめぎあい、一つの主題を争っているんだ』。親に魂を壊された子が、親が与えた音楽によって救済される。父の死にエンドマークが置かれるのは、実に象徴的だ。諸君、これこそが世界の悲惨の正体である。