半円の膨らんだ側を下にしてわずか傾けたような三白眼の男が、顔面の幅よりも太い首の裏側をさすりながら、くぐもった声で応答している。頭には灰色のニット帽。向けられるカメラへ対し、わずかに視線をそらしている。
――今回の移転に至った顛末を教えて下さい。
おれは頭が弱くて不器用だし、ここではずっと人との関係を作ることができなかった。ただ長く留まりさえすれば、きっと楽になってゆくんだろう。でも、(こぶしで分厚い胸を叩いて)ここにある、熱い思いをもう無視できない。
――かつてのテキストサイト運営者たちはみんな閉鎖するか、出ていってしまいました。
誰かと争って勝つとか負けるとか、そういうことはもう一切おれには関係がない。でも正直、(瞬間、嗚咽にも似た呼吸)ときどき、どう生きればいいのか解らなくなる。
――感傷ですか。
(目尻を人差し指の先でぬぐって)おれはホームページ九年目のポンコツだが、まだ踏み出すことができる。まだ吐き出すものが残っている。
――あなたは、なぜ更新するのですか。
更新は戦いだと思ってる。おれが一番この世で嫌悪するものとの戦いだと。
――それは何ですか。
狂信と耽溺だ。
――しかし、あなたが他者に求めるものも、その狂信と耽溺だとは言えませんか。
(最初の一語を切り出すのにひどくどもりながら)戦えば戦うほど、居場所はなくなっていく。だが、おれは更新することをやめられない。
――つまり、更新はある種の自殺だと。
死ぬものが永遠に挑むことを自殺だというなら、そうだ。おれはいつも挑戦していたい。
――最後に一言お願いします。
メールが一通も来ないとか、掲示板に一言も書き込まれないとか、萌え画像が一向に贈呈されないとか、アクセス数が全く増えないとか、アクセス数がむしろ減少しているだとか、匿名性の高い@payやweb拍手への反応すら皆無だとか、mixiとコミュニティにおいて移転やそれに伴う更新への言及が絶無だとか、いまの自分がこうある原因として誰かを指差してはいけない。おれは、更新のためのトレーニングに戻らなければならない。
灰色のジャージに身を包んだ大男が、雪の中を走り去ってゆく。足下にまとわりつく子犬。やがて何者かへの勝利を確信するように、大男、ゆっくりと両手を挙げる。が、濡れた地面に足を取られて、後頭部から盛大に転倒する。